バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

まちぶせ

その日。
日向はスマホを鷹弥の家に忘れて仕事に出ていた。
会社を出ると、そこに茜がいた。

「…っ。茜さん…」
日向が茜に気付くと

「あ♡ひなちゃーん!」
と茜が寄ってきた。可愛いと思ってた笑顔も今は寒気がする。

「茜さん、どうして会社を…?」
日向は言葉が上手くでない。
鷹弥に知らせなきゃ…と思うのにスマホを忘れてしまっては手段がない。

「前にね、アキちゃんから聞いてたの思い出したんだ~」
表情を崩さず茜は言う。

(仲のいいうちに情報収集してたのか…)
日向はそう思うとより一層怖くなる。

「ひなちゃん全然LINEの返事くれないから来ちゃった♡二人で話しましょう?」
茜は明るく話しているけど敵意しか感じない。

(ここは会社の前だ…移動しなくちゃ…)

「そうですね…行きましょう」
日向はそう言うと茜と一緒に歩き出した。

しばらく歩いて前に鷹弥と話した公園付近に差し掛かると

「まさか…brushupじゃないよね」
と茜の声色が変わる。

日向が答えないでいると
「あそこは嫌!みんなひなちゃんの味方じゃない!!」
と怒鳴る。茜の様子が変わってきた。

(どうしよう…brushupに行けたらカケルちゃんが連絡してくれると思ったのに…)
日向は手段がなくなる。

(鷹弥が心配しちゃう…家を知られるのはまずいと思うし…)

「じゃぁ…ここでもいいですか?仲良くご飯食べながらする話でもないでしょうし」
日向は公園のベンチを指さして、茜の本心を出す為に少し強気で言った。

「やっぱり…ひなちゃんてイヤな子なんだ」
茜はもう笑っていない。

前に鷹弥がしてくれたように缶コーヒーを買ってベンチに座る。

茜はなかなか話し出さない。

「で…話って…?」
日向が口を開いた。

「ホント嫌な子ね。決まってるでしょ!圭ちゃんを返してよ!!!」
茜は日向を怒鳴り付けた。

「返してって…」
日向が困っていると
「しらばっくれないで!!一緒にいるんでしょう?わかってるんだから!!」
と茜はすごい剣幕で怒鳴るように言う。

(圭輔さんが家を出て私といると思い込んでる…?!)
日向はそう思うと、このままじゃ圭輔の時のように話が通じない事を悟る。
(どうしたらいいの…)

その頃鷹弥は日向の帰りが遅いことに何かあったと感じていた。
今日に限って日向のスマホは鷹弥の手元にある。

いてもたってもいられなくなり鷹弥は家を飛び出した。

「カケル!」
brushupに駆け込むと
「日向いる?」と聞いた。

異様な雰囲気にカケルも何かあったと気付いて鷹弥と一緒に外へ出る。
鷹弥はカケルの顔を見てからもしカケルといたならカケルから連絡があるはずだと気付く。

「ひな、いないのか?電話は?」
カケルも状況を察してる。
「アイツ、今日スマホ家に忘れてて…」

「まだ会社って事は?」
カケルが言うと
「PCから仕事終わったって連絡はきた」
鷹弥の顔は青ざめている。
「その後まだ仕事ができて残業してるとか…」
カケルの言葉を遮って鷹弥が言う。
「そんなの俺が心配するのわかってて連絡無しにしない!」
鷹弥は完全に取り乱している。

「鷹弥、とりあえず少し落ち着け。」
カケルはなだめるように言う。

「日向のスマホは家に置いたままにしてきた…もし…帰って俺がいなかったら絶対連絡してくる…それがないってことはまだどこかにいる…」
鷹弥は少し落ち着いて言う。

「もし…茜と会ってるとしたら…まだこの辺にいるはず。」

日向の会社、brushup、鷹弥の家、全て徒歩圏内だ。

「わかった。店にアキがいるから、それとなく茜ちゃんに連絡させる。圭輔にも伝えて探させる。お前もこの辺探して…何かあったら連絡くれ。」
そう言ってカケルは店に戻った。

(日向…どこだ?)
鷹弥は日向の会社の方へ向かいながら辺りのカフェや話が出来そうなところを手当たり次第に探した。

その頃茜はひたすら日向を責め立てていた。

「なんで…なんであんたなんか!人の物奪っといて自分は悪くないって顔でみんなから守られて…わざとなの?!そうやって周りにチヤホヤされて楽しんでるの?!」

「そんなつもりじゃ…」

「じゃぁどんなつもりよー!!」
もう叫びにしか聞こえない。

「ねぇ。言ってみなさいよ!どんなつもりで人の男と寝てるの?初めて抱かれた時は優越感だった?」

日向は返す言葉もでない。

「もし…奪う気はありませんでした、なんて言ったら殺してやるからー!!」

叫びに近いその言葉に日向は打ちのめされた。

茜のスマホが鳴る。
茜は画面を見ると
「アキちゃんだって…電話なんか来たことないのに何でだろうね~?あんた連絡した?」

日向は首を横に振る。
鷹弥とカケルちゃんが気付いたんだ…日向がそう思うと次の瞬間また茜のスマホが鳴って「なんで?!」と苦しい表情に変わる茜。

「出て行ってから一度も連絡よこさない圭ちゃんがなんであんたといるこのタイミングでかけてくんのよ!やっぱり一緒にいるんじゃない!あんた圭ちゃんに連絡したんでしょ!そうでしょ!」
と言って思いっきり日向をビンタした。

「ちが…っ」
言葉にしようとする茜の服を掴みまた思いっきりビンタする。
日向は勢いで倒れた。

茜と会ってから誰かと連絡する隙なんてなかったことは茜もわかってるはずだ。
なのに日向が何を言おうとしても茜は否定して決めつける。

もう日向にはどうしたらいいかわからなかった。

しおり