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確信犯は誰ですか?

brushupの最寄り駅から3駅。
徒歩5分の所に日向の家はあった。

(はぁー…泣いちゃうなんてやってしまったな。でもあの鷹弥の言葉はなんだったんだろ…)
なんて思いながら日向は
ぼーっと改札を出てコンビニ寄ろう…と前を見た。

日向「…圭輔さん…!」
(何で??)
改札前でペットボトルの水を肩手に壁にもたれてるのは間違いなく圭輔だ。
圭輔が日向に気付く。
「ひな!遅ーい!」
日向「え…だって…え?なんで??何してるんですか??」
酔っ払って降りちゃった?
でも何でココで?
日向は戸惑う。圭輔の家はまだもっとずっと先の駅のはずだ。
圭輔「ひな、今の終電?」
圭輔はさっきよりもずっと酔いは覚めてる。
日向「そうですよ。」
ホントこの人何してんの?
日向の頭の中は疑問だらけ。
圭輔「あー…じゃぁもう帰れなくなっちゃったなー。ひなが遅いからじゃん。どーしよっかなー」
え、ちょっと意味わかんない。
コレ…どうしたらいいの?
日向が戸惑っていると…

圭輔「ひなんち泊めて♡」
日向「はぁーーー????」
思わず日向は声に出た。どういうつもりなんだろう。いきなり一体何なんだろう?
日向はだんだん腹が立ってきて、無視して家に向かって歩き出した。
圭輔「ねー!ひーなー!野宿したら凍死する~」
日向「するかー!冬でもないのに!」
圭輔「だってさー今日あんまり話してないじゃん。もうちょっとひなと話そうかなーと思ってさー」
圭輔は甘える子供みたいな口調でペラペラと話し出す。
圭輔「あ、ひなの最寄り駅ココって言ってたなーなんて思ったら降りちゃってさ。
改札何個もあったらどうしよっかなーと思ったら1個だしー。んじゃココで待ってたらひなと会えるじゃーんて思ってさー…」
日向「…またねって先帰ったじゃないですか!またbrushupで会えるでしょう?」
圭輔「えー。冷たくない?家入れてくれても良くない?」
駄々をこねてる子供の相手をしてるみたいだと思いながら歩くと徒歩5分はすぐに着いてしまった。
エレベーターにも一緒に乗り込む。
圭輔「へー!ひなこのマンションなんだー。6階ね。ふ~ん♪」
この変なテンションは酔ってるから?ホントなんなんだろう。ていうかコレ、ホントにどうしたらいいの?
この人私の気持ちわかってるんだよね?
日向はテンパる心の声が止まらない。

部屋の前まで来てしまった…
日向は立ち止まる。
全く頭が回らない。
でもこの男を部屋に入れたらダメだという事はわかる。

圭輔「何してんのー?早く入ろーよー」
日向はドアに手をかけて開けれずに言葉にした。
「圭輔さん…もう…ホント一体何なの?どうしたらいいの?話って何…!」
ヤバ…泣きそう…って思った瞬間日向は後ろから圭輔に抱きしめられた。

日向(え?……)

圭輔「その話…今ここですんの…?
お願い…部屋に入れてよ。ひな…」
圭輔は切ない声で言った。

(今まで冗談みたいに話してたくせにそれは反則だよ、圭輔さん。)
日向は黙って扉を開けた。
沈黙のまま二人玄関に入る。

キー…バタン…
玄関の扉が閉まる音がうるさく聞こえるくらい沈黙が続いた。
日向は靴を脱いでリビングの扉を開けた。
圭輔も続いて入ってくる。
一人暮らしの1LDKの部屋ではすぐ横に見えるベッドが生々しい。
日向は開けっぱなしにしてた寝室のドアを冷静に閉めたが、頭の中はどうしたらいいのか混乱していて圭輔の方を見れない。

日向はいつものように時計や身に付けてるアクセサリーを外してチェストの上に置く。リビングの入口に立ったままの圭輔が先に沈黙を破った。

圭輔「ひな、なんでBBQ来ないの…?」

気持ちがバレてるとしたら、完膚無きまでに振られるのだろうか。もう話しかけて来ないで、とか言われたらどうしよう。
気持ちは絶対に言うつもりなかったのに…とかを考えてた日向はあまりの不意打ちの問いにビックリした。

日向「は?なにそれ…聞いてたんでしょ?仕事です!」
圭輔「うん。聞いてた。でも日曜だよ?」
圭輔が近付いてくる。
日向「だから休日出勤…」
圭輔「んじゃ終わったら来る…?」
圭輔は壁ドンの体勢になって、片手は日向の片腕を握って顔を肩にうずめてまた切ない声で言った。

圭輔「ひなが来ないと寂しい…」

そう言われて日向は急に冷静になった。
ドラマや漫画では胸がときめくようなシーンなのかな、とか考えたりしたけど、日向の心の中は違った。

(圭輔さんはわかっててやってるんだ。
ずるいな…この人。私の気持ちには応えられないくせに言わせようとしてるんだ…)
日向は少し沈黙した後口を開いた。

日向「きっと…その日は仕事が終わったら体調不良になるんです。だから行けないと思います…」
もうバレバレなんだからどんなにむちゃくちゃだって構わない。圭輔が欲しい言葉は絶対に言わない。
日向はそう思った。
圭輔「なにそれ…お腹でも痛くなる予定があんの?」
圭輔はフッと笑って言った。
日向「頭…かな…」
泣きたいのか笑いたいのか分からない声で答えた。

また少し沈黙があってから
圭輔はいつも触るように日向の頭を撫でてから髪を梳くってまっすぐ目を見て言った。
圭輔「…茜が来るから??」

その言葉を言われた瞬間日向は
あ……もう無理だ……と思って、観念したように涙が出る。
日向「ど…うし…て…どうして言っちゃうんですか…」
もう涙は止まらない。
日向「ごめんなさい…どうしても二人一緒にいるところを見る覚悟がないんです。
会わずに済むなら…まだ今は茜さんとは会いたくないんです…こんなこと言われても圭輔さんは困るのに…ごめんなさい…ごめ…なさ…」
堰を切ったように言葉がこぼれ出す。
言い終わる前に圭輔が突然日向を強く抱き締めた。
圭輔「…なんでひなが謝るの?悪いのは全部俺でいいから。全部俺のせいだから…だから…」

日向は頭が真っ白になる
日向(だから…?)
圭輔「……俺をもっと困らせてよ……」

日向(え…?どういう意味…?)
日向はまたも予想外の言葉に混乱した。

圭輔「ごめん…」
圭輔が耳元でボソッと言った直後顔が近付いて圭輔は日向にキスをした。

日向は一瞬驚いた。一度唇が離れ目と目が合う。でもまたすぐに唇が塞がれる時には日向は圭輔の背中に腕を回していた。

まるで恋人同士がするような
少しも離れてたくないような長いキス。

圭輔は日向の手を自分の顔に当てて
圭輔「ねぇ。ひな…俺のキスでひなは汚れちゃうかも…これ以上嫌なら逃げて。
でも逃げないならこのまま朝までひなの身体中にキスするから…」

(あぁ。また…こんなのズルい言い方だ。でも…もう逃れられない…一瞬だけでもいい…この男にどこまでも堕ちる)

日向「そもそも私、そんなにキレイな女じゃないです…」
そう言って日向は自分から手を伸ばした。

本当に映画のワンシーンみたいにキスを重ねながらお互い一つづつ服を脱いで脱がされて…ベッドに辿り着いた時にはお互いの素肌を確かめながらまたキスをして…

ただどちらも決して愛の言葉を口にしなかった。ただただお互いを欲しがった気持ちは同じ気がしていた。
これが“始まり”なのか“終わり”なのか…
そんな事を考えるのはあとでいい。

何も考えられないくらい頭が真っ白になったのに、どこか冷静に日向はそう思った。

多分これから先も言葉でこの夜の関係性を確認する術はないだろう。
でも日向は受け入れた。

大切な人がいる男に恋をしたどうしようもない自分と
ダメだとわかりつつも日向の気持ちを受け入れたこの男と
未来のない共犯者になる。

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