慈悲と悩み
迷宮からは様々な物が産出している。武器に防具に装飾品、この辺りが花形だろうか。品質は様々だが、中には人では再現できないような逸品も見つかる。
他にも、薬草や霊薬草や鉱石などの素材に、回復薬や解毒薬などの完成品、糸や木材や魔道具や本なんて物も発見されることがあった。
その中に在って、最近れいが特化させて一部の国の近くにわざわざ設置している迷宮がある。それは食材の迷宮。
元々迷宮は、迷宮ごとに武具とか素材とか出やすい系統というのがあり、それが由来で○○の迷宮と名前が付けられることが多いのだが、それでもそれしか出ないという特化型は、様々な物が見つかる汎用型以上に珍しい迷宮だった。
では、何故れいは食材の迷宮を設置するようにしているかというと、一部の国では人口が増えすぎて食料が足りなくなってきていたので、それに対する一時的な処置である。
食材の迷宮から産出されるのは、主に野菜や果実。魔物もそれに由来したものばかりで構成されており、迷宮内は畑や果樹園を詰め込んだような場所になっていた。
種類はそこそこで、たまに食用の茸や山菜も採れるほど。更に難度も低く、まさに収穫のための迷宮といった場所。
これに関しては、事前にその国に影響力のある管理側の誰かが赴いて迷宮の説明をしているので、食材の迷宮が攻略されることはない。
土地が足りているのに食材の迷宮に依存されても困るので、あくまで補助程度の収穫量しか出ないし、種類もそこまで多くはないようにしている。飢饉対策なので味も普通で、美食を追い求めるならしっかりと自分達で作った方がいいぐらい。
それらの説明もしっかりと行っているので、食糧自給を怠る為政者は現在のところ出ていない。
こうなったのもまぁ、魔物との戦争のせいでもあるので、復旧さえすれば食糧も問題なく出回る。戦争があったのももう大分前なので、そろそろ復旧も近いが。
もっともそれとは別に、急激に人口が増えすぎて食糧や家などが追い付いていないという国もあったが。
そういうわけで、れいがわざわざ食材の迷宮を設置していたのだった。迷宮の在庫は大量にあるが、迷宮は迷宮で便利な物である。流石は一部の管理者達の行っている遊びの根幹を成す要素の一つなだけあるというもの。
ただ、その遊びが拡がりすぎているようで、最近は新しい世界の半分以上がその遊びを取り入れた世界になってしまっていた。
もっとも、それだけならばまだいいのだ。代替わりした創造主の創造する世界には穴が開かないのだから。
ただ、その波が旧時代の世界にも波及しているというのと、新しい世代や若い世代の管理者は好戦的であったり欲深かったりと面倒な性格をしているのが問題だった。初代創造主の晩年と二代目創造主の創造する管理者は、今までの管理者とは少々毛色が違う。
「………………管理者間での競争や争いを推奨する創造主。まぁ、根幹が本体ですからね、理解は出来ますが……。後はそれが別の管理者に影響しないことを祈るばかりですね」
迷宮について考えていたれいは、行き着いたその考えに、まず無理だと思いながらそう呟く。
「………………ハードゥスと同じ役割の別世界を創っても……いえ、それなら一角を拡張した方が管理が楽ですね。新しい管理者の派遣要請はあまりしたくはないですし」
今後のことを考えたれいだが、今までの延長で問題ないと結論付けるのだった。