カケルの心の内
「勘違いじゃないから。」
そう言った鷹弥の言葉が後になって日向の頭の中でグルグルしてた。
(勘違いじゃない…えと…何が勘違いでどれが勘違いじゃないんだっけ…?)
もう日向の頭の中はパンク寸前だった。
圭輔…茜…鷹弥…
今晩はいろいろありすぎた。
結局その後は早々に解散になり、カウンターを見ると鷹弥の姿ももうなかった。
圭輔達はお会計をして先に店を出て、日向は一人カウンターに残った。
日向「カケルちゃん、もう1杯飲んで帰っていい?」
カケル「もちろん。喜んで。」
カケルはいつものスマイルで答えた。
カケル「ひなはイケメンにモテモテだねぇ…」
カクテルを出しながら言った。
日向「やめて、返しに困るから…」
と言って日向は大きくため息をついた。
日向「なんか…今日ごめんね、カケルちゃん。」
とひなが言ってカケルは驚いた。
カケル「いや、ひなが謝ることじゃないから!」
日向「でもさ…正直、あんなテンパってるカケルちゃん初めて見たよ。」
(あれ…この子にはお見通しかよ。)
と思うとカケルはバツが悪い顔をした。
自分の方がいっぱいいっぱいだろうに、そんな時でもこの子は周りを見るんだな…。
そう思って、ふぅ…とカケルは優しく息をつきながら
カケル「ひなはさ、多分…何も言わないんだろうけどさ。言いたくなったらいつでも言っていいんだよ。俺はなんでも聞くよ?」
スバっと言い当てるくらいしか日向の心の内は聞けないんだろうけど、やっぱりココは受け身でいるのが俺らしいだろうとカケルは思う。
日向「カケルちゃんはそう言ってくれるのわかってるから言わないよ。」
と言ってひなは綺麗な顔で笑った。
カケルは思った。
(この子は…周りの状況見て自分は誰にも本心を言ってないんだな。…もしかして…圭輔にも?)
と思ってさっきの圭輔の言葉を思い出した。
『ホントに言わないんだよ。俺…困らせてってお願いしたのにアイツはなんも言わない。いい女過ぎて困ってるんだけどね…』
(…て事は…ひなの気持ちに気付いてハマってるのは圭輔の方…?)
カケルは一人いろいろ考えて、コレはヤバいな…と思った。
カケル「鷹弥ってさ…エスパーなの?」
突然想定外の言葉がひなから出てきたのでカケルは驚いた。
(鷹弥…?)
カケルは笑いながら答えた
カケル「ハハッ…鷹弥かー…正直、アイツの事は付き合い長い俺でも何考えてんのかはよくわかんないな。」
カケル「でも言葉は少ないけど、アイツは自分に対しても相手に対しても正直だよ…。」
そう言うと日向はうん、と頷いて
日向「鷹弥の無言は安心する…」
とホッとした顔で言った。
その時カケルはこの二人は本当に似ていると思った。
自分の気持ちにはまっすぐ正直だけど、それを人に押し付けたり委ねたりもしない。だから言葉にもしない。
きっとひなは圭輔が気付いて行動しなければ何もするつもりはなかっただろう。
そしてこうなった今も誰にも救いを求めない。
(鷹弥…やっぱり何とかしてやれるのはお前だけなんじゃないか…?そしてお前にとってもひなが救いになるんじゃないか?)
カケルは心の中で鷹弥に問いかけた。