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二人の未来

「ひな、おかえり。」

brushupの扉を開けるとカケルが言った。

「鷹弥からひなが行くから迎えに行くまでよろしくって言われたけど…なんかあった?」

日向はカウンターに座ると

「マンションの前に女の人が立ってて。鷹弥はその人見るなり『しずな』って駆け寄って抱き締めたの」

無表情で淡々と言う日向に、カケルは手に持った布巾を落とした。

「静奈さん…帰ってきたんだ。そうか。もうそんな経つのか。」
カケルが言うと

「やっぱりカケルちゃんは知ってるんだね。」
と日向は言った。

カケルが少し焦って話そうとすると日向は

「大丈夫。あとで話すって鷹弥が言ってたから。」

そう言って前を見る日向の顔は不安な様子は一切なく強さが引き立って本当に綺麗だった。

「何やってんだ、アイツは」
とカケルはため息をつく。

「あの絵の人って事はわかってるんだ」
日向が言うと

「鷹弥から聞いてたの?」
とカケルが言う。
すると日向は悪戯に笑って

「誘導尋問。」

と言った。

やられた…カケルはバツが悪そうに笑う。

日向は言った。
「前にね、鷹弥が『好きだ』って言ってくれたの。」

「うん…?」
今更?という顔でカケルは日向の話を聞く。

「その時、私も鷹弥の事が好きだって自覚してたからもちろん嬉しかったんだけど…それまでそんな言葉がなかったことに何も不安を感じなかった。」

日向がそう言うとカケルは納得したように微笑む。

「あの絵の事もなんとなく…鷹弥の過去と関係がある気はしてた。でも鷹弥がさっき『あとで話す』って言ったから。だからなんか…全然大丈夫なの。」

そう言って日向はまた綺麗な顔で笑った。

「本当…鷹弥とひなは出逢うべくして出逢った相手だな」
カケルは心の底からそう思っていた。

日向は店内を少し見回して
「アキちゃん帰ったの?」
とカケルに聞いた。

「…うん、さっきね。」
カケルの返事に少し間があった気がして日向は気になった。

「今日アキちゃん、だいぶ酔ってたよね?」
日向はカケルの顔を見て言った。

「そうだね」
カケルはいつもの調子と変わらず答えた。

そして
「その手の誘導尋問には乗らないよ」
とニヤっと笑った。

釘をさされた日向は言葉をなくして
やっぱり一筋縄じゃいかない相手だ
と思いバツが悪そうに笑った。

カラン____。

扉があいてまず入ってきたのは静奈だった。

「日向ちゃん、お待たせ!」
明るく言う静奈の態度に日向は困惑する。

あとから入ってきた鷹弥も
「はぁー」とため息をついている。
静奈の手にはあの絵らしき荷物が抱えられていた。

その荷物をおろして静奈は日向に行った

「まだ話を聞く前で嫌な気分にさせたらごめんなさい。でもどうしても言いたくって!鷹弥から話を聞いたあとで納得して欲しいの…」

と言って不思議な顔をする日向をふわっと抱き締めて耳元で言った。

「鷹弥と出逢ってくれてありがとう」

静奈がそう言うと鷹弥が

「ちょっ…静奈?何してんだよ!」

と焦ったように言ったので静奈はパッと離れて

「あーハイハイ!日向ちゃんに抱きついちゃってごめんねー」

と鷹弥に向かって言うと

「さ!二人は帰った帰った!」
と言って鷹弥と日向を店から追い出した。

静奈に促されながら帰り際に鷹弥は
「カケル、ごめんな、ありがとう!」
と言って帰った。

相変わらず律儀な奴だ。そう思いながらカケルは静奈に笑って話しかける。

「静奈さん、相変わらずですね。」

「私はカケルにも会いに来たのよ。さぁ飲みましょう」
とニコっと笑い、カウンターに座った。

「立派なお店持ったのね。」
静奈はそっと話し出す。

「5年ですからねー…」
カケルも感慨深い様子で答える

「カケルにもお礼、言わなくちゃね」
そう言って
「鷹弥のそばに居てくれてありがとう」
と笑った。

「そりゃぁもう…ボロボロでしたからね」
と呆れ顔で言うと
「まぁ…でも日向のおかげで俺は御役御免です」
と笑った。

「アイツの振り回される様子は本当楽しいですよ」
とカケルが言うと

「やっぱり振り回されてんだー」
と静奈も悪戯な顔で言う。

「静奈さん以上です。」
カケルがそう言うと静奈は豪快に笑って、

「それは私も見たかったな。日向ちゃん…こんな形で出会わなければ仲良くなりたかったわ。…って元カノにそう思われても迷惑よね」

カケルはうーん…と少し考えて
「ひななら大丈夫だと思いますよ。」
と話した。

日向と鷹弥はやっぱり無言で鷹弥の家まで帰った。
日向に不安はなかったが鷹弥はどう話すか考えている様だった。

部屋に戻ると、コーヒーのカップがソファの前のサイドテーブルに一つと鷹弥の仕事机の上に一つ置かれていた。

鷹弥がソファに座る日向をそっと抱き締めて
「日向驚いたよな。ごめんな…」
と言った。

「今日は抱きつくのが流行ってるの?」
日向が冷静に言うと鷹弥はパッと離れて

「ごめん!怒る…よな、そりゃそうだよな」
と焦る。

少し間があって考えるように日向は言う

「やっぱり…怒るところだよね、普通は」

という日向に

「へ?怒ってないの?」
と鷹弥は驚いて日向の顔を見る。

「なんてゆうか…私あの静奈さんて人好き。直感だけど。」

日向がそう言うと鷹弥は大袈裟に深いため息をついて頭を抱えて言った。

「何なんだよ、お前ら二人して同じ事…テンパってるの俺だけかよ。」

情けないその鷹弥の姿に日向は声を出して笑った。

「静奈は…5年前まで付き合ってたんだ。」
鷹弥はついに話し出す。

「大学の先輩で、付き合ってからずっと上手くいってると思ってた。でも突然俺の前から消えたんだ。夢を追ってフランスに行った。なんの前触れもなくある日突然別れの言葉と5年後に戻る…らしき事を口にして。」

「そあとしばらくしてなんのメッセージもなくあの絵だけが送られてきた。」

鷹弥は静奈との事を日向にゆっくり説明した。

「日向に会ってからは静奈の事どんどん考えなくなってて…前に日向が『叶わない恋に溺れて囚われてた』って話した時、それはまんま日向に会うまでの俺だと思った。そうわかった時、あの壁の絵を外したんだ。」

鷹弥は少しバツが悪そうな顔をして

「日向は外した絵の事何も聞かないし、なんか感じてんじゃないか…って本当は何回か…話そうかと思ったんだけどどう話したらいいかわからなかったんだ。別れた時点からもう終わってたのは事実で…実際5年後の約束をしてたわけじゃないし、日向と会ってからは静奈に対しての気持ちはホントなくなってたし…」

日向は黙って聞いていた。

「でも静奈も同じように思ってて、後味悪い別れ方した事で俺がもし引きずってたら自分も幸せになれないって。だから会いに来てくれた。絵も持って帰って…もう日本には帰らないって。アイツもあっちで幸せ見つけたみたい。」

そう言って鷹弥は安心したような表情をした。

「鷹弥、話してくれてありがとう。」
日向はそう言うと

「でもね、私…確かに絵の事は少し気が付いてたけど…鷹弥に対して不安に思った事は今まで一緒にいて一度もないの。すごく幸せで有難い…」

言い終わると日向から鷹弥を抱き締めた。
『鷹弥と出逢ってくれてありがとう』
静奈が言った言葉が日向にスっと染み込んだ。

鷹弥は日向をぎゅっとし返して

「心のしこりが綺麗になくなって…今正直に思った事…言っていい…?」

鷹弥は日向の顔を見た。
「ん?」日向は可愛い顔で鷹弥を見つめ返す。

「日向、一緒に住もう。どっか二人で部屋探して…ずっと…」

と言いながら両手で日向の顔を近付けてキスをした。

唇が離れると鷹弥はもう一度日向を真っ直ぐ見て

「日向、俺と結婚して下さい」

ハッキリと日向にそう言った。

日向の目に涙が溢れてくる。
とびきり幸せな笑顔で日向は鷹弥に抱きついて

「はいっ!!」

と言った。

その夜二人は少し緊張しながら抱き合った。
もう何度も身体を重ねているのに、まるで初めての時のように、お互いの身体を優しく探りあって確認し合うように同じ想いを重ねた……

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