服 その2
女の方は、慣れた手つきでチビの身体のあちこちを測ってくれている。
しかしなぜ、チビの服が買いたいだなんて、裏腹な言葉が出たんだか……この後もう孤児院へ言っておさらばするだけだってのに、カネの無駄遣いじゃねえか。
あ、そうそう。
とりあえず一応きちんとしたカネは持ってきてはいるけどな。金庫番のトガリが宝石と換えてくれた金貨と銀貨を一枚ずつ。
チビの服が一式いくら掛かるのかな、これで足りるかな、なんて思いつつ、俺は生地をあれこれ選んでいる男の方へと声をかけた。
「……以前、ここって武器屋だったはずなんだが」
「あ、知ってますよ。鍛冶屋のワグネルさん……でしたか、その方からこの土地や建物をすべて購入しましたので」
あのオヤジ、ワグネルって名前だったのか。
「しかし……なぜワグネルさんのことを?」
「ああ、ちょっと前に武器を買ったんだけど、#代金__カネ__#の残りをまだ支払ってなかったんだ」
ああ、この男は何も知らなさそうだ。俺の斧の事情を説明したって無駄に思い、俺はあえて違うことを教えた。
「ワグネルのオヤジ、どこへ言ったか知らねえか?」
だが、男は困った顔でいいえと首を横に振るだけ。参った……脈はここで途切れたか。
「あ、でもあの人、確か大金を手にしたとかで、もうちょっと大きな街へ行って店を構えたい、とは言ってましたね。すいません、これくらいしか話してなくって……」
大きな街……か。それだけじゃ正直厳しいな。しかしワグネルから斧の#秘密__こと__#を聞き出さない限り、俺はこれからもずっと盗賊団連中に命すら狙われ続けるワケだ。この先一体どうすりゃいいのか……
と、あれこれ思いを巡らせてるうちに、チビの担当が男から女へと代わった。隣の部屋で合ったサイズの服を着させてみるらしい。チビはいつも通り泣き出しそうになったが、昨日の夜にジールが教えてくれた魔法の言葉を思い出し、難なく離すことが出来た。
「大丈夫、俺はここにいるから」
これが、この言葉だ。
ってなワケで、今度は女の店員と二人っきりになっちまった。こいつにも男と同様の質問をしてみたものの、結果は変わらず……だった。
さてさて、どうしたものか……とは言っても、俺はこの女の店員にこれ以上何を話しかけていいのかもわからなかったんで、しばらく無言のままの時間が流れていった。
窓の外からは祭りにも似たような、街の人のざわめきが聞こえてくる。だいぶ賑やかになったな、ここも。なんて思っていたら、女の方が話しかけてきた。
「あなたは……違うんですね」
いきなり言われたその言葉。俺にはどういう意味かさっぱり分からない。
「え、いや、あの、いきなりですいません、おお怒らないでください!」
今度は顔を真っ赤にして謝りだした。ますます訳が分からねえ。
「違うって一体どういうことだ? 別に怒ったりしねえから、な」彼女に問い返してみた。
「えっとですね、私……獣人って、その、もっと厳つくて怖い人なのかな、なんてずっと思っていたんですよ。そしたらお客さん、とても物静かですし……それに子供さん連れていたから、今まで私の思い描いていた獣人と全然違っていたな……って」
俺に怯えてでもいるのか、彼女はずっと下を向いたまま、緊張した口調で、そして早口で一気に話してきた。
確かにそうだな。ジールやルース、それにトガリはともかくとして、俺たち獣人の……しかも男たちはみんな屈強で、戦場で暴れまくるような連中ばかりだったし。
実際親方だって「戦場じゃお前たち獣人の数が勝ち負けを左右するんだ」って事あるたびに言ってたっけ。だからいつの間にか人間たちには、俺たちは怖いってイメージが定着していたってことなのかもな。