どうやらあのクソ編集は神奈月遙に俺が描いた今までの読み切りやネームを全部送ったらしい。いつかプライバシーの侵害で訴えてやる!
で、なんでそんなことを考えてるかって?
「よし行くぞ」
「了解です…」
そのせいで今とんでもない事になってるからだよ。
♠♡♢♣♤♥♦♧
三十分前、午後の五時半
俺と神奈月遙はシチュ検証のために高等部の教室に来ていた。
今回の検証内容は教壇でのキスだ。二人で教壇の中に入ってイチャイチャする場面である。これは某ロッカールームに閉じ込められた系から派生した俺独自のシチュだ。
「なんというか…ロッカールームネタのパクリですね!」
「………ふんっ」
「なんすか先ぱ…いふぁい!いふぁいです!くひぃとへひゃう!!(痛い!痛いです!口とれちゃう!!)」
気づかないうちに神奈月遙の口を引っ張っていたらしい。すぐに手を離した。
「すまん、うっかり殺意が」
「手が滑った感覚!?そんな気軽に殺意出さないでくれません!?」
我ながら遠慮が無くなったと思う。昔の自分と比べてなんとも言えない感慨に浸る俺を他所に、神奈月遙はつかつかと教室に入って教壇の中を確認する。
「えっと構図としてはこうですね」
漫画と実物を交互に見ながら、丁寧に教壇の下に入っていく。こういうところを見ていると神奈月遙の根の真面目さに気づく。こちらも応えねばならない。
しかし。
「痛てててて!無理だ!首ツる!」
「やっぱりだっ!ほんとは入る前から薄々気づいてたんですけど、こんなスペースに二人も入りませんよw」
ちくしょう…こいつ初めから知ってて俺を嵌めやがったな!
天板に頭をぶつけないように出て、俺はため息をついた。
「ちっ、独創的なシチュだと思ったんだがな…」
「独創的かどうかも怪しいですけど、そもそもリアリティに欠けすぎですねー……あっ」
「ぼさっとすんな、さっさと出ろよ」
ドゴンッ!
分厚い本でも落としたような音がした。振り返ってみると、手足ともにバンザイして出迎える神奈月遙がこっちを見ていた。
「……ました」
「は?」
「おしりが嵌って動けなくなりました〜」
「嘘だろお前!?」
ジタバタする神奈月遙の状態を確認する。どうやら立ち上がろうとしたときに足を滑らせたらしい。見事に教壇の枠組みにおしりがホールインしている。
「と、とりあえずひっぱって貰えませんか?」
「お、おう」
俺は神奈月遙の手首を握った。見た目よりもびっくりするくらい細かった。
全力で引っ張ったら折れてしまいそうで、おっかなびっくりに力を加える。
「ちょ、ちょっとストップ!」
「な、なんだよ」
「やばいです!このひっぱり方だとスカートが脱げます!見えるっ!ケツが!!」
「女の子がケツなんて言うな!はしたない!!」
「おい、誰かいるのか?」
次の瞬間の出来事を、俺はよく覚えていない。
ふにゅん。
頬につきたてのお餅ような感覚が伝わる。
これ如何に、と視線を向ける。
気づくと俺は、さっき入れなかったはずの教壇に体をすっぽり収めていた。
ついでに言うと、俺の顔が神奈月遙のおっぱいにすっぽり収まっていた。
「ぎゃああああ!!――むごごっ!?」
「(ちょっと静かにしてください)」
ぎゅううう
神奈月遙はさらに俺を胸に押し付けた。
目の前でおっぱいの形が変わる!
「(お、おい神奈月!!)」
「(だから静かにしてくださいよ……あの生活指導の先生に見つかるとめっちゃめんどいんですから)」
「(分かったからちょっと離れろ!当たってる!いろいろ当たってる!)」
「(なにが……、……ッ!)」
目と目が合う。
ぱちぱち、と神奈月遙はまばたきをする。それからみるみるとまぶたを見開かせた。
あ、やばいやつ…。
「…わああっ!!――んんっ!!」
「(お前が声出してどうすんだよ!)」
「(こ、これは、わざと当ててんだし!童貞の先輩にサービスしてるだけだし!)」
「(この期に及んでマウント取ってんじゃねえ!!)」
「ここか?下校時間はとっくに過ぎてんぞー」
ガラッ
「(ぎゃーーー!!もう終わりだーーーッ!!)」
「(せ、先輩、手を離してください!名案があります!)」
「(マジだな?信じるからな!)」
「(任せてください!せーの、)」
にゃーん♪
「(アホーーーッ!こんなんで乗り切れるわけないだろぉ!)」
「なんだ猫か」
ガラガラ…ピシャン
「乗り切りましたね……」
「いやうん、お前すごいよ」
「ぱぷぱふと合わせて貸し二つですからね」
「なんでだよ」
貸し二つ程度では足りないくらいの凄まじい体験が出来ました。ありがとうございます。
心の中で合掌……ってそんなことしてる場合じゃない。
まだ根本的な問題が解決してないのだ。
より深く嵌ってしまった神奈月を見て俺は考える。そして思いついた。
「…どうやって脱出しましょうか」
「俺に案がある。まず俺が出る、多分出れる」
宣言通り俺は脱出に成功した。合気道を習っていてよかったと思う。
「で、次はどうするんですか?」
「…こうする」
「えっ、ちょ何を……ぎゃああああ!!?」
神奈月遙の悲鳴を他所に、俺は教壇を横に倒した。
さっき生活指導の先生がドアを閉めたおかげで外からは見えていない。
「俺は木枠から天板に向かってお前を押す、お前もスカートが引っかからないように同じ方向へ抜け出そうとしてくれ」
「なるほど…、おっぱいの次は私のけつ…お尻を触ろうって魂胆ですね…変態!」
「ちげえよ!腰に手を回すわ!こっちの方が力入んだよ!」
「分かりました…まあお願いします」
神奈月遙は、しぶしぶ了解した。
怒ってるのか顔が真っ赤である。
「よし行くぞ」
「了解です…」
しかし、俺は二つ失念していた。
一つ目は…警戒すべきは生活指導の先生だけではないこと。
二つ目は…そしてドアは視覚を遮断することが出来ても、音を遮断できる訳では無いということだ。
もうお気づきだろう。
ここからは、これを読んでる諸君にもわかりやすいように声だけで提供しよう。
「おい、変な力入れるなよ」
「痛いです!早く(枠から)抜いてください!」
「だから力入れるなって!(枠から)出せないだろ!」
「下手ですか!」
「仕方ないだろ、初めてなんだから…あ、いけそう」
「あ、私もいけそうです!」
「よし、力入れろよ同時に行くぞ」
「いつでもいいですよ……!」
部活帰りの生徒が偶然聞いたらしい。
翌日、高等部では不純異性交遊の張り紙が貼り出され、緊急朝礼が開かれた。