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終わりと始まり

「おつかれ」
カケルはそう言いながらカウンターに座った鷹弥にビールを出した。

「ん…」
鷹弥は無表情だ。

「ひなは?大丈夫?」
カケルが聞くと

「んー…心配してた感じではない…かな」
と鷹弥は少しキレが悪い言い方をして
「引っぱたかれてよかったって」
とカケルの顔を見て言った。

カケルは少し笑って
「あんなほっぺた腫らして?さすがひなだな。」
と言うと鷹弥は深いため息をついて

「はぁー…俺…日向の強さと弱さにどうしていいかわかんなくなる」

と言うと、鷹弥のキレが悪い原因はこれか!と思いカケルが笑った。

「お前がひなに振り回される様子見てんのはホント楽しいよ」

と意地悪に言うカケルに鷹弥はムスッとした。

「今は…俺の心配が日向には重いんじゃないかと思って…でも心配なんだよ…。
アキちゃんが来てくれて助かった」
と鷹弥が言った。

「俺もちょっとテンパってアキに電話させたからな…アイツもなんか気付いててめちゃくちゃ心配してた。まぁ…アキなら大丈夫だろ。」

「ん…」
鷹弥はカケルの言葉に少し安心したように言葉少なに答えていつものようにカウンターで少し時間を過ごした。

カケルもいつものように黙ってそこにいた。



しばらくして鷹弥が2階に戻ると日向とアキの笑い声が聞こえた。

『アキなら大丈夫だろ…』
鷹弥はカケルの言葉を思い出し安心したように笑うと

「日向、そろそろ帰る?」
と声をかけた。

「あ、じゃぁ私下に戻るね!ひなまた今度ゆっくり♡」
アキはそう言ってすれ違いざまに鷹弥に

「ひなの事よろしく!」
と言った。

まだ顔が腫れてる日向はカケルにだけ挨拶をしてそのまま裏から店を出た。

二人は言葉を交わさずに鷹弥の家まで帰った。でもそれは二人にとっては居心地のいい無言だった。

部屋に入ると鷹弥は日向をギュッと抱きしめて言った。

「良かった…日向がここに帰ってきて」

「心配ばっかりかけてごめんね」
日向もそう言って鷹弥を抱き締め返した。

まだ明るい部屋で腫れがひかない日向の頬を見ると爪が当たったのか、引っ掻き傷のように血が滲んでいる。

「これは…明日仕事行けないかも」
鷹弥が気まずそうに笑うと

「え?そんなに酷い?」
と鏡の前へ行った。

「腫れがひいたらマシかもしれないけど…明日朝引いてるかな…」
鷹弥は氷を袋に入れてタオルで包んだ。

日向をソファに座らせてタオルを頬に当てると少し捲れた日向のスカートから擦りむいた膝が見えた。

「ここも血が出てる。」
鷹弥が言うと
「あ…膝ついた時かな…」
と日向は苦笑いをする。

「『女って怖い…』カケルに同感だな」
そう言って少し笑いながら鷹弥は消毒液を探す。

「痛い…?」
消毒しながら鷹弥が聞く。

日向は首を横に振って
「ほっぺたも膝も…全然痛くなかった」
と言ってぎゅっとスカートの裾を握った。

その手を鷹弥は優しく包み込むと

「心は?…日向の心はまだ痛い?」
と見透かしたように言った。

「茜さんの…あの叫ぶような言葉はきっとずっと忘れないと思う…」

少し間が空いて
「でもね、アキちゃんが言ってくれたの。」

そう言って日向はアキに話した事、アキがくれた言葉を全て鷹弥に話した。

しばらく鷹弥は黙って聞いた。

日向が話し終わると

「そっか…アキちゃん…。なんかすごいな」
と鷹弥は感心したように言った。

「俺もカケルも日向の気持ち聞くのにめちゃくちゃ苦労してんのに、スっと日向に言わせて…」

「しかも!その日向の気持ち軽くするとか…俺も出来なかったのに。」

ポスッと自分の胸に日向を抱き寄せて少し拗ねたように言った。

日向は少し照れて焦ったように
「それは…!今まで鷹弥がいてくれたからだよ」
と伝えた。

鷹弥は安心したように笑った。

「そういや…カケルが言ってたんだよな。日向とアキちゃんを二人にした時。
『アキなら大丈夫だろ』って…アイツこの展開も読んでたとしたらすごすぎない?何者なの、アイツ!」

ちょっと怖いよな、って言いながら笑う鷹弥はいつもの調子に戻っていて日向は心から安心した。

そしてその鷹弥の言葉にふと…

(まさか…アキちゃんの一筋縄じゃいかない気になる男(ひと)って…)
とカケルの事を思い浮かべていた。

「なんかさー…」
鷹弥があらたまって

「やっと日向と安心して始められる気がする。」
と言った。

「私、もう鷹弥がいないとか…考えられない。これからきっともっとそうなる。」

日向が言うと

「そうなったらいいよ。俺はもうとっくに日向がいないなんて無理なんだから」

そう言って二人はキスをした。

「痛っ…」
長いキスをすると腫れた頬が痛んだ。

「初めて痛いと思った」
と日向が頬に手を当てて言うと二人で笑った。

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