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ワルアガキな作戦

日向は不毛な恋が始まってしまった事を自覚していた。
(彼女がいる人だよ?浮気相手も沢山いる人だよ?最低だと思ったのに…)
何度自問自答しても圭輔が頭から離れない。日向は到底手に負えない相手に囚われてしまった。報われる事のない片思いだ。
そして一度自覚したらもう止められない事はよくわかっている。そして一度認めてしまうと“もっと知りたい”という欲が出てしまうことも。

日向は初めて話したあの日をきっかけに、会えば一緒に飲むようになり、苦手意識があった圭輔達とはすっかり仲良くなった。

仲良くなって日向は気付いた。
派手だと敬遠していた人達は、素直にその時々を楽しんでいるだけでみんないい人ばかりだった。派手で怖いと思っていた女子たちもみんな優しく、日向をすんなりと仲間内に受け入れた。
日向の事を『美人だ』と言って褒めたりもするけど、『美人だから“こう”だろう』と日向の中身を決めつけたりもしなかった。…というかむしろ逆。
『ツンツンしてんのかと思ったら慣れたら人懐っこいんだー』
とか
『じつは真っ直ぐで純粋なんだね』
と言って日向の“中身”を見てくれる人達だった。
苦手だと思っていた日向は自分自身が外見で判断していたことに気がついて、申し訳ない気持ちになったと同時に、この人達と仲良くなれて良かったと感じていた。

そしていつの間にか圭輔が呼びだした“ひな”が日向の愛称になった。

仲良くなれば良くも悪くも圭輔の事を前より知る事になる。

♬︎~(圭輔のスマホの着信音)
不機嫌そうに圭輔が出た。
「はい。え?誰だっけー?番号消したからわからなかったー!俺もう掛けることないしそっちもこの番号消しといてね。じゃー…プッ」

棒読みのように一人でスラスラと喋って切ってしまった。
絶対浮気相手だ!日向はそう思った。

不意に話し声を聞いてしまった日向は
「怖っ…!」
と思わず声が出た。
しまった!という顔をした日向に

「あ、ひな聞いてたのー?盗み聞き!エッチ!」
いつものおチャラけた圭輔に戻って言った。
圭輔「大丈夫。ひなには絶対あんな事言わないから♡」
そう言うと日向の頭に片手を軽く乗せてニコッと笑いながら圭輔はみんなの中に戻って行った。

圭輔が浮気をする相手は圭輔にとってただの通りすがりの女でしかない事を日向は改めて目の当たりにした。

わかってて自ら“通りすがりの女”にだけはならない。

日向はそう決めた。
だからこの気持ちは絶対に言わない、と。

戻ったはずのみんなの輪から少し離れて
壁にもたれかかった圭輔がスマホを手に少し愛おしそうな顔をした。
(あ…今度は彼女からだ…)
その圭輔の姿を見て日向はすぐにわかった。

「圭輔さん。今の…彼女でしょ」
日向は圭輔に近付いて少しいたずらっぽく言ってみた。

圭輔「そ。なんか家の近くの細い道でイノシシに会ったみたいでさ。逃げ場なくてどうしようかと思って横にあったマンションの階段に避難したら、イノシシ親子が振り向きもせず通り過ぎてったって。猪突猛進って言うけどホントにまっすぐしか進まないのかな?だってー笑。バカだろ?」
そう言いながら愛おしそうに笑う。
圭輔「そんな報告いらねっつーの!」

口悪く言いながらカウンターにオカワリを注文しに行った。

(でも、私見てたよ?ちゃんと返信してたよね。)
日向は仲良くなって気付いたことがあった。
(この男は彼女をちゃんと大事に想ってる)

日向には、大切な人がそばにいてどうして浮気を繰り返すのか…ちっともわからない。大事な人に裏切られてもなおそばにいる彼女の気持ちも。

(私がお子ちゃまなのかな…?)
日向は切なくなる。

普段チャラけて見せてるけど、圭輔は究極のテレ屋だと思う。調子のいい事は言葉にするけど、本心は絶対言わない。
遊びの場が減るからとか言って彼女をbrushupに連れてきたことはないらしいけど、多分それは…
彼女を大事にしてる自分の姿をみんなに見られるのが恥ずかしいからなんじゃないかな…
そんなことを考えながら日向は心がチクンと痛んだ。

初めて圭輔と目を見て話をした時日向はこの目に囚われてしまう…と危険を確信した。
圭輔への想いは圭輔を知る度増すけど
知れば知るほど手が届かないとも思い知る。“通りすがりの女”になる覚悟もできない日向は、身近でこの想いを温めることにした。
認めてしまった気持ちを消す事の不毛さは今までの恋愛でもよく知ってる。
それなら近くで知り尽くしてやる。
仲間内として過ごせるこのひととき。
この想いがいつか自然に消えるまでワルアガキでもなんでもそばにいよう。
彼女にも浮気相手にもなれないならせめて
身近な女の子として可愛がってほしい。
だってこの男は身内にはめっぽう甘いのを知っている。

愛して欲しいなんて言わないから
どうかめいいっぱい私を甘やかして…

日向は口にできない想いの変わりに、仲間内でいられるこのひと時だけでいいから傍にいたいと願った。

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