日向と鷹弥の作戦
BBQから3ヶ月が経っていた。
圭輔と茜は地元へ戻り
カケルは『覚悟』と言った通りに早々にアキと入籍を済ませすでに夫婦としてカケルの家で生活を始め、日向と鷹弥は2週間後に結婚式を控えていた。
今日はアキが日向の家に“打ち合わせ”という名目で遊びに来ている。
アキの左手薬指には結婚指輪が光っていた。
「アキちゃんはカケルちゃんと結婚式、しないの？？」
日向がアキに聞くと
「うーん…うちらはそういうのいいかなってカケルとは話してるんだ。」
アキはいつからか『カケル』と呼ぶようになっていた。
「何で？」
日向が聞くと、
「結婚式ってさ、やっぱりなんか…家族同士の繋がりの再確認って感じでしょ？うちは親早くに亡くしてるし、カケルは家族関係希薄だからな…」
そういえば前に鷹弥が親の反対押し切って家を出たと言っていたことを日向は思い出す。
「やっぱりドレスには憧れるけどね」
そう言ってアキは笑った。
「でもさー、私は王子が意外だったよ。てっきりさっさと入籍したりするのかと思ったら結婚式の事とかきっちり順序だてて…意外と行動力あるよね！」
「私もそこは驚いた」
アキの言葉に日向が答えた。
鷹弥は一緒に住む事が決まった時も親にまず挨拶に来てくれたり、結婚式の日取りや計画についても積極的にしてくれる。
「ひな見てたらわかるけどねー」
と言うので、日向は不思議そうにアキを見ると
「ひなはご両親から大事に育てられたんだなーって見てたらわかるもん。」
とアキが言った。
「ひなが大事にされてきたから、王子もちゃんと大事にしたいんだよ。ひなもご両親が大事でしょ？ひなが大事にしてる事も王子はちゃんとわかってるんだね。」
アキが言う言葉は本当に日向の心を暖かくする。
「私…幸せだな」
日向がボソッと言うと、
「もーノロケないでよー」
とアキが笑った。
でも日向は鷹弥の事だけでなく、アキやカケルがいてくれる事に対しても幸せを感じ、心から思わず漏れた言葉だった。
でも日向はそれをアキには上手く伝えられなかった。
「ただいま」
鷹弥が帰ってきてドアを開けた。
「おかえりなさい」
と日向が言葉を返すと同時に
「王子、おかえりー！お邪魔してました。さてと。旦那様も帰ったし私もそろそろお暇するね！」
そう言ってアキは慌ただしく帰って行った。
「アキちゃん、二次会の打ち合わせ？」
荷物を部屋に置いて鷹弥がリビングに来た。
「んー…そう言いながら話してただけかな」
日向はご飯をテーブルに並べながら答える。
「どうせカケル仕事なんだからゆっくりしてったらいいのに」
なかなか他人を受け入れない鷹弥も今ではすっかりアキを信頼している。
「それにしてもカケルの行動力には本当驚くよ。アイツらはもう夫婦なんだもんな。」
と言って
「でも式とか…パーティとかもしてないからなんか見てても実感ないな」
と鷹弥も少し気にしてるようだ。
「今日アキちゃんにも聞いてみたんだけど、結婚式はしないってカケルちゃんと話してるんだって」
というと鷹弥も
「そうかー…」
と言葉少なに返事した。
ご飯を終えてソファでビールを飲む二人。
「俺らもあと2週間か」
と鷹弥が結婚式の話をする。
「緊張する？」
日向が聞くと
「そりゃ少し。苦手分野だから」
と鷹弥が笑う。
「でも日向のドレス姿は俺が見たいんだからやるしかない。」
こういう鷹弥の真っ直ぐな言葉はいつまでも日向の心をときめかせる。
二人は極身近のな人達と式を挙げて、親族で会食する小さな結婚式を計画していた。それは派手な事が苦手な二人らしい計画だった。
「でもなー…」
と鷹弥が日向にくっついて少し甘えるように言う。
「二次会ってしなきゃダメ？」
鷹弥の言葉に日向も少し笑いながら
「だよね」
と同意するように答える。
本来、二人の中で二次会は全く考えてなかったところ、カケルが当然のように
「二次会はうちでするだろ？」
といい、それにアキが乗り気になって
「私幹事やるー！」
と言い出したことからトントン拍子に決まってしまったのだ。
「あのメンバーの注目の的になるんだろ…俺…考えただけでも拷問…」
鷹弥が本気で嫌そうな顔をするから日向は笑ってしまう。
「日向がやりたいなら別だけど」
と言う鷹弥の言葉に日向は少し考えて
「んー…私も正直、苦手かな…というか想像できないよね。私と鷹弥が中心となってみんながお祝いしてくれるとか…」
「だよなー…でもあの二人の行動力に押されるというか…嫌とは言えない雰囲気」
鷹弥も苦笑いで諦め顔だ。
「アキちゃんとカケルちゃんもまだみんなにお祝いしてもらってないのにね」
日向はそこが気になっていた。
「俺らは個人的にお祝い渡したけどそれだけだもんな。でもカケルが自分から自分の事でみんなを動かすとは思えないしなー…」
と鷹弥が言うと
「アキちゃん…ドレスには憧れるって言ってた…」
日向が言って、二人でハッと顔を見合わせた。
「鷹弥…私凄いこと思いついちゃった…」
と日向が言うと
「日向が何考えてるかわかる」
鷹弥もニヤっと笑う。
「でも私達にできるかな」
日向は少し不安げに言うと鷹弥は
「俺らの二次会だろ。みんなはアイツらが集めてくれて、段取りも組んでくれる。俺らは立ち位置が代わるだけだ。」
鷹弥はもうヤル気満々だ。
「アイツを出し抜けるなんて最初で最後かも！」
悪戯を見つけた子供のような顔で鷹弥は笑う。
「それなら急いで準備しなくちゃ！バレないかなぁ」
と日向が言うと
「大丈夫。絶対成功させよう。楽しみになってきた！」
と鷹弥が言う。
「鷹弥が楽しみにするとバレるんじゃない？」
日向は呆れたように笑った。
