バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

カケルと鷹弥

日向と鷹弥がトイレに向かうとすぐ圭輔が戻ってきた。

カケルはタイミング悪いな…と思ったが圭輔の表情はさすがにいつもと違った。

圭輔は「今日は帰る…」とカケルに言うと怒られた子供のような顔で
「カケルちゃん…ごめん…」と言った。

カケルは
「謝るのは俺じゃないでしょ」
と少し冷たく答えた。

圭輔は店を見回して日向がいないと思うと
「うん…帰るね…」
と店を出た。

みんなもなんとなく気まずくなったのか順番に会計を始めた。

カウンターに戻った日向を見て、声を掛けてみんな帰っていく。日向は笑顔で見送った。

みんなが帰ると店内は鷹弥と日向だけになった。二人の間のカウンターの席はやっぱり1つ空いたままだ。
トイレから帰ってきてから鷹弥は日向と話そうとしない。

「圭輔が謝って帰ったよ」
カケルが日向に言った。

「ん…」
日向は小さく返事をして、
「んじゃ私もそろそろ帰るかな。」
と言って席を立った。

「先に帰るとみんなが気にすると思って今までいたんだろ」
今日はカケルは直球で日向に言った。
日向は何も言わずうつむいた。

「たまには誰かに弱音吐けよ…」
お釣りを渡しながら優しく言った。

日向は「ありがとう」と言って店を出たがいつもの笑顔はなかった。

カケルは外の看板を下げて戻ってくるとカウンターの鷹弥の横に座った。

「何?」
カケルの珍しい行動に鷹弥はカケルの顔を見た。

「たまにはいいじゃん。今日は店の酒、二人で飲み明かすかー!」
カケルが言うと
鷹弥「明日からの営業どうすんだよ」

カケル「え、お前そんなに飲む気なの?」
鷹弥がフッと笑った。

しばらく二人で飲んで
「カケルはさー…よく見てよくわかってるよね…」
と鷹弥が言った。

「そりゃそういうお仕事ですから。…それに客観的第三者だからね。」
とカケルは言った。

「客観的第三者…か…それ言ったら俺は部外者だよな…ハハッ」
鷹弥が自虐的に笑った。

「そんな事ないだろ。もう1回言うけど…お前、なんとかしてやれよ。
あの時よりも気持ちあるんだろ?」

「…さっきさ…手、払われたんだ。」

(あー…トイレの時か)
カケルは思った。

「うーん…俺あん時思ったんだけどさ。」
カケルが言い出して鷹弥は
「あの時?」と聞く。

「ひなが泣いた時。多分あん時はまだ圭輔とこんな関係じゃなかったと思うんだよね。でさ、お前もどっちかっつーと俺と同じように客観的立場で見てたわけじゃん?お前客の事よく見てるからさ。」

「うん。そーだな…なんでアイツ(圭輔)なの?って思ってた。まぁ、それは今もだけど。」
鷹弥は少し機嫌を悪くして言う。

「あの時…俺が先にひなに声掛けてたらひなはきっと泣かなかったよ。」
カケルが言うと鷹弥は(なんで?)って顔でカケルを見た。

「俺ならさ、きっとひなに『どうした?』とか『なんかあった?』て声掛けてひなに言わせたと思うんだよね。」

「あー…」
鷹弥は想像して納得したような顔をした。

「そう聞いたらひなは話したと思う?泣いたと思う?」
カケルは鷹弥に聞いた。

「思わない。」
鷹弥はハッキリ答えた。

「そういう事!あん時お前はひなに問いかけるわけでもなく、我慢しなくていい場を自然に作ったんだよ。だから俺は何とかしてやれるのはお前しかいないと思うんだよね。」

カケルは続ける。

「あれから…お前とひなが何回か会った後かな…ひなが言ってたんだ。鷹弥の“無言”は落ち着くって。」
びっくりした顔で鷹弥はカケルを見る。

「多分ひなはお前といると落ち着いて素になるんだろうね。多分それが手を払われた理由。」

「は?なんでそこに繋がんの?」
鷹弥は意味わかんないという顔だ。

「だってさひなは今、圭輔とこうなって…きっと前以上に覚悟して周りも気にして気を張ってるだろ?」

「うん…」

「全部一人で抱えてさ、周り見て、気を遣って…今日だって殴られても泣きもしなかっただろ。」

「…」鷹弥

「圭輔とか関係なく、あの時泣いちゃダメだって思ってるひなにとって鷹弥は絶対甘えられない人だったんだよ。」

鷹弥は難しい顔をしている。

「大丈夫。鷹弥は部外者じゃないし、お前の言葉も態度も、ひなは信用してるよ。」

「はぁーーーー…」
鷹弥は深いため息をついた。

「おー、お前にしては珍しく苦悶してるねぇ…。でもさ、お前最近また人間らしく戻ってきたよ。」
とカケルは少し嬉しそうに言った。

「…ここ数年どんどん表情もなくなるしさ…俺いつかお前と会話出来なくなるんじゃないかと思ってたもん」

カケルが言うと鷹弥は
「それは言い過ぎだろ」
と笑った。

「でもそういや…最近カウントダウンしてなかったなー…」
遠い目で鷹弥が言う。

「そうか…もうそろそろか…」
カケルは言ってから気が付いた。

「ん…」鷹弥は遠い目をしたまま頷いた。

(そういやこいつも歪んだもん抱えてたんだったな…でも…もう大丈夫そうか…?こればっかりはわかんねーかー…)
カケルは自問自答した。

「俺今さ、お前が友達でよかったと思ったわ」
唐突に鷹弥が言う。

「はっ?今かよ!」
笑いながらカケルが言って鷹弥も笑う。

「録音するからもっかい言って♡」カケル。
「言うか!」鷹弥。

しおり