【ユキを助けに】
【ユキを助けに】
レイフはすぐに後ろに駆け出した。空が明るい方向へ。
後ろではハッチが閉まる音がする。空が明るい方向へ駆け出せば、発砲音とペスジェーナの威嚇音が聞こえてくる。あと、男の叫び声がレイフの獣耳に届く。軍人の誰かの声だろう。
そしてーー小さいけれど、ユキの舌打ち。
(···近いっ)
「うわっ!!」
来た道を戻っていた時、勢いよく大きな体がレイフにぶつかってきた。重い身体にぶつかられ、レイフは後ろに倒れる。自分も全速力で走っていたため、相手の男は勢いよく横に倒れた。
「お前は···っ!」
相手の男は反射的にすぐに起き上がり、自分の姿を睨んでくる。すぐに、銃口を向けてきた。
「ガリーナ・ノルシュトレームはどこだ!」
アシスの軍人だった。
レイフはギョッとしたが、ずっと握りしめているクォデネンツを構える。彼は精悍な顔つきで、ぎらぎらと血走った瞳を向けてくるがーーー。
軍人は、ペスジェーナの威勢の良い叫び声を聞き、びくりと身体を跳ねさせた。
「あーーー!うざったいなぁこのケダモノは!!」
大きく舌打ちし、レイフと軍人の間に華奢な体が飛び込んでくる。飛び込んできた身体はすぐにくるりと振り返り、背後に銃を向ける。
「こっち来んなよ!黙ってアシスの連中ばくばく食えばいいのにさぁ!!」
華奢な影は、レーザー銃を容赦なく撃ち始める。彼女が撃ち始めた瞬間に、木々の間から大きなぎらぎらとした瞳が見えた。
瞳は、4つ。2体は確実にいることがわかり、レイフはゾッとした。
「ゆ、ユキ!!撃つな!」
ペスジェーナは、仕返しをしたくて襲ってくる習性がある生き物だ。撃てば標的にされる。ユキだって惑星トナパに住んでるなら、知ってるはずだ。
「あぁ!?ノロマ!何追いつかれてるんだよ!!」
「ぎゃっ!!」
ユキは最速でレイフと対峙していた軍人にレーザー銃を向けると、躊躇なく撃った。男は銃を持ちながらも倒れる。一応急所は外しているが、彼の腕と足から血が流れるのを見ると、罪悪感が募る。撃ったのはレイフではないが···。
「お、追いつかれたんじゃなくて、オレはユキを助けに···っ!」
「はぁ?自分たちの心配だけしてろよボケナスっ!!ガリちゃん、どうした!?」
「コナツの中だよ!ユキを置いていけるかよっ!」
「はっ!毛も生えてねぇオスに心配されるほど落ちぶれてねぇよ!!」
一瞬、レイフは何を言われたかわからなかった。
毛?毛って何だ?尻尾の毛?
ーーーいや、違う。
「毛!?毛って···お、おん···おんなが下品なこと言うんじゃねぇよ!!だから戦闘中のユキは嫌なんだよ!!」
思わず、大声で叫ぶ。顔を赤らめ、つい唾液が飛び散るのも考えず。ユキは涼やかな顔で受け流しながら、銃をペスジェーナに向ける。
「ふざけんな。くんぞ」
言葉少なに言われ、レイフはハッとクォデネンツを構える。大きな目はこちらを睨み、口をガパリと開ける。
(さっきオレが狩った時とは、状況が違う···)
レイフは15匹ほどペスジェーナを狩っているが、状況があきらかに違いすぎる。