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服 その1

……が、窓から見える店の中が、違う。
 棚に並んでいる品物からして武器じゃない。服だ、人間の服だ。

 店を間違えたんじゃないかと思って、上の看板を見てみる。字は読めねえが、前のやつとは全く違っていた。剣と槍が交差して飾ってあったはずなのに、それがない。
 変わったんだ、武器屋がどっか行って、それでこの服屋が新たに入っちまったってことか!?

 俺はドアを蹴破って店に入ろうとした……けど、よくよく考えてみたら、今いる店の奴らに罪はない(と思う)し、俺はチビを抱いてる。おまけに街中はかなりの人出で賑わっている。ここで暴れたりでもしたら一大事だ。ガマンガマン。ここは戦場じゃねえんだ。落ち着け俺。

 俺は大きくゆっくり深呼吸をして、店のドアを開けた。

 しんと静まり返った店、壁には上着やらズボンやらがたくさん下げられている。すべて人間のやつだから俺には小さいし、服なんてもんには全然興味も湧かない。
 しかしよくよく見ると、明るめの色の服がかなり多いことに気がついた。今まで街にいる奴らが着てた服なんて、茶色やくすんだ灰色みたいな、辛気臭い色ばかりだったし。

 それがこの店は違う。黄緑とか青、それに透き通るような白。

 俺が見たって綺麗だなって思える色が、結構目につく。

「いらっしゃいませ!」
 俺の姿に気づいた店員が、奥から出てきた。それも二人。若い男と女だ。
 この二人がルースの言ってた『父ちゃんと母ちゃん』になるのか。なんて頭の隅っこで思いながら、俺は例の件を問いかけてみようとした。

「あのよ、この店の前って……」
「まあ、かわいいお子さんですね!」
 いきなり女の方に先手を取られちまった、ヤバい、不覚だ! 戦いの中だったら先手を打たれたようなもんだ。

「どのような服をお探しですか?」続く男からの攻撃。しかもすごく丁寧な姿勢だ。同じ物言いでも毒と嫌味のあるルースやジールとは大違いだな。
 ふと、俺は抱いているチビに目をやった。そっか、こいつ見つけた時からずっとボロボロの服のまんまだ、下着も、靴すら履いてないし。毛があるがゆえに、あまり服にはこだわりを持たない俺たちとは違って、こいつは人間だったんだよな、うっかりしてた。

「すいません、獣人さんの服となると仕立てにお時間がかかるのですが……」男のほうがなんかいろいろ言ってくるが、全然分からねえ用語ばかり。

 そうじゃねえ違うんだ! 俺が聞きたいのはここの前の店主のことだ! って言いたかったんだが、俺の口から出た言葉は、今の思いとは全く違うものだった。

「えっと、このチビ……の服、欲しいんだ……けど」
 店の勢いに、俺は負けた。

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