バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

迷宮の成長抑制

 英雄という存在が居る。常人よりも強大な力を持って、困難を打ち砕いた者のことだが、ハードゥスに於いては主に迷宮踏破者がそれに該当する。生まれたての迷宮だとしても、ハードゥスの迷宮である以上、そう簡単な話ではない。
 実際、今まで迷宮は幾つも攻略されてはいるが、迷宮を攻略した者はそう多くはない。大抵は同じ人物が所属しているパーティーや組織である。迷宮の主というのはそれだけ強いのだ。
 もっとも、生まれて間もない迷宮を幾つも攻略しようとも、ある程度育った迷宮を攻略した者ほどの賞賛は受けない。そちらはまさに英雄と呼ばれるだけの偉業なのだから。
 そういうわけで、ある程度以上に育った迷宮は、実質攻略不可能となる。現在のところ地下大迷宮以外に攻略不能な迷宮は、ハードゥスには存在していない。れいが調整しているとはいえ、それでもそろそろ危険域に成長しそうな迷宮は幾つか存在していた。
「………………ふむ」
 その辺りについて、れいは考えてみる。
 ハードゥスの人々は、他の世界の人々と比較してもかなり強い。なにせ、他の世界で英雄級の強者が、ハードゥスでは凡人なのだから。
 そんなハードゥスの人々の中から出た英雄でも攻略不可能な迷宮というのは、迷宮という存在が創られた理由を考えればあり得ない話だった。元々迷宮は攻略されることが前提に設計されているのだから。
「………………つまり、ハードゥスに流れてきている力の影響を他よりも強く受けているということのようですね」
 その結果、他よりも成長が著しく、攻略可能のはずの迷宮が攻略不可能になってしまっているということのようだ。そうだとすると、迷宮には特別にフィルターのようなモノを用意しておけばいいかもしれない。そうすれば、成長の足並みも揃うだろう。
 というわけで、れいは即座に全ての迷宮を通過する力の量を調整するフィルターで覆う。これにより、迷宮の成長速度を調整していく。とはいえ、通過させる力の量の調整が必要なので、試験的に若いものほどフィルターを粗めに設定しておいた。後は様子を見ながら、適せん調整していけばいい。
 後は攻略する側の成長も観測しておかなければならないだろう。もっとも、れいにとっては大した手間ではないが。
 そういった諸々の準備を終えた後、れいは次に取り掛かる。現在のハードゥスは、以前に各大陸に攻め込んだ魔物の国と人の国の対立といった様相を見せている。大陸間の移動が出来るようになったので、少しずつ人々が大陸を越えて手を組み始めていた。
「………………魔物側の国は少ないですからね」
 そもそも魔物は大きくても群れ単位までしか構築しないので、魔物の国というのは非常に少ない。これは魔人の数がそう多くないのも原因だろうが。
 それに、仮に温厚で知的な魔物が居たとしても、魔物と人では中々理解し合えないので、魔物の国が在っても人里から隠れるようにして存在しているので見つけるのは困難だろう。
 もっとも、それでは魔物の国側が不利かと言えばそうではなく、魔物は個の強さが人に勝るので、それが組織だった国となれば、情勢はやや有利といったところのようだ。
「………………こちらに関しては様子見ですね」
 あまりそういった争いに干渉する気は無いので、れいはしばらく様子を見ることにした。あまりに激化してハードゥスに影響しそうになったならば、その時に考えればいいだろう。れいが守護している世界なので、それでも影響は軽微であろうが。
 他に何か対策が必要なことはあっただろうかと考えたれいだが、まだ手付かずの要件では他に思い浮かばなかったので、残りはまだ問題になっていないことばかりなのだろうと判断したのだった。

しおり