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AI毬管理室に行く途中で、泣いているセイジとヒロにばったりする。
「また子供⁈ 中心区域は立ち入り禁止のはずですよ!」
と、航法士が呆れる。一方、遊び仲間である少女を見掛けると子供たちが叫び手を取り合う。
「ミズナちゃん‼」
「セイジ君、ヒロ君!」
思わぬ再会で三人の子供は大喜びであった。そこで中年が尋ねくる。
「ミズナちゃん、はぐれた友達ってこの二人?」
「はい! おじさんのおかげで再会できました」
「よかったな・・・で、どうしよう佐野さん、このまま皆で行きます?」
「仕方ありません。子供をここで放って置くわけありませんし」
「そうだよな」
「兎に角、一刻も早く補助AIを繋げましょう。それがこの船の唯一の希望です」
やむなく子供の同行を許し、AI毬サーバー管理室まで連れて行って、戸口を過ぎたところで佐野が中へ案内する。
「ここです草木さん」
「お、はい」
スーツケースをしっかりと持っている技師は少女に端末の場所を訊く。
「ミズナちゃん、端末はどこにある?」
と少し腰を屈み、女の子に尋ねた。
「あ、あそこです」
少女は部屋の奥にある卵形の揺り籠を指差す。その真下の床に真っ二つに割れた元のAIの漆黒球体が見えた。揺り籠は新しい移植脳を待っていた。男が近づくと補助AIを端末の上でかざす。
「この中に入れるのかな」
補助AIをその中に入れると、端末が反応し揺り籠の穴をナノ素材で一気に塞ぐ。球体を粘膜で被覆して宙に浮かばせる。その神秘な場所を佐野や草木、ヒロとセイジ、そしてミズナ、それら五人で囲んでいてAI接続の場面を眺めていた。するとヒロが・・・
「すげぇ、浮いてる!」
「うん、初めて見た」
とセイジが相槌を打つのだが、一方ミズンが静かに不安を抱える。
「・・・」
そこで佐野が技師に訊く。
「草木さん、繋げたのですか?」
「分からん、まだロードしてるみたいだ」
すると、突然にホログラムが現れる。その外見はどうやら青年であり、マリの時と同様に、七分袖と七分丈の一枚布の白い衣装を着ていた。立体された彼が話し始めると・・・
「お! 本当に一瞬ッスネェ。麻酔されて起きたら生まれ変わるって本当だったんッスネェ」
「何の話?」
草木が彼の話に付いていけない。一方佐野が話し掛ける。
「あの! AI君!」
立体像は子供の前で現れていたので、青年が振り返って女性の呼び掛けにこう応える。
「あ、そうそう、俺はAIでスゥ! そういう設定ッスネェ」
「設定?」
「ヤ、こっちの話ッス。はっはっ、AIっぽく話したほうがいいッスカネェ」
「AI君、貴方を何と呼べばいいですか」
すると、彼が棒読みで話し始める。
「お・れ・の・名・は・KY8000」
一方、ミズナは非常に混乱していた。同じ移植者なのに、どうやら彼は自分の新しい在り方を自然に受け入れていて、
そうだ、彼は変だ! なぜなら宇宙船のAIになるってことは例えて言えば、次の通りだ。新月夜中の凸凹山道を、満員バスの運転手がハンドルを足で握って操作しつつ、ヘッドフォン装着状態でデスメタルに首を振りながら、更にVRゴーグルを着けてコントローラーで将棋を指す、という五感を飽和させるくらいの馬鹿げたことを意味する。とても説明できない体験だ。
そうだ。私の時は凄く大変だったのに、彼はなぜ平気でいられる⁇
とミズナが想った。
だが佐野たちにとっては、その軽い態度を正すよりも優先にすべきことがあった。そうだ、彼を怪しむ所ではなかった。
「KY8000君、緊急です、今すぐパピリオの損傷検出を行ってくれ」
「損・傷・検・出・実・行」
とまた典型的なロボットの話し方を続行していた。
「コイツぜってぇふざけてる! ははははははははーっ‼」
とヒロが笑い出すとセイジも笑い始める。一方、彼らにウケて貰ってKY8000が微笑を浮かべる。
「静かにしなさい!」
と佐野航法士が彼らを叱る。
補助AIが損傷検出を実行していた間に、彼女が違う端末で何かを調べていたようである。しばらくすると、AIが再びふざけた棒読みで話す。
「損・傷・検・出・完・了」
「よし、早かったな」
と中年がホッとする。一方、佐野は端末に夢中であった。
「おい、佐野さん、検出が終わったって!」
「・・・あ、そうですか、今行きます」
と端末から手が離れると、彼女の雰囲気が一変していたのが、中年が察する。
「どうしたんですか、佐野さん?」
と草木が尋ねるところで、ミズナも彼女の様子を伺ってその変わった雰囲気が伝わる。
「いいえ、何でもありません。それで? KY8000君、結果はどうですか?」
「損・傷・検・出・結・果」
その時は、KY8000の顔が真っ青になり棒読みを辞めにする。
「ヤベェ」