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大人の恋はどうやって忘れる?

パチッ!
鷹弥はハッと目が覚めた。
もう朝になっていた。
昨日はソファで日向と話をしながらいつの間にかブランケットにくるまって二人で寝てしまっていた。
目の前に日向の顔。
唇に吸い寄せられそうになり思いとどまる。
「あ…ぶねっ…」口を抑えてボソッと言った。
でもどちらから繋いだのかは覚えていないがしっかり手は握りあったままで急に照れた。

「ん…」
日向も起きた。
「おはよ…う…昨日このまま寝ちゃったんだ…」まだ寝ぼけ眼が可愛い。

と思ったらいきなり起き上がって手を離し洗面所へ駆け込んだ。

洗面所から嘆きの声。

「あー…やっぱり目がパンパンー」

あ、それか。
鷹弥は笑う。

「だってあれからも深夜放送の映画で涙ダダ漏れしてたじゃん」
呆れたように鷹弥が言った。

「だってあれは感動するでしょ!あれで泣かない鷹弥が冷血漢なんだっ」
と言って日向はふくれて見せた。

「冷血漢って…」
また鷹弥が笑う。

改まって
「鷹弥って…そんな笑う人だったんだね」
日向が言う。

「さぁー…日向といるせいじゃない?」
ちょっと意地悪っぽく鷹弥が返す。

日向は赤くなって
「顔洗ってくる!」と行ってしまった。

いや、ホントなんだけどな、と思い鷹弥はスマホを見た。

カケルからのLINEが入ってた。

『まだひなと仲良くやってんの??お楽しみのところ悪いけど、例のヤツ来週土曜の夜に決まったよ』

洗面所から日向が話しかけてくる。
「鷹弥ー今日仕事は??」

「んー…俺フリーランスだから納期さえ守れば基本自由。」
と答えて
「どっか行く?」
と言ってみた。

「行く!!!」
洗面所から顔を出して日向が答えた。

また鷹弥は笑った。
他の人に向けられる日向のコロコロ変わる表情をカウンターからただ見ていただけの鷹弥は、今目の前で自分に向けられている事が嬉しかった。

「んじゃ俺1回帰ってシャワーと着替えしてくるわ。」

「あ、そっか。うん、わかった」
日向は洗面所から出てきて言った。

「行くとこ考えといて」
鷹弥は日向に言って家を出た。

エレベーターの前まで行くと部屋着のまま日向が出てきた。

「鷹弥!連絡先…!」
と言いながらスマホ片手に慌ててる。
外で見ると部屋着がなんだかやらしく見えて鷹弥は周りを見渡して日向をくるっと部屋に戻した。

「?」
不思議そうに鷹弥を見る日向に

「忘れてた…今更だな」と笑いながらスマホを出し玄関で連絡先を交換する。

「んじゃ、あとで」と改めて家を出る。

(はぁー…昨日の俺を褒めてやりたい)
エレベーターの中で鷹弥は思った。


日向はシャワーを浴びながらボーッとしていた。

圭輔から連絡がなくなったと思ったら結婚してたなんて。
いつから結婚は決まってたんだろう。
なんで言ってくれなかったの?
でも言われてたらどうだったの?

考えても考えても答えがない。
これこそ泥沼だ。
もう圭輔がこの部屋に来ることは二度とない…
そう思うと胸が苦しくて息が出来なくなりそうだ。

日向はシャワーから出ると玄関が目についた。

最後の日圭輔を拒んだ場所だ。拒んだのはあれが最初で最後になった。そして優しくキスして帰った…

日向は首を振った。

違う。ココは鷹弥と連絡先を交換した場所。今から会いに行く人だ。

リビングに入ってソファに座る。
ココはさっきまで鷹弥がいた場所。

うん、大丈夫。
鷹弥のおかげだ。

鷹弥は本当に何も聞かなかった。
日向も圭輔の事は何も話さなかった。
昨日引き止めて『何も言わなくていい』と言った鷹弥の言葉は本心だった。
鷹弥の言葉には何一つ嘘がない事に日向は救われていた。

本当は昨日一人で圭輔の思い出が残るこの場所に帰るのが怖かった。
鷹弥はやっぱりエスパーじゃないかな…
そう思って日向はクスっと笑えた。

さぁ、着替えよう。

服を取りに寝室に入った。
ベッドをみてやっぱり涙が流れた。

さっき鷹弥と連絡先を交換したあとLINEを確認したら結婚パーティが来週の土曜日に決まっていた。
あと1週間。茜さんに会うのも初めてだ。
前に覚悟は決まってる。
今の状況は全て自業自得。コレは全部私の罪。

圭輔からの連絡がなくなってから日向の中で言葉もなく終わった事は感じていた。
いつか終わりは訪れる覚悟はずっとしていた。日向は1ヶ月の間に少しずつ気持ちを整理して前を向こうとしていた時だった。

それが昨晩の結婚報告で一気にあのどうしようもない恋情へ引き戻されそうになり鷹弥に救われた。

日向は、ちゃんと前に進める。そう自分に言い聞かせた。

1週間で気持ちを整えてちゃんとお祝いを伝えに行かなくちゃ…。

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