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どうしても会いたくない

圭輔と日向が初めて話してから半年が経とうとしていた。

「ねーねー。今度さBBQしなーい?」
と言い出したのはアキだ。
アキ「うちの店ね、年に数回日曜日お店休みにしてスタッフ全員でBBQしたり出かけたりすんの!」

日向「楽しそう!行きたい!!」
いつも圭輔とはbrushupでしか会えないから違う場所で会えると思うと日向は嬉しくなってしまう。

アキ「いつも店のメンバーなんだけど、今年は大人数で仲いい子色々呼ぼうってなってね。まぁ…うちの店の子は店長筆頭にほとんどココ来てる子ばっかだから、brushupの仲間内も一緒だと楽しいじゃん?」

本当に楽しそうで、その場にいたみんなが行く行く~!と盛り上がる。

アキ「店長ー!みんなBBQ行きたいって~」
少し離れたところにいた圭輔にアキが声をかけた瞬間、日向は圭輔と目が合った。
と思ったらすぐ逸らして素っ気なく
圭輔「おぅ。」
とだけ返事した。

日向は圭輔の態度に少し違和感を感じ
その態度の意味はその後のアキの言葉で明確になった。
アキ「あ、店長素っ気な~!まぁその日は店長あんまりハメ外して楽しめないからね~」
と言ってクスクスっと笑う。

日向「え、なんで…??」
圭輔の態度とアキの言葉の意味をなんとなく理解しながらも聞かずにはいられない。

アキ「その日は毎回彼女の茜さんも来るからね」

(…やっぱり。どうしよう…行くって言っちゃった。でも…)
日向はさっき圭輔にふと逸らされた視線にイヤな予感がした。
(きっと…圭輔さんは私の気持ちに気付いてる)
日向はそう感じてしまった。

日向「アキちゃん…そのBBQの日っていつ…??」

アキ「えっとね、来月の第2日曜日!ひな、日曜は休みでしょ??」

二人が並んでるところを目の当たりにして耐えられる?
むしろ挨拶とかするよね?できる?
それよりこの気持ちバレてるとしたら…

日向は頭が回らない。

日向「あ…その日仕事大詰めで休日出勤の日だ…。残念!行きたかったなぁー」
思わずついた嘘の割には明るく振る舞えたはず…とゆっくり息をする。

アキ「えっ?ひな来れないのー?」
周りからも口々に残念な声があがる。

日向(みんな、嘘ついてゴメン。でも…どうしても会いたくない。その覚悟はまだできない。)

日向は圭輔を好きでいられるだけでいいと覚悟していたつもりだった。“身近な女の子”の立場でいい、と。だけどそれはいつか“彼女”の存在を目の当たりにするかもしれない。そう思ってはいたけど、実際の二人を目の前で見ると思うと苦しくて、日向は突然訪れた難題に嘘で答えるしかできない事にみんなへの罪悪感を覚えた。

アキ「どうせ夜までダラダラ宴会してると思うし、終わったらここ(brushup)来るかも!だからひなも仕事終わったら寄りなよー!休日出勤てそんな遅くならないでしょ?」
優しいアキの言葉に日向は胸が痛くて

日向「行けたら行くね。連絡するよ。」
と言うしかなかった。

圭輔は…反応しないけど聞こえない距離じゃない。きっと聞いてる…と日向は思った。

その日圭輔はびっくりするほど日向に絡んでこなかった。
珍しく掛けダーツなんかして、負けテキーラを数杯飲んで結構酔っていた。

日向も気持ちがバレてたら拒否られるんじゃないかと思うと怖くて近寄れずカウンターでカケルとばかり話した。

圭輔「カケルちゃーん負けテキ3杯ちょーだい♡」
圭輔がカウンターにやってきた。

カケル「圭輔…ちょっと飲みすぎじゃない?うちとしてはありがたいけどちゃんと帰れんの?」

圭輔「は?俺が強いの知ってるじゃーん」
と言いながら日向の頭に手を乗せてぽんぽんっとしてから、テキーラ3杯を手にまた戻って行った。

カケル「今日あんまり圭輔と話してないね。」
圭輔が戻ったあとカケルが日向に言った。

じつは日向は圭輔と二人でカウンターで話した時からカケルにも圭輔への気持がバレてる気がしていた。
(必死で隠してるこの気持ち、じつはダダ漏れなんだろうか…)
日向は不甲斐ないな、と思うけど
言葉にするわけにはいかない。

日向「あんなに酔っ払ってたら会話になんないよ」
カケル「そりゃそうか。」
と言ってハハっと笑った。

しばらくすると圭輔は珍しく先に帰った。
「カケルちゃーん、さすがにヤバそうだから先帰るわ!店の子達よろしく…
またね…ひな…」
そう言ってまた日向の頭をぽんっとして圭輔は店を出た。
日向はこの圭輔の甘やかすような頭ぽんぽんがたまらなく好きだった。

圭輔と入れ違いに鷹弥が入ってくる。
「ひな、横いい?」
カケルに言われて鷹弥がカウンター席の横に座る。
鷹弥は相変わらず何も話さない。
でも日向は今はそれが心地よかった。

圭輔が帰ってからみんなも順番に解散した。日向はこの日のほとんどをカウンターで過ごして帰るみんなに挨拶した。
アキが帰り際コッソリ声をかけてきた。
「ちゃっかり無口王子の横ゲットしてんじゃん。今度話聞かせてね♡」
とニヤっと笑みを浮かべて帰っていった。
(あ、そういうことになってるのか…)
誤解でも頭が回らない今は有難いなんて日向は思いながらアキに手を振った。

みんなが帰ると一気に静かな店内になった。
鷹弥は相変わらず何も話さない。
カケルも今日はあまり話さない。
やっぱり気付いてるんだろうなー…
日向は思った。

“ただ自分が勝手に好きでいるだけ”
日向はそう思っていたけど、勝手に動揺して苦しくなってみんなに嘘をついて…
自分が情けなく思えて仕方なかった。

「ねぇ。」

突然何も話さない鷹弥が言葉を発したから横を見た。

鷹弥「泣きそうな顔してる。もう“みんな”いないよ…」

鷹弥は日向の方を見ることはなく
飲んでるお酒のグラスから目を離さずにそれだけ言ってまた黙った。

この男は何を知ってるんだろう。
何も知らずに言ってるんだろうか。
だったらなんで…
言葉がこんなにあったかいんだろう…

日向は涙が我慢できなかった。

カケルは見て見ぬふりをして
鷹弥は相変わらず黙っていた。

日向はしばらく静かに泣いて終電の時間だからと店を出た。

日向「ごめんね」

とカケルに言うと理由を言わない日向に
カケルは「気にすんな。」とだけ言った。
やっぱり日向を見ない鷹弥には何も言わずに店を出た。

駆け足で駅に向かう。
早く前を向かなくちゃ…

日向は零れそうな圭輔への想いにまた新しい覚悟をしなければいけないと思った。


brushup____。

「今日はもう閉めるわ」
客足も途切れたところでカケルが言った。
「んー…」と鷹弥。
(またそれかよ。)
とため息をつきながらカケルは言葉を続ける。
カケル「なぁ。お前何とかしてやれよ。」
鷹弥「お前がしてやれよ」
即答の鷹弥。
(ハァー…)またカケルの心の中でため息が漏れる。
でもその時、なんの事かわかってる鷹弥にカケルは密かに期待した。

カケル「男と女ってだけでややこしくなってるのに俺が入るともっとややこしくなりそうじゃん?」
カケル→バイ・セクシャル

一瞬止まってカケルを見た鷹弥。
鷹弥「ぷはっ!そりゃそうだ!」
珍しく爆笑してる。
カケル「お前って…黙って何でも見透かして…ホントやな奴ねー」
呆れたようにカケルは言った。

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