第六話 呂布奉先、ローマを治める <序>
村を回る伯の足取りは日に日に早くなっていた。
6日目の朝、伯と季蝉はいつものように丘の上に登りはじめた。
「伯にいちゃん…なんかこのごろ元気ないよぅ」季蝉が言う。
朝の清浄な空気が季蝉から香る芳香と合わさる。
「そう…見えるか?」その芳香に別世界に迷い込んだような錯覚を受けながら伯は応えた。
「うん…」季蝉は曖昧に頷き黙ってしまった。
どうして?とは季蝉は聞かない。
おそらく季蝉は伯と呂大夫との間に何かあったことを感じているのだろう。
だから季蝉は問おうとしない、そこに伯は季蝉の聡明さと優しい心を見るのだった。
押し黙ったまま2人は丘を登りきった。
季蝉が伯の袖を引く。
その動作に気づかされるまでもなく伯は丘上に先客の存在を認めていた。