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乙女様

「おう、滞りなく済んだか?」

「ええ、まぁ一応ね」

「……ま、想像以上じゃなくてよかったぜ」

 正に死屍累々の……一部は血塗れの勇者を見て尚、魔王リッキーには想定内に結果に収まったと見えたようだ。

「ねえりっくん」

「あ?」

「ルミナの姉妹ってルミナ以上に綺麗だったの?」

「あー……好みは人それぞれだと思し時代それぞれだとは思うがな? ルミナは器量良しの姉妹の中でも特に有名だったはずだ、だから多分こいつの嗜好が絡んでると睨んでる」

「嗜好?」

「少し出すぞ」

「だすってな」『ぁああああっ!? 急に引っぱり出さないで!?』「わぁ……」

『お? フローレンシア?』

「可憐さん……わぁ、やっぱり綺麗……」

『またまたぁ、お世辞は良いのよ』

 と、謙遜する喪女さんではあったが、まだ前回の特殊メイク、いや宮ノ森陸景によるメイクアップは残っていた! 男性陣があんぐりだ! 一部はハートを射抜かれている模様!!

「マジか……アレが残念女……」

 特に1人は大ダメージだった。

『んでなんでこうしたの?』

「今からキープしてた勇者を出す」

『それで?』

『ぶあぁっ!! ……え? どうなった……ぎゃあ!? フローラ様!?』

「え? あ、はい」

『あ、多分それ私と勘違いしてるわね』

『え? ええ? あ、中身が出てるのね』

「で、勇者」

『何?』

「可憐はお前から見てどうだ?」

『うーん? すっごく美人だと思うけど、一部がすっごく残念だから好みじゃないかなぁ』

『………………あ゛?』

 ブワァァァアッッ!!

 周りの男性陣は飛び退いた!!

『え? え? ………………あ』

『そう言えばなにかやらかしてたら半分潰すって決めてたんだったわぁ。りっくん? 半分でも色々問題、無いよね?』

「無いな」

『えっ、ちょっ、ま゛――――――っ!!』

 ゴリュッッッ!!

「てことだから、なぁルミナ」

『な、なんでしょう魔王様?』

「お前の姉妹、胸が大きくなかったか?」

『………………大き、かった、です。………………え? ええ!? どうしよう!? 私、どうしたら!?』

 ルミナがその事実に気付いてしまったようだ。ルミナのそれは可憐程ではないが大きくはないのだ。

『……このクソ野郎に合わせる必要は無いと思うけど』

『お、おげぇ……(ピクピク)』

『でも、それじゃルミナは駄目なのよねー。だからりっくん、頼める? できるよね?』

『おう』

 可憐に頼まれた魔王リッキーがルミナの頭に手を乗せる。

『え? え? ………………はああぁっっ!! お、大きくなりました!!』

 ルミナの胸が大きくなった! 周りの女性陣は色めき立った!!

「この作り物の体だからやるんであって、生身を弄る気はないぞ」

 色めき立った女性陣が沈んだ!!

「やるなぁまじで」「もうあんた要らないね」

『ついでにさぁ。ルミナ以外に手を出そうとしたら、残りの一つ爆ぜるようにできる?』

『(ピクピ、ガバッ!)ちょ――――っ!?』

『あとさっきのガキ魔族と同じ様に……いえ、1周間かけて徐々に再生するようにして、その間今日の刑を延々悪夢に見るとかが良いなぁ?』

『いやああああぁぁあっ!?』

「お、おぅ、できなくはないが……」

『りっくんやめて!!』

「よし、やろう」

『ああっ!? 僕のバカ――――!』

「んでよう勇者」

『うう、なんだい、鬼畜魔王りっくん』

「もちょい足そうか?」

『すみませんごめんなさいゆるしてください魔王リッキー様!!』

「……あれ、どう思う?」

『あれ? ……って、やぁ、ルミナ。少し見ない間に見違える程綺麗になったね』

『ベアル様っ!!』

「「「「「………………」」」」」

 その変わり様に、全ての人間が引いた。特に女性陣からは殺意が物質化しそうな勢いで突き刺さっている!

『え、ちょ、ほんとにそれで良いの? ルミナ』

『はいっ! 有難う御座います!! 可憐様!! リッキー様!!』

『………………ま、いっか』

「じゃあ、ほれ」

 魔王リッキーが指を鳴らすと、勇者とルミナ、二人の姿が掻き消えた!!

『え? え? どうなったの??』

「積もる話……っつーか、ルミナにしてみれば本懐を遂げる最後のチャンスかも知れねえからな。この後、帝国とレアムでどういう沙汰が下されるかは知らねぇ。最悪、最初で最後のチャンスだろ?」

『……そっか。そう言われればそうなのねぇ』

「あの、少し良いかしら?」

『乙女様』

「今の隠蔽結界? それとも……」

「小さな異界だな」

『わぁ、それなんてどチート……』

「3人で話せる?」

「……おい! テメエ等ぁ! 少し空けるが問題無いな!!」

「おっ、おう!!」

 吠える魔王に思わずと言った形で反応したのはアーチボルドだった。

「おお、アーチボルドか? 魔王に対して真っ先に反応するたぁ骨があるじゃねえか。任せる。(パチンッ)で、何の話だ?」

 一瞬で切り替わった何もない真っ白な世界に、可憐は『おー?』とか言いながら、物珍しそうにふらふらしていた。

「ノーコンちゃんには自分で言うように、って言っておいたのだけど、結局バラされる形になったからね。私もちゃんと話しておかなきゃなって」

『何の話です?』

 乙女様が話を切り出すと、可憐もふらふらするのをやめて向き直る。

「出してもらえる?」

「……(グイッ)」

『おお、乙女様の中身かぁ。どんな……ってぇ!?』

『驚いたかしら?』

『おお、男ぉ!?』

 可憐の見た乙女様は、白い着物の様な物を来た、年若い痩せ細った男性だった。

『……まぁ、そうよね』

『……え? アレですか? 乙女様もスーパージェンダーとか言うアレ? それとも……』

『少し事情が違うのよ。……私、7人姉弟で、上が全部姉だったの。それで小さい頃は、自分は姉様方と少し違うけど、女の子なんだわって思っててね。小さい頃って着せ替え人形にされたりするじゃない? 私、それが嫌じゃなくって。でも5歳になる頃には謎の病に罹患して……そこから寝たきりになったの』

『………………』

『それで他の男の子達に触れる機会が余り無いままだったから勘違いは正されなかったの。それにお姉様方はとても私を大事にしてくれてて、寝たきりの私に色々なお話を聞かせてくれたのよ。中でも白馬の王子様、なんてベタな話が大好きでね……。何時か私のことも、辛い病気から連れ出してくれないかなー? ってね。だから魔王様、いえ勇者様が迎えに来てくれた時には、不覚にもときめいちゃったの。バカみたいでしょ?』

『流石にそれを笑える程、私は自分が人間できてないと思いたくないです』

『ふふ、可憐は優しいものね。包容力が高くて、大抵の事なら受け入れちゃうから大好き。でね、勇者様に聞いたの。何で私を選んだの? って。そしたら『精神が強く、長い時間耐えれそうな男性』だったからですって。ああ、そうか、私はどれだけ自分で女の子だと思っていても男なんだぁ、って理解しちゃったの』

『………………』

『だからジュリエッタを紹介された時、飛び上がる位に喜んだの』

「ん……、乙女は、可愛い(フンスッ)」

『ふふ、ジュリエッタはむしろお姉さんかお母さんみたいに見守ってくれるものね』

「(照れっ)」

『ええ、ジュリエッタ様ってお母さんキャラだったのかー(ど天然のだけど)』

『まぁ、私からは以上よ』

『良いんじゃないですか? 別に。なりたかった女性になれて、ちゃんと女として生きていく覚悟があって……。何の問題も無いじゃないですか?』

『……ねぇりっくん』

『だからりっくんはやめろ』

『あ、御免なさい? 可憐限定だったわね。……可憐を泣かせたらただじゃ置かないわ。主に後ろに気をつけ……』

『やめろこらぁ!?』

『くすくす……じゃ、そろそろあちらに戻りましょうか?』

『あ、乙女様!』

『ん? なぁに?』

『こういうのも変ですけど、出会った頃より、ずっとずーっと! 女らしくなってますよ!!』

『……(ぶるっ)ありがとっ』

「ん。じゃあ、おかえり」

 ジュリエッタが手を広げて乙女様を待ち、乙女様はジュリエッタの中へと溶け込んでいく。

『ただいま……』

「……んじゃ、元の場所に戻るとすっか」


 ………
 ……
 …


 元の場所に戻ると、乙女様はジュリエッタとしての役割を果たすべく、パタパタと駆けて行った。

『ねえ、りっくん』

「もうやった。徐々に、だがな」

『さっすがー』

 可憐の聞いたのは、魔王リッキーのどチートなら、乙女様の情報思念体自身も女性化できないか、ということだった。そこでリッキーは少しずつ変化していけるように弄った事を可憐に告げたのだった。なんともツーカーな二人である。

「ツーカー……ねぇ」「あ、うん?」

 ……聞かなくなった言葉だったかな?

「で、お前らはどうする?」

「んー? いや、俺が喪女さんに……可憐さんについててもさぁ、邪魔になんねぇ?」

「だよねー。特にこれからー」

『え? どういう事?』

「それにもう1人聞かなきゃいけない人が居るんじゃない?」

「そそそ、それはもう……聞かれ……ました(プシュゥッー)」

 そこには赤く茹だったフローレンシアの姿があった。

「りっくん手が早ーい」

「おいこら、調子のってっ……」

「すんませんっしたー!」

「………………ちっ」

『ううん? 私良く分からないんだけど』

「まぁ都合の加減でよ。ノーコンは俺と可憐、二人に憑くことを赦す」

「………………え!? マジで!? ……あー! 本体がしけこ……あいえ何でも無いです!」

「あ! ねえねえ! 私は! 乙女ちゃんは!? ジュリエッタはぁ!?」

「そっちも許可が出てる」

「いいいやっほおぉぉお!! 愛してるぜ二人共ー!」

「じゃ、さっそく」「よろしこー」

 パチンッ

 リッキーが指を鳴らすと、ネイザランが作った人形は一瞬で解けてしまった。ここよりは先輩にバトンタッチするとしよう。

 俺! 復活! なんかの時はまたよろー。

 ラジャッス。

<なっかいー>

「いや、お前等勝手なことすんな。特にノーコン、テメエ分かっててやってるだろ」

 あ、バレた。分かった分かった。魔王の器は預かっておくよ。

 じゃ、しばらくは自分の出番ですかね。

 よろしこー。

 り。

<うわ、こんどはいまふー>

「任せていいんだよな?」『頼むぞ』

「了解」

 リッキーが魔王から出て来ると同時に、ノーコンが入った魔王が頷く。

『え? りっくん? じゃ、今魔王の中に居るのってノーコン?』

「わはははは! 我こそは魔王ノーコンなり! って殆ど力封じられてるけどね。リッキーってやっぱ規格外じゃね? 勇者も大概だと思ってたが、まるで次元が違う?」

『うわ、分かる気がする』

『じゃあノーコン、やる事は頭に浮かぶと思うからやっといてくれ。それの分は無制限だ』

「ほいほーい。んじゃまず異界っと。おお、おされな内観ー。ああ、あれっすか。らv……」

『黙ってろ。……これからのために、まずは俺達だ。行くぞ可憐』

『え? え? 何よ、りっくん。ああもう! 何時も強引なんだから……』

『それでも足りてない事が良く分かった。もう遠慮しねえ』

『えー? よく分かんないけどひっぱらな……』

 最後まで言葉が聞こえること無く、二人は異界に消えていった。

<いった?>

「いっちゃったねー」

「はう………………(ぷすぷす)」

<おお、フローレンシアは何が行われるのか知ってるのかー。おっとなー>

「はうぅぅっ………………(ぷっしゅー!)」

<てか、今気付いた! すげー自由度が上がってる!>

「ああ、お前はジュリエッタから離れられなかったからな」

<そうそう! 何処にでも行けるノーコンが羨ましかったもん!>

「よっし、んじゃリッキーのオーダー、こなしていくとするかな」

 魔王ノーコンはそういうと、戦場跡地に巨大な魔法陣を生成していくのだった。

しおり