さて、家出をしよう
父さんと母さんは近所の居酒屋に行っている。土曜日の夜は毎週行っているのだ。仲の良いことで。
23時頃に両親が帰ってきた。
「日ノ本グループの相談役が亡くなったらしいね」
「四郎、よく知ってるな」
「ニュースを見た」
「お前がニュースを……だからか」
「何が?」
「だから、日ノ本相談役が死去したんだな」
「いや、関係ないだろ」
「いやいや、四郎がニュースを見るなんて、天変地異より珍しいからな。なあ、ママ」
「そうよね、パパ」
「そうよねって、母さんまで」
50歳を過ぎてパパママは止めてほしいもんだ。
「葬式とか行くの?」
「いや、いくら日ノ本グループ社員でも、父さんは部長だし、お呼びじゃない」
「母さんもよ」
「まあ、政財界のトップとかだけでもすごい参列者だろうね」
「そうだな」
まあ、日ノ本相談役の葬式とか、俺には関係ないか。それよりも家出だ。
もうすぐ日付は変わって俺は成人する。
ネットカフェとかいう所で朝まで1500円くらいで仮眠できるとか。とりあえずはネットカフェに行こう。
身分証明はマイナンバーカードを持ってるし。顔写真付きだから、これで大丈夫なはず。
たくさんの荷物を持っていくと親に怪しまれるから、ちょっとコンビニに行くふりをしておくか。
「ちょっとね、明日からアルバイトするコンビニを見てくるよ」
「お、父さんも一緒に行くかな」
「いや、いいよ。父さんは酔ってるし」
「そうよ、パパ」
「あ、そうだな」
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」
「早く帰ってこいよ」
「まあ、うん」
2年後には帰ってくるし。
通帳やカード類だけ持って、俺は家出した。