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ビンタ…痛いのは誰?

その日。
brushupにはいつものメンバーとカウンターには鷹弥がいた。

鷹弥と一食触発の一件があって、日向の家に来た後から圭輔はみんなの前でも構わずひなに執着するようになった。

家にも来る回数も増え、来たら必ず自分が来ない間に他の男が上がり込んでないか確かめたりするようになった。

始めはいつものチヤホヤした絡みだと思っていたみんなも何か違う…と思いだしていた。

「ねぇ。最近のあれって俺のせい?」
カウンターで鷹弥がカケルに言う。

カウンターの少し奥にあるテーブル席のソファでは日向の肩に手を回し必要以上に引っ付いて座る圭輔がいる。

「あー…まぁ…引き金になっちゃったんだろうねぇ…」
と言いながら続ける。
「あれからお前がいる時は特に、俺にもひなを近付けないようにするからな」
しょうがないな、というふうにカケルは答えた。

「彼女は?」
矢継ぎ早に鷹弥が聞く。

「…別れてないと思うよ。と言うか…別れないと思うよ。」
カケルが言うと鷹弥は呆れた顔でため息をついた。

「そろそろ周りも変に思ってるけど、今はひながうまくあしらってるから関係はバレてないみたい…圭輔が追っかけてるみたいになってるよ」
カケルが続ける。

「そもそも今までずっと圭輔の浮気癖を黙認してきてるメンバーだからわかっても彼女にどうこうするやつはいないと思うけど…ひなはさすがに気まずいだろうね。この前のBBQで女子メンバーは茜ちゃんともかなり仲良くなってたしな」

カケルが言い終わると鷹弥はまた無表情でだんまりになった。

すると鷹弥の横から圭輔と仲のいいケンがカケルに注文ついでにこっそり話しかけた。
「ねーねーカケルちゃん!アレどーなってんの?アイツ身近では絶対手ー出さなかったのに、アレ本気なの?」

「それ、俺も知りたいんだけど。」
カケルは呆れ笑いで軽くあしらった。

「だよなぁ。うーん…」と悩みながらケンは戻って行った。

「アイツ(圭輔)…何考えてんだよ」
鷹弥の表情に苛立ちが見えた。

ハァー…とカケルはため息をつきながら

「元々圭輔の愛情表現は歪んでんだよ。多分過去になんかあったんだろうけど、アイツが浮気繰り返すのは茜ちゃんを確かめてるとこがあったし、茜ちゃんもあんだけ浮気されても許すなんてどっか歪んでんじゃないかな…と俺は思うんだよね。」
カケルは続ける

「二人だけが理解出来る歪みの中にあったはずの愛情が、ひなが現れたことで圭輔の執着が今一気にひなに向いてるんだと思う。圭輔が身近な人間に手を出すのも、関係を彼女に隠そうとするのも初めて見たよ。こんな状況…俺…あの茜ちゃんが気付いてないとは思えないんだけどな…」

そう言ったカケルの顔を鷹弥はハッとした顔で見て片手で口を塞いで考え込むようにカケルから目を逸らした。

鷹弥は日向の状況ばかり気になって圭輔の彼女の立場を考えていなかった。

(もしカケルが言ったように彼女が勘づいてるとしたら…どういう行動に出る…?)
鷹弥はイヤな予感しかしなかった。

一方圭輔達のテーブル席ではカードゲームで盛り上がっていた。
一位であがった圭輔は
「トーイレっ♬︎」と席を離れた。

その隙にみんなの目が日向に向く。
「ちょっとひな、最近どうなってるの?ホントに店長に口説かれてるんじゃないの?!」みんなが聞きたい事を1番に口にしたのはアキちゃんだ。

「いや…いつものノリが過ぎてるだけじゃない?」
苦し紛れな答えだと自分でも思う。

「でもさー店長がこんなに女の子に執着してんの初めて見るんだよねー」
と悩むポーズでやっぱりアキちゃんは直球だ。

日向は耐えられず席を立ってカウンターにお酒を頼みに行った。
鷹弥の横からカケルちゃんに声をかける。
「ジントニックください」

カケルは
「OKちょっと待ってね。…ひな大丈夫?」
と最後の言葉はこっそり言った。

日向がハハッと愛想笑いをすると鷹弥が日向の方を見て話しかけようとした

「あのさ…」

鷹弥の声に被せるように
「あー!」
と言って圭輔が戻ってきて後ろから日向に抱きついた。
「ひながまた浮気してるー」
ふくれた言い方をしながら鷹弥を睨んでいる。

日向は焦って
「ちょっと!圭輔さん!ホントやめて…」
と言って圭輔をひっぺ返し引っ張って席へ戻って行った。

カケルは鷹弥をそっと見る。
表情は変わらないがかなーり怒ってる気がする…。

「えー…と…ひなのオーダー持って行ってくるね」

そっとその場を離れた。

カケルがカウンターに戻ると事件は起きた。

「ひなー♡俺1位だったからご褒美チューしてー♡」
と言って圭輔は日向に顔を近づけた。

「ちょっとっ…」
やり過ぎな圭輔に日向はビックリして思わず圭輔の頬を叩いた。
「ペチっ…」
そんなに強くはなかったが周りはシンッとして日向はしまった…と思った。
その瞬間だった。

「ちょっ…!圭輔っ…!!」

周りの焦りの声に鷹弥もテーブル席を見た。

「ベシッ…!!!」

圭輔が日向をビンタした。
圭輔のビンタは日向のよりもずっと強かった。

鷹弥は思わず身体が動き席を立とうとカウンターの椅子の背をグッと掴んだその時、日向が顔を上げて圭輔に向かって
「気が済んだ?」
とニッコリ笑った。

ハッと我に返った圭輔を
「ちょっとお前飲みすぎ…こっち来い…」
とケンが外へ連れて行った。

一瞬場がシンッとなったが
「ひな、大丈夫?」とアキが声を掛けると周りがみんな「今のは圭輔が悪い」「大丈夫か?」「止めれなくてごめん」とひなを心配する。

グッと手を握ってカウンターに座り直した鷹弥は圭輔に言い返した日向を思い出して
「ハハッ…気ぃ強い女…」
とボソッと言ってグラスに口をつけた。

「ここからじゃ止めようがなかったよ」
カケルは慰めるように鷹弥に言った。

テーブル席では心配するみんなを逆に日向がなだめると
「ちょっと…今日はあっちにいるね」
とみんなに言ってカウンターの方へ向かった。

「カケルちゃん…」
と日向が言うとカケルは来るのがわかってたのか
「座んな」と優しく声をかけた。
「冷やした方がいいよ…」と冷やしたおしぼりを手渡して、そこにひながいても不自然じゃないようにひなの前にビールを置いた。


圭輔を気にしてか鷹弥とは一つ席を開けて座った日向は
「空気悪くしてごめん…」
とカケルに言った。

「ひなが謝ることじゃないでしょ。」
カケルはまた優しく言うと日向は素直におしぼりを頬に当てた。

(あんな事されても周りの心配かよ)
鷹弥はなにも出来なくて不甲斐なかった。

日向がトイレに向かった。
圭輔はまだ帰ってこない。
鷹弥は日向を追いかけた。

カケルはため息をついた…。

日向がトイレから出ると
鷹弥が階段の壁にもたれて立っていた。
何も言わずに日向は鷹弥の前を通ろうとすると鷹弥は日向の手を掴んだ。

「ねぇ。大丈夫?」

日向は鷹弥と目を合わさないまま
「大丈夫…。」
とは言ったけど声は思ったより小さかった。

鷹弥はグッと日向を引き寄せて
「ホントに?…赤くなってる…」
と日向の頬に手を当てようとした。

日向はその手を払って、
「ホントに大丈夫だから!」
と階段をかけ降りていった。

(今鷹弥の言葉を聞いたら泣いてしまう…
絶対泣かない。)

日向はそう思っていた。

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