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1ー4 先輩、部室では盛らないで下さい


清々しい春の日の朝。
ある駅の改札前。

「さぁ〜くら〜!!おはよぉ!!」

「ぎょわぁっ!?」

朝からギョッとする光景が駅構内で繰り広げられる。
女子高生(咲良)が女子高生(親友)に後ろから胸を鷲掴みにされていた。

「みれい?!なにするのよ!!」

「私には無いから揉みたかった」

ドンッ!
咲良の親友、神楽みれいは己の胸を力強く叩く。鈍い音がした。
咲良も豊満とまではいかないがそこそこある。しかし神楽の胸は絶壁だった。

「はぁー、もう朝からセクハラとかテンション下がるわ」

「下がんないでー!そんな咲良にはこれあげる♡」

改札を通り、ホームに出た神楽が取り出したるは、かの有名な韓国コスメのリップティントだった。確かこれは新色だ。

「え、新色じゃん!!欲しかったやつ!!いいの?!」

「私も買ったからさー!お揃っち!!ちなみに、今付けてるよ!」

「めちゃくちゃ可愛い色!!ありがとうみれい〜!!」

むぎゅうと神楽の胸に抱きつく。
咲良は小柄だが神楽はモデル級の身長がある。

でも、まだ低い。
彼よりは、神楽は低いんだ。
彼は、まだまだ高い。

咲良は神楽からもらったリップティントを大切にカバンに仕舞い、2人して電車に乗る。
神楽は咲良と同じ高校で、隣のクラスだ。

リップティントの話題で電車通学時間をやり過ごし、電車を降りる頃にあの噂の真相を明らかにしようとしてくる神楽。

「そういやさ、昨日陰キャの男子のナンパしたってホント?」

「はぁ?いや、ちょっと大人しめの男子と一緒に文芸部入ったけど、なにそれ」

陰キャとか陽キャとか嫌いなんだ。
なんだよ陰キャって。
ちょっと物静かなだけじゃん。

「怒んないでよ。男子が可愛い子に俺もナンパされたいー!って騒いでたの聞いただけだよ」

「別に、私は可愛くない。……あ!!みさとくん!!」

「!??」

駅から出ると前方に三神を見つける。
思わず手を引くと三神は驚いた様子で咲良を見つめ耳のイヤホンを急いで取った。

「あ、ごめん、びっくりした?」

「……いや、大丈夫……おはよう」

「おはよう!!」

うっ……
咲良の明るい笑顔に思わず後ずさる。
三神には眩しい。

「……ほほう?キミが咲良にナンパされた幸運な男子かい?」

「……ナンパ……」

違うとも言い難いので直ぐに否定できない。

「咲良が可愛いからってあんなことやこんなことしたらその粗末なピーをピーにしてやる」

「……え」

「……みれい、私が仲良くなる男子みんなにそれ言うの辞めて。ごめん、みさとくん。この子は私の親友の神楽みれい。隣のクラスなの」

「……あ、そ、そっか」

神楽は「よろしこー!!」と軽めに挨拶する。
三神は、「ょ、ろしく……」とぎこちなく答えた。

俺はそんな関係になんないのにな。
こんな明るくて可愛い子とは話すだけでいっぱいいっぱいなのに。
と、三神は思う。

3人で話しながら学校に行くと、中々に好奇な目で見られて三神はウザったかった。

そして、放課後になる。
咲良は朝から放課後まで三神に必要最低限近づかない。
彼があまりスキンシップが得意ではないのに気づいているからだろうか。

「みーさとくん!部活の時間ですよー!!」

「……え、あ、うん」

HRを終え、部活に行く支度をしていると咲良が現れ、しゃがんで三神の机に顎を乗せ上目遣いで文芸部に行こうと誘う。可愛い。
あざとさにやられて三神は固まってしまう。

クラスメイトの男子たちは「三神許さん」と嫉妬の炎を燃やしていた。

三神はそれがわかっていたから、咲良の隣は居心地がいいし居心地が悪かった。

2人連れ立って文芸部の部室に行く。
カタン……中で何か物音がした。
先輩が何かしているのだろうか。

扉を開ける。

「……んっ、」

「……はぁ……かずさ、」

南のメガネは南が腰掛けている机の上に。
南は伊集院の首に腕を絡め、伊集院は南の後頭部と腰を抱く。
はだけた南の豊満な胸元。

南の唇を吸っていた唇を南の首筋に這わせる伊集院。

はた。
伊集院と咲良、三神の目が合う。

「……ぁ、」

「……ん?……あら、昨日ぶりね」

伊集院が入口を見つめながら固まるので南も入口を見る。
南は1年生達に行為を見られてしまっていたが飄々としていた。

「くぁw背drftgyふじこlp;@:」

意味不明な絶叫をしたのは伊集院で。
ズバンっ!!と部室の隅に埋まると「もうダメだ陰キャがこんなことしてたなんて知られてしまった。もうダメだ死のう」とネガティブに膝を抱える。

対して1年生は、恋愛話が大好物な咲良は「2人はやっぱりそういう関係なんですね!!」と昨日の帰りを確信に変えテンションを上げ、恋愛事に免疫の無い三神は赤面して固まっていた。

「やっぱりって?」

南が胸元を直しながら1年生に向き合う。
三神は気まずくて視線を逸らす。

「昨日、2人が手を繋いでたみたいな気がして、もしかしたらって!」

「あら、見られてたのね」

くすくす笑いながら南は、ブツブツ呟きながら宙を眺める伊集院の元へ。

「ほら、いつまでネガティブやってるの?」

「……だって、僕」

「あんまりネガティブこじらせてると嫌いになるわよ」

「……や、やだ!!」

伊集院は南の腕を掴む。
南は笑いながら彼の額に口付けた。

「うへぁ?!」

「ならシャキッとしなさいな」

「……ひゃい……」

なんだろうこの2人の関係は。
何に例えたら1番しっくりくるだろう。

恋人なのだろうけれど何かが違うとも言えそうだった。

「……私達はね、幼なじみなの」

「そうなんですね!!」

南の独白に、聞きたい聞きたい!と前のめりになる咲良に、すすす……と部室から居なくなる伊集院、イヤホンをして創作を開始した三神。

「あら、私の可愛い人は逃げたわね」

部室から逃げ出した伊集院(部室以外に居場所などあるのか)が消えていった扉を見て優しく微笑みながらココアを自分のマグカップに作る南。

「マグカップは持ってきた?」

「はい!」

「ココアとレモンティーどっちがいい?」

「ココアがいいです!」

南は優しく微笑みながらマグカップを咲良から受け取り、「みさとくんにはまた後で聞きましょうか」と咲良にだけココアを作る。

「あの!いつから付き合ってるんですか?」

「付き合って何年かしら。中3の卒業式にね、あいつが「ぼ、ぼぼぼ僕と付き合って!!」ってどもりながら告白してきたのよ。制服の第二ボタン持ってね」

「素敵!!」

「私もずっと可愛く思ってたから引き寄せてキスしてあげたら、あいつ鼻血吹いたの」

「あはは!!七世先輩初心なんですね!!」

でもね?
南は意地悪く笑う。

「あいつ、もう童貞じゃないの」

「ごくり。やはり初めてのお相手は……」

「わ、た、し!」

「きゃーーー!!!」

咲良の叫び声で驚いたのか、イヤホンで音楽を聴きながら創作をしていた三神が肩をびくつかせる。

女子2人はしー……と笑いながらお互いに人差し指を唇に当て、静かにするように促す。

「こんな話初めて他人にするわ」

「先輩とか後輩とか友達は?」

「先輩も後輩もいないの。貴方達が初めての後輩部員よ。友達は……そうね、そんなに親しい人は私達いなくて」

南は優雅にココアを啜る。

「え、じゃあ、この本達は?」

「あ、本は5割くらいは昔の部員が残してたやつであと新しいのは私達が部費とかで」

「……すごい、ですね」

三神がイヤホンを外していたようだった。
少し内容が気になったようだ。

「凄くなんかないわよ。居心地がいい場所を作りたかっただけだもの」

「……俺達、邪魔ですか?」

「いいえ?後輩が出来て嬉しいわ!ねぇ、七世」

「……ぎく」

部室を飛び出したものの行き場がなく戻ってきた伊集院。
隠れていたが何故だか南に存在を察知されてしまった。
愛ゆえにだろうか。

「ね?なんだかんだいいながらあなたも嬉しいでしょ?」

「……うん。そりゃあ、かずさ氏との2人の時間は減るけど2人が理解者なら……嬉しい」

尻すぼみに呟く伊集院。
咲良はにぃーと笑う。
三神は穏やかな顔をする。

「どんどん惚気けてください!!」

「やだよ!!」

「……部室では盛らないでください」

「ハイ!ゴメンなさい!!」

南は満足気に微笑みながらココアを啜る。
伊集院は良い奴なのだが誤解を招くことが多い。
それで、受け入れられなくて、泣く。このパターンが多かった。
でも、新しい部員達は彼とも仲良くやれそうだ。


ーつづくー

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