1ー3 壁ドンがときめいたとかそんなの気のせい?
あれからひとしきりそれぞれに部活を楽しみ、帰る頃。外は少し日が暮れていた。
「みさとくん、咲良ちゃん送ってもらえる?」
「……え?」
みさと、というのは三神の下の名前だが、1人さっさと帰ろうとしていたので困惑してしまう。
咲良が悪いやつじゃないのは何となくわかったがなんとも憂鬱な提案である。
「え、私なら大丈夫ですよ?」
「だめでしょ。明らか世の中の男子の好きそうな容姿じゃん。襲われても知らないよ……」
ボソボソと伊集院が後押ししてくるので咲良も大丈夫だと言っているが仕方なしに送って行くことにした。
ついでに帰る方向も咲良が降りる駅までは一緒である。三神はその2駅先で降りる。
「じゃあ、私はこれ提出してから帰るから」
「……南先輩は帰り大丈夫ですか?」
「か、かずさ氏は僕が送るから」
1年2人は意外!大丈夫か?と複雑な気持ちになる。
「ふふ。こんなのでも割と頼りになるのよ?」
「かずさ氏ぃ!!」
「はいはいうるさい。大人しく1年生と玄関まで行ってなさい」
「……ういっす」
まるで飼い主と忠犬だなと1年は思う。
南を待つ間、少し伊集院と話をしてみることにした咲良。
「七世先輩ってななせいって書いてななせって読むんですね!」
「そ、そうだよ……。僕嫌いなんだよなこの名前。なんだよ七世って感じ。しかも苗字は伊集院だし。伊集院七世ってなんだよ……」
ビクビクしながら話し始め、最終的にはボソボソ小さな声で早口で愚痴を言い始める伊集院。
「……俺も自分の名前嫌いです。みさととか女かって感じで」
「三神氏もか。お互い苦労しますなぁ」
男子2人が意気投合し始めたが、咲良は2人共かっこいい名前なのになぁとぼんやり思っていた。
そんなこんなをしていると南が玄関にやってきて、靴箱で靴を履き替え、スっと慣れた様子で伊集院の左隣に並ぶ。
「ぼ、僕達はこっち」
「私達はこっちなのでまた!!」
それぞれ挨拶をして別方向へ歩き出す2組の男女。
ふと咲良は後ろを振り返る。
暗いからよく分からなかったが、先輩2人が手を繋いでいるように見えた。
2人はそういう関係なのだろうか。
ワクワクした。
咲良も女子高校生。恋愛話は大好物である。
「……才ノ神さん?」
「あ!ごめん!!行こう行こう!!」
「……わわ、押さないで……」
「(……あれ?)」
三神は常に猫背である。
それが彼の生活習慣によるものか、性格によるものかは分からないが彼の背はずっと前かがみに丸まっていた。
しかしその背が咲良が背中を押したことにより伸び切り、本来の高さを表す。
彼は180センチはあった。
彼を見上げる。
「(……みさとくんって身長高いんだなぁ)」
「……?あの、才ノ神さん?」
背中を押したままの咲良からの視線を感じ振り返る三神。
「うへぇ?!あ、ごっめん!!あ、ねぇ、みさとくんってどんな小説書くの??」
「あー、うーん……」
隣に来たと思えばそんな質問をする咲良に三神は言葉を濁す。
「……つまらないと思うよ。鬱々としてて。才ノ神さんは苦手そうだと思う」
「どうして、そう思うの?」
「え?」
咲良は怒っていた。
どうしてつまらないだの苦手そうだなど決めつけるのか。
「決めた!!私、みさとくんの小説完成したら読者第1号になるから!!」
「うぇ?!!」
「決めたからねー!!はい、電車乗ろー!!」
スイスイ混雑する駅の人の間をぬって改札を通る咲良に遅れて三神もワタワタしながら人にぶつかりながら改札を通る。
「ま、待って才ノ神さん」
「待たなーい!あ、電車来たよ!」
2人がホームに着くとちょうど電車が到着し人の波に飲まれながら電車の中に2人は吸い込まれていく。
奥の扉の方に追いやられた。
ドンッ!電車の揺れで咲良の顔の横に三神の大きな手が置かれる。
いわゆる壁ドン状態で咲良は少し胸がときめく。
「……ご、ごめん」
「え?!いや、大丈夫!!」
三神はこういうのに免疫が無いのか真っ赤になっていた。可愛い。
よく見ればウザったい前髪を切れば整った顔をしているかもしれないし、身長も高い。しかも小説書きである。
私的好条件物件なのでは?と思い始め、少し自分の浅ましさに笑えてくる咲良。
しかし本当に身長が高い。
見上げると首が痛い。
何か言いたげな三神だが彼が何かを言うまでに咲良が降りる駅になり、慌ただしい1日を共にした2人は別れた。
ーつづくー