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プロポーズ

引越し初日の夜。
日向と鷹弥はベッドにいた。

二人無言でボーッしながら今日のカケルとアキの事を考えていた。

「カケル…やっぱアイツすげぇな…」
鷹弥が言う。

「鷹弥も全く気付かなかったの?」
日向が鷹弥の方を見て聞く。

「全っ然。むしろ無理だと思ってた。」
鷹弥が言うと日向は笑う。

「でもさ…こうなって思い返すとさ…不自然な事は何一つないんだよな。」
「カケルは俺がアキちゃんの事を知った時点で、すでにアキちゃんの事は信頼してたと思うよ。」
と言って
「アキなら大丈夫って言ったあの言葉も…今ならすんなりそう思える。」

「うん…私もそう思う。」
鷹弥が言った言葉は日向も考えていた事その物だった。

「brushupはさ…」
鷹弥が話し出す。

「あそこはカケルがずっと思い描いてた夢そのものなんだ。」
少し昔を思い出すように鷹弥が話す。

「カケルは高校でも頭いい方…てかかなり良かったんだよ。なのに進学もしないで、『俺は将来、店をやりたい』って。先生や親からは猛反対されててさ。でもアイツは曲げずに家出て…。勉強しながらバイトとかで経験積んで。俺が静菜と別れてしばらくした頃brushupを開いたんだ。」

「ワイワイしたり、ホッとできる場だったり、愚痴が言えたり。自然と誰かが集まって出逢って…。そんな場所を作りたいって。」

鷹弥が言うと日向が
「ホント…その通りのお店だね。」
と返した。

「だから俺もあのカウンターでカケルの夢がどんどん現実になる、その姿を見るのが心地よかったんだ。誇らしかった。」

鷹弥はそんな思いも込めてカウンターにいたんだ…と日向は初めて知る。

「でも、他人事にかまけてばっかでさー…俺も…散々アイツに世話にはなってるんだけど。特に日向とこうして一緒にいれるようになってからはカケルの…アイツ自身の事はどうなってんだ?って思うようになってて…」

と言うと鷹弥は突然

「あー!!アイツ、本当カッコイイな。昔っから何しても敵わねー気がする。」

そう言って少しむくれた。

負けず劣らずカッコイイ鷹弥が言うから日向は笑った。

鷹弥は少し無言になって

「…ちょっと待ってて。」

そう言うと寝室を出た。

戻ってくると少し緊張したように
「日向座って」
と言って自分もベッドの上に座る。

二人向かい合って座ると鷹弥はスウェットのポケットから小さな箱を出して開けた。

婚約指輪だった。

「今日…ここで…こうして日向と新しい生活を始めるこの日に渡そうって決めてたんだ。」

そう言うと鷹弥はまた少しむくれて

「なのにカケルがあんなカッコイイ事するからなんか…タイミング逃した。」

と可愛く言うから日向は笑ってしまった。

「多分俺らは言葉は少ないし、今までの俺や日向の事はまだまだ知らない事もあると思う。」
そう言って鷹弥は続ける。

「でもこれからは…一緒に見て聞いて、一番近くでお互い一緒に知って一緒に感じてたいんだ。」

「日向、ずっと俺の傍にいて…俺をずっと日向の横に居させて」

そう言って日向の左手の薬指に指輪をはめた。
鷹弥からのあらためてのプロポーズだった。

日向は鷹弥に抱きついて

「鷹弥、私と出逢ってくれてありがとう。」

あの日静奈に言われた言葉を鷹弥に返した。

二人はキスをして、これから始まる新しい生活のスタートをきるように身体を重ねた。



日向は鷹弥の腕の中で今まで以上の安心と幸福感を感じながら眠りにつこうとしていた。

「明日…BBQか…」
なかなか眠りにつけない鷹弥がボソッと口にした。

「なーに…?行きたくないの?」
日向は少し眠そうに聞く。

「行きたくないって言うか…日向…想像できるの?あの輪の中に俺がいるの。…明日はカウンターないのに」
不意に鷹弥が子供っぽい事を言うから日向は笑ってしまった。

「笑い事じゃないっての。俺苦手なんだよ」
と鷹弥はむくれる。

日向は笑いながら、心の中では
(そんな鷹弥をみんながほっとかないだろうな)
と想像して
「大丈夫だよ。」
と言った。

「日向、もう眠いんだろ…」
そう言って日向の顔を覗き込む鷹弥。

「ダメ。まだ俺の相手して…」
そう言って眠れない子供のように日向にまたキスをする。

日向はそんな鷹弥が愛おしくてたまらなかった。

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