きっかけは突然に
圭輔達と仲良くなって少し経った頃
日向がbrushupに行くと珍しく圭輔がカウンターで飲んでいた。
日向「珍しい…一人ですか?」
カウンター席の横に座りながら言った。
みんながいる中で二人で話したりはあったけど、二人で飲むのは初めてで少し緊張する。
「おーひな。おつかれ。今日は集まり悪いみたいね」
圭輔がいつもの笑顔で答える。
本当この人の見た目は人を惹きつけるカッコ良さを持っている。
周りの女子の目線が痛いくらいだ。
「ほら、やっぱり女連れじゃん。」
「やっぱ美人が来たかー」
なんてボソボソ聞こえる。
(美人なんて…この人に「女」として見てもらえないなら意味がない…)
日向はそんな事を考えてると
「やっぱ綺麗だよなー。」
と横で圭輔が日向を覗き込むように見て言った。
(圭輔も聞こえてたのか)
日向は心の声が漏れたかと焦った。
「髪が!でしょ。それ初めて話した時も言ってましたよね」
日向は精一杯普通に答えた。
「髪もだけど…」
そう言うと圭輔は初めて会話を交わしたあの時みたいに私の髪を梳きながら続けて言葉にした。
圭輔「凛としてる感じ?美人だけど、佇まいとかさ…あ、この子綺麗だなぁ…って見とれる」
(え?何これ。)
日向はこんなシチュエーションには慣れてない。
「ぷッ!」すると突然圭輔が吹き出すように笑いながら
「でもさー仲良くなるとちょっと違うんだよな」と言う。
日向はドキッ…とする。
(思ってたのと違う…)
過去の男達の言葉が頭の中でリフレインして顔を上げられない。
圭輔「なんつーか…“美人”ってより“可愛い”って感じ?警戒心たっぷりだったくせに懐くとすぐ腹見せてくる犬みたいな?」
「はぁっ?犬っ?!」
日向は頭で考えてた事とは違う圭輔の言葉に思わず顔を上げてふくれてみせた。
「おーリスになったー!」と言いながら
「そうそう!なーんかヨシヨーシっってしたくなるんだよなー」と豪快に笑ってる。
(もう!犬でもリスでもなんでもいいからくちゃくちゃになるまでヨシヨシしてよ…)
日向は心の中で言った。
カケル「犬…わかるな。ハハッ。ひなはツンと大人ぽく見えるけど純粋で真っ直ぐだよね」
カウンター越しでカケルちゃんも会話に加わる。
圭輔「そっ。だから汚しちゃ行けないなーって思っちゃうよね。ドロドロしたのは似合わないっつーか…」
圭輔の言葉にドキっとする。
こんなどうしようもない男に想いを募らせて近くにいたい為に気持ちはひた隠しにて…本当はこの腕に抱かれたいと思ってる私はホントに純粋?
チクン…日向は少しみんなを騙している気分になってしまった。
カケル「そーだぞー。圭輔お前、ひなに手出したらこの店出禁にするからな!」
圭輔「出禁はやめて~笑!
カケル「出す気かよ!」
終始笑いながら話のネタにされてるけど隠してる本心が自分の中でチラチラして日向は気まずくなる。
(でもね。カケルちゃん。安心して。この人は絶対私には手を出さない。)
日向は心の中でカケルに言った。
日向は仲間内でのいざこざは避けるってわかってて望んでこの立場を手に入れた。
“身近な女の子”って立場になってわかった事ももう一つ。
この男は呆れるくらい最低男だけど
彼女以外の“本気な気持ち”に絶対軽い気持ちで手を出したりはしない。
カケル「そういや圭輔。ココ最近珍しく浮気のネタ聞かないね。」
カケルが圭輔に話を振る。
せっかくゆっくり話せるタイミングだったのにそのネタか~…と日向はガックリするけど、なんでも聞いてやる!と一瞬で腹を括る。
圭輔「うーん…なんか最近お腹いっぱいかも。笑」
カケル「まぁ…お前の場合別に自分から行ってるわけじゃないもんな。来るの相手してるだけで…あ、言っててムカついてきた。」
と笑いながら「あ!さてはついにお声がかからなくなったとか??」と言うカケルの言葉に
「それはない。」
キッパリ言う圭輔に呆れる日向とカケル。
「そもそも…何で浮気繰り返すの??」
ずっと感じてた疑問を日向はついに圭輔に投げかけた。圭輔の浮気癖は周知の事実でそれに関して突っ込む人はいなかった。
カケル「おっ!ひな直球~」
カケルが冷やかす。
すると圭輔は
圭輔「ひなちゃんはわからなくていいんですよ~」
と言って子供扱いしながら頭をくしゃくしゃにする。
誤魔化しながら一線引かれたような…
日向はそんな態度にちょっとムキになってしまった。
圭輔にボサボサにされた頭。
まだ圭輔の手は日向の頭の上だ。
日向は下から圭輔の顔を覗き込むようにその言葉を口にした。
「だって。圭輔さんて…彼女さんの事じつはめちゃくちゃ大事にしてますよね?」
一瞬圭輔の手に緊張が走った気がした。
日向は続ける。
「…私でもわかるくらい彼女さんの事大切に思ってるのに何で裏切るようなことするのかなー…って…」
日向は頭に浮かんだ事をそのまま言葉にした。
カケルは他のお客さんに呼ばれて日向たちの前から離れた。あとから、カケルの態度はわざと2人で話せるようにしてくれたのかも…と日向は思う。
圭輔はフッと笑って
「“私でもわかる事”…かぁ…」
とボソッと言って言葉を続けた。
「ひなは痛いとこつくね。」
と笑う圭輔の顔は日向の知らない大人の男の顔に見えた。
「実際そう思ってるヤツなんて少ないんじゃない?ココの仲間達にとっても俺は友達としては楽しいけど男としては最低だと思ってるだろうし、アイツの事も毎回裏切られて可哀想な彼女って思ってるだろうな…。大事にしてるなんて誰も思ってないと思うよ。実際は頼まれたって彼女になんかなりたくないって思うんじゃね?俺だって客観的に見たら俺なんかやめとけーって思うもん。」
圭輔は照れ隠しか、言葉の最後だけちょっと可愛らしくちょけた話し方に戻った。
日向「でも…」
この会話の先に自分にとって良い答えが返ってこない事は日向は十分わかっていた。でも何故かわからないけどこの日はとことん聞こうと思った。
たとえそれで日向が傷付く現実が突きつけられることになったとしても。
日向「でも!100%イイ人間なんているわけないと思うんです。表面上見えるか見えないかは別として、人間どっかに闇とかドス黒い物抱えてるもんでしょう?私は表面上取り繕って良く見せてる人より、少しくらい欠陥が見えてる人の方が信用できます。」
日向は言葉が止まらなくなったように言った。
圭輔「んー…て事はひなはこの浮気癖、“少しくらいの”欠陥って思ってくれんの?俺は自分でどうしようもない欠陥だと思ってんだけど」
諦めたように笑う圭輔にイラっとして
日向は横に並んで座ってるのに前のめりになって真っ直ぐ目を見て言った。
日向「だから!それを判断するのは私でも圭輔さんでもなく“茜さん”だと言ってるんです!」
日向の剣幕に圭輔は少しビックリしていた。
初めて彼女の名前を声に出して自分で凹む日向。だけど日向の言葉は止まらなかった。少しテンションを落として言葉を続けた。
日向「私は何も知らないけど…浮気癖に勝るなにかをきっと圭輔さんは彼女に与えてるんだろうなって。きっと彼女はそれがあればずっと離れずにいられるんだろうなって…なんだか勝手に思ってて…私みたいなお子ちゃまにはわかんない領域なんだろうな…と思うとちょっと羨ましくもなります。」
あ…しまった…
羨ましいは言いすぎた…
これじゃまるで半分告白したような…
日向は少し焦った。
圭輔「羨ましい…かぁ…。茜が聞いたら少しは喜ぶかな…アイツ“そんな男はやめとけー!”て言われ慣れてるからな。」
苦笑いしながら圭輔が言った言葉にやっぱり現実を突きつけられた。
告白したようなものだと思った私の言葉は圭輔にとっては彼女の立場で聞いた言葉になっていた。
「てかさ、ひなの中にもあんの??闇とかドス黒いもん??俺全く想像つかねーわ」
と言って圭輔は笑った。
日向は自分に話を振られてドキッとした。
(本当は…一度だけでもいい。あなたに愛されてみたい)
そんな事は絶対言わない。
これが日向の最大の隠した闇の恋情だった。