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危険な恋情

日向は不意に聞こえてきた会話に嫌悪感を抱きながらも、それ以降“圭輔”という人が気になってしまった。

そんな思いの中brushupに行けば、常連で誰とでも話す明るい圭輔の情報は聞き出さなくても勝手に日向の耳にも入る。

加藤 圭輔(カトウ ケイスケ)29歳。
この地域に数店舗あるうちの一つの美容院で店長を任されている。
確かに見た目はとにかくかっこよくて女が放っておかないタイプだろう。
圭輔の周りの仲の良い人達は同じ店の美容師だったりアパレル関係の人が多く、派手な印象も納得できた。

付き合っている彼女、茜は幼馴染で地元から一緒に出てきて同棲しているらしい。
なぜ浮気を繰り返すかは謎だが、圭輔に彼女と別れる気は一切なく、周りも別れる事はないだろうと思っている。

なぜこんな男が慕われるのか…日向にはわからなかった。でもわからないことほど気になってしまう。

ある時日向は圭輔の浮気の法則を知った。
身近な女には絶対手を出さない。後腐れのない女を選んでいるという事。
そんなところをカケルもわかっているのか、「浮気癖さえなけりゃなぁ~」と言いながら仲がいい。

仲間内に女関係は持ち込まない。
日向も圭輔がみんなから好かれる理由がわかった気がした。
いつの間にか、話したこともないのに圭輔の情報が日向の頭の中で溢れていた。

そんなある日、日向はいつも通りbrushupに向かうと店の前でちょうど入ろうとしていた圭輔達数人と鉢合わせた。扉に手を掛けた圭輔は
「いつもカウンターで飲んでるよね?」
とニコッと笑って扉を開けてどうぞ、という仕草をした。

日向「ありがとう…」
と小さく答えて会釈をしながら店内に入った。

初めて目が合った…
圭輔の情報が頭の中を駆け巡って日向は顔が赤くなった気がした。

一歩店内に入ったところくらいで後ろから別の人が声を掛けてきた。
「あ!この前ちょっとしゃべったの覚えてる??」
その問いかけに日向は前にカウンターでおひとり様同士で少しだけ話した人だと思い出す。

「覚えてます。」
日向がそう答えると

圭輔「え?何?お前話したことあんの??んじゃ一緒に飲もうよ」
ごく自然にスラッと言葉を発したのは圭輔だった。

日向が少し戸惑ったのも束の間
めちゃくちゃ自然な流れで同じテーブル席まで歩いていた。
(こりゃモテるよな…)
日向は心の中で思った。

「あれ?珍しい…」
オーダーを取りに来たカケルが日向を見て言った。
カケル「この子人見知りだからあんま怖がらせないでよー」
圭輔「カウンターの美女カケルちゃんに独り占めはさせないよ」
イタズラっぽい笑顔で圭輔が言う。
友達「そうそう!カウンターの子綺麗だよなっていつも言ってたんだよな」
周りも盛り上ってて日向は少し困る。

そんな日向の様子を見て圭輔は
「人見知り?」
と日向を覗き込んだ。
そして答えを聞く前に日向の髪を梳くって
「でもホントいつも見てたんだ。ねぇ。この髪俺に切らしてよ。職業柄疼くんだよね~こんな綺麗な髪…」
ハンターのように悪い笑でジッと日向を見る圭輔の目に日向は今度は気のせいなんかでなく顔が赤くなってるのがわかった。
(ヤバイ…私…この人に囚われる…。)
日向は瞬間的にそう思った。

「はいっ!オーダー言って~!」
カケルの一言に助かった。

あとから男女数人が合流したけど
その日はいろんな人と職業とか年齢とか…初めましての会話をして、「またなー」と言われて終わった。

彼女持ちで半端ない浮気癖を持つ男。
日向は史上最大の危険な恋の始まりに立っている自分に気付いてしまった。

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