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【再会】

【再会】



 コナツの機体は、音もなく宇宙空間に飛び立つ。窓から宇宙空間が見えても、レイフは現実感を感じられなかった。



 3人ともが疲労のため、床の上に座りっぱなしだ。誰が口を開こうともしないまま、時間だけが過ぎていく。



「···姉さん、手当しなきゃ···」



 最初に口を開いたのは、ガリーナだった。彼女はおずおずとユキの肩を指差す。ペスジェーナに噛まれ、服に血が滲んでいる。



「ああ〜···そうね〜···」



 元気なさげにユキは言い、肩を押さえる。ガリーナはよろりとしながらも立ち上がる。



「治療道具、あるのかしら···」



 ガリーナは、コナツの奥に進もうとする。ふらふらとした足取りだ。



「レイフきゅん、お父さんに連絡とれるかな?」



 ユキは、レイフにくっつきながら言った。いつものように引っ付いてくるユキの神妙な面持ちに、目を瞬かせる。



「父さん?」

「そう。お父さんなら···本当のこと知ってるでしょ」



 本当のことーーというのは、ガリーナがアクマの子供かどうかのことだろう。レイフは、コナツの奥に進んでいく影を見た。彼女は聞こえているのだろうか。 



「お父さんがアクマ信仰だとは思えない。ガリちゃんがアクマの子だっていうのも···本当かどうかわからない」



 自分たちは、何も知らない。知っているのは···本当の親は、父と母の古い知り合いということだけである。



 その古い知り合いというのが、本当にアクマなのか?



「アクマに子供っていたのか?前にガリーナちゃんから聞いたけどよ、アクマって、子供を産むことを禁じられてるとかなんとか···」



 前にガリーナから聞いたことがある。アクマという種族に分類されると、子供を作ることを禁じられる。得体がしれない種族であるアクマを増殖させたくないという意向で宇宙連合が定めている。



「あのアクマ、リーシャには子供がいたわ。彼女は子供を作ることで、王位を簒奪したんだもの」



 ユキの声ではなかった。ハッとして振り返ると、ガリーナは戻ってきていた。彼女は暗い面持ちだ。



「リーシャはね、テゾーロの子供を作った。小さい子供に代わって、ゼレプントを支配した後、代理王権者を名乗って、レライリスーニャを支配したと言われている。記録に残っている彼女の子供は、その子」



 リーシャが惑星を支配するために武力だけ行使したのではないらしい。その美貌で権力者たちを籠絡し、意のままに操ったとは聞いたことがあるがーー権力者の子供を産んで、幼い我が子を盾にして、権力を手にしたのか。



「待って、その子供がガリちゃんなの?」



 ユキはすぐに質問した。レイフもユキも、わからなかった。



「ガリちゃん、テゾーロなの?」



 偉大なる地球人の科学者の末裔ーーーそれが彼女の血に半分通っているというのか?



「わからないわ。私だって、わからない。お父さんに聞いたこともない。···その子供は英雄シオン・ベルガーが殺したって文献に書いてあった···でも」



 ガリーナは首を横に振り、戸惑いを見せる。



「その子供は、女の子とも書いてあった」



 アクマの子供が、女であった。ガリーナのことを示唆しているようで、レイフもユキも何も言えない。



「と、とにかく···父さんに訊きゃいいんだろ!父さんっ!」



 レイフはラルを起動し、父に連絡を入れようとしたがーーメッセージは送れても、彼からの返事はない。すぐに通信をかけたが、そもそも繋がらない。



「···お父さんも、狙われてるんじゃないかな···。今は逃げてるとか···」

「へ?」

「アシスの軍人がお父さんの名前を言ってたし···」



 心配するように、ガリーナは言った。長いまつげを震わせる。レイフはごくりと喉を鳴らした。

 フィト達は彼の名前を言っていた。アクマを信仰していると。彼らが父を探し、追っている可能性は高い。



「でも···連絡ぐらい···」

「できない状況も、十分に考えられるよ。私達を追っているのは、宇宙連合やあのアシスだもん」



 ユキは苦しげに呟いた。事態の重さに、3人はまた言葉を失うしかない。



(どうすりゃいいんだよ···)



 敵は、宇宙連合。

 宇宙の平和を司る組織であり、軍の中でもエリート集団と言われる私設軍アシスが相手なのだ。

 逃げるのは無謀ーーレイフは自身の血の気が引くのを感じた。



「あ···姉さん、ごめん。手当するようなものがかないの···」



 申し訳なさそうにガリーナは言い、床に座る。

 ユキの出血はもう止まっているが、全長5メートルの化物に噛まれた牙を放置していいはずがない。



「何もないのか?このゴーモには」



 レイフは立ち上がり、先程ガリーナが進んだ方向を指差す。ガリーナは首を横に振った。



「扉が全部閉まってるの···。どの部屋にも入れないわ」

「閉まってる?」



 レイフは首を傾げた。



 自分でも確かめに行こうと、レイフは奥に進もうとした時。



『あんたらさぁ、何なのぉ?』



 聞き覚えのある声が、ゴーモ内に響き渡った。聞き覚えがある声よりも少し若いが、3人には懐かしい声だった。



「え?今のって···」



 ユキも愕然としている。周りをきょろきょろと見回してしまう。周りには誰もいない。



『****と同じ遺伝子情報だったから、つい起動しちゃったけどさぁ···』



 聞き取れない言語があったが、また同じ声が聞こえてきた。



「やっぱり、これは···」



 ガリーナも固唾を飲み込む。彼女の目は、自然と潤んでいた。



 自分たちの前に、細かな青い粒子が集合していく。それは人型を構成していき、足元から髪の先までをあっという間に形作っていく。



 自分たちの前に、1人の少女が姿を現した。粒子によって構成しているにも関わらず、自分たちと変わらない人型のツークンフトにしか見えなかった。



 セミロングの、毛先が跳ねた黒髪。大きなくりっとした黒い瞳。肌色は地球人でいう黄色人種の肌色で、黄色人種の中でも恐らく彼女は肌が白い方の部類に入るだろう。

 年はレイフと変わらないくらいの、10代半ばだと思う。とにかく彼女は、可愛らしい外見をしていた。まるで、桜の花を思い立たせるような可愛らしさは、忘れられるはずがない。



 外見はかなり若いが、レイフ達を育てた機械人形の姿で間違いなかった。



「あんた達、だれぇ?乗車権限はあるみたいだけど、コナツちゃんはマスター以外の知らない奴を乗せるの嫌なんですけどぉ!」



 甘ったれた声音に、ガリーナはぼろりと涙を流した。レイフも泣きそうになるのを抑える。



「か···」

「か?」



 少女は怪訝に自分たちを睨んだ。



「母さん···っ!!」

「お母さんっ!!」



 レイフ、ガリーナ、ユキは、一斉に少女に抱きついた。少女はギョッとし、後ろに引く。

 コナツと名乗っているが、サクラだ。母のサクラが、若い姿で現れたのだ。



「母さんっ!無事だったんだな!」

「お母さん〜!!」



 ユキも涙で顔を汚し、母と同じ顔をした少女に縋ろうとする。見た目的にはユキよりも、少女のほうが若く見える。



 自分達に縋られ、彼女はギョッとしていた。



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