主人公不在の重要な話
(まぁ私がモテてたなんてありもしないことはどうでも良いのよ)
(『この小娘……』)
よせ、みるな、みるんじゃねえ。
(……どうでも良いのよ)
(『仕切り直したですって!?』)
なんて強心臓してやがる……!?
(話進めていいかしら!?)
へーい。(『はーい』)
(全く……。で、効いた話RPGパートではモンスター退治してると、稀に黒い石をドロップしたんだって。それを一定数集めると武器の素材と花乙で使えるコードが表示され、コードの交換で武器の完成品を手にすることが出来る、そういう仕組みだったのよ)
(『花乙では何を手に入れるの?』)
次にやる夜会で手に入るカードだな。
夜会では、二段に分かたステージが設置されてあるんだが、上段は勿論高位貴族の、下段は下位貴族の利用する住み分けがなされてる。上位から下位へ移動は自由だが、下位から上位の移動は上位のエスコートを必要とする。
カードは上位貴族が下位貴族と時間を過ごした時、楽しかった証として渡すものらしい。
(静かに過ごせばやり過ごせるわね……)
(『でもそんなシステムじゃ、カードってほとんど手に入らないんじゃないの?』)
そうでもない。高位貴族が興味を持った相手と友誼を結ぶのは、家に箔が付くことにも繋がる。花乙の主要メンバーなんてもろ上位のしかも別格貴族だからな。いずれかのカードを手に入れるだけで結構手に入るもんだったらしい。
(花乙はカードが手に入りやすかったから、RPGやってる男の子に集られることもあったみたいよ。ある意味リアル合コンよね)
……まぁいいや。(『そうね……』)
(え? 何?? 何なのぉ!?)
飲み込めない喪女の鏡さんは放っといて
(鏡!?)
次の夜会だな。
(『私としては夜会に出ても恥ずかしくないように育て上げる! って先生方の方針は有り難いわね。光魔法もついでに育ちそうだし……。そういえばその交換でもらえるっていうRPGのコードって、花ラプでは何になるの?』)
(んー? 黎明のブローチだったかし)
ガブゥッ!!
(らぃったあああああ!? 何しやがんのこのデブネズミぃ!)
(『このお馬鹿ぁ! それ光魔法を増幅するアクセサリーじゃないのさ!』)
(……あ)
ふむ、そういうやそうなんだが……。仮にそれが分かってどうなるんだ?
(『? どう、とは?』)
当然ゲームが現実になった今、コラボしてる状況があるわきゃねえし、カードを得た所でそれが何になるのかって話だろ。
(そうね。リアルになったこの状態でカードって何になるのかしら……ってぇ、私囓られ損じゃないの!?)
(『あ、ごめんごめんー。つい感情の赴くままにやっちゃったー。てっへぺろー』)
(毟ってやる!)
コンコン
「ただいまー……っすぅ!?」
この日同室の先輩は、何度目かになる、ぶさ猫VSデブねずみの醜い争いを目撃することとなる。
(覚えとけ!)(『覚えとけ!』)
あ、なっかいーい。
(っさい!)(『っさい!』)
………
……
…
「フローラ嬢の出来はどうであるか?」
「芳しくはありませんね……。ただ、勉強が嫌いというわけではないようです。一度覚えたことは応用も効くようですし、算術、錬金術はむしろ得意というところでしょう」
「教養は……微妙ね。マナーは割と飲み込み早いのだけど、芸事は壊滅的。特にダンスは酷いわね。パートナーをつけて踊らせる時には、鉄の靴を履かせることを考えなきゃ」
「魔法は……出来はともかく、とても楽しげに学んでいるのである。故に、伸びるのも早いだろうと期待してるのであるが……」
「やはり光魔法が問題ですか」
「恐らくは」
「そちらを伸ばさないと他も伸びないのでしょうねぇ。ほんと困った娘……」
先生会の話題は目下フローラさん独占状態。そもそも学院で勉強を頑張る必要は、本来ならあまりない。学院に登るまでに家で家庭教師なりをつけるのが一般的だからだ。フローラがやっていなかったか、といえば勿論やっていた。何時でも教えを請える彼女の母は優秀だったし、親戚筋の家庭教師をしてた従兄姉にも優秀な者も居た。惜しむらくは転生前のフローレンシア嬢本人の頃の話であって、美作可憐が成り代わってからではなかった。記憶や経験は体が覚えているので、ある程度引き出すことは可能だが、そうそう上手く引き出せるものではないため、予習を適当にやった学生そのものである。
「何と言うか彼女はその……」
「チグハグなのよねぇ」
「そう! それです!」
「言い得て妙、であるな」
コンコン
「失礼します。お三方とも、宜しいか?」
「……何であるか? マリオ男爵」
3人を訪ねたのは学院には珍しい、当代当主男爵である。普通の生徒は基本的に貴族の令嬢令息であって、爵位持ちではない。
「私の飼い主から伝言があります」
「続けよ」
「『フローラ嬢の光魔法を伸ばすため、いくつか必要なものがあるのでお手伝い願いたい』とのことです。良ければこの場で返答を頂けますか?」
「随分と急ねえ?」
「『夜会までに必要』としか伺っておりませんゆえ」
「良かろう。私が手伝えば済むのであるか?」
「クライン様なら申し分なく」
「何をするかは存じませんが私もお手伝いいたしますよ」
「ジュール卿のお力添えがあれば心強いです」
「あら、この流れで手伝わないとは言えないわよ?」
「皆様方のご助力、感謝致します」
マリオは慇懃な態度で部屋を辞すると、ふっと気配を消した。
「アレも随分な者を飼っているのである」
「公爵家の嗜み、でしょうか?」
「そんな物騒なものではないのである」
「確かにあの子は変わってるわね。まるでシンシアの様……」
不意に挙げられた名前に引きつる男性陣。
「私はアレが従兄弟の世話をしているのを見ると、こう、なんというか……心臓がきゅっとなるのである」
「クライン様、私はあの子が近くに居るとおもうだけで、血の気が引く思いです」
シンシアに関しては、いくつか部外秘となってる事項がある。
1.バルカノン公爵家の剣である。
2.時と場合によっては公爵家の闇をも担う。
彼女が拾われたことは広く知られているが、その戦闘力については部外秘であった。
以前、鬼将軍と呼ばれたフローラの祖父の不在を狙って隣国が侵攻して来た時、フローラの父が奮闘して撤退させた。これは公式発表の通り事実である。
そして非公式の事実として、シンシアを含む一部の武闘派が、侵攻してきた領主を誅殺せしめた件がある。これが異常に過ぎた。
見つかった遺体は……ことごとく首と手足が切り離されていた。そして切り離された首にこびりついた表情から、一人一人処分されていったことが伺えた。この凶行が公爵家の剣、ただ一人の手によってなされたというのは、一部のものしか知らない。
彼女に与えられた役割についての完遂率は……100%。
「おおげさよ。あの子は至って普通の剣なんだから」
「普通の剣は、わざわざ酷い殺し方をしない」
「あのまま攻め込まれていたらどうなってたか分かるかしら?」
「あのまま、と言いますと? ……ああ、そういうことですか」
「バルカノン公爵家縁の貴族家の領地……。それだけのためにあの凶行、であるか」
「惜しいわね。正解はエリオット君がそこに逗留してたからよ」
「「 !! 」」
「怒ったでしょうねぇ彼女。激怒したんじゃないかしら?」
「『坊っちゃまの楽しい休暇に、血生臭い臭いを漂わせた。万死に値する』等と言ってそうである」
「侯爵家の馬鹿息子がエリオット殿にちょっかいかけた時は、それはもう血の気が失せましたなぁ。呼ばれて現場に赴いた時点で手遅れだと思ってましたが……」
「ちょうど通りかかった私と先生が止めたのよねぇ」
「よく止められましたな」
「私はともかく先生……オランジェ女史は彼女の戦闘訓練を担当してましたから。見事なものでしたよ? 制圧は一瞬で終わりました」
「「………………」」
男二人はこう思った。((絶対オランジェ女史に歯向かわないと誓おう))と。