【コナツの想い】
【コナツの想い】
(この子は···)
薄暗い部屋の中で、コナツはガリーナを見つめた。
コナツの機体の中の、研究室にあたる部屋だ。薄暗い部屋の中に、2人はいた。
「遺伝子情報の元となる素材は?」
ガリーナは部屋に入るや否や、開口一番に言った。彼女の切れ長の紺碧の瞳を見て、コナツはある人物のことを思い出さざる得なかった。
彼女の鋭い瞳は、もはや研究にしか興味がない。ぎらりとした光を秘めた瞳を見て、コナツは一瞬押し黙る。
「···あんた達があたしの中で落とした毛を採取してあるわぁ」
コナツは言葉を紡ぎながらも、ガリーナの前では変に萎縮してしまっていた。彼女の瞳を見ていると、段々と予想は確信に近いものに変わる。
(この子は、あいつの子···?)
コナツの昔の記憶データによると、ほぼ間違いなく彼女はーーー彼の子供だ。遺伝子検査など面倒なことはせず、親子同士の顔面の特徴な照合をすれば、計算結果が嫌でも出てくる。
実を言うと、コナツにはレイフとユキが自分の子供であることも、彼らを見て瞬時に計算することができた。
レイフとユキはコナツの遺伝子データを継いでいる。疑いようもなく、彼らは自分の子供である。
『さよならだよ、コナツ』
コナツは思い出す。
彼女が言い放った言葉。冷たくあろうと努力をし、自分に別れを告げた人のことを。
(*****···)
記憶から消去された、自分のマスターの名前。姿は何度でも想像することができる。彼女の鮮烈な姿を、忘れられるはずがない。
(何が、どうなっているかわかるまでは···)
コナツは、知らないふりをすることにした。そもそも自分が持っている情報は、色々とピースが足りない。
レイフやユキ、ガリーナが語ることに嘘はないのはわかる。それでも、確固たる情報を知る人物が欠如している今、コナツにできる最善は、知らないふりをすることだ。
(ひとまず、この子を隠さなきゃいけない)
ガリーナが自分から言い出してくれて助かったが、部屋の中に彼女を隠せて良かった。
「お母さん」
「えっ?」
「計算結果出たよ」
ガリーナの言葉に、コナツはハッとした。ガリーナはコナツが所有するレイフとユキのデータと、自身のデータを表示していた。
コナツが最初から予想していたように、2人はコナツの子供であると結果が出ている。
「レイフと姉さんは、お母さんの子供であると証明されたよ」
少し嬉しげに、ガリーナは言った。3人の遺伝子データを見つめ、ややうっとりしている様子だ。
「なぁに?あなた、こういうの好きなのぉ?」
「うん。何かを証明することは好き。それに、遺伝子のデータは純粋だから」
「···純粋ぃ?」
「うん。人や、歴史のように嘘がない。絶対にこうであると証明されている。改ざんの余地などなく、歴然とした事実」
コナツは、とても奇妙に思った。とても美しい外見をしている彼女が、朗々とした口調ながらも恍惚として語り始めることに。
やはり、似ている。
(あたしは18年間、この子を、どんな気持ちで育てたんだろう···?)
機械人形に自らの仮想人格のデータを移植したもう一人の自分のことを考える。
それはとても辛い日々だったのではなかろうか。彼女と、彼に、日々似ていくガリーナを見て、泣かないはずがない。
「次は私と···お母さんのマスターの遺伝子検査だね」
「あ、そうねぇ」
彼女は平然を装って言いつつも、コナツを見据えた。
「もしかして、お母さん···」
ガリーナは何かを言いかけたが、しかし――。
「ううん、何でもない。まずは、証明しよう」
「うん?ああ···そうね」
コナツはガリーナが何かを言いかけたのが疑問に思いながらも、深追いしなかった。
(この子は****の娘)
想定はしているが、確認をしよう。
ガリーナが言うように、歴然とした事実を確認するしかない。
(もう1つ、事実を確認する方法として有益なのは····)
コナツは遺伝子情報の検査をしながらも、システムのバックグラウンドで検索を始める。
ゴーモの機体であるコナツと、連絡が取れるリストを開く。
23年も経てば、連絡先も変わるだろう。何千件もある連絡先の中で、コナツは連絡を取ろうかと迷う相手がいた。
(ジェームズ・バルメイド···)
自分のマスターであった****と親交が深かった、アシスの軍人だ。今もアシスにいるかはわからない。
きっと彼ならば、真実を知っているはずだ。
だって彼は地球戦争の時も、****と一緒にいたのだから。
(でも、あの子達はアシスに追われている···)
もしかしたら、コナツの判断は誤っているかもしれない。
コナツにとってはかつての仲間であっても、今の彼は敵かもしれない。
(ジェームズなら···ガリーナに危害は加えない··はず)
コナツは苦渋しながらも、ついにバックグラウンド処理で、彼に連絡を試みた。