第4話「ねじれたモノ⑨」
しかし、そこにいたのはサワさんだった。スハラの様子が気になって追いかけてきたようだ。
「何の説明もしないで置いてくなんて、ちょっと横暴だろ」
サワさんは俺たちに文句を言いながらついてくる。
市役所の辺りで、俺たちはオルガの後姿を見つけた。
「いた!オルガ!!」
スハラが大きな声で呼びかける。よく通るスハラの声は、離れたところを歩くオルガに届いたようだ。立ち止まったオルガがこっちを振り返る。
そのときだった。
飛び出してきた黒い影が、きらりと鈍く光るものを振りかざしてオルガへ襲い掛かる。
「えっ!ちょっとなに?」
俺たちが驚きの声を上げると同時に、サワさんは走り出していた。
サワさんはあっという間にオルガのもとへ着くと、黒い影を突き飛ばして馬乗りになり、黒い影が手に持っていた光るものを叩き落した。
俺とスハラが着いた頃には、黒い影は、サワさんの下で力なく項垂れていた。近くには、サワさんが叩き落したナイフが落ちている。
俺は、サワさんのあまりの早業にあっけに取られてしまうが、スハラは冷静に状況を確認していく。
「オルガ、けがはない?」
「え、えぇ、大丈夫。サワのおかげでなんともないわ。でもみんなして一体どうしたの?」
「説明はあとで。まずはこいつを何とかしなきゃ」
そういってスハラは黒い影の顔を確認する。そして、あっ、と声をあげる。それにつられて黒い影の顔を覗き込んだオルガも、それが誰かわかったようで驚きの声をあげた。
「あなた、キタ?」
黒い影―キタ―は、バツが悪そうに顔をそむける。俺も一度だけ会ったことのある彼は、付喪神の一人で、本体はガラス製の浮き球である。だから、存在としてはスハラ達と同じヒトだ。
「どうしてこんなことを?」
サワさんの下敷きになったまま、キタは口を開く。
「人間と仲良くしているお前たちが気に入らなかったんだ!俺たちは力が弱いとは言え“神”だぞ。どうして人間に使われなきゃならないんだ!」
その言葉を聞いて、スハラとオルガはあっけに取られる。サワさんはさらに怖い顔をして睨みつけている。
「しかしあのヒトの言うとおりだったな。お前たちは人間とつるんで何が楽しいんだ?」
嫌な笑みを浮かべるキタと目が合って、俺は全身に鳥肌が立つのを感じる。この気味の悪さは何なのだろう。
その瞬間、ぐえっと音を立ててキタは気を失った。サワさんが締め上げたのだ。
「ちょっとサワ、まだ話の途中だよ」
これどうするのと言いながらも、スハラはあまり焦った様子はない。オルガもしょうがないかという顔をしている。
「こいつ、壊してきていいか?」
壊すとは、本体のこと。いいと言えば今すぐにでも行きそうなサワさんだったが、オルガからやめなさいと言われ、怖い顔を崩さないままキタをひょいっと雑に担ぎ上げた。