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デート

鷹弥と日向は11時に駅で待ち合わせをした。

駅で待ち合わせて出かけるなんてデートは久しぶりで日向は少し嬉しくなった。

駅に着くと鷹弥が先に来てた。
こうして見るとアキちゃん達が言ってた“無口王子”と言うのがしっくりくる。

鷹弥がコッチに気付いた。
一晩一緒にいた事を考えると、触れ合ったわけではないのに日向は少しドキッとした。

「早かったんだね、ごめん、待った?」
日向が言うと
「そのセリフデートっぽいな」
といつもの真顔で言うから笑った。

日向が笑うと鷹弥も笑い返してくれるのが嬉しかった。

「行くとこ決まってんの?」
鷹弥が言うと、日向は鷹弥の全身を上から下まで見て
「うん!合格!」と言った。

「は?合格?」
鷹弥がわかんない顔してると
「その格好なら大丈夫!さっ行こう!公園!!」
と言って日向は歩き出した。

「公園?!」
鷹弥は日向の格好を見て、たしかに…と納得した。
目線が少し違うと思ったら日向にしては珍しくスニーカーだった。

「先に連絡しろよ、交換したんだから。俺が公園向きじゃない格好だったらどうしてたの…」
呆れながら鷹弥が言うと

「まぁその時はその時で違うとこでも良かったし…」と言って
「鷹弥は大丈夫な気がしたから」
と、とびきりの笑顔で笑った。

(うわー…抱きしめたい)
鷹弥はそう思った自分を抑えて
「顔、治ったな」と耳元でボソッと言ったら、腰をつねられた。
「イテッ…」
(ホント昨日あんなに泣いてたヤツとは思えないな)
鷹弥はクスっと笑った。

「へー…ロープウェイ乗るんだ。」
と鷹弥が言うと
「うん、ココ初めて?」
と日向が聞いた。

「初めて来たよ。ワクワクすんな」
と鷹弥が言った。

ロープウェイで山頂まで行くとそこから山を下るように舗装された道があり、周りにはたくさんの草花、カフェ、お土産屋さん、遊具が並んでいてまるでずっと公園を歩きながら山を下るようになっていた。

山頂のカフェでランチをして、順番に散歩しながら山を下った。

「あ、鷹弥!ハンモックあるよーちょっと休憩しよっ」
自販機でお茶を買って二人で並んでハンモックに揺られた。
仰向けに寝ると空しか見えない。

「日向、俺ここ好き。」
鷹弥が言うと日向は嬉しそうに笑った。

「色がいい…」
と鷹弥が言って、「色?」と日向が聞き返した。

「うん。俺、デザインの仕事してるんだ。だから綺麗な色を見るとイメージが浮かぶ…」と言って目を閉じた。

「普段街中にいるのが当たり前で、こういう自然な色探してなかったなー…」
「実際はwebデザイナーだから作り出すのは機械的な物なんだけど、イメージはそれだけとは限らないもんな…」

「日向、連れてきてくれてありがとな」
鷹弥が日向の顔を見て言った。

「子供の頃お母さんとよく来て…私にとっても好きな場所なんだけど、なんか鷹弥にも合う気がしたの」

「ハハっ。正解!」
鷹弥はあまり人に話した事ないことを話し出す。

「俺ね、人も色に見えたりするんだ。あ、オーラとかじゃないよ。なんとなく…その人のその時の気持ちなのかな?って思うんだけど…」

普段めちゃくちゃ無口なのに
自分の事をよく話してくれる鷹弥に日向は嬉しくなった。
(やっぱりこの人の言葉は暖かくて気持ちがいい)日向は思った。

「brushupでもそんな風に人間観察するのが好き…というか使命感?で通ってたんだ。カケルの店で居心地良いしね。」

「使命感?」ひなが聞くと

「んー…前にね、ある人に言われてね。デザインを仕事にするなら“人との関わりは必要不可欠だ”って…」
「でも俺こんなんじゃん?色んな人と関わるとかハイレベルな事なかなか出来なくて」
鷹弥は続ける。
「brushupで人と人の関わりを人間観察という名の覗き見してたの」

「覗き見ー」日向が笑った。
「でもだから鷹弥はエスパーだったんだね」

「エスパー?」鷹弥。

「うん。ずっと不思議だったの。何も話してないのに鷹弥はわかってくれてることいっぱいあったから。だから話なんかしなくてもすごく安心できた。」
と言ってすぐ
「あ、でも、こうして話してくれてるのはもっと嬉しい気がする」と日向は言う。

少し間があって
「ねぇ。私は鷹弥にはどんな色に見えたの?」
日向が聞く。

「日向はねー…」
日向が身を乗り出した。
鷹弥は空を見たまま答えた。

「…衝撃的だったよ。なんか…他の人とは逆っていうか…上手く言えないんだけど。一瞬周りが真っ白になって日向だけが色を纏ってた。そんな感覚初めてで不思議だったんだ。だから目が離せなかった。」

それを聞いて日向は照れたように黙ってしまった。

鷹弥「ねぇ。日向…」

日向「ん?」

鷹弥は言いにくそうに言葉を続けた
「来週の土曜日さ…」

そこで詰まると日向は鷹弥のその言葉の先がわかり

「行くよ。」と言った。

「やっぱりな。」
と鷹弥は少し気まずそうに笑った。

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