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茜の歪み

日向の部屋を出た圭輔とカケルは駅に向かう。
もう電車が走ってる時間だ。

「圭輔、お前茜ちゃんとちゃんと話せるの?」
カケルが圭輔に聞いた。

「正直…わからない。結婚するって言い出してから今日まで…全部茜が用意してる通りに俺は動いただけなんだ…茜は気付いてないと思ってたから俺は何も考えずに言われるがままにしてる方がラクだった。」

と言ってから少し苦しい顔になって

「でもそれを知っててやってたと思うと…俺が知ってる茜じゃない気がして…怖い…」

カケルは黙って聞いて
「俺も圭輔ん家行っていい?」
と聞くと圭輔は黙って頷いた。

家に着いて圭輔がドアを開けると
「圭ちゃんおかえり♡」
と茜が出迎えた。

カケルはその雰囲気すら異常に感じた。
結婚パーティの後姿消して朝帰りした旦那への態度がそれかよ…
と怖さが増した。

圭輔の横にいるカケルに気付いて
「あれ?カケルくん??」
と言うと
「昨日はありがとうねー!」
と普通に笑う姿にカケルは寒気がした。

「昨日あの後ずっと圭輔と飲んでて。ちょっと帰り心配だったからついてきたんだ。ちょっとだけお邪魔してもいい?」
圭輔は結婚してる身だ。昨日日向と会った事は伏せようと圭輔と電車で話しそういう事にしていた。
朝8時前に非常識な話だが、カケルは茜が断らないと思っていた。

「カケルくんといたんだ?ふーん…」
と圭輔を見た。

「どうぞ」と言って茜はカケルに笑顔を見せた。

ダイニングテーブルで圭輔とカケルにお茶を出すと茜は朝ごはんの後の洗い物をしだした。

「茜…いつから気付いてた?」
圭輔が静かに切り出す。

茜は洗い物をする手を止めずに後ろ姿のまま答える。
「なーにー?カケルくんもいるのに。」

“何の話”かはわかってるようだ。

「ごめん、茜ちゃん。俺も知ってたんだ。」
カケルが言った。

「そう。」と言うと少し間が空いて

「…BBQした頃かなぁ??合ってる?」
と言ってフフッと笑う。

(これは怖い…な…)
カケルは思った。
圭輔も青ざめてる。

「お前…結婚するって言った時、俺が浮気やめたからって…」

「だって圭ちゃんが隠したそうだったじゃない。いつもはあからさまにわかってほしそうにするのに今回の“浮気”は隠したかったんでしょ?だから私も“知らないフリ”してあげたの。」
茜は怖いくらい淡々と言う。

「でも昨日相手がひなちゃんってわかったからちょっとイジワルしちゃったかな」
と言ってまた軽く笑う。

圭輔もカケルも言葉を失う。

「もしかして…その殴られた跡もひなちゃん絡みなの?」

茜は鋭い。わかってて話を切り出すタイミングを計算してる。カケルはそう思った。

「違っ…これは…」

圭輔は焦って言いかけると茜は

「だよね~、ひなちゃんは昨日カッコイイ王子様にさらわれちゃったもんね」

圭輔はテーブルの上で拳をグッと握った。

「でも圭ちゃん、結婚したんだから。これからはちょっと気を付けてね。」
圭輔は茜の言葉とその表情にゾクッとした。

そう言うと茜は出かける準備をする、と寝室に入っていった。

「カケルちゃん…ごめん…もうちょっといてくれる?」
と言いながら見るわけでもないテレビを付けた。

「もう少しいるよ。」
カケルも答えてただ流れてるテレビを二人で見た。

40分くらい経っただろうか。
茜は圭輔に
「圭ちゃん、ちょっと出かけてくるね。カケルくんごゆっくりー」
と普通に言って家を出ていった。

圭輔は何も答えなかった。

茜が家を出ると圭輔はテレビを消した。

「カケルちゃん、コーヒー飲む?」
と言ってお湯を沸かす。
「うん、ありがとう。」
と返事をすると圭輔は話しだした。

「きっと…茜はずっとあんな感じだったんだな。この数ヶ月、気付こうと思えばいつでも気付けたはずなのに、俺は茜を見てなかったんだ。」

「圭輔、お前…どーすんの?」
カケルが言った。

「今の茜とは話にもなんないだろ…少し…距離を置こうと思う。それも伝わるかわかんないけど…」
圭輔はやっと茜と向き合う気になったのか?カケルは思った。

カケルはコーヒーを飲むと
「そろそろ出るよ」
と言った。

「カケルちゃん、本当にありがとう」
圭輔が言うと
「圭輔、また店に来いよ」
と言った。

「…俺…出禁じゃないの?」
と少し寂しそうな笑顔で言った圭輔に

「友達、いっぱいいるだろ、俺もだし。」
カケルはそう言って圭輔の家をあとにした。

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