新世代と停滞
創造主が交代しても、変わらず世界は創造される。基準となるのが旧来の世界なのだが、しかし新たな世界には穴は開いていない。
新たな世界に穴が開かなくなり、これで漂流物も減ったかといえば、そんなことはない。旧来の世界は既に無数に存在しており、そちらは変わらず世界に穴が開くのだから。
交代した創造主は、余程致命的な欠陥でない限り旧来の世界に手を加えるつもりはないらしく、世界の穴については放置されていた。
それとは別に、管理者間の争いもある。それにより流出するモノはそれなりにあり、最悪世界が滅びて全てが外の世界に流れてしまう。
存在の維持に割り振られている力が続く限りそれらは存在していられるが、外の世界を漂っていると、それだけでその力が奪われていくので、ハードゥスに漂着できるのはそれだけ膨大な力で存在を維持しているのがほとんどということになる。
さて、その管理者間の争いだが、これは新世界でも変わらず起きている。というのも、新しい創造主が競争心を創造した管理者に積極的に組み込んでいるので、それが元で争いに発展するという事態もそう珍しいことではないということだ。
ハードゥスの管理者であるれいにとっては、管理者間の争いなど無い方がいいのだが、れいも比較的競うことに寛容というか、推奨している節があるので、新しい創造主の思考も理解出来た。というよりも、大本が同じなので基礎的な部分が似通っているので、それもしょうがないことなのだろう。新しい創造主も、分身体のれいなのだから。
さて、そういうわけでハードゥスへの漂着物の量に関しては、ほぼ安定してしまっている。なので、現状の在庫が増え続ける事態というのも、今のバランスでは永劫的に続く可能性すらあった。もっとも、今後も何処かで漂着物を集めた一角の規模を拡張予定なので、このバランスもいずれ変わってくることだろう。
「………………」
技術というモノがある。それに適性というやつか。
ハードゥスには様々な人が漂着してくるが、その中には高度な技術を有している者も稀に含まれている。しかし、だからといってその高度な技術までその分野が発展するかと言えばそうとも言えない。
何事にも向き不向きというものがあるが、それとは別に適性というモノがある。
どれだけ丁寧に技術を教えられようとも、どれだけ理解していようとも、一定以上の高度な技術というのは適性が無ければ再現出来ないものが多い。
それでも全体の質の向上は行えるし、そこまでいけば高度な技術も手が届く位置まで下りてくる場合もある。もっとも、その頃には更に先の技術が完成しているのだろうが。
つまり何がいいたいかと言えば、造船技術が行き詰ってしまった。もう少しで遠海に出られるかもしれないという段になって、ついに技術の発展が止まってしまった。一部の天才がその先の段階に進めてはいるが、それでは人手が足りないので時間も掛かるし、数も造れない。周囲に指導もしているようだが、そちらは上手くいっていないようだ。
この辺りもまぁ、時が解決してくれるのだが、予定よりも少し早まったかと思った矢先の出来事だったので、残念感が大きい。それでもまぁ海が全てでもないので、全体で見れば何の問題も無いのだが。
だが、他の分野でも似たような現象は確認されている。中には技術の独占を目論む者も居るが、一時的に歩みが遅くなるだろうことは容易に推測出来た。
れいとしてはそこまで急いでいるわけでもないし、想定の範囲内の出来事なので問題ないのだが、管理補佐の中にはもどかしく感じる者が居るようだ。一応釘は刺しておいたが、注意しておく方がいいだろう。
そういった管理をしながら色々と様子をみてみたのだが、最近は特筆することは何も無かった。全体的に停滞期なのかもしれないので、れいとしては少しのんびり出来るかなとか思う。
普段見回りと称して散歩したりペットを愛でたりとのんびりしていそうではあるが、そんな日々に反して、れいの仕事は結構面倒なモノが多いのであった。