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決定的終わりの瞬間

ビンタ事件があってから1ヶ月くらい時間が経っていた。
日向はなんとなくbrushupには足が向かなかった。

あれきり圭輔は家に来ないどころか連絡もなかった。
元々連絡したことは一度もなかったから日向からもしなかった。

この関係が続くとは思っていなかったけど、終わりかと思うと、圭輔がこの部屋にいたという記憶がたまらなく虚しい。
こんな気持ちでbrushupで圭輔に会ったら…と思うと日向はどんどん行けなくなっていた。

ただただ日常は穏やかに平穏だった。

仕事帰りスマホを見たらアキちゃんからLINEが来ていた。

『ひなー!元気??最近brushup来てないみたいだけど近々来ない?久しぶりに会いたいよー♡』

(たしかに…あれっきり行ってないのはみんな心配してるよな…
アキちゃんに気を遣わせちゃった。)

そう思った日向はすぐアキちゃんに返信した。

『連絡ありがとう。久しぶりに土曜の夜行こうと思います。』

(きっとカケルちゃんも心配してる。鷹弥も…心配してくれてるだろうな。よし!前向かなくちゃ!)

圭輔との関係がどうなろうと全て自業自得。周りには言わない、迷惑をかけない、と覚悟してたつもりだったのに…情けないな、と日向は反省した。

____土曜日。

brushupの扉を開けると
「ひな、いらっしゃい」といつも通りカケルちゃんが迎えてくれた。
カウンターには鷹弥がいる。
鷹弥が心配してくれた時、手を払ってしまったままだったことが気になっていたので鷹弥がいた事に日向はホッとした。
連絡先も知らず謝れなかった。
(あとで謝ろう…)日向はそう思っていた。

奥からアキちゃんが
「ひーなー♡」と寄ってきて抱きついた。
「待ってたよん!」
アキちゃんはそう言ってみんながいる奥のテーブル席へ日向を連れていく。

圭輔はいないようだった。

「ひな、久しぶりー」
と口々にみんなが言ってくれてやっぱりこの空間が好きだと思った。

「ひな、ビールで良かった?」
とカケルちゃんが来た。

「うん!ありがとう」ビールを受け取ってみんなと乾杯する。
カケルは日向の肩をポンっとたたいてカウンターに戻った。

久しぶりにみんなと話をして楽しい時間が過ぎた。圭輔がいなくて良かった…日向はそう思っていた。

日向はカウンターに行って鷹弥に声をかけた。
「あのっ…この前心配してくれたのに…手を払っちゃって…」
声を掛けてから、1ヶ月も前のこと今更かも…なんて思って口ごもってしまった。
鷹弥の顔を見たら優しく笑った。
「ごめんね!ありがとう…」
改めて日向がそういうと

「俺の言った通りだっただろ」
ってカケルがカウンターでドヤ顔していた。
「コイツ結構気にしてたぞー」と悪い笑みで続けて言うと

「言うな!」
といつもの表情に戻って鷹弥が言った。

日向は笑顔で答えてみんなのところへ戻った。

「ひな、笑ってて良かったねー」
カケルがニヤけて鷹弥に言った。
鷹弥は日向が来なくなってから心配で、いつ来るかと確認するようにbrushupに度々来ていた。

鷹弥は照れ隠しにムスッとしてカケルを無視した。

カケルはひたすらニヤニヤして鷹弥を弄って遊んでいると日向達のテーブル席がザワついた。

「えっ!どういうこと?」
「うそー!!!」
「マジか!」
みんなスマホの画面を見て口々に驚いた声を上げる。

カケルがテーブル席に目をやるとアキがテーブル席からカケルに言った。

「カケルちゃん!大変!LINE見て!」

ん?LINE??

カケルがスマホを確認すると同時のタイミングでアキが叫んだ

「店長、入籍したってー♡」

「は?」
カケルも慌ててLINEを開ける。

投稿してるのは茜だった。

『私たちごとですが先週入籍しました♡圭ちゃんがまだみんなに伝えてないそうだったのでココでご連絡させて頂きます。今後とも圭ちゃん共々よろしくお願いします♡今度brushupに連れてってもらいます!』

とご丁寧に結婚指輪をはめた二人の手の写真付きだった。

鷹弥がバッと日向の方を見たのにカケルが気付いた。日向はまたカウンターを背にしてて表情はわからない。
鷹弥が今にも日向の所へ行きそうでカケルは小声で慌てて止めた。

「今はダメだ!」

そうだ。きっと日向は我慢してる。それにもしかしたらすでに知っていたかもしれない。圭輔の最近の行動を考えると鷹弥が日向を心配したり、下手な態度をとったら、やっぱりなんかあったのかとみんな気付く。今まで誰にも言わずに耐えてきた日向の行動を無駄にしちゃダメだ。

鷹弥は「アイツ…」と今にもキレそうな顔で手を握ってグッと我慢した。

みんなリアルタイムでコメントしてスマホの画面はどんどん祝辞で増えていく。

「鷹弥、耐えろよ…」
もう一度カケルが言った。

「わかってる。…わかってるから見せて。」
と鷹弥は自分のスマホの画面を指でトントンとした。

「は?…えー…と…辞めた方がいいんじゃない?」
カケルはやんわり言う。

「いいから!」
もう鷹弥は怒ってる。

「…はぁ…わかったから…ブチ切れんなよ。」
カケルは諦めてスマホを渡した。

「…」
見てるだけで鷹弥の怒りがわかる。

また新しいコメントが増えた、と思ったら日向だった。

『おめでとうございます。』

それを見て鷹弥は立ち上がったが
カケルが止めてまた座った。

30分くらい時間がたっただろうか。
ザワついたり口々に話してたのが少し落ち着いた。
日向は全く場所を動かず相変わらず表情が見えない。

全く喋らなかった鷹弥が口を開いた。
「コレ、詳細決まったら教えて。」
と言ってスマホの画面を指す。

『brushupで結婚パーティしよ~』
というコメントに
『え♡いいんですかー?嬉しい!楽しみにしてます!』
と茜が返していた。

カケルは怪訝な顔をして
「お前…来る気?ひなが来るかもわかんないのに?」
と言うと鷹弥は

「日向は絶対来る」
と言い切った。

カケルはため息をつきながら
「…乱闘騒ぎだけはやめてね…」
と諦めたように言った。

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