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スイーツに国境はない その1

 無事バレンタインデー企画を成功させたコンビニおもてなしです。

 コンビニおもてなしでは、バレンタインデー以降、店の新商品としてチョコレートを加えました。
 バレンタインデーで販売したような、チ○ルチョコレートの詰め合わせのようなものではなく、いわゆる板チョコ状の物を袋にいれて販売しています。
 注意書きで、体温程度で溶けること等を、商品を包装している袋に印字しています。
 いわゆるヤルメキススイーツの新商品として販売を開始したこともあり、売れ行きは好調です。
 何しろ、すでにヤルメキススイーツは、コンビニおもてなしの中でも人気ブランドに成長していますからね。
 そのブランドの一番熱心なファンのオルモーリのおばちゃまは、今ではヤルメキスの義理のお婆さんなわけです。
「ヤルちゃま~、おばちゃまね、今日もヤルちゃまのスウィーツを買いにきたのよ~」
 オルモーリのおばちゃまは、毎日のように午後3時前にヤルメキスのスイーツを購入しに来店してくださっています。
 そのオルモーリのおばちゃまのお茶のみ友達でもある、現在ヤルメキスのスイーツ作成とクローコさんの化粧品作成を手伝ってくれているキョルンさんとミュカンさんの2人も、
「あら、オルモーリのおばさま、今日もごきげんようですわね、ミュカンさん」
「えぇ、キョルンお姉様、私もそう思いますわ」
 いつもの妖艶な笑顔を浮かべながら、オルモーリのおばちゃまと一緒に店内で販売しているヤルメキス製スイーツを購入して、オルモーリのおばちゃまの家に一緒に向かって行くのが常です。
 で、オルモーリのおばちゃまの家でのお茶会が済んだら、店に戻って来てクローコさんと化粧品作成をやるわけです、はい。
 ちなみに、オルモーリのおばちゃまの家は、イコール、ヤルメキスの家でもあるんですけどね。
「し、し、し、週末はいつもホームパーティーがありますので、わ、わ、わ、私、不肖の身でございますけれども、スイーツとお茶の準備をさせていただいているのでおじゃりまする」
 今日もスイーツを買って帰っていったオルモーリのおばちゃまを笑顔で見送りながら、ヤルメキスは嬉しそうに僕に教えてくれました。

 そういえば、そんなヤルメキスのスイーツを買いにくるお客さんの中に最近ちょっと気になる人がいるんですよね。
「……気になる女? ですって?」
「あぁ、いや、スア。そういう意味じゃないから。そもそも女とか言ってないし」
 いきなり背後に転移してきて、僕の顔を背後から覗きこんできたスアを、この短時間でありえないほどの過剰スキンシップを行って機嫌を直させた上で、改めまして仕切り直し。

 その人は、いつも外套で体中を覆っています。
 まぁ、それを禁止はしていませんのであれなんですけど……店に入るなりスイーツ売り場に直行すると、スイーツを買い物カゴに入れ、そしてすぐにレジを済ませてそのまま帰って行きます。
 その格好もですが、購入していく量が半端じゃないんですよ。
 何しろ、その時点でスイーツコーナーに並んでいる商品を全部買っていくんです。
 だいたい2日に一回、昼過ぎにやってきます。
 ヤルメキスは、そのためこの人物が店に来ると予想される日には、このお客が店頭のスイーツを全部買って帰っても、3時前にやってくるオルモーリのおばちゃまがスイーツを買えるように、商品を作り置きするようにしているんです。
 この人、魔法袋を所持しているらしくて、購入数がすごく多くなっても特に問題無さそうではあります。

 ちなみにこの人、バレンタインデーの際にも来ていたのですが、男装の麗人に扮しているブリリアンには目もくれず、大量に予約していたバレンタインチョコレートを購入すると、そそくさと帰って行ったんですよね。

「あの人、なんなんだろうね……」
「そ、そ、そ、そうでおじゃりまするね……」
 僕とヤルメキスが顔を見舞わせながら首をかしげていると、そんな僕達の前にスアが歩み寄って来ました。
 スアは、僕の前で指を立てると、
「……旦那様も知ってる人、よ」
 そう言いました。
「え? そうなの」
「……うん」
 スアはそう言って頷きますが……はて、誰だ?
 外套のシルエットからして、おそらく女性だとは思うのですが……不思議なのがですね、この人って、外套の中をのぞき込んでも中がまったく見えないんですよ。
 外套の頭部部分がすごく深いわけではなく、単純にその中が真っ暗というか……
「……隠蔽魔法、使ってるから、ね」
 スアはそう言いながら右手を僕の前にかざしました。
 すると、そこに一人の人物の姿が投影されていきます。
 なんですかね……スター○ォーズの冒頭で姫の姿が投影された、あの感じといいますか……
 で、そこにはすごく特徴的なシルエットの人物の姿が投影されていました。

 ボロボロの外套
 大きな鎌
 半身が幼女
 半身が骸骨
 そして全裸

「……世界統治官とかいう下っ端役人の、マルン」
 スアに言われて、僕も「ああ!」って口を開けながらポンと手をうちました。
 言われてみれば、あの外套、結構ボロボロでしたね。
 ただ、以前僕達の前に姿を現した時のように姿を露わにしないようにしているためか、外套を体にしっかりと巻き付けていたもんですから、ボロボロ具合がすぐわからなかったんです。
「しかし……そのマルンがなんでまた、わざわざコンビニおもてなしまでやって来て、スイーツを買い込んでるんだ?」

 何しろ、マルンは神界とかいう、僕達が生活しているこのパルマとかいう世界よりも上位の世界……神様みたいな人達が住んでいる世界の住人だったはずです。

 で、僕の疑問に対し、スアも小首をかしげています。
「……なんか、研究? ……調査?」
 スアによると、神界では、下界に珍しい物が出現するとそれをに入手し、調べることがあるんだとか。
 それを聞いたヤルメキス、
「ひょ、ひょええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
 と、悲鳴をあげながら後方高速でんぐり返りをしていったかと思うと、
「い、い、い、命ばかりはお助けを~……こ、こ、こ、このヤルメキス、まだ新婚でごじゃりますゆえに、せめて子供を産んで育ててオルモーリのお婆さまのような素敵な老婆になってから天に召されたいのでごじゃりまするぅううううううう」
 ビタッと土下座し、そうまくし立てていきました。
「っていくかヤルメキス。そもそも僕達に言うことじゃないし、それになんか問題あることだったらもっと早くにマルンもやってきてたはずだし、もう何か言ってきているはずだよ」
 僕は、笑顔でヤルメキスに話しかけながら落ちつかせていきました。
 で、その甲斐もあって、ヤルメキスもようやく落ちついたのですが、
「……こ、こ、こ、今夜はパラランサくんにいつもより頑張っていただきますでごじゃりまする……」
 なんか、頬を赤くしながらそんなことを口走っていたヤルメキスです、はい。

「まぁでもあれだね。正体がわかっているのなら今度店に着たときにそれとなく事情を聞いてみるか」
 僕がそう言うと、スアが僕の顔を覗き込んできました。
「……待たなくてもいい、よ」
「え?」
「……ちょっと待って、ね」
 そう言うと、スアは腰の魔法袋から杖を取り出しました。
 水晶樹っていう特殊な樹の枝を加工してある杖です。なんかウネウネと枝が絡み合った本体の上部から水晶がニョキッと頭を出している形状をしている杖なのですが、その先端の水晶の中には、以前マルンから商品代金としてもらった宝珠が埋め込まれているはずです。
 スアは、それを少し持ち上げました。
 すると、杖の水晶部分が輝きはじめ、同時にボクとスアの前に巨大な魔法陣が展開していきます。
 それは、いつもスアが手で出現させる魔法陣の何倍も分厚い感じです。
 しばらく回転していた魔法陣なのですが、ほどなくしてその動作が停止し、その真ん中に妙に荘厳な構えをしている扉が出現しました。
 で、その戸に歩みよったスアが、それを開けると……そこにマルンの姿がありました。
 
 大量のスイーツに囲まれて、嬉しそうにそれを頬張っているマルンの姿が……

 で、ケーキを口に運びかけたマルンは、僕達に気がついたらしく、その場で固まりました。
「え?……な、なんで?」

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