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それぞれの進む道

あれから3ヶ月経っていた。

日向と鷹弥はお互いの家を行き来したり、それぞれ別々の日を過ごしたり順調に日々を重ねていた。

圭輔と茜はゆっくり話し合った末、別居して恋人同士からやり直しているとカケルから聞いた。
最近になって圭輔がまたよくbrushupに顔を出すようになったが早くに帰るのは二人の関係が上手くいってるからかもしれない、と日向は思っていた。

週末。
日向と鷹弥がbrushupに入ると圭輔もいつものみんなと飲んでいた。

「ひな、おつかれー!」
みんなが日向に声をかける。
鷹弥はひなと離れていつものようにカウンターに座る。

あれから前よりアキともよく話をする日向は、鷹弥と離れてまたみんなの輪の中で飲む事もあり、その中に圭輔がいるのもごく自然な空間になっていた。

その日もいつものようにみんなと話し、程よいところでカウンターの鷹弥の横に座った。

一つ変わった事があるとすれば、アキが鷹弥に絡んでくることが多くなった。

「王子ー!今度ひな貸して♡ケーキバイキング行きたいの!」
とまたアキが鷹弥に絡みに来た。

「王子ゆうのやめろ。」
アキのテンションが苦手な鷹弥は素っ気なく答えるけど、あの日からアキの事を信用しているのを日向は知っていた。

「だって王子は王子じゃん。」
ぷぅ!っと膨れてアキが答える。
鷹弥の態度にもアキはもう慣れっ子だ。

「てか、日向ケーキとか食べんの?」
と鷹弥が意外そうに言うと日向は

「うん、好き。」
と即答し、鷹弥は知らなくて唖然とする。

「勝手に甘い物食べないと思ってた」
鷹弥がショックそうに言うとアキが横でケタケタ笑う。

「それ、今気付くか?どんだけだよ」
とカケルも突っ込む。
楽しそうにアキはみんなの元へ戻って行った。

しばらくすると圭輔がカウンターに来て
「ちょっといい?」
と日向と鷹弥に声をかけた。

「もうちょっと先の話なんだけど、茜と地元に戻ってやり直す事にしたんだ。」
圭輔の顔はすごく前向きな表情になっていた。

「向こうで働けるところ今探してる。今は別々に暮らしてるんだけど、向こう戻ったら新婚生活やり直すつもり。」

そう言うと
「二人にはちゃんと言っておきたくて」
と日向と鷹弥の顔を見た。

日向は笑顔で返し、鷹弥は
「頑張れよ」と声をかけた。

「じゃぁ帰るかな!」と圭輔が奥のみんなに声をかけると、みんな散り散りに帰っていった。

アキが日向の横に座り
「カケルちゃんおかわり♡」と言う。

ここ最近はみんなが帰ってからもアキが残り、カウンターで話をするのが“お決まり”になっていた。

「アキ、お前彼氏と別れてからちょっと夜遊びが過ぎんじゃね?」
カケルがドリンクを出しながら言った。

そう。あの日向と話した後日、結局アキは彼氏と別れた。

そして日向はこっそりと“気になる男(ひと)”の事を聞いていた。日向の予想は的中してその相手はカケルだった。

「だって怒られる人いないんだもーん!」
とアキはふてくされたように言って

「店長の事、聞いた?」
と日向に問いかけた。

日向が頷くと、

「なんかすごいよね!色々あったのにみんな幸せな方に進んでて!」
と明るく言う。

この正直な明るさに日向はいつも救われる。

「アキはそういう事、素直に言葉にして言ってくれるからありがたいな、ひな」
とカケルが日向に言う。

「そう!ホントに今そう思ってたの」
日向の心の中の気持ちでもあったけど、それをカケルが言葉にしたことが日向は嬉しくなってアキの方を見ると、アキはもっと嬉しそうで満面の笑みだった。

「鷹弥、そろそろ帰ろう」
日向は鷹弥に声を掛け、カケルとアキに挨拶してbrushupを出た。

“一筋縄じゃいかない男”
アキがそう言うのは日向もよくわかる。
『相談に乗ってね』と言われたものの、日向から見てもカケルの恋愛観は全く見えずなんの手助けもできずにいた。

悶々と考えながら歩いていると
「アキちゃんの事?」
と鷹弥が顔を覗き込んできた。

「うん…」
と考え込んだ日向は答えてからハッと鷹弥の顔を見た。

「気付いてたの?」
驚いて日向がそう言うと

「んー…」
と鷹弥はいつもの表情に戻り前を向いて歩いている。

「もしかして…カケルちゃんも気付いてる?」
と日向が言うと
「だろーね」
と鷹弥が答えた。

日向はため息をついた。

「アキちゃんには上手くいって欲しいとは思うけど…相手がカケルじゃなぁ…」
と鷹弥が言うと、それを聞いてちょっとシュンとした日向に気付き

「カケルがダメとかじゃないよ」
と鷹弥が慌てた。

「ただ、俺もわかんないんだよね。アイツの恋愛観は。俺にもほとんど見せた事ないから。」
と言った。

鷹弥でも何も知らないなんて日向は驚いた。

「そりゃね、高校とか…そんな昔に彼女がいたとかは知ってるけど、大人になってからは全く見せないんだよね。でも相手に苦労はしてないとは思う。」

「あの…さ…前に言ってたバイ・セクシャルって話は…?」
日向は恐る恐る聞く。

「それなんだよなー…それを言い出してからわかんなくなった。実際、本当かどうかも俺は疑ってるけどね。」

少し間があって、

「…本当だったとして別に内情は知りたくもないしな」
と鷹弥は気まずそうに笑う。

「でも嘘ならなんでそんな嘘つくの?」
日向はカケルがもっとわからなくなった。

「人間避けっつうか…バリアみたいな?」
日向がわからない顔をすると鷹弥が続ける。

「カケルは昔っから本当にモテるんだよ。高校の時から考え方大人びてて、周りの事よく見ててさ。頭の回転も早いしあの人当たりのいい性格だろ。それであの見た目だから仲良くなる女子はみんなアイツのこと好きになってたな。」

鷹弥は続ける。

「でもさー…それって多分、疲れんだよ。カケルみたいな性格のやつは特に。
アイツ、俺と違って“人”が好きだからさ。
恋愛感情でしか人と繋がれない事に疲れたんじゃないかな。選んだ仕事も仕事だし…だからどっかで“バイ”ってキャラを作り上げたんじゃないかなー…なんて全部俺の想像だけどな。」

鷹弥の話は少し難しいけど、カケルを知る日向にはなんだか少し納得できた。

「これだけは断言できるけど…アイツがよっぽど本気にならない限り店の客には手を出さないよ。そして俺はそんなアイツを見た事はない。」

“一筋縄じゃいかない男”…
アキちゃん、ホントその通りだね…

日向はそう思ったが、やっぱり応援したい気持ちでいっぱいだった。

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