5th:decisive battle C
しまった!と思うと同時に、俺の体は勝手に動いていた。容赦なく詰め寄る魔王よりも一完歩早く回り込んだ俺は、手刀を振り上げたタイミングで彼女に覆い被さって地面に倒れる。
ざくっと、嫌な音がした。何かが突き刺さったような音。
体中が熱くなり、貫かれたところから血がどくどくと……流れない。
「目が!目がぁーーーっ!」
目の前には仰向けの体勢で顔を真っ赤にしているルカがいて、くっついた体から震えが伝わってくる。どうしよう。魔王でなくても相棒によって天国への扉が開かれそうだ。顔を後ろに向けると、両目に手を当てて苦しそうにしている魔王が俺に乗っかってじたばたしている。
なにこの三人羽織?どうしたこの世、なにがどうなった。
もう一度正面を向いて我が身の脇を覗けば、ショルダーバッグがずぼりと突き破られていて、中からは液体が飛び散っていた。
-預かっといて。ほら、魔王とドンパチやってるときにスランプとかシャレになんないし。
こういう形で窮地を脱する一助になるなんてノストラダムスですら予言できまい。レモンは自称勇者二名を救った。
「いつまで乗っかってんのよ!」
ルカの右足に蹴り飛ばされた魔王はケツをこっちに向けたまま顔をうずめている。その様を確認してにいっと不敵に頬を緩ませたルカは、床に転がっていた杖を握りしめる。
何故だかわからないが猛烈に嫌な予感がする。それはまずい。大変まずいですよルカさん。奴のケツに杖の先を向けて一体何をする気だ。予感は的中し、ルカの右手が魔力の波動に包まれる。
「エアロ」
なけなしの最後の気力を絞ってルカは自身の杖に風の加護を施した。その結果どうなるか?答えはシンプル。杖の先が魔王のケツ目がけて一直線に飛んで突き刺さる。
「おぎょーーー!おぎょーーーっ!」
断末魔とも奇声とも受け取れる叫びを上げた魔王は、ケツを手で押さえたまま何度もホッピングする。あいつのアキレス健はそこだったかと妙な感心すら抱いてしまう。体の一部に弱点を設定しないといけない中でケツを選択したのならある種、合理的ではある。相手がルカでさえなければ。
「見事やお前ら!でもな、俺は眠りにつくだけや。数百年後は絶対許さんからな」