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【モンスターを倒した半獣の子】

【モンスターを倒した半獣の子】







『皆さん!本日は地球戦争終結記念日でーす!』







 昼間に設定された上空に、女性の大きな声が響き渡る。

 惑星中に、今日という祝賀のムードを伝えようとしているのだろう。

 惑星の天候や重力を管理するゼノヴィアシステムを使い、惑星中の生き物に声を届けている。



『地球戦争が終結して、32年。我らが神である地球人が滅び、32年が経ちました』



 ぽん、ぽんと上空に花火があがる。

 空には、炭のような黒い惑星や、真っ赤に染まる惑星が見えていた。



『皆さん!地球のために、祈りましょう!この惑星からは地球は見えませんが、きっと気持ちは届くはずです!』



 記念日を当日にして、街には露店が立ち並び、活気を見せている。





『皆さんに、神組様、テゾーロのご加護がありますように!』





 声が轟く。



 終戦記念日という厳かなイベントだが祭りに活気づく街に、木々が生い茂る中で暮らす人々の住宅地にーー惑星の70%を占めるジャングルの中に。

 女性の声は、地元の者でも滅多に訪れない鬱蒼としたジャングルの中にも響き渡っていた。



「···くそっ!!」



 ジャングルに生い茂る太い幹を避け、木々の枝にぶつかりながら、青年が悪態をつく。青年の耳にも当然女性の声は聞こえていたが、地球人のために祈る暇を持ち合わせてはいなかった。



 青年は逃げていた。彼はーー古い言い方ではあるが、馬のような形をした銀色の乗り物に乗っている。



 小型の乗り物は僅か地面の1メートルほど宙に浮き、馬以上の速度で走行していた。



「なんなんだ···っ!!この生き物はっ!!」



 青年は焦りに息を乱しながら、ぎりりと歯ぎしりをする。

 深緑色のフードを深々と被っている青年だ。周囲に顔を見られないようにしているのか、それとも気休め程度の防御のためかは、わからない。



 ジャングルには、原生生物も数多く生息している。

 例えば、今まさに青年に襲いかかろうとしている生き物は、危険な原生生物だ。

 その生物が土から突き出る時、音はない。

 音もなく音速で土から勢い良く飛び出し、突き出した土が地面に叩きつけられる音がした時には、もう遅い。



「····っ!」



 青年は、息を呑む。



 青年のすぐ後ろから、大きな獣の威嚇する咆哮が轟いた。地面に大量の土が叩きつけられる音ともに、それは現れた。



 鋭い咆哮を轟かせたのは、大蛇だった。



 しかも、地面から5匹も現れた。

 群れで動く習性があるのだろう。地球にいたとされる蛇とは生態が異なり、大きさも全長5メートルはある。地球の蛇とは、全くの別物だ。



「くそ···!しつこい!」



 青年は馬型の移動機器の速度を上げ、大蛇を振り払おうとする。生き物のせいで被った土を振り払い、舌打ちした。

 後ろから現れた大蛇ぐらいは、移動機器の速度では振り払うことができる。



 しかしーー。



「···っ!」



 まさか青年は、前から大蛇の頭が現れるとは思わなかったのだろう。

 前方に、大きな牙からよだれを滴らせ、口を大きく開けている大蛇がいれば、咄嗟に身をかわそうとするのは当然だ。

 青年が移動機器から横に飛び降りると、後ろの大蛇の胴が鞭のようにしなり、青年の体を太い幹に叩きつけた。



「ぐぁっ!!」



 青年は痛みに悲鳴を上げ、地面に体をうずめる。余程の痛みだったのか、青年は体全体を震わせた。

 主を失った移動機器は大蛇の口の中に突っ込んだが、大蛇は獲物ではないことをすぐに判断し、すぐに口から吐き出す。唾液まみれになったが、形の変形や損傷はない。



「くそ···っ!」



 やっと青年が顔を上げ、手をかざした時ーーー彼は、絶句する。



 彼の眼前には、6匹の大蛇がいた。



 とぐろを巻き、群れている大蛇たちは、光に照らされて青々と鱗を輝かせる。

 大蛇は、硬直する青年を前に口を開く。大きな口は、背が高い青年でも丸呑みにできるだろう。



 6匹の大蛇は、我先にと口を大きく開くーーが。



「おーい!」



 大蛇たちの後ろから、少年の声が響いたと同時に、大蛇たちがかな切り声を発する。



「な····」



 フードを被った青年は、身構え、太い幹に背をつけた。

 6匹の大蛇が声を上げると同時に、身悶えているのだ。



「大丈夫かー!?怪我、ないか!?」



 大蛇たちが、順番に地面に倒れていく。音を立て、痛みに顔が歪んでいるよう···に見える。6匹が順々に倒れていくと、声を上げた少年の姿を、やっと青年は見つけることができた。



 6匹の大蛇は、しっぽの先をすべて切断されていた。ほんの僅か、50センチほどだろうか。緑色の血を流しながら、もうピクリとも動かない。



「災難だったな、あんた。観光客?だめだって、こんな所きちゃぁ」



 少年は、ずかずかと青年に近づいてくる。



 灰色の髪をした、15、6歳の少年だった。

 幼さが残るあどけない顔立ちに、まるで小動物を思わせるような丸い黄金の瞳。緑色の軍学校の制服を着ており、学生であることがわかる。

 普通の少年、と彼のことを表現することはできない。2つほど、彼には特筆すべき特徴がある。



 1つは、彼には獣の耳と尾があること。

 ふさふさとした灰色の耳と尻尾は、恐らくは地球で言う犬科の生き物だ。あどけない彼の顔立ちは、その犬耳と尻尾のおかげで余計に愛嬌を高めている。



 もう1つは、剣を持っていること。

 緑色の血を滴らせる剣は、間違いなく彼が巨大な大蛇を倒した証だった。その剣も形が変わっている。剣としての形状はしているが、小さな機械を集結させ、剣として象っているようだ。



 グリップ部分に虹色の宝石が埋め込まれた、まさに機械の剣を見てーー青年は、顔色を変えた。



「···君は」

「オレ?オレは地元民。あ、最近有名になっちゃってさぁ。知ってんだろ?」



 少年は破顔する。にやにやとした顔つきで、青年の前に立つ。







「レイフ・ノルシュトレーム!先週、ムットゥル賞を受賞したガリーナ・ノルシュトレームの弟だよ!」









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