バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

怠惰のツケ

 それが流れてきたのは、おそらく偶然だろう。
「………………」
 れいはそれを前にどうするべきかと頭を捻る。
 流れ着いたのは、後悔に塗れた何かの魂。そのままハードゥスに解放しても、霧散して消滅するだけの存在。故に、ハードゥスにとっては無意味な漂着物。
「………………」
 初めての漂着物に興味が湧いたのか、れいはその魂の情報を読み取ってみる。そうすると、どこぞの世界で殺された魂なのだと判明した。後悔の内容は様々だが、主に自分の弱さと誰かへの謝罪。もう少し詳しく読み取った後、痕跡を辿って元の世界を特定していく。
 その結果、その世界は数字とスキルで管理している世界のようだった。そのうえ、管理者は別に神を創って管理をその神に任せているようだ。それでいながら、その神は管理補佐ではなく、あくまでも創造した人形。
 更に知り合いの管理者から神役の人形を仕入れて、別の価値観も輸入しているらしい。そういった世界で、創造の力を与えられた神役の人形に創られた存在の一つがこの魂の持ち主のようだ。
 そして、神役同士の微妙な対立関係の末に、一部の被造物の勘違いからの暴走により殺されてしまったという結末らしい。
 魂の持ち主は大して強くなかったようだが、後悔の念があまりにも強すぎて、魂になってから周囲の魂を取り込んで容量が増えたケースのようだ。
 普通であれば、それでも時と共にそのまま消滅するか、何かの拍子にアンデッドとして蘇るか、生き物や人工物などの何かに憑りついたりするのだが、今回は幾つもの偶然が重なってハードゥスに流れ着いてしまったらしい。
 つまりはかなりのレアケース。このまま放置するなり見なかったことにして消すなりしてもいいのだが、れいは少し考えた後、折角のレアケースだしと思い、今までやったことのない方法で送り返してみることにした。
「………………しかし、このまま素直に送り返すというのも面白くないかもしれませんね」
 そこでふとそう思い、れいはその魂に色々と細工を施していく。
「………………まれびとを歓迎しているのです、ならばこういう趣向もいいでしょう。怠惰な管理者には相応の罰を与えなければなりません。管理者は世界を管理してこその管理者。それに、いくら神という名を貼り付けたとはいえ、管理を代行している者を無位無官でこき使うというのも感心しませんね」
 そう呟きながらも魂に色々と細工を終えたところで、れいは最終確認をしてからその魂に告げる。
「………………これより貴方を貴方の世界へと転送します。そこで貴方は新たな命として転生することになるでしょう。しかし、貴方には私の加護、いやそちらでは祝福と呼んでいましたか。それを与えておきましたので、その後悔を存分に晴らすことが出来るでしょう。もっとも、転生しようとも貴方の人生です、それでもどう生きるかは貴方次第。それではよい旅路を。貴方の歩む先が明るいことを……まぁ、それもまた、貴方次第なのですがね」
 れいがそう告げ終わると、魂は元の世界へと戻された。普通の祝福が可愛く思えるほどの改造を施されて。
「………………さて、どう転んでも最終的には変わらないようにしたつもりですが、それでも少し心配ですね。この試みが上手くいくようであれば、今後の罰の一つに加えてもいいかもしれません」
 そう呟くと、れいは日常に戻っていく。
 それから百年と経たずに何処かの世界が消滅したが、世界には何の影響もなかった。

しおり