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茜の叫び

街中でどこを探しても見つからない日向に鷹弥は焦っていた。

落ち着いて考える。

(もし茜にどこかで鉢合わせてたとしたら日向は逃げない…
でも俺に連絡しようとするはずだ。危険を感じたら家には連れてこない…じゃぁどうやって…?やっぱりカケルしか思い付かない。)

鷹弥はもう一度brushupに向かう。

(その途中で茜がイヤだと言ったら…?茜にとってはbrushupは誰も味方してくれなかった場所だ。カケルも…だとしたら…)

と考えて、公園!!と思い付く。
カケルにも慌てて公園に圭輔を呼ぶように伝える。

(日向…!!)

いつか日向と座って話をした公園のベンチが近付くと倒れ込む日向に手を振りかざす茜の姿が見えた。

「日向!!!」

鷹弥は日向の名前を叫びながら駆け寄って日向を庇う。

「また王子様に助けてもらうの?どこまで卑怯なのよー!!」
茜は叫ぶ。

日向の左頬は赤くなっている。
鷹弥はグッと日向を守る。

でも日向は鷹弥をそっと離して、茜を見て言う。

「茜さん、私本当に圭輔さんとは連絡をとってないんです。」

「まだそんな嘘…じゃぁなんで圭ちゃんは帰ってこないの?なんでよー」
そう言って茜は泣き崩れた。

「…茜!」

そこへ圭輔が走ってきた。

「圭ちゃん…ほら…やっぱり…やっぱり圭ちゃんまであんたを助けに来たじゃない!!嘘つき!!嘘つきー!!!」
と叫びながらまた日向を掴もうとする。

その手を圭輔が掴んで
「茜!!!迎えに来た。帰ろう?」
と言った。

カケルも店を抜けて様子を見に来たようで少し離れた場所にいる。

「圭ちゃん…この女を助けに来たんでしょ…みんなして…」
と茜はボロボロ泣く。

「違う。茜を迎えに来たんだ。俺は茜と話がしたいんだ。」
圭輔は優しく茜を諭すように言う。

「嘘だ…だって圭ちゃんはこの女の事が好きなんだ…私わかってるもん!」
茜はさっきまでの悲痛な叫びのような声ではなくなった。
そして圭輔にやっと本心を言う。

「私知ってるよ…私が結婚しようって言った時、圭ちゃんがなんで泣いたのか…本当は嬉し泣きなんかじゃないの、わかってるよ…結婚したら…そしたら…って思ったけど、圭ちゃんの中からひなちゃんが全然消えてくれなかったじゃない!ずっと私を見なかったじゃない!!」
と言ってまた泣き崩れる。

圭輔は茜をしっかり見て
「茜をちゃんと見てなくてごめん。俺、少し離れて…もう何年もちゃんと茜を見てなかったことにやっと気付いたんだ。でも、今俺は茜とこうやってちゃんと話がしたい。その為にちょっと離れたんだ。茜と話をして、やり直したい。」

そう言うと圭輔は続けて話をした。

「やっとね、茜の気持ちがわかったんだ。もう…何年も前、一度茜が離れた時…あの時茜は戻ってきてくれたのに俺はずっと茜の気持ちが信じられなくて。浮気繰り返していくうちにそれを許す茜の気持ちが愛だなんて勘違いして…自分が満たされたいがためだけに浮気して…茜は辛いだけなのに何年も…ホントにごめん。こんなになるまで気付けなくてごめん。」

茜は泣きながら圭輔の言葉をしっかり聞いた。

「もし…まだ茜が許してくれるなら、一緒に帰ろう?」

ゆっくりとそう言って圭輔が差し出した手を茜はしっかり握った。

圭輔は少し落ち着いた茜に

「茜…ひなの事だけど…」

と言って日向と鷹弥の方を見た。

「まだ茜は疑ってると思うけど、ひなは鷹弥と付き合ってるんだ。俺と…なんて絶対ないよ。俺は茜と二人だけでちゃんと向き合いたい。」

確認して茜にわからせるようにしっかり伝える圭輔の顔に迷いはもうなかった。

カケルが近くへ来て、
「茜ちゃん、圭輔は俺の家にいたんだ。不安なら一緒に行って圭輔の荷物取っておいで。すぐ近くだから。」
と言った。

圭輔と茜はカケルの家に向かった。

公園で鷹弥とカケルと3人になった日向は、緊張が解けたように泣き出した。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」
うつむいてひたすらそればかりを繰り返して泣く日向の肩を鷹弥はギュッと引き寄せた。

「ひな…ちょっとそれは酷いな…かなり腫れてきてるから店で少し冷やして行きな。すぐ冷やした方がいい。
スタッフ側の階段から上がればそのまま2階行けるから、奥のソファにいて。氷持ってく。」
カケルはそう言うと店の裏口から鷹弥と日向を入れた。

brushupの2階のソファ席はトイレより奥にあって死角になっている。
トイレに来る客からも見えない為、普段はスタッフが休憩場なんかに使ったりしていた。

カケルが持ってきた氷で頬を冷やしながら呆然としてる日向を鷹弥は心配そうに見ている。

「もうちょっと早く見つけてやれれば…ごめんな、日向」
鷹弥の言葉に日向はハッとする。

「鷹弥は悪くない!心配かけてごめんなさい…」
日向は鷹弥に謝った。

「鷹弥とカケルちゃんのおかげで、罪悪感に溺れたり…そういうのとはちょっと違うから…」
鷹弥はそれを心配してると思って日向はそう言うと言葉を続けた。

「茜さんの言葉は痛かったけど…」

「何言われた?」
心配そうに鷹弥が聞く

『奪う気はありませんでした、なんて言ったら殺してやる』

真顔で日向が言うと鷹弥が引いてるのがわかった。

日向は少し気まずそうに笑い
「ちょっと…まぁ…あの時の勢い的にだと思うけどアレはグサッと…だから引っぱたかれて良かった」

日向が言うと鷹弥はまだ心配そうに冷やす日向の頬に手を当てて

「これ1発じゃないでしょ。」
と言うから

「3発…」
日向が言うと

「げ。あのちっちゃい身体で…」
と言ってから

「良く受け止めました。」

と言って子供にするように抱き締めて頭をヨシヨシした。

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