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愛、それは……バレンタイン~ その6

 本店の営業を終え、厨房に向かった僕なんですが……
 厨房で、ヤルメキスの指導を受けながらチョコレートケーキを作っていたパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの4人の子供達はですね、全員一斉に僕に笑顔を向けて来ました。
「パパ、はっぴぃばれんたいんです!」
「ぱぁぱ!」
「あ~」
「にゃしぃ! にししぃ」
 4人は、厨房の机の上に置かれているチョコレートケーキを手で指し示しています。
「ほぉ……こりゃ良い出来じゃないか」
 僕は思わず感嘆の声をあげました。
 僕が元いた世界にありますケーキ屋の商品や、ヤルメキスが作成するケーキに比べれば見劣りしていますが……最高です!
 えぇ、間違いなく最高です!
 僕的世界最高のチョコレートケーキが、今ここに存在しているわけです。
 タクラリョウイチ、三十数年生きてきて、今、ここに至高の逸品を手に入れた気がしています。
「みんな! 本当にありがとう!」
 僕は、4人を一斉に抱きしめていきました。
 すると四人もですね
「パパ、喜んでもらえて嬉しいです!」
「ぱぁぱしゅき!」
「あ~」
「にししぃ!」
 と、みんな嬉しそうに笑ってくれました。

 で、本当ならこのまますぐ出来たてのチョコレートケーキを味わいたいところなのですが……ちょっと今は時間がありません。
 そうです、テトテ集落のお年寄りの皆さんと約束したとおり、パラナミオ達が作ったチョコレートケーキを持って行ってあげないといけないわけです。
 ちなみに、僕用のチョコレートケーキ以外には、合計5つの完成品と、11個の失敗作がありました。
「いいや、とりあえず全部持っていこう!」
 僕は、そう言うとチョコレートケーキを魔法袋に詰めて転移ドアをくぐっていきました。
 今日は、時間がないため転移ドアでテトテ集落へ向かう事は、事前に長のネンドロさんとおもてなし商会テトテ集落店のリンボアさんには伝えてあります。
 なので、僕達が転移ドアから現れると、早速リンボアさんが僕達を出迎えてくれました。
 で、おもてなし商会テトテ集落店の玄関を出るとですね……一斉に周囲から紙吹雪が舞いました。
「パラナミオちゃんいらっしゃい!」
「リョータくん、アルトちゃん、ムツキちゃんもいらっしゃい」
 おもてなし商会テトテ集落店の前には、テトテ集落中の人々が集まっていました、口々に僕達を歓迎してくれています。
 おかしいな……僕もいるんだけど、僕の名前は全然聞こえ無いな……
 店の前には簡易式の櫓が組まれていまして、そこにいつもは集落の入り口にある物見櫓に掲げられている「歓迎」の垂れ幕までかけられています。
 ……ちなみに、相変わらず僕の名前の部分だけは地面の上に横たわっていました……いいんですよ、別に……どうせそんなことだろうと思ってましたから……あれ、おかしいな、目から汗が……

 さて、そんなわけで、チョコレートケーキなわけです。
 このチョコレートケーキは、あくまでも
「いつもお世話になっているテトテ集落の皆さんへ、僕の子供達からのプレゼント」
 として食べて頂くわけです。
 パラナミオ達が、フォークでチョコレートケーキをひとかけら突き刺し、それを「あ~ん」して食べていただきます。
 事前に、全員に行き渡らない可能性があることは周知してあったため、パラナミオの前に列を作っている皆様は、厳正なるくじ引きによって決められた順番に並んでいます。
 なお、長であるネンドロさんは、後ろから数えた方が早い位置に、どこか呆然としながら立っています。
 そんな中、チョコレートケーキ食事会が始まりました。
 メインはパラナミオですが、希望されればリョータやアルトから、あ~んしてもらえるのですが、ほぼ全員の皆さんがパラナミオの前に並んでいます。
 あ、ちなみにムツキはですね、テトテ集落に到着した途端に魔力が切れたらしく、赤ちゃんに戻って僕の背中で寝息をたてています。
 で、パラナミオにですね
「はい、あ~んです」
 そう言ってチョコレートケーキの欠片を差し出されたお年寄りの皆様は、みんな嬉しそうにそれを口に含んでは
「じゃあ、お礼にチョコを買うね~」
 そう言って、予約してくださっていたチョコレートを受け取っていきます。
 当然、
「はいどおぞ!」
 と、パラナミオ・リョータ・アルトの三人で手渡ししています。
 で、チョコレートケーキですけど、こうして欠片にして食べてもらっていくわけですので、失敗作でも使用することが出来ました。
 そのおかげで、どうにかギリギリ全ての皆様にチョコレートケーキを食べて貰う事が出来た次第です。
 ネンドロさんは
「まさか回ってくるとは……」
 って、涙を流しながら感動していた次第です。
 こうして、パラナミオ・リョータ・アルト・ムツキの頑張りのおかげで、テトテ集落の皆さんを笑顔にすることが出来ました。

 片付けを終え、テトテ集落の皆さんに盛大に見送られながらコンビニおもてなし本店に戻った僕は、厨房に移動していきました。
「じゃ、みんなが作ってくれたチョコレートケーキを頂くね」
 僕がそう言うと、
「あ、パパ、ちょっと待ってください!」
 パラナミオが慌てて僕を止めました。
 そして、パラナミオはおもむろにフォークを手に取ると、チョコレートケーキをひとかけら突き刺し、
「はい、パパ! あ~んです!」
 笑顔でそう言いながら、ケーキを差し出してくれました。
「ありがとうパラナミオ。じゃ、あ~ん」
 僕はそう言いながらパラナミオの差し出したケーキを口に入れました。

 うん、うまいです。

 いえ、これはお世辞抜きに美味しいです。
 ヤルメキスの指導のおかげもあるのでしょうけど、やはりこれは4人が僕のために頑張ってくれた成果だと思います。
 僕が感動しながらモグモグ食べていると、今度はリョータがフォークを手に取り、チョコレートケーキの欠片を突き刺して僕に差し出しました。
『パパ、あ~んです!』
 思念波でそう伝えてくるリョータ。
 僕は、笑顔でそれを口に入れました。
 うん、やはり美味しいです。
 すると、今度はアルトがすごい勢いで宙を舞い、フォークをチョコレートケーキに突き刺していきました。
「お父様、今度はムツキのケーキをあ~んでございますわ」
 そう思念波で伝えてきたアルトは、2人よりもかなり大きなチョコレートケーキの欠片を差し出してきました。
 僕は、それを意地で、一口で口の中におさめていきました
「ふん……ほひひい……」 (うん、おいしい)
 口の中をチョコレートケーキで一杯にしながら、僕はアルトにニッコリ微笑みました。
 ムツキは残念ながら眠ったままですので、ムツキがあ~ん出来るだけのチョコレートケーキの欠片を残しておくことにしました・
 そんなわけで、僕はしばらく子供達みんなにあ~んを繰り返してもらっていきました。

 うん、至福の時間だったわけです、はい。

◇◇

 さて、その夜です。
 子供達が寝静まると、スアが思念波で
『……研究室に、来て』
 そう伝えてきました。
 今日のスアってば、ちょっとおかしいんですよね。
 ブリリアンの一件が片付いて以降、ずっと研究室に籠もっているんです。
「スア、来たよ……」
 僕がそう言いながら部屋に入ると……そこにスアがいまいした。

 素っ裸で……体中をチョコレートでコーティングしているスアが。

 足先までガッチリコーティングされているため、スアは自分の体を魔法で少し浮かせていました。
 さらに、どういう仕組みなのかわかりませんがスアの体を覆っているチョコは伸縮自在らしく、スアは体中をチョコレートで覆った状態のまま普通に僕に抱きついて来ました
「……旦那様、私からのバレンタインデーのチョコは、私、よ」
 僕に抱きついたままそう言うスア。
 多分、頬を赤くしているであろうスアですが、今は顔も完全にチョコに覆われているのでその顔色まではわかりません。

 とにもかくにも、スアはこの準備のためにこの研究室に籠もっていたわけですね。
 
 え? それでチョコレートコーティングされたスアをどうしたのかって?
 そりゃもちろん、僕が美味しく頂きましたよ。
 チョコレートも、中身も。

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