文化文明の違いと医療の発展
怪我をした後、治癒させる方法は幾つもある。そのまま放置していても治る時は治るし、薬を使うことだって珍しくない。魔法の中にもそういった治癒の系統があるので、それを用いることだってある。
ハードゥスは様々な世界から人が流れ着いているので、多文化の混合体である。薬学が発達した世界や魔法が発達した世界、科学が発達した世界など本当に様々だ。中には原始的な世界から来た者も居るが、そういった者達が持ち込む文化や技術や価値観が混ざり合って、ハードゥスの文化へと昇華している。
もっとも、その辺りも場所によって特色が異なる。前述の通りに様々な文化が混ざり合って新たな文化に昇華させた場所もあれば、魔法に重点を置いて発展している場所もある。他にも薬学が発達した場所や、科学を信奉する場所など様々だ。
それこそ軍事国家だったり、宗教の勢力が強い地域だって存在するし、中にはまだまだ原始的な場所だって存在していた。
とにかく様々で、隣の文化が全く色合いを異にするなんてハードゥスでは珍しくもない。
そういう世界なので、国家間の距離が近い場所では争いが絶えない。やはり価値観の違いというのは如何ともしがたいようだ。
だが不思議なことに、そんな世界だというのに戦力は割と拮抗していた。文化が異なろうとも、戦力で言えばそう大きな差が出ないのかもしれない。それとも、戦力が拮抗している場所だけが残ったというべきなのか。
さて、そんな中でも争いが少ない場所だってある。国がひしめき合っていても、そういう場所には盟主となる国が存在する。そういった国の長は優秀な調停役でもあるのだが、残念ながらそれが永遠に続くとは限らない。
その場所では世代交代が行われていた。交代の理由は先代の死。老衰だったというから、謀殺というわけではないだろう。
そして次に長に就いたのは先代の子供だった。子供といっても、既に結構な年齢ではあるが。
その者は統治者としてはそれなりに優秀であったが、残念ながら盟主として必要な技能である折衝能力は平凡でしかなかった。
努力はしていたが時が経ち、少しずつ歯車はずれていく。それはいがみ合いの調停で、分かりにくい僅かなしこりを残したなどの些細なことの積み重ね。もっとも、それでもその長の代ではまだ大丈夫であった。
それから次の長の代になり、時が経った。新たな長も先代同様に折衝能力は凡庸で、そのせいでとうとう内部に明確な亀裂が入ってしまう。
転がり落ちる時は一瞬らしく、連合体だった国々はすぐさま幾つかの勢力に分かれ、争い始めるようになった。
やはりそれを纏める能力は盟主にはなかったらしく、程なくしてその地は嵐の時代へと突入するのだった。
結局その嵐の時代は百年近くも続き、最終的には外にあった大国に全ての国が呑み込まれて終了する。
その結果は、連合国側にとっては無意味な争いとなったが、文明の発達という面では確かな進展が見られ、特に医療の分野に関しては各方面で大きな発展が見られたという。もっとも、そんなものは滅びた側には何の慰めにもならないのだろうが。