4th:decisive battle B
俺たちが到着するや否や、魔王はぷんすかしながら立ち上がった。
唯一残っていたてっぺんの髪の毛は削がれ、衣服からは水がしたたり落ちている。ルカの水攻めはこいつの胸元にまで及んでいたようだ。そりゃあ怒るわ。
「絶対生かして帰さへんからな!」「覚悟しとけやコラ!」などの罵声を上げる中、俺の横に並んだルカは突然膝に手をついて、我慢しきれずに姿勢を屈める。
「カルー」「どうした?」
「ごめん。私、もう、弾切れ」
「開幕からトリガーハッピーだったからな。薄々思ってた」
床に目を落として申し訳なさそうにするルカの表情は、普段の傍若無人《ぼうじゃくぶじん》な振る舞いからは想像できないほどしおらしい。
だから「任せとけ」と軽く背中を叩いた俺は、ルカの前に立って魔王に剣先を向けた。
「ん?なんや?お前もやるけ?」
「一応、俺も勇者らしいからな」
俺の言葉に、魔王が訝《いぶか》しがる。
「なんで勇者が二人もおるんよ?理《ことわり》もくそもないやないか。ケッタイなことしてくれたな自分」
「……どういうことだ」
「こっちが聞きたいわいど阿呆《あほ》!勇者が勇者を呼ぶとかあり得へんって。ちょっとはこう、魔王的な空気読めや!」
「いまどき魔王とか流行らないんだよ。スポンサーのひとつもつかないからお前んとこも貧乏してんだろ」
「黙れ!分かりやすい悪は常に一定の需要があるんや!それでなくてもコンプライアンスに厳しいこのご時世、部下の扱いとかもいちいち気い遣うとんのに。お前らときたらお構いなしに皆殺しにしよってからに」
立ち構えた魔王の全身から黒波の波動がほとばしる。先程までの緩さを微塵も感じさせないほど殺気に溢《あふ》れ、威圧感はとどまるところを知らない。
「いきなり最終回や!死ね!」
突進の構えを見せた魔王が姿を消して、考える余裕も与えず目の前に現れて手刀を振り下ろしてきた。辛うじて剣で受け止めた俺だったが、押しの強さや腕の硬さがまったくもって尋常じゃない。
「無駄無駄無駄!アキレスの施しを受けたこの体に恐れるものなし!」
魔王の素早い攻勢を間一髪で俺も受け止め続ける。首の皮一枚で防ぐだけはなんとかできるがこれでは反撃の糸口がない。あまりの手数の多さに思わずよろめくと、その間にちらりと左側に目をやった魔王は丸腰のルカを見つけて不敵に笑んだ。