いざ、レアムへ
「……という訳です」
現在、サイモンが喪女さんを希望だと言った意味を説明している所でござる。
「……つまり、私が苦し紛れに使った『捕獲兵器』が機能してくれたから、グレイス様は私以外の他の誰にも手出しできない状態になった?」
「そうです」
「……私、役に立てた、んですか?」
「大手柄です。それ所かグレイスの恩人です。フローラ嬢、心よりお礼を言わせて下さい。有難う」
「………………(ボロボロボロッ)」
「「フローラ様……」」「「………………」」
状況が好転してるわけではないが、サイモンにグレイスの無事を聞かされ、ホッとしたのか大粒の涙を止めどなく流すフローラだった。皆はその様子を何も言えずただ見つめるのみであった。
「皆、ここに居たのね」
「「「「ジュリエッタ」様」」」
<やっほー>
ゆっふぉー。
「良いわ、楽にしてて」
(『ノーコンちゃん、早速だけど説明お願い』)
ラジャっす姐さん! でも『よっほー』とか『よーそろー』って返して欲しかったっす!
<ねー>
(『良いから。説明はよ』)
実はかくかくしかじかでして……。
(『……いつもの情報伝達をするだけなんだから、そんな表現しなくて良いでしょう? 今日はまた妙なテンションね?』)
実は喪女さんが全然構ってくれなくて……。
(『それこそ無理言わないの。伝わった限りだと、フローラちゃんは今それ所じゃないでしょう? 最悪の状況は避けられたにしても、ね』)
「状況は大体把握してるわ。人質は取られてしまったけど、幸いと言って良いのか、人質の身の安全は『兵器』のお陰で保証されている。となれば何の遠慮も要らないわね。帝国の戦力の全てを持って、レアムを叩くわよ」
「そうは言うが、奴さん共はこちらの想像、『げぇむ』の内容を軽く超えて凄ぇ強くなってんぜ? まぁそれも心配事の一つだが、そもそも向こうの様子は分かってんのか?」
「強さについては確かにそうね。でもこちらは戦力を維持出来てるし、新戦力や隠し玉も投入できるしね。情報についても問題無いわ」
「……そうなのか?」
「敵国へのスパイ活動がレアムの専売特許だと思う?」
「お、おいおいマジか?」
「……ねぇ、アメリア? 教えてないの?」
「アーチボルド様はそういうのを得意となさらないと思うので」
「ええ!? アメリア!? ……あーゴルドマン家の力かぁ」
「そういう事。彼の家の縁戚は、別に国内だけには留まらないわ」
「……アメリアの家は凄ぇな」
「何を他人事の様に言ってるの? 貴方、将来はゴルドマン家に入るのでしょう?」
「……ああ、そうだったな。俺、やってけるんだろうか? 頭使うの苦手なんだけど……」
「別に貴方の頭は悪くないでしょう?」
「大丈夫ですわアーチボルド様。その辺りは全て私、アメリアが受け持ちますので」
「お、おう、そうか。……俺の嫁は強えな」
「(ボフンッッ!)よよっ、よっ、めっ……、きゅ〜〜……」
「わぁっ!? アメリアぁ!?」
「「「「(無自覚か)」」」」
お、喪女さん、ツッコミに混じったって事は持ち直したか?
(へこたれてられないでしょう?)
そりゃそうだ。で? どうすんの?
「ジュリエッタ様」
「なぁに? フローラ」
「私に前線に立つ許可を下さい」
「……良いわ。そのための準備は着々と整えてきてるから。でもきっと貴方の相手として出てくるのはヴェサリオよ? 大丈夫?」
「有難う御座います。大丈夫、とは言えませんがなんとかしてみせます。……あと、うちのベルが何処行ったか知りませんか?」
「最前線に居るわ。ガイアと一緒にね」
「………………はい?」
「詳しくは教えられないけど、一応任務を帯びているのよ」
「そう、なんですね?」
「後、ここで迎え撃っていた間に、エリとミエの二人も前線に送ってるわ。多めの兵を率いてね」
「あー、っと? どういう……?」
「我々ここに残った将官達が、全速力で前線に向かう事ができる様に、ということですね? ジュリエッタ様」
「そう、サイモンの言う通りよ。兵さえ先に送っておけば、身軽な私達は脇目を振らずに最速で前線に立てるでしょう?」
「なるほど! お二人共頭良い!」
喪女さんが残念なだけなんだぜ? 皆、気付いてたし。
(ぬぁっ!? ……あ、ホントだ。サブリナまで分かってたっぽい)
そのサブリナさんが何か言いたいみたいだぜ?
(あんた、あのサブリナは大丈夫なの?)
あのゴテゴテの男色ゴリマッチョが駄目なだけ。
<同じく。ああ、あと妙なギラギラした欲望も無理ー>
同感。
(あ、そ)
「どうしたの? サブリナ。なにか言いたい事があるんじゃないの?」
「あら……ふふ、気付いてくれて有難う。私、今回の戦いで殆ど力を使い果たしちゃったから、残念だけどついていけないわ」
「……そっか」
「ああ、しょうがねえよな、あの戦いじゃ。常人なら100回以上死んでるような激しさだったからな」
「100!? ええ!? さ、さぶ、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫よ。私は毛髪魔法で殻を作って、それを纏ってたようなものだから。アーチボルド様の100回死んだっていう表現は、流石に誇張よぉ」
「そそそ、そっか……」
「バカ言え。殻っていうんだったか? 何度も作り上げてたろ。直す度、殻ごと高速回転するあの巨大なランスで貫かれてたし、雷にやられた時には時々焦げて崩れてたじゃねえか」
「うえぇええ!?」
「そりゃあそうよ。あれだけの威力だもの。全部は外に流せないわ。私の力の9割が毛髪魔法だけど、全部消耗した上で追加が必要になった位には必至だったのよ」
「だだだ、大丈夫??」
「……本当、フローラ様は不思議ねぇ。私のこと好きじゃないでしょうに」
「いや、あの変な見てくれと趣味が苦手だっただけで、同じ国の人間だし、一応反省してるのは知ってるし。それに一緒に訓練した仲だし? 好きか? って聞かれると微妙だけど、仲間としての好意位はあるし……。だから嫌ってはないわよ?」
「……んもう、なぁんで男だった頃の私はこんな良い女を敵と見なしたんだか……。バカねぇ……」
まだ男だろうが。
(突っ込んじゃ駄目……って言うか、何か居心地が悪い!)
まるで愛の告白だもんな!
(やーめーろーよー!)
「フローラ様、グレイス様を助けてあげて」
「勿論よ。それにあんたが敵将官の一角を崩してくれたから、大いに助かってるわ。だからゆっくり養生してね」
「ふふ、有難う。そうさせて貰うわね。……あんた達!」
「「「「「ぉう!!」」」」」
「うわっ!? びっくりした……」
「うちの姫さんに大怪我負わせんじゃねえぞ! 守れなかったら色々失うと思っとけ! ……それはもう色々とだ! 分かったな!!」
「「「「「ぉ、おぉっぉぉう!!」」」」」
今一瞬、躊躇いがあったな。
(お尻を手で抑えた人も居たわね)
嫌な葛藤だな。
(だね)
「……サブリナのとこは少数精鋭だから目を瞑るとしても、後は先行してる兵から指揮を預かる形になるのだから、余りイレギュラーは認めたくないのよ。もうコレ以上はないかしら? 大丈夫?」
「「「「大丈夫です」」」」
「上には既に話を通してあります。いざ! レアムへ!」
「「「「おおおおお!!」」」」
………
……
…
「(行ったか?)」
「(その様で……)」
喪女さん達が去った後、声を潜めて会話するレアムの軍人の姿があった。不自然な程、周りの景色に溶け込んでいる事から、何らかの魔法か『兵器』が使用されてるものと思われる。
「(帝国も、まさか敵国が最高戦力の半分を丸々囮に使うとは思っていまい)」
「(しかし肝を冷やしましたな)」
「(ヴェサリオとかいう若造か? ……あれは聞きしに勝る気分屋であったな。あの様な者が上に立っておっては、無駄死が増えるばかりよ。そもそも我が国はトップからして傀儡であるからな)」
「(将軍、それは……)」
「(何、今は我々正規軍しかおらぬ。誰も聞いてはおらんさ。本国の方では、十傑衆とかいうぽっと出の若造達に、精々敵の目を惹きつけておいてもらわねばな)」
「(その隙に我等が帝国を陥とす、と……)」
「(そうだ。仮に我等が勝てぬ程の兵や智将を本国に置いていたのなら、業腹ではあるが十傑衆の勝ちは揺るがなくなるだろう。先程前線へと赴いていった若き将官達は、捕虜となったあの小娘同様戦慣れしておらぬだろう。戦慣れした者がついておらねば勝ち目等無かろうて。あの怪しげな女の言いなりは腹立たしいがここまでの作戦、理にはかなっておる)」
「(……ここにサザン殿のお力添えさえあれば)」
「(言うな、それ以前に顔向けできぬわ。あの革命の日、人死にを減らすため、我等の命と引き換えに投降されたのだ。あの方が今の我等のしている事を知れば嘆くであろうよ。そう、例えば)」
「「(こんな筈ではなかった、と)」」
二人は同じセリフを吐くと、苦笑とも取れるやりきれなさの残る笑みを浮かべる。
「(……兵数はどうなっている?)」
「(およそ10個師団程集まっております)」
「(なんっ……!? 本国に兵力を置いておらんのか!?)」
「(鉄壁要塞が完成したとの事で、本国の守りを心配する必要なく存分に戦え、との事です)」
「(ちっ……完全に十傑衆だけで方を付ける気か。こうなれば是が否にも帝都を落とさねばならぬ。奴等に大きな顔をさせぬためにもな……!)」
「(はっ!)」
「(全軍に通達! これより第二次作戦行動に移る! 最大限に注意を払い、所定の位置に速やかに移動せよ! 我等の手で、戦争の早期終結を成すのだ!)」
さて、帝都が脅かされたと知ったら、喪女さん達はどうなるやら……。