新たな門出のBBQ
翌日BBQの日の朝。
マンションの下までカケルが車で日向と鷹弥を迎えに来た。
「おっはよー!行くよ~」
助手席にはアキが乗っている。
日向と鷹弥は後ろの席に乗り込み出発する。
「お天気で良かったよね」
アキはいつものようにテンションが高い。
「そうだね!」
日向もアキとカケルの姿を見て、昨日の余韻で楽しさが増す。
と不意に横で鷹弥が眠そうにあくびをした。それにつられて日向もあくびをする。
すかさずカケルがミラーでその姿を見て
「なんだよ~。引越し初夜はそんなに良かったの?」
とニヤニヤする。
カケルは昨日はまだなかった日向の薬指の指輪に気付いていた。
「はー?」
と鷹弥は焦って日向は顔を赤くする。
「お前らだって今まで一緒にいたのバレバレだかんな!」
鷹弥が言うとカケルが笑ってアキは助手席で真っ赤になり大人しくなった。
「てか何で俺運転手なの?飲めないじゃん。帰り鷹弥が運転しろよ。」
とカケルがふてくされて言うと
「ヤダよ。俺飲む以外何すんだよ。」
と逆にふてくされて言うからみんなで笑った。
少し街から離れた海の近くのBBQ会場にはみんな各々で集まった。20人はいるだろうか。brushupでのメンバーに加え、圭輔の美容師仲間も多数来ていた。
いつもその場を取りきしるアパレルメンバーが今日も盛大にBBQ開始を告げる。
それぞれが肉を焼いたり、お酒を飲んだり…自由に楽しむ中で日向は圭輔が楽しそうに笑ってる横で茜も笑っている姿を見つけた。
「茜ちゃん、元気そうだね」
横にいたアキがそっと日向に声をかけた。
「うん。」
日向も安心したように笑った。
「それにしても…」
とアキは耐えきれないように笑い出し
「王子!いつまでそんな顔してんのー」
と鷹弥に絡む。
鷹弥は少し落ち着かない感じで、いつもの無表情とはちょっと違う難しい顔をしていた。
カケルはしょうがないな、という顔で鷹弥を見ている。
「人…多いだろ!」
鷹弥がげんなりした顔で答えてすぐ
「おぉー!王子がホントに来てる!」
といつものメンバーが絡みにやって来る。
(やっぱり。)
と日向は思いながらその姿を笑ってみている。
あっという間にカケルと鷹弥はいつものメンバーに囲まれていた。
その中に圭輔もいて、連られて一緒に来た茜が少し遠巻きに見ていた日向の近くにそっと来て声をかけた。
「ひなちゃん。」
茜の顔は穏やかだった。
「茜さん…」
日向も茜の呼びかけに答えると、アキがそっと目配せをしてその場から離れた。
「ひなちゃん、今日…会えて良かった」
日向には茜が言葉を選んでいるのがよくわかる。
「あのね…本当は私、ひなちゃんには謝りたいと思ってたの。でも…謝ったり謝られたり…それって違うのかなって…」
と茜が言った。
「私も…今日茜さんとこうして会えて良かったと思ってます。」
日向は茜がどんな思いで声を掛けてくれたか…それがよくわかっていた。
「こんな事…言うのもおかしいと思うんだけど…」
と茜は続ける。
「感謝…してるの。あのままだったら私達、何年もお互いの事を見て見ぬふりしてただただ離れられなかっただけだと思う。お互い自分でいっぱいいっぱいのまま側に居続けたと思うの。でも今は私も圭ちゃんも、ちゃんとお互いを見て未来を見れるようになった。あの事がなかったらきっと無理だった。」
茜が選びながらもしっかりと伝えるその言葉に、日向はいつか圭輔が言っていた言葉を思い出した。
『おっとりしてるけどどっか強いヤツ』
圭輔は茜の事をそう言っていた。
茜は言い終わると日向の左手の薬指の指輪を見てハッと日向の手を取った。
「ひなちゃん!コレ…!!」
日向は茜に笑顔で返すと
「私もお祝いしていい?
ひなちゃん…おめでとう♡」
と初めて会った時のような屈託のない笑顔を見せた。
「ありがとうございます。」
日向も茜の思いに答えた。
日向と茜が和んだ様子でいると、アキが少し慌てて戻ってきた。
「ちょっ…ひなー!アレ…っっっ」
アキがこっそり指差す方を見ると
カケルと鷹弥、圭輔の3人が談笑しながらいる光景だった。
イケメン3人のその姿は破壊力半端なく、少し遠巻きに女子がザワついていた。
「なんなの、あの3人…女子の視線全部持ってってるよ!!ちょっとひなも茜ちゃんも、いーの?!」
と焦ったように言うアキに茜は少し不思議そうな顔をしたので日向はこっそり茜にカケルとアキの事を耳打ちして、“内緒”という仕草をした。
茜は、なるほど!という顔をして
「さすが圭ちゃん、カッコイイもんな~♡」
というと日向も
「鷹弥も負けてません」
と言う。
「ちょっと!2人共何なの、その余裕!カケルちゃんだって…」
と言いかけてアキは顔を真っ赤にした。
「え?カケルちゃんが…なーにー?」
と茜はわかっててアキに突っ込む。
日向と茜は顔を見合わせて笑った。
「でもカケルくんて、バイなんだよね?アキちゃん、男の子も女の子もライバルになっちゃうなんて大変だよね」
と茜が言うとアキは
「う…ん…」
と赤くなりながらキレの悪い返事をした。
しばらく3人で話して、茜は圭輔の元へ戻って行った。駆け寄る茜に圭輔は優しく笑いかける。日向ももうその姿を見ても傷つかない。
「さっきの話さー…」
アキがボソッと話し出す。
「カケルちゃんがバイって話。アレ、嘘なんだって。」
アキが言った。
「誰にも言うなって言われたけど、どーせ王子は知ってるんだろうし、ひなならいいよね。てか、もう知ってた?!」
というアキに、慌てて首を横に振った。
(というか…鷹弥も知らないんだけど)
と日向は思ったが、鷹弥が予想してた通りなのかな?と頭で考えていた。
「やっぱさーライバルは把握しとかないと!と思って昨日聞いたらさ、『あ、アレ嘘だから。俺女の子大好き。』ってニコッって平然と言うの!面倒だから誰にも言うなよって。なんでそんな嘘ついてんの?ってきいてもはぐらかされるしさ」
とアキはふてくされて言う。
(そりゃ…モテ過ぎる人生に嫌気がさしたなんてアキちゃんには言えないよな…逆に心配しちゃうよ)
日向は心の中で思った。
「私、一生アイツの事攻略できる気がしない。」
真剣な顔で言うアキちゃんが可愛くて日向は声を出して笑った。
「笑い事じゃないよー」
とアキはむくれた。
「楽しそうだなー」
とカケルが鷹弥を連れてアキと日向の元へ来た。
「ひな、そろそろ鷹弥の相手してやって」
意地悪く言うカケルに
「俺は子供か!」
と鷹弥が怒る。
「話…してたな」
鷹弥は優しい顔で日向に声をかけて茜の方を見た。
「うん。会えてよかった」
カケルもアキもその様子を見てホッとしていた。
「で、今二人は何の話してたのー?」
カケルがアキの顔を覗き込む。
わかっててやってる顔だ。
「アキちゃんがカケルちゃんの事大好きって話」
日向が言うとアキが真っ赤になって慌てふためく
「ちょっとひな!何言っ…」
「あれ?違うの?」
カケルもアキをいじめる。
「こういう時の日向はドSだから。カケルとそろうと無敵。」
鷹弥がアキに観念した方がいいよ、と言うと日向は鷹弥の耳元で
「私は鷹弥が大好き」
と言って耳元から離れて
「って話してたけど」
と言うと今度は鷹弥が真っ赤になって
「あー…早く帰りてー」
と後ろ手に日向の手を握った。
「あ、また鷹弥がひなに殺された」
カケルがからかって笑った。