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君とみた最高の景色と奇跡

 プロフーグ
 もしこの世界で一番奇麗な風景が見れるとしたらあなたはその景色を誰と見ますか? 私は、私の人生を大きく変えたあの人 橋光笑輝。そのとき私は笑輝から大事な事を教えてもらった。私とは違って綺麗な光りを心の内側から放っている笑輝は私を救ってくれた。_______
 でもそれはもう叶わないことだと知っている 橋光笑輝は8年前この世を去っていたのだから。あの日に戻れるなら戻りたい。そして笑輝との最後の時間をもっと大事に使いたい。でもそんな願いを叶えてくれる人なんていない。でもいつかまたあのときみたいに笑い合いたい。そう願わずにはいられなかった。

 第1章 星の光とともに消えた君

8年前

この日は笑輝達と星を眺めていた。笑輝が「一生のお願い」といいながら頼んで来たから。別に私は嫌じゃなかったからいいけど。それに笑輝は両目とも、目の中に黒子があると言うある意味レアな目をめいいっぱい輝かして笑っていたからこんな楽しそうな所を見れたからいいと思った。
「ねぇ、この星はもう未来で死んじゃているのかもしれないんだよ。僕みたいに。」
「ふぅーんなら星は人みたいだね。ってなんで笑輝みたいなの?」
「そうだよかえの言う通り。笑輝は死んでないじゃん」
「そんなの間違えて言っただけかもしんないじゃん。決めつけたら可愛そうだろ」
「えーでもさー・・・・」
「ていうかなんで星は人なんだよ」
「え?それはね___」
このとき楓音はまだ10歳だとは思えない言葉を口にしたと思う。誰よりも優しく強い心の持ち主にしか言えない大切な事を。
「・・・・蓮、楓音。笑輝、寝ちゃったのかな」
「え?ほんとだ。笑輝起きて」
「・・・・笑輝起きないね。おーい!笑輝!」
みんながそう言って笑輝は返事をしなかった。ただ瞼を閉じたままその瞼が開く事はなかった。
「えか・・・が・・・?」
____________
「3月1日午前1時32分。橋光笑輝さん。ご臨終ですお亡くなりになりました。安らかにお眠りください。」
みんな泣いているなんで?笑輝くんはただ寝ているだけでしょ?
 あの頃の私はそう思いたかっただけなのかもしれない。___________

8年後の2月7日

「いってきまぁす!!」
 いつものように走っている通学路。でもあと数回走ればそれもなくなる。しばらく走ったら学校が見えてきた。よしまだ遅刻じゃなさそ・・
キーンコーンカーンコーン・・・
「え!?うそ!?」
おっと油断していて歩いてた。よしダッシュだ!あ、教室だ。
ガラ___
「雀燈!お前は高校3年なのに2月中はいつもぎりぎりの時間で通常の時間で来た時が少ないんじゃないのか?」
「すいません!」
ドアを開けた瞬間私への説教が飛んで来た。
「もう・・・授業つづけるぞ!でこのA地点がW地点に進むまでの距離の・・・」
キーンコーカーンコーン・・・
「はい!1時限目終了!」
みんなが先生が教室を出たのと同時に友達の席に行ってお喋りを始めている。その流れを見ていると私の親友の空咲日が私の席にきてうなだれた。
「がえーづがれだよー」
「まだ1時限目じゃん空咲日疲れるの早すぎー」
それからしばらく世間話をしていると2限目の始まりを告げるチャイムが鳴りみんなそれぞれの席に着く。
「はい!2時限目始めるぞー」
またいつもの日常が始まる_________
 放課後、私はいつもの場所に一人で向かった。空咲日は大学の勉強が不安とか言ってそのへんの図書館をはしごしている。その場所に向かっているときにダンボールの中に入っている三毛猫を見つけた。
「捨て猫・・・?」
首輪もついていなく野良猫とも考えたが野良猫がこんなに近くまで人がよって来ても逃げていかないのがひっかかった。
「お母さんがなんていうかな・・・こっそりかう・・?」
そっと呟くとその三毛猫はまるで「お願い家に連れて行って」というようなまなざしを向けてきた。
「じゃまたあとでくるよ」
 私は猫をおいてその場所に向かった。_______目的の場所につき手を合わせる。
____________笑輝これからも安らかに眠ってね___________
 そして一礼してその場から回れ右をして歩き出すそれからさっきいた猫のところに行き猫を拾い家路につく。
 家に帰って猫をこっそり自室にもっていく。そして猫に何か食べさせてあげようと自室を出ていこう とすると
「雀燈楓音ちゃん。」
びっくりして後ろを見ると、猫がこちらを向いて立っている。しかもなんか笑顔だし。
「いや・・・猫が・・・うん!今はなにもなかっ・・・」
「さっき喋ったのはあたいだよ。」
「へ・・・?」
「あたいを拾ってくれたおれいに何か三つの願いを叶えてあげるニャ。」
「えっといますぐ?」
「別に今すぐじゃなくてもいいよ。」
「ねぇあなたは何者なの?なまえは?」
「名前はミケ。何ものって言われても・・・」
「じゃまた今度でいいよ。」
「・・・うんありがと。」
 このミケの正体がわかるのはもっともっと日が経って2月が終わる頃になる。

2月8日

「ぎゃー!ちこくだー!いってきまぁああす!」
通学路を走っているとミケが宙をふわふわ浮きながら、ついて来た。
「なんでそんなに遅刻するのもっと早くおきなさい!」
「そんなお母さんみたいなこと言わないでよ・・・ってミケって空飛べるの!?」
「そうだけど。」
「あ、そうだ!願い事の一つ。学校まで毎日遅刻せずにつれって行って!」
「えーーしょうがないなぁ」
 どんなことをするのかわくわくしていたのがその言葉でわくわくがなくなった。
「時よ止まれぇー!」
ミケの一言でさっき動いていたものが固まった。空を飛んでいた雀、歩いていた人の足並み。全部止まった。
「さぁ走るニャ!」
「えー無責任だよー!」
「毎日そうしてあげるからー」
そう言われ渋々歩き出すとあることを聞きたいと思っていたものを聞いてみる。
「ねぇあなたは本物の猫じゃないでしょ」
「ふふぅん教えてあげない。」
「他の人からもあなたは見えるの。」
「見えない。」
 じゃあ本物じゃないと思うけどなぁと言おうとしたら、
「さぁ学校についたから時を戻すニャ。ほらあそこに友達がいるから。じゃ、ばいば~い」
そう言ってミケは消えた。
 教室に入ると間もなく担任の後久保先生が入ってきた。
「えー席に着けー1時限目始めるぞー」
また同じ日々が始まる。
 全部の授業が終わり、門の前で待っていたミケと一緒に家に帰った。
「ねぇ。」
「なに?」
「卒業式の前日って2月の28日だよね?」
「そうだけどどうしたの?」
「その日は予定を入れないでほしいんだけど」
「いいけどどうして?」
「楓音ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるの。あとその日はあたいが楓音ちゃんとお別れする日だから。場所はあたいを拾ってくれたところの近く。」
「分かった。予定、いれないでおくよ。」
そう言うとミケわは出会って一番の笑みを浮かべた。
 めずらしくミケが最後に「ニャ」をいれなかったことに違和感を覚えるがどれぐらい大切な事かがミケの顔で分かった。それと同時に3月1日という言葉を聞いて私は泣きそうになったからそれをごまかすようにして部屋を出て行った。

2月9日


キーコンーカーンコーン・・・

「はい!1時限目終了!」
先生が教室を出たのと同時に空咲日が来た
「かえ~どーしよー」
「なにが?」
「最近さ~那雪がさぁ私に冷たいから、なんとかしたいんだけど、どしたらいいか分からない~」
那雪とは空咲日の妹のことだ
「今、那雪ちゃん小2だっけ。いくら仲が良くても生意気になりやすいじきだよ」
空咲日と那雪ちゃんは10歳はなれていていわゆる年の差姉妹っていうやつだ。
「そうかな・・・まぁそうするしかないのかなぁ・・・」
「そうだよ。あ、じゃあさ、今度気分転換にどこか行こうよ。」
「うん。そうだよね・・・じゃあまた連絡するよ」
空咲日が落ちこんでいる時に教室の引き戸が開いた。
「はい。授業はじめるわよ。」
「空咲日。よかったじゃん。空咲日の好きなあの奇麗な顔した先生が来たよ。席について。」
「え~・・・うん」
空咲日が渋々席に戻る後ろ姿は何回も見てきた。
_____________________
授業が全て終わり、ミケと家に帰る。帰っている途中に空咲日からメールが来た。
『誘ってくれてありがとう。私も行こうかなって思ってきたから行こうと思う!3月13日の、10に駅前でどう?お昼はそとで!     Hanabi Kisaragi』
と言う物だった。
「ねぇミケ。13日に空咲日と出かけてきてもいい?」
「うーん・・・あたいもついて行っていいならいいよ」
「ついてきてもいいよ」
「じゃ10時頃駅だからね。」

2月10日

今日が高校最後の1日だ。うちの高校は、いちよう、2月のあたま頃から卒業休みになっているが、特別授業と代し、自由に授業に参加できる。それに、クラスの76%程の人が参加している。特別授業は明後日まであるが、私と空
咲日は今日までと決めていた。________________________
「ねぇ楓音達はさぁ今日から休み?」
授業が終わってすぐに、隣のクラスの私と空咲日の幼なじみの川野蓮が来た。顔もイケメンだし、スポーツもできて、おまけに背も高っくって、女子に人気だ。私は、興味ないけど。
「そうだけど。」
「じゃあさ、楓音、14日あの海の砂浜に来て。それと、今度どっか行こうよ。」
「分かった。それと、私たち13日、駅前のほうに行くんだけど、一緒にくる?あと一人ぐらいなら男子誘ってもいいと思うし。」
「え?!行く!じゃまた連絡するわ」
「ん。ばいばーい」
蓮と別れてすぐに空咲日が来た。
「かえ~いっしょに帰ろ。」
「いいけど、勉強はしなくてもいいの?」  
「うん!きょうは、いいの。たまには休憩しないとね。」
「そっか。じゃあさ、笑輝の所一緒に行く?」
「うん!行く!さしぶりに行くなぁ」
「あ、そうだ。蓮が、私達と一緒に出かけたいって。」
「え?そうなの?私はいいけど。かえはいいの?」
「うん。むしろ、空咲日がいいって言うかなって。それと、他の男子連れて来るかもって。まぁ細かい事は、連絡してくれると思うし。」
「んー分かった。」
Eの所とは、笑輝の死んだ海の所のことだ。私と空咲日しか、使わない。
「じゃあ、蓮に言っとくね。今メールで、送る。」
それから、どこに行くか二人で話ていると、わたしの、スマホが鳴った。蓮からだ。
『男子一人誘ったら行くって。何時に駅前?お昼はどうするん?         Kawano Ren』
「蓮行くって。男子一人誘うって。」
「んー分かった。適当に返しといてー。」
「りょ」
それから私は、蓮にメールを返した。
『10時に駅前。お昼は外で食べる予定~     Suzubi Kaene』
それからしばらく歩くと、Eの場所に着いた。
「ほんと、さしぶりに来たなぁ。笑輝久しぶり~!」
それから、空咲日は、私より先に、手を合わせた。なので、私も一緒に手を合わせた。
_______________________笑輝。いつも、見守っていてくれてありがとう___________________
「空咲日。そろそろ行こっか。」
「うん。そうだね。」
それから、しばらく歩くと私の家の前に着いた。
「じゃまた13日に10時頃駅前で。ばいば~い」
「ばいば~い」
空咲日と別れてすぐ、ミケが出てきた。
「楓音ちゃんおかえり。」
「ただいま。ミケ。
「今日は空咲日ちゃんと帰ってたね。」
「うん。まぁ。それより、家に入ろうよ。」
「あ。そうだった」
それから家に入って、自室に戻ると、話の続きに戻った。
「ミケ、私明日から休みだからね。高校。」
「わかった。」
それからどうでもいい話をして、夜ご飯を食べて、寝る支度をして、まだ8時だけど、眠りについた。



                              *           *           *

 雀燈楓音と橋光笑輝は家が隣の幼なじみだった。きっかけも特になく笑輝が単純に友達になりたいと思ったくらいだ。       
笑輝が空咲日や蓮と楽しそうに遊ぶ楓音に話しかけれないのをみた笑輝のお母さんは、笑輝に優しくこう言った。
「楓音ちゃん達とお友達になりたいんでしょ?だったら、笑輝が声をかけたら?」
「えっ!なんで!?」
「楓音ちゃんが言ってた。みんなが笑輝君とお友達になりたいって。だから、笑輝から声をかけたら楓音達ちゃん喜ぶとおもうよ?それに、みんなが声をかけてもらえるの待ってたらずっと笑輝が独りぼっちになっちゃうよ?」
「うん・・・」
お母さんにそう言われたら声をかけない訳にも行かないし、笑輝自身も友達になりたいと思っている。
 笑輝は思い切って声をかけてみる事にした。
「あ・・・あの!ぼ、僕も、い、一緒に遊びたい!」
「うん!一緒に遊ぼ!」
そう言って答えたのは楓音だった。だが楓音が言ったのはいいが、蓮が言った。
「ねぇいいの?空咲日ちゃんが嫌だっていう顔しているもん。」
「いいの!どうせ仲良くなるもん!」
楓音の言ったとおり空咲日は少し時間がかかったけど笑輝と打ち解ける事ができた。
 それからしばらくして楓音達はみんな同じ小学校に入学した。
 この町は田舎の方の田舎なので、あまり学校もなく人口も少ない。ちなみに小学校が2校中学校が3校高校は大体の人が県外に行くため1校しかない。
 でも、二つしかないクラスでもクラスが離れる事がある。楓音と空咲日が同じクラスで笑輝と蓮が同じクラスという結果になってしまった。
 それから2年が経ち笑輝と楓音は同じクラスになれたが笑輝は女子からの人気が多く二人は少しずつ疎遠になりかけていくが二人の友達の関係は壊れる事がなかった。そして疎遠になりかけたとき笑輝は気づいた。
______________僕は楓音ちゃんのことが好きなんだ_________________まだ2年生とはいえこの気持ちは本物だと笑輝は気づいていた。でも笑輝はわざとこの気持ちを口にしなかったいや、口にしてはいけなかったのかもしれない。

                              *           *           *

2月12日

 朝っぱらから手持ち無沙汰になった私は、空咲日がバイトが休みになったことを思い出し、空咲日にメールを送った。
『空咲日暇だったら今から遊ぼ。 Suzubi Kaene』
送ってすぐにメールが来た。
『暇だし遊ぶ~かえの家に久しぶりに行きたいな!  Kisaragi Hanabi』
私は空咲日に電話をかけた。
「もしもし?空咲日?今から遊びにくるの?」
「あ、別に無理ならいいんだけど。」
「いや、いいよ。でも今から家に帰るから時間がかかるかもしれないから、私の部屋で待ってじゃ。」
私は一方的に電話を切って自転車をとばしながら帰った。
 しばらく自転車を走らせると家に着いた。空咲日は家の前にはいなく、部屋にいるのかと思って部屋に行くと空咲日が部屋の私の机で勉強していた。
「空咲日帰ったよ。まった?ごめんね。」
「あ、かえお帰りさっき来た所。勝手に机借りてごめんね。」
「ぜんぜんいいよ。今から勉強する?」
「え!いいの?だってかえの進学するとこって専門だし、別にかえ勉強しなくてもいいと思うけど。」
「別にいいじゃん。さ、やろ。」
「うん!」
私は高校を卒業したら専門学に行くことになっている先生や親にはそんなばかでもいけるような所にいくなと言われていたが私はどうしても看護士になるために専門に行くことを志ている夢を壊したくなんてなっかった。
 勉強は一様得意だし大学に行ってもよかったがやっぱり幼い頃からの夢が私は1番大事だと思う。
「かえ~これの方式ってどんなやつだっけ。」
「え。ちょっと待って。この方式大学1年で習うもんなの?すごい大学だなぁ。ねぇ空咲日、この方式教科書に載ってるんじゃない?こんなめずらしい方式扱っている所あんまりないと思うけど。」
「え~教科書~?ちょっと待って。えっと・・・あ、あった!」
「もう・・・これからはちゃんと教科書を一通り見てから聞いて。もうほぼ社会人なんだからっ。」
「は~い。」
「ねぇやっぱやめよ勉強。大学生になっても友達と勉強なんかしてたら空咲日が独立できなくなっちゃう。」
「はいはい。やめよやめよ。ねぇ気晴らしに外でお昼食べよ。」
「いいけどまだ10時じゃん。」
「私も用意するからかえも用意して!」
「分かった。じゃいったんばいばい。」
「うん!ばいばい!」
私は空咲日を見送った後おもいっきり疲れがよし押せてきた。おもわずため息をしてしまった。
「楓音ちゃんどうして空咲日ちゃんといると疲れるの?楽しくないの?」
「あ、ミケ。私さぁ空咲日といるのはいいんだけど、なんか会話が続かなくって無理にだしたくない偽物の自分が出てきちゃうっていうか・・・空咲日と2人だけじゃなかったらそんな事ないんだけど・・・」
「それはきっと楓音ちゃんが優しいからじゃないいの?」
「え?どうして?偽りだらけなのに」
「それだよ。楓音ちゃんは空咲日ちゃんの心を汚したくないから偽りの笑顔を顔に貼付けてるんじゃない?じゃあ試しに空咲日ちゃんについたうそを言ってみて。あ、ごめん嘘じゃないか。」
「えっと・・・あ、空咲日の妹が空咲日に冷たいって空咲日が言ったときそういう時期なんじゃないって言ったけどきっと本当はなんか悩んでいるの知っているんだよね・・・」
「そうなんだね。でもそれはお姉ちゃんである空咲日ちゃんに心配をかけたくないからそういう嘘ついちゃったんじゃないの?」
「あ・・・そうかもしれない・・・わ、私空咲日に後であうからその時に謝っとくよ」
「楓音ちゃんが謝る必要はないと思う。だって優しい嘘なんだから。だからこれからはそういう事しないように心がければいいんじゃない?」
「うん・・・そっか・・・そうだよね!じゃ今から出かける準備してくるね。」
私はミケにそう言って出かける準備をした。準備にかかった時間は約20分程。準備が終わった頃、空咲日から電話がかかってきた。
「もしもし?空咲日どうしたの?」
『あ、かえ?ちょっと急な話なんだけど那雪もついてきていいかな?今から出かけるって言ったら私も行きたいって・・・』
「ぜんぜんいいけど。あ、もう私は準備が終わったからいつでも出れるよ。」
『あ、じゃあもう行こ!私も用意終わったから。じゃ今からかえの家の前で待っとくねじゃ。』
「ん。ばいばい」
ここからちょっと都会の方に行こうとすると私の家の方が近いからいつも待ち合わせは私の家という事が多い。そんな事を考えていると家の前に自転車が止まった。私は鞄を持って外にでた。
「空咲日達、自転車で行くの?」
「私達じゃなくてかえもだよ。こんな天気の日ぐらい自転車で行こうよ。」
「那雪ちゃん嫌がってない?」
「あ、私自転車好きだし全然いい!」
那雪ちゃんは空咲日に似て全然人見知りをしない明るい女の子だ。まるで姉に反抗している子とは思えない程。
「じゃ自転車で行くか。ちょっと待って・・・よし!行こう!」
私達は自転車のペダルを思いっきり踏んで自転車を進めた。風に吹かれて、おろしていた髪が風に乗って舞い降りてくる。
 しばらく自転車をしばらく漕ぎ続けると駅が見えてきた
「ねぇ何食べる?那雪ちゃんは何食べたい?」
「私は、なんでもいいよ。楓音さんは何か食べたいものとかないの?」
彼女は文末は敬語をつけないけど私の事を必ずいつも“楓音さん”と呼ぶ。楓音でもいいとは言ったが那雪ちゃんはいつも「こっちの方が落ち着くし、一様年上の人ですしね。」と言う。
「んー私はとくに食べたいと思うものないかなー空咲日は?」
「私、パン以外ならなんでもいいよ~今日の朝ご飯いっぱいパン食べたからね」
「じゃあ歩きながら決めよ。食べたいのあったらそこで食べよ」
「そうだね。あ!私さぁ最近焼き肉食べてないから焼き肉食べたいっ!」
「じゃあどこの行く?」
「んー那雪はどこがいい?」
那雪ちゃんが指定したのは至って普通のお店だ。でも普通と言っても普通を求めてやってくる客もそう少なくなくちょっと人気のお店だ。食リポには星4.5と言う好評価だ
「本当にいいの?ちょとぐらい高いところでもいいよ?遠慮しないでいいし。」
「いや、いい!あそこが私好きだから!」
那雪ちゃんのその一言で私達はそこに向かった。
 もうすぐそばにあったため、そこまで時間がかからないうちに、お店に着いた。店内は多くの客でにぎわっていた。私達は店員に人数を伝えるとすぐにテーブル席に案内してくれた。
「ご来店ありがとうございます。そのタブレットからご注文できるんで。困った事があったらその呼び鈴をならしてください。じゃ火をつけときますね。」
店員はそう言って火をつけて去って行った。
「ねぇ何食べる?」
「あ、私カルビ食べる!お姉ちゃんは?」
「じゃあ私タン食べたいなぁ」
「じゃあさこのセットのやつ頼もうよ。こっちの方が安いし、いろんなお肉あるよ?」
「じゃあそっちでいいか。いいでしょ?那雪」
「うん」
那雪ちゃんの了承をもらってタブレットにお肉の定食のボタンを押した。この定食はご飯やお味噌汁もセットで人数分運ばれてくれる優しいセットだ。
 注文してからしばらくしょうもない会話をしていると空咲日が言った。
「あ、そうだ。ずっと言うの忘れてたけど那雪、明日お姉ちゃん出かけるから留守番お願・・・あ、明日土曜日か。ま、お姉ちゃん出かける。それだけ。」
那雪ちゃんは信じられないという顔をしたものの、渋々と言ったように了承してくれた。那雪ちゃんが了承してくれたと同時に私達の頼んだ料理が運ばれてきた。
「これでご注文は以上ということになっていますが運ばれていない物はありませんか?・・・じゃあこれ領収書なんで。まだ注文する場合はタブレットからではなくそちらの呼び鈴でお願いします。ではごゆっくりどうぞ」
店員さんが厨房に戻るのを見届けた私は空咲日の前半の発言を聞いてなかった。
「・・・・にする?」
「え?ごめん。聞いてなかった。もう一度言って。」
「だから、支払い、割り勘でいくか、私か、かえが奢る。どっちにするかって」
「じゃあ割り勘でいこう」
「分かった!じゃ、焼こっ!」
空咲日はトングを持って四角の形に整えられた脂を網の上に置いた。それを動かしながら脂が溶けるのを待ってから、自分のお肉と那雪ちゃんのお肉を焼き始めた。
「あ、かえのも焼いてほしかったら焼くけど焼こうか?」
「ううん。大丈夫。ありがとう」
空咲日は自分だけという考えを持たない優しい女の子だ。私はそんな考えを持てないからとても羨ましく感じる時もある。でもその分人に優しくなれている気がしている。
 私はカルビをしばらく両面焼いてから自分のタレが入ったお皿に移した。タレをつけたカルビを口に運ぶ。
「ん!おいしい!」
そう思ったのは那雪ちゃんも同じだったらしくカルビを口に入れてから目を輝かせた。
「おいしい!こんなおいしいもの久しぶりに食べた!」
「タンもおいしい!」
それぞれが自分の思った事を発言していくうちにお皿の上においてあったお肉はいつのまにかなくなっていた。
「おいしかったー!じゃお会計でいい?もう1時だし」
もうこんな時間なのかとちょっとびっくりした。もう1時間はここにいたことが領収書を見て分かった。
 私達は席を立ち、お会計をしてそのお店を出て自転車にまたがって、ペダルを思いっきり踏んだ。自転車に乗ってしばらくして空咲日達と別れる所まで来た。
「空咲日、那雪ちゃんばいば~い。また出かけようね」
「うん!ばいば~い!」
「楽しかった!楓音さん、ありがとうござます!」
私は空咲日達と別れて家がある方に向かった。
 私はきっと酷い人だ。空咲日や那雪ちゃんは楽しかったって言ってくれたけど私は何にもいわずばいばいしか言えなかった。
 私も楽しかった。でもその感情を声にするのが私は怖いんだ______________________。
 
あれは中学の2年生頃。私は空咲日たちとは違う友達2人がいた。ある日その友達と休みの日を利用して遊園地に出かけた。そして思いっきり遊んだ後に帰ろうと出口の所まで3人で歩いた。そのとき一人の友達が言った。
「ねぇ楓音は楽しかった?」
「ん?私はとっても楽しかったよっ!」
「え?・・・そう?私は全然だった。なんかジェットコースターは微妙に遅かったしなんか絶叫系アトラクション全部なんか楽しくなかった。」
「あ、私もそう思った。__________楓音って変わってるよね・・・もう私、楓音と一緒にいたくない。だってこんな事知られたら私達が馬鹿にされるし。ね、そう思うでしょ香澄?」
「そ、そうだね。怜伽の言う通り。なんか楓音って見た目はスタイルもいいし、顔も可愛いけど中身が駄目だしなんかいやだ。・・・ねぇ、もう離れて。もう今から雀燈さんは赤の他人だから。じゃ私達行くね」
それがきっかけで私は私の事を評価したり、感想を言ったりするのが怖くなった。感想を言ったら嫌われる。ずっと友達だった人が離れて行く。そんな想像しかいつの間にかできなくなっていった。_______________
香澄達はこれから赤の他人とか言っときながら、その次の日から私をいじめるようになった。私は「どうしてもう赤の他人で変わっている私と離れないで私をいじめるの」と聞いたら「何言ってんの。赤の他人だからいじめてんの。知らなかった?私達は友達以外の大体のクラスメイトをいじめているの。それに変わり者には罰を与えないと。あーっはっはっは!」
まさか昨日までの友達がこんなに怖くてこんな酷くてヤバい奴だと思わなかった。私はこんな頭のおかしい奴にどう言ったらいじめをやめてくれるのか。でももう次第に中学2年生が終わり、クラス替えをして3年になる。そうしたらあの人達もいじめをやめるんじゃないのか。そんな淡い期待はやはり叶わなかった。私は3年生になってもあいつらと離れる事はなく、同じクラスになってまたいじめられた。あと1年。あと1年。それだけを頼りに教科書がぼろぼろになってても、3時間トイレに閉じ込められても、1年間で約12万奪われても、なんとかいじめに耐える事ができた。そして進路希望はなるべくかぶらないように高校を選んだ。別にしょうがなく決めた訳でもなく、たまたま私の行きたかった高校とかぶらなかっただけだ。私は無事その志望校に合格し香澄達と別れる事ができた。もういじめられない、きっと香澄達も、もう高校生になるんだから、いじめはやめる。私はその事を心の中で喜んだ。みんなが本物の自分に巡り合える。そう思っていた。でも、もう自分の意見が違っただけでいじめられ、心にぽっかり穴が空いた。だからもう自分の思った事を口に出す事はあまりしなくなった。

「楓音ちゃんどうしたの?考え事しながら自転車こぐのは危ないよ?」
「え?ミケ?いたんだ」
「うん。空咲日ちゃん達と別れてからしばらく経ってからここまで来た」
「そ、そう」
「ねぇ。楓音ちゃんには、消せない過去って言うのがあるんじゃない?違う?」
「・・・・・・あるよ。なんで分かったの?」
「それは秘密」
「じゃあお願い2。どうしてそんな事知っているの?それと空咲日の事前から知っていたでしょ?」
「う・・・どっちかに絞って」
「じゃあ空咲日の方」
「知っているよちょっと前に聞いたんだ」
「・・・・そう詳しく聞きたい」
「じゃあ家に着いてから」
「分かった」
ミケにそう言われて私はどうして知っているのか早く聞きたかったから今までよりペダルを踏む強さを強くした。
 
 しばらく自転車をこぎ続けていると家に着いた。私は自転車を車庫に入れて家に入ったお母さんはいないことはさっき車がなかった事から少なくとも把握している。
「ミケ、家に着いた。教えてよ」
「・・・分かった。ちょっと待ってて。5分後に部屋にいてね」
「分かった」
そう言ってミケは空気に溶け込まれるように消えて行った。
 私はミケに言われた通り自室に戻った。私はミケがいない間に焼き肉の匂いが染み付いた服を脱いで部屋着に着替えた。
 でもミケは5分経っても30分経ってもミケはこない。しばらくすると私に睡魔がやってきたからその流れに逆らう事なくいつの間にか眠りについていた。

             *                             *                           *
 
次に目が覚めた時には午後5時を回っていた。
「あ、起きた?ごめんね楓音ちゃん。なんで知っているか教えるために一度、天に帰ったら意外と混んでて・・・ごめん」
「ううん全然いいよ」
「夜ご飯できてるってお母さん言ってたよ夜ご飯たべにいこ。食べてからでもいいでしょ?」
「うん」
私は眠い気持ちのまま夜ご飯を食べてお風呂に入って歯を磨いたら、もうミケの話なんか忘れてまた眠りについた。




《空咲日の一言》
 最近調子が悪い。なんだか、かえとお肉を食べる時はそんなの忘れていたけど。最初に異変を感じたのは、2月8日だ。なんか、かえがふわふわ浮きながら三毛猫を連れてきた時ぐらいからだ。
私は三毛猫が浮いている光景が信じられなくて後ろにいた粟生川に思わず「かえの隣になんか視えない?」と聞いてしまったぐらいだ。しかも驚いたのは粟生川が「雀燈の隣には空気しかないだろ(笑)おまえなんか幽霊でも視えんのかよ」と言われた事だ。
 私は確信した。あの三毛猫は私しか視えないと言う事に。だから正直あの三毛猫のせいなんじゃないのかと思ったぐらいだ。でも私は信じなかった。三毛猫のせいだという確信に。言葉からすると矛盾しているようにみえるが、私は違う。だってあの穏やかで、自然な笑顔が浮かべれる人(いや。猫だ。)に裏があると思えない。かえに見せた笑顔。あの笑顔だけは誰がなんと言おうが私はあの笑顔を信じる。
 でも1つ引っかかる事がある。あの三毛猫は私の事を懐かしむような目線で見ている事だ。それで思ったのは、可能性は低いが私とあの三毛猫はどこかで会った事があるんじゃないのか。私は願った。いつかあの三毛猫と話したい。あなたは誰?どうしてかえの隣にいるの?と。どんなにあの三毛猫と会う条件が悲しくて、苦しくて、後に真っ暗な闇に突き落とされたとしても、会いたい。話したい。いや違う。私は会いたいんじゃなくて、会わなければいけない。だって、それが私に託された試練のように感じたから______________________。
 
 第2章 楓音の壊れかけた心

2月13日
 今日は私にしては早い朝7時に目覚めた。と言うよりは目覚ましがなったからだ。
「ふぁあ・・・・何時に駅集合だっけ・・・?」
私はスマホを起動させカレンダーのアプリを開いた。集合するのは10時頃となっていた。今の時刻は変わらず7時3分だ。今から10時まで全部用意で費やす事はないだろう。せめて1時間ちょいぐらいだろう。だから私は8時に目覚ましをセットしなおし、もう一度眠った。

__________ヴィーヴィーヴィ・・・______
 私はそんな鈍い音を立てながら細かく振動するスマホを捕まえた。もう時刻は8時11分だった。私は少しも焦る事なくその目覚ましを止め1階にあるリビングに向かった。いつもなら、お母さんが先に起きて朝ご飯を作ってくれていたりしたけど今日はまだ誰も起きてない。ただ、お母さんの代わりに机の上に一枚の紙が乗っていた。
『たぶん昼までに戻るから安心してね。いってきます。』
紙にはそう書いてあった。いつもそう。私のお母さんは朝から晩まで大体ずっと働いている。お父さんは私が小学5年生の頃に他界。そのせいでお母さんは生活費を稼ぎに出かけている。
 私は普通の事だと思い、冷凍庫にあった食パンを焼いて食べた。その後着替えをして、お化粧をしたら時刻はすでに9時40分を回っていた。私はゆっくりと家を出て徒歩で駅に向かった。もちろんミケと一緒に。
「ミケ一つ約束して」
「なに?」
「私意外の人にはミケとのやり取りは奇妙な光景なの。だからなるべく話かけないでね?」
「分かった気を付ける。」
私はつけてきた腕時計を確認するともう集合時間まであと5分だったから私は早足で駅に向かった___________が駅に着いた頃にはもうみんな既に到着していた。
「楓音遅いよ~なぎなんか集合の10分前に来てたんだぞ。ま、まだ後2分残っていたからいいけど」
「ごめ~ん。ま、いいじゃんちょっとくらい。さ、行こうよ」
 私達は駅のホームに入_______ろうとした。
「ごめん。ちょっといい?これってどこ行くの?」
そう空咲日が言った。
「あ・・・と、隣駅のショピングモールとかどう?」
「いいんじゃない?よし決定!さ、いこっ」
空咲日が先に駅のホームに入ってしまったので私達はそれを追いかけた。

 ここからが全ての不幸の始まりだった。不幸1。電車に乗ろうと改札に行ってIKOKAをかざすとお金が入ってなくて、チャージしようと財布から5000円札を取り出すと見事にチャージ機の下に入ってしまうということになってしまった。今日はこれから不幸の連覇を少しづつ話にそってあげて行こう。
 
なんとか無事に電車に乗った。
「かえドンマイ。そんな時もあるよ。もう忘れて遊ぶ事に集中しよ?そしたらきっと忘れれるから。ね?」
「おい、雀燈がそんな単純な理由で忘れる訳がないだろ」
「あ、ひどいっまぁ粟生川の言う事も分かんなくないけど。ていうか粟生川もさ、一様ずっと3年間ぐらい友達だったんだからさ、下の名前で読んであげなよ」
「いやだ。と言うか雀燈が嫌がるし、もっとテンション下がるかもよ?」
「あ、私粟生川に楓音って言ってほしい!そしたら元気になる。だって友達に雀燈って言ってくる奴いないもん」
「えー・・・・分かった。ていうかもうこの話終わり!雀燈も元気になったんだからさ」
「え~なんでよ。じゃ・・・・」
『電車が止まります。降りられる方は席をお立ちください繰り返します______』
「あ、もう駅着くって。降りよう」
「えー・・・ま、そうだよね。乗り過ごすと大変」
そう言って空咲日が立ち上がったので私達も一緒にその波に乗って電車を降りた。
 不幸2電車に大事にしていたキーホルダーをおいてきてしまった。でも私はみんなが楽しそうにしているのを邪魔できなくてしょうがなく忘れる事にした。
「ねー私おなかすいちゃった。なんか食べに行こうよ」
「え、空咲日ちよっと待って今まだ10時半だけど?」
「えーじゃあさゲーセン行って時間潰そ」
「いいよ。蓮達もそれでいい?」
「ん。いいよ。なぎもいい?」
「全然いいよ。行こ」
なぎとは粟生川の下の名前、汀から取ったニックネームだ。
「そうだね行こ」
そう空咲日が言ったので私達は最近あった何ともない会話をしながら歩いてた。
「あ、そうだ。ねぇ粟生川って彼女の香澄と別れたんだよね?女子の間では噂になっているんだけど。確か粟生川が振ったって言ってた。どうしてわかれたの?」
「うんそうだけど。だって香澄はあの女子校のいじめの大将なんだぜ」
「えっそうなの!?あんな可愛い顔しているのに・・・まぁ確かにいじめていますよオーラが出てるし、何度か香澄がうちの高校の女子いじめているって聞いた事もあったしね・・・・はい!もうこの話おしまい。暗くなっちゃったらたら嫌じゃん。しかも着いたし」
なんと都合のいい奴だと思った。ま、確かにこの話終わりにしたかったからいいんだけど。そして私はこの話を終わらせたいと思った自分を叱りたくなった。私が香澄にいじめられていたのは私だけの話で、みんなはこの話を知らない。だから、私がこの話を終わりたいのも私の勝手でただの自己中にしかならない。
「かえ?」
私は空咲日に声をかけられて我に帰る。そしてこんな事考えちゃ駄目だとかぶりを振る。
「かえどうしたの。ぼーっとして」
「いや。大丈夫。ちょっと眠たくなっちゃて」
「そう?ならいいけど。なんか悩んでるんだったら言ってよね」
「うん・・・・ありがと」
私は笑顔を顔に無理矢理貼付けて、本当に何もないようにした。それに安心したのか「大丈夫そうだし行こ」と言ってくれた。私はこの事を完全に忘れる程存分に楽しもうと思った。
 私達は入ってすぐにあるお菓子のクレーンゲームをやる事にした。最初は蓮が2回やっても何も落ちてこなかったので、次は私がやる事になった。
「かえクレーンゲーム上手だから一個ぐらい取ってね?」
「ちょっと空咲日。プレッシャーかけないでよ」
そう言いながら一番取りやすい位置にあったじゃがりこを狙ってアームでつかむと見事にじゃがりこの箱が持ち上げられ穴に落ちて取り出し口に落ちてきた。
「かえすごーい!どうやったらそうやってすんなり取れんの~?」
「えっと・・・ただ取りやすい位置にあったのを取っただけだし・・・じゃあ試しに粟生川がやってみなよ」
「は!?俺?如月がやれよ」
「え~私~?じゃあ粟生川がやってみてから。ね?」
「マジふざけてるだろ・・・・わかった。やるよ。でももし俺が取ったら如月がこのクレーンゲーム代払え」
「全然いいよ。だって粟生川がクレーンゲームやってるとこ見た事ないし」
「よし。じゃあやるぞ」
そう粟生川が言ってクレーンゲームに付いているボタンでアームを少しづつ動かしていると絶対にとれそうにない位置でアームを下ろした。
「ちょっと粟生川それ絶対とれない」
「うっせー黙ってみてろ。絶対取れるから」
私は粟生川の動かすアームの右端の先端がじゃがりこにあたり、じゃがりこが落ちてくる瞬間を目撃した。
「えー!?うそ!ほんとにとれてんじゃん!」
「だから言ったろ。絶対とれるって。如月、クレーンゲーム代返せ」
「んーじゃあ私の事も空咲日って言ってくれたら返す」
「分かった」
「じゃあ今空咲日って言ってみて」
「なぎ、からかわれないから大丈夫」
「は、空咲日?」
「なに?」
「いや、何っておまえが呼べって言ったんだろ」
「はいはい。そうでしたね。あ、もう10時45分だ!お昼・・」
「あ、カラオケでいいじゃん。歌いながら食べれるし」
「いいんじゃない?カラオケでも。蓮と粟生川もいい?いや、やっぱ粟生川じゃなくて汀っていう。いい?」
「いいけど」
「えーそれってどっちに対して言ってんの?」
「どっちにも。かわちゃんは?」
かわちゃんは川野蓮の名字の川野からとったニックネームだ。
「俺もカラオケでいいかな。よしじゃあカラオケ行こ!」
私達はショッピングモールから出て横断歩道をわたって少し歩くとあるカラオケに来た。
「あのーこれって誰が払ってくれるんですかね?」
「あ、割り勘?じゃんけん?」
「じゃんけんで行こう」
粟生川がそう言ったので私達はじゃんけんをした。
 私はパーを出して、空咲日もパーで蓮がグーで粟生川がチョキ。それが何回かシャッフルされながらアイコが続いた。結果的には蓮が負担する事になった。
「やったー!じゃあフリーコースで!」
「は?まじかよ・・・」
「ありがとうございます。では部屋は右に曲がってすぐの27番です。ごゆっくりどうぞ。閉店時刻は夜9時です」
私達は店員さんからカラオケの道具______マイクやデンモクなど_______を受け取ってから27番の部屋に入った。
「よし!じゃあなに歌う?誰からいく?」
「じゃあ・・・なぎから順番に時計周り。なぎいい?」
「んーいいよ」
そう言って粟生川は空咲日からデンモクを受けとり歌を選び始めた。粟生川が結果的に選んだ曲は男の人が歌う失恋ソングだ。その曲はある男の人が女の人に失恋して君の運命の人は僕じゃないと諦めるというものだ。でも最後は『ただ1つ確かな事があるとするなら君が奇麗だ』という相手のいい所に視点を向けると言うものだ。
 それを最近彼女を振った粟生川が歌うものとは思えないが、イケメンの彼が歌うとクラスの女子全員がいい意味で悲鳴をあげるであろう。
 粟生川が歌い終わると空咲日と蓮が拍手した。
「え!すごい!汀そんなに歌うまかったんだね!」
「は?なぎは元々歌うまいこと知らなかったの?でもすごいな~あ、そろそろなんかご飯頼む?」
「あ、いいんじゃない?何頼む?」
「ポテトとかでいいんじゃない?」
「あ、それから自分の欲しいの頼んで行こ」
「おい、俺が払うからって頼みすぎんなよ」
「ねぇ飲み物何にする?私コーラでかえは?」
「私はオレンジジュース蓮は?」
「俺ファンタのぶどう」
「じゃあカルピス」
「よし。じゃあ注文するね。汀デンモク返して」
「ん、どうぞ」
「えっと・・・はいできた。じゃあ次かえだよ」
「んー何にしよう・・・・」
私は悩んだ末さっき粟生川が歌ったバンドのドラマの主題歌にもなった曲を選んで歌った。
 私は歌い終わった瞬間に粟生川と同じように拍手に包まれた。
「かえうまーい!」
「楓音以外とおもっていた以上に上手」
「えへへ。ありがと。じゃあ次空咲日だよ」
「えー何歌おうかなー」
空咲日はデンモク操作が苦手なのか結構時間がかかった上で曲を選曲した。曲は少し前に流行った女の人が歌っている曲でその歌が元となって映画まで作られた有名作だ。
 空咲日は合唱部に入っていていたから歌がうまいとクラスの女子は噂をしていることがあるが、それがまさか本当だとおもったことはなかった。
「空咲日すごい!歌手みたい!」
「ほんと。なぎより上手かも」
「おい。おれは合唱部に入っていたとかじゃなくて普通のバスケ部だから、音楽系の全然得意じゃない。それより次かわちゃんだけどこいつよりうまく歌える自信はある?」
「ないけど、楽しく歌える自信はあるかな」
「あ、これデンモク」
「ありがと。んー何にしよう」
蓮が選んでいる間にドアから控えめなノックが聞こえてきた。
「すいませんご注文された品物を・・・」
「あ、ありがとうございます」
「ではごゆっくり」
そう店員さんが言って去っていった瞬間空咲日が言った。
「おいしそう!ねぇ食べよ!」
「そうだね。じゃあポテトいただきます!」
食べてみるとカラオケ店のポテトと思えないぐらいにかりかりしてて、中はジューシーなポテトが入っていてとてもおいしかった。
「これカラオケとは思えないくらいおいしい!」
「ほんとだ。こんな美味しいものが無料で食べれるっていいね。かわちゃんごちそうさま」
「どういたしましてー」
蓮はデンモクの中から音楽を選びながら興味無さげに答えた。
 蓮が選んだのは最近事務所を引退した、5人組の人気バンドだ。確か蓮は中学生頃から、この曲ばっかり聞いてたなぁと思い出した。そのグループが好きすぎて学校にそのグループの1番のヒット曲(ヒット曲かどうかは曖昧だけど)の歌詞を紙に写して持ってきたのは今でも覚えている。
 そんな事を思い出しているといつの間にか拍手が聞こえてきた。私は思い出を頭の中に思い浮かべていたから全然聞いてなかった。でもみんながすごいすごいと言うので私も拍手を送った。
 蓮が歌い終わったので、私と空咲日は今部屋をでてお手洗いに向かっている。
 不幸3これが今までで起きた不幸の中で1番やばい。空咲日が私が予想してなかったとんでもない事を言ってきた。
急に空咲日が立ち止まった。
「空咲日?どうしたの?」
「あ、あの、さ。えと・・・き、今日はと、とってもて、天気がい、いよね!」
「え、まぁうん。ねぇ言いたい事違うでしょ」
「・・・うん違う。あ、あのさかえ。ずっと気になっている事があるの。だから聞いてほしい」
「いいよ」
「あ、あのさかえの隣にずっとふよふよ浮いてずっと付いてきている三毛猫ってなに?」
「・・・・・っ」
「ねぇ教えて。それがなんなのか。分かんないとずっと嫌な気持ちのままなの!お願い!お願いだから・・・・」
「・・・・た。分かった教えてあげるから。そんな顔しないで」
「ほんと・・・・?」
「ほんとだよ。私が空咲日にそんな嘘ついた事ある?」
「ううんない」
「でしょ?だから信じて。その代わり私の言う事は本当の本当だから全部信じて。それがたった一つの条件」
「うんっ!もちろん!」
「ここじゃあれだから、このまま先に進んでトイレで話そ?」
「うん。そだね」
私達はそのままトイレに着くまで一言も話さずに向かった。
 私は着いてすぐミケの話をした。ミケがEの場所に捨てられていた事。ミケは、なぜか空咲日の事を知っていた事。空咲日は動揺したり、遮ぎったりせずに最後まで聞いたくれた。
「・・・・って言う事。今のところ全部話した。なんか気になる事でもある?」
「ううん。ないよ。でも1つ聞いていい?かえってなんでその“ミケ”って言う奴と出会ったの?」
「・・・・それは私もよく分かんない」
「そっか・・・・ありがとう話してくれて」 
「うん・・・・そろそろもどろっか」
「そうだね」
そう言って私達は部屋に戻ろうとしたが私の電話が鳴ったので2人立ち止まった。電話の主はお母さんのパート先のお店からだった。
「もしもし。雀燈ですけど・・」
『あ、楓音さんですか?大変です!今あなたのお母さんが倒れて意識不明の重傷です!今私救急車で病院に行っているのでこれから行く、国立総合病院に急いで来てください!おねがいします!』
私は背中に嫌な汗が伝ったのを感じて思いっきり走った。
「ちょっと!かえ!どうしたの!?」
後ろで空咲日が呼び止めようとするが私は今そんなのどうでもよかった。私は自分のいたカラオケの部屋に戻って鞄を取ってまた走り出した。
「楓音!どうしたんだ?帰るの?」
「蓮ごめん!また後で連絡する!まじで急いでいるから!」
私はそう言って走り出した。受付にいる人には会計は後の3人でお願いしますと言って走り続けた。ここから総合病院までは幸い電車1本だけで後は走れば何とかなる。計10分で着く。私は駅が見えてきたのでその駅に入り込んだ。私は人に何回もぶつかりながら改札を抜けホームに着いた。また幸いな事に丁度その病院の方に行く電車が停車したのでそれに乗り込んだ。
 私は吊り革に捕まってしばらく外の景色を眺めていたが、蓮達に連絡するのを忘れていたので蓮にメールを打った。
『急に出かけてごめんね。私のお母さんがさっき倒れたって言う連絡が入ったので指定された病院に向かっている所。たぶん今日はもう会えない。ごめんね    Suzubi Kane』
私はメールを打って携帯を鞄に入れた。そしてしばらくすると電車内にアナウンスがかかった。もう駅に着くと言う放送だ。
 私は電車の扉が開いたのと同時に走り出した。階段を駆け下りて、駅を出てしばらく道のりに走る。横腹が痛くなってきたがそんなのどうでもいい。私は走って、走って、ずっと走った。
 しばらく走ると、病院が見えてきた。でも私は走る事をやめずに走り続け、病院のドアをくぐった。私はやっと歩き出して、看護士に事情を説明してお母さんのパート先にいるお店の店員さんに会わせてもらった。
看護士の言われた通りの道を辿るとお店の店員さんの香織さんがいた。
「あ、こんにちは。雀燈です・・・・あの、お母さん、大丈夫でしたか・・・?」
「あ、楓音ちゃん。今、お母さんが倒れた原因を調べているって」
「そう、ですか・・・」
そえからしばらくして私達は医者に呼ばれ、誰もいない部屋に通された。
「あの・・・・私の母は、大丈夫なのでしょうか?」
「雀燈香奈恵さんは脳梗塞の初期症状と見られます。適切な処置をすれば、治る見込みがあります」
「そう・・・よかったね楓音ちゃん」
「うん・・・・」
「まぁこの一週間は入院になるので、準備をお願いします」
「はい・・・・・」
「これで大体の説明が終わりました。気になる点やご不明の点があれば説明しますが大丈夫そうですか?」
「あ、じゃあ質問なんですけど、どうして母は脳梗塞になったんですか?母はまだ40代前半で、高齢じゃないのに・・・・」
「香奈恵さんの、脳梗塞の原因はストレスですかね。香奈恵さんはいろいろなお仕事を掛け持っていたので、それが原因だと思われます。それに脳梗塞は高齢の方が多いと思われがちです。しかし最近の傾向として40代などの働き  
 盛りに人が脳梗塞と診断される人が目立ってきているんです」
「そうですか。今日はありがとうございました」
「いえ。また分かんない事があったらいつでもお聞きしますので」
「ありがとうございました」
私達は2度お礼を言って部屋を出た。私は香織さんと別れてお母さんの病室に向かった。私はエレベータで2階から4階に上がり長い廊下を歩いた。しばらく歩くと4人部屋の病室にたどり着いたのでその病室の扉をゆっくり開けた。開けると、1番奥の右側のベットで上半身を起こして隣のベットの人と仲良く笑っている。でも私に気づいたお母さんはこっちを向いてにっこり笑った。だから私は迷う事なくお母さんのベットに行けることができた。
「お母さん調子どう?今週1週間は入院だって」
「あら。ずいぶん長い間入院しないといけないのね。あ、こちらあなたの担任の後久保先生の奥さんの香苗さんって言うの。同じ読み方をする人と初めてあったからびっくりしたった」
「あ、こんにちは。後久保先生の元生徒の雀燈楓音です」
「こんにちは。さっき話をしていたんだけど、香奈恵さんが倒れるまで働いたっていうのを聞いたんだけど理由がよく分かったわ。だってこんなに可愛い娘さんがいるんだもの」
そういって私とお母さんは2人して顔を赤らめた。その様子をみて香苗さんは面白そうに笑った。
「じ、じゃあ私今からお母さんの入院の用意して持ってきてあげる。なにかいるものあるだろうから紙に書いて」
私はそう言って紙を差し出した。でもその紙はすぐに帰ってきた。紙には【お父さんも載っている家族写真と日常に不可欠なもの!】と書かれていた。
「お母さん本当にこれだけでいいの?」
「うん。お母さんの欲しいものはこれだけだから」
「そう・・・・じゃあ今から取りに行ってくるから。ばいばい」

 この『ばいばい』が最後になるだなんて私はこれっぽちも思ったりなんかしなかった。

 私は家に帰るため病院を出た。行きは普通に家に辿り着いて、荷物を私の修学旅行用のバックに詰めて早々と家を出た。
 病院に行く道のりを歩いていると電話がかかってきた。私は歩きながら電話をしだした。_______そんな事をした私に罰が当たったのかな。車が歩道に突っ込んで来た_________はずだった。車は私の本当に目の前で停車した。危機一髪と言うのはこういう事を言うのだろう。私と車の間は冗談抜きで手が一個分ぐらいしか入りそうにない程だ。私は全身の力が抜けて思わずその場にしゃがみこんでしまった。
すると電話口から『大丈夫!?今、車の急ブレーキ音が聞こえたんだけど!?』と聞こえた。私は今の状況を説明し、一刻も早く理解してもらって電話を切ろうとした。私は10分程一生懸命にせつめいした。そしてようやく分かってもらえたのか、空咲日は安堵の息を漏らして『よかった・・・・あ、お母さんの荷物早く届けてあげてねじゃ』と言って電話を一方的に切られてしまった。
 私はその後、運転手の若い女性に何度も頭を下げられた。私はずっとそれを止めようとしたが女性がやめる事はなかったため、私はまた後から来た警察官に空咲日と同じように懸命に説明し私はその場から駆け足で病院に向かった。が、駄目だった。
「あ、楓音ちゃん!今電話しようとしてた所!今香奈恵さんが違う病室に移ったの!それが、1人部屋でどんどん深刻な状況に・・・・とりあえず早く!」
私は病室の前にいた香織さんに連れられ違う病室に行った。しばらく行くとその目当ての病室まで来た。私達はお互いに息をのみゆっくりとその扉を開けた。
 扉の向こうは酸素マスクやベッドサイドモニターが付けられていた。看護士の専門学に入るために勉強した物の中で知っていた事がここにある。ベッドサイドモニターは死の危険がある人に付けられるものだと言う事だ。
「お医者さん!どういう事?お母さんの病気、治るって・・・・・」
「私もびっくりしました。香奈恵さんはほんの5分前までは元気にしていらしてましたし・・・・今私達も全力を尽くしながら原因を究明しています。全力を尽くさなければ原因が分からない程の容態急変なので・・・・本当に申し 
 訳ございません」
「そんな・・・・お母さん・・・・」
お母さんを見ればさっき見たより苦しそうに息をしている。私はそんなお母さんの手を強く握った。そして祈った。______お母さん生きて_____人間はいつか死ぬ。そして生死の別れが来る。でもだからといってその事をほっといてはいけない。人生とは自分のためだけの物じゃない。他の人とたくさん笑って、泣いて、時には助け合って。それで人生は成り立っている。もしほっとくと、みんなは他の人たちと楽しい人生を送っているのに自分は勝手に一人劣等感、罪悪感に包まれたった1度きりの人生が終わる。そしてその人生が終わった所でだれも悲しんでくれないかもしれない。だから私はお母さんとたった1度きりの、いつか死ぬ人生を少しでも長く楽しんで行きたい。その事を教えてくれたお母さんにもっと1度だけの人生を楽しんでもらいたい。今からでも遅くないはず。そう気づいたのはもう高校1年生だった。だから私はあの頭がいかれた香澄達からのいじめ沼から抜け出せる事ができた。
 祈りが通じたのかお母さんは重いまぶたをうっすらと開けた。
「お母さんっ・・・!」
「楓音・・・・ごめんね・・・お母さん、楓音とたくさんお話したり、遊んであげたりできなくて・・・・寂しかったでしょ?でもこれからそんなのよりもっと寂しいものがやってくるから・・・がんばって耐え抜いて。そして楽し 
 い人生を送ってね・・・・楓音、あなたが私の子供でよかった。大好きだよ楓音。それと、後もう少し生きていれば楓音の誕生日だったのにね。お誕生日おめでとう楓音_____」
お母さんはそう言ってもうまぶたを開けず、握りしめていた手は冷たくなり、ベッドサイドモニターは73だったものが70、63、45、20、3、2、1と、なり最後は0になった。こうして私の両親は2人とも天国に旅立ってしまった。そうやって呆然としている間に医者達はなにか忙しそうに機材を持ち歩いている。きっと今から本当になくなったかの確認をするのであろう。
 しばらくして結果がでた。
「今、雀燈香奈恵さんは息を引き取りました。よろしいですか?」
「・・・・はい」
「香奈恵さん・・・楓音ちゃん・・・」
「では、えー、2月13日午前11時18分雀燈香奈恵さんは息を引き取りました。ご臨終です」
「・・・・っ」
 不幸4もう私の周りには誰もいない。
私はそう思い枯れ果てていたはずの涙がこみ上げて来て目から涙と言う名の雫が落ちた。もうどんなにわめいても、どんなに泣いてもお母さんは戻ってこない。なのに私はこんなに泣いている私を見て今お母さんが目を開けて背中をさすってくれるんじゃないのかと期待してしまっている。お父さんも、お母さんも、大好きだった友達も、私は亡くした。なんで?なんで?なんで私の周りから私のずっと大切にしたいものが亡くなるの?神様も、仏様も絶対にいない。いるんだったら私は報われているはず。どんなに大切な人が亡くなっても、周りを心配させないためにできるだけ自然な笑顔を浮かべているのに。もう誰もいない。大切にする物もない。
 私は気力を振り絞りながらメールを打った。宛先は空咲日と蓮と粟生川のグループラインだ。いつもメールを使っているからメールのアプリを開きそうになったが私はラインのアプリをちゃんと開く事ができた。私は震える手でキーボードを打った。
『みんなへ。今私のお母さんが息を引き取った。急に帰ったりしたのになにもできなくてごめん。お葬式とかの細小はまた連絡するからお葬式出てくれる人がいるならできるだけ早く連絡して』
私はみんなにラインを送った後、後久保先生に連絡した。
「も、もしもし」
「雀燈どうした?本当なら今日休みで先生いないんだぞー』
「先程、母が息を引き取りまして・・・・うっ」
私は電話をしている途中だと言うのに思わず泣いてしまった。でも先生はそんなの気にも留めてくれなかった。でも今の私は泣いていることをほっといてほしかったから少し気持ちが楽になった。
『それはそれは。そう言えば雀燈はシングルマザーだったよな?家とか財産はどうするつもりなんだ?」
「まだ未定で・・・そう言うのってどこに相談すればいいんでしょうか?」
『あー先生もそれは詳しくは知らないからなぁ。まあ一番はWebで検索していっぱい出て来た中から一つ選んでそこに電話をかけるとか?ごめんこんな適当で」
「いえ・・・・・ありがとうございました」
『今日中ならまだ学校にいるからいつでも連絡しろよ』
「はい・・・ありがとうございましたっ」
『じゃあ切るぞ』
そう言って先生は電話を切った。
 私にはもう何も残っていない。そんな私が生きている意味なんてあるのだろうか?なんで私はこんなにも不平等で不幸な世界にわざわざ生まれて来たの?________死にたい________私はそう思った。私はふらついた足で病室を出た。途中で香織さんに「楓音ちゃん!?どこ行くの!?」と呼び止められたが私はそんなのおかまい無しで受付に向かった。受付に行くと机がたくさんあり、その一つ一つにメモ長が備え付けられている。
 私はそこで遺書を書こうとして一緒に着いていたボールペンを持った。なぜかもう死ぬ決心をしたのに未だに手先が震えてうまく字が書けない。それはきっと私の良心が死ぬ事を拒否しているからだと思う。それでも私はそれに逆い文字を書き続けた。そうしてやっと遺書はできた。
【これを拾った誰かへ
私は病院の屋上から飛び降りて自殺をしました。私には何も残っていない。だって両親2人ともは亡くなちゃったし、友達も亡くした。私はそんな世の中生きて行けない。せめて誰か1人いたら自殺なんかしなくてすんだのかもしれない。別に死んだ人たちを責める分けじゃないけど、私の大切な人、これから大切に向き合って行こうと思った人、全員亡くした。もうこんな世の中生きて行けない。それとこれを拾った誰かにお願いです。この遺書を私の連絡先にる空咲日っていう人に届けてほしい。私の携帯のパスワードは携帯カバーを外したら携帯にマステが貼っているのでそこに書いています。
 ここからは空咲日に向けて書きます。空咲日ごめんね。勝手に死んで。なんで死んだかって言うと空咲日は私の事心配したり気を配ってくれないから。私のお父さんが死んだときだって空咲日はそばに居てくれなかった。そのときの私まだ3年生だったんだよ?蓮が私達の橋渡し的なことをしてくれたからなんとかなれたんだよ。私のお父さんが死んだって噂になった時、みんなが私から離れて行った。空咲日だけは一緒に居てくれると思ったのに空咲日はみんなと一緒に私から離れて行った。じゃあね空咲日   雀燈楓音】
「・・・・っ」
私はもう死ぬと決めたのになぜか涙があふれて来た。なんで?なんで?もう決めた事なんだから!泣くなんてありえない!私はそう思うしか他に方法がなかった。私は意を決し、病院の屋上に続く階段を駆け上がった。
 私は今病院の屋上にいる。もう後1歩進めば私の頭は逆さまになりあの地面に私の体は強く打ち付けられ死亡が確定するだろう。後1歩進めばもう悲しまずにすむ?後1歩進めばお母さん、お父さん、笑輝に会いにいける?
死のう。私は手に持っていた遺書とスマホを私の隣に置いて私は大きく息を吸い込んだ。やり残した事はたくさんあるから後悔は大きいだろう。特に看護士になる夢だけは叶えたかった。この世の中には生きたくても生きられない人がたくさんいる。私はそうじゃないのに死ぬんだ。だって私だってそんな人たちを見て悲しんで来たのだから、ちょっとばかりのご褒美が欲しいんだ。だってまだそんな時背中をさすってくれる人がいるならいいけど私にはそんな人まで亡くした。本当は看護士になって私みたいな思いをしてもらいたくなくて患者さんの病気を治すお手伝いができたらいいなって思ってた。でももういいんだ。
「・・・・っ!」
私は少し後ろに下がり、そこからおもいっきり走り出した。そしてついに病院の屋上から飛び降りた。もうなにも考えずにすむ。意外と地面に着くのは早くってもう私は体中に鈍い痛みが走った。死んだ。そこで私の意識は途切れた。
 次に意識が戻った時は真っ暗な闇の中だった。
「ここ・・・どこ・・・?」
本当に私は屋上から飛び降りたと思えない程傷一つもなく、痛みも無くてまだ生きているんじゃないかと錯覚してしまう。でもここはただの真っ暗な闇の中だ。きっと私は地獄に落ちたんだ_________________

2月14日
『今日は2月14日です。時刻は・・・・』
私はその声で重いまぶたを持ち上げた。昨日よりも遥かに明るいこの地はどこだと思い、足に力を入れて立ち上がった。そこにはいろんな動物がふわふわ浮いていた。でもその中に猫はいなかった。
「あ、楓音ちゃん」
「ミ、ミケ?」
「なんで病院の屋上から飛び降りたの?」
「もう生きる事に嫌気がさしたから。お母さんもお父さんも笑輝も死んじゃったんだからっ!」
「あーそんな事だとお兄ちゃんが楓音ちゃんに怒っちゃうよ?」
「お兄ちゃん?」
「あ・・・・」
「ねぇ教えてよお兄ちゃん」
「・・・これは楓音ちゃんしだいかな知れるかは」
「私、次第?」
「うん。じゃあこの件は保留で。今から沢山話そ」
「分かった__________」
「じゃあ屋上から飛び降りて後悔していますか?」
「してない」
「ほー。じゃあもう一度だけ会いたい人っている?」
「お母さん、お父さん、笑輝」
「じゃあその人たちに会うために死んだの?」
「半分ね。もう半分は誰もいない世の中が嫌になったの」
「じゃあその会いたい人たちにあえて、その中の誰か1人が生き返ったら楓音ちゃんは後悔する?」
「・・・・・きっとする」  
「だよね・・・・じゃあ今から両親に会いに行こう」
「え?・・・・そんな事・・・」
「できるんだよね。さ、行こ?」
「うん・・・」
私はミケに連れられてあまりちゃんと言い切れる訳じゃないけど受付っぽい所に連れて行かれた。そして私は奇妙な発言を耳にした。
「あの・・・どちら様でしょうか?こちらでは猫以外でしか受け付けていないんですが・・・」
「あ、生存中死人代人リストの中にいます」
「えっと・・・あ、いたいた。名前は橋み・・・」
「あ、はい!それです!通ってもいいですよね!?」
「あ、はいどうぞ・・・」
「さ、楓音ちゃん行くよ!」
「え?」
私は受付にいた犬の言葉が途中からミケにさえぎられたのを不審に思っていたから少し動揺しながら言われるがまま雲らしき地面を駆けている。
「ねぇミケの名前はミケじゃないでしょ?」
「後で言う!あ、見えた!ほら」
「えー」
私はミケに言われて雲の切れ目の所からもう一個の雲を覗いた。向こうには、そこまで多くない人たちが受付に並んでいる。その中にお母さんの姿も見えた。
「お母さん!」
「楓音ちゃん!危ない!」
私はそう言えばここは雲の一番端っこと言う事を忘れて雲から身を乗り出していた。死ぬ。いや、もう死んでいるけど。でももう雲から真っ逆さまになる事は目に見えた。でも私の体はミケがしっかり受け止めていた。
「か、楓音ちゃん。早く雲の上に・・・」
「あ、はい!」
あまりにもミケが重そうにしていたので私は焦りながら雲に戻った。
「そんな重そうにしなくても・・・」
「もう!本当に重かった!だって三毛猫が専門学生を持ち上げるなんて普通不可能だから!」
確かにそれもそうだ。猫が人間を持ち上げるなんて非科学的だ。
「ごめん。ねぇもし落ちてたらどうなっていたの?」
「上を見て。沢山白いふわふわが浮いているでしょ?あれは行き場を失った生き物達なんだ。本当なら楓音ちゃんもあの中にいるはずだったんだけど、あたいが受付にいる犬に説明してあの人には行き場があるって言ったからなんとか大丈夫だったんだよ」   
「そう、なんだ。ねぇもしあそこにいたらどうなるの?」
「そこまで詳しくは分かんない。ごめんできれば教えてあげたいんだけど・・・」
「あ、そこまで気にしなくてもいいよ。で、どうやったらお母さんに?」
「あ、ちょっと待って。えっと・・・あった。これで雲の向こうに行って」
「え?このホウキで?」
おとぎ話じゃないんだからそんな事できるはずがないと思いながらホウキにまたがろうとするとホウキが急に動きだした。
「え!?何!?」
「これはホウキがその動物にあった乗り方に変わっているんだよ。楓音ちゃんは人間だからそんな細い所にのったら雲の下に真っ逆さまだよ?」
「そ、そう」
しばらくしてホウキが椅子の大きさになった。私が椅子みたいな座り方をすると、ホウキはゆっくりと前に進んだ。
「え!?待ってミケは?」
「ごめん!私は行けないの!だから好きなだけ話したら帰っておいで!じゃあね!」
「えー!」
なんでミケが行けないのか。私は何となく分かった。ミケはまだ生きているからだ。だってさっきの受付で『生存』と言う言葉を使っていたからだ。まだ確定した訳じゃないけど。そんな事を考えていると雲に着いた。 
 私はホウキから降りて、一目散に走り出した。
「お母さん!」
お母さんは私の声を聞いてこちらを見た。お母さんは私を認識すると大きく目を見開いた。まるで「ありえない」と言うような目で。
「お母さん・・・っ」
「楓音?」
「お母さん会いたかった・・・」
私はそう言うとお母さんに抱きついた。お母さんに抱きしめてもらったのは何年ぶりだろう。私も大人になってお母さんに抱きつくなんて言う行為は一つもやっていない。まだ大人じゃないけど。お母さんのぬくもりが感じられた事が私はただただ幸せだった。たった20分前なのにもう5年前から会っていなかった人に再会した感動が私にはあった。私はお母さんの腕の中で赤ちゃんみたいにずっとわめきながら泣いた。そんな私をお母さんは私の背中を優しくさすってくれた。私がお母さんが死んだ直後、後もう一度だけでいいからやってほしかった事だ。私はその事にも、感動を覚えまた大きな声をあげてないた。
 私が顔が腫れるまで思いっきり泣いた後、お母さんの腕の中から抜け出した。そしてお母さんは私の頭を優しくなでてくれた。私はその事でまた泣き出しそうになったが私は泣き過ぎだと自分に言い聞かせ、泣くのを精一杯こらえた。
「楓音どうしたの?なんでここにいるの?」
「・・・・死んだから」
「どうして?」
「病院の屋上から飛び降りた。もう誰もいないもん生きてても楽しくない」
「そ。じゃあお母さん行かなきゃだから。バイバイ」
「うん・・・バイバイ」
私はお母さんと別れを告げた後、またホウキに乗ってミケのいる雲に帰った。ミケは私と別れたあたりの宙をふわふわ浮きながら私の事を待っていた。
「ミケ。ただいま」                          
「あ、楓音ちゃんおかえり」
「お母さんには会えたけど他の人達のは会えないの?」
「・・・お父さんなら会えるよ。笑輝は楓音ちゃんの判断次第。じゃあ聞く。お母さんに自殺した事言った?」
「言った」
「じゃあお母さん言った瞬間素っ気なくなった?」
「えっと・・・」
私は思い返した。病院の屋上から飛び降りたと言った瞬間別れを告げられた事を。
「たぶん素っ気なくなったと思う」
「そうだよね。だって香奈恵さんは自分一人の手でここまで大事に愛情を注いできた娘にはきっと生きてほしかったはずなのに、楓音ちゃんはそれを裏切ったのと変わらない」
「私が、お母さんを裏切る?私がそんな事する訳無いじゃん。私だってお母さんに感謝しているのに」
「楓音ちゃんはそう思うかもしれないけど、香奈恵さんからは裏切られたと思われている」
「そんな事・・・ミケに分かる訳無いでしょ!?」
「わかるよ。私が物心つき始めた頃に家族を亡くしたって言う事、今でも覚えている。もうそんな事になるならどこに行くのも一緒になればよかったと後悔しているもん。それに後から知ったけどその家族は他の人の代わりに死んだんだ。だからもうちょっと私達の事を考えて代わりになってほしかった。なんか見捨てられたと思う気持ちもあって」
「・・・なんかごめん。勝手に私の妄想でミケにはこの気持ちが分からないって決めつけて」
「謝る事ないよ。だって楓音ちゃんはあたいよりいろんな人を亡くしているんだもの」
「・・・・」
「ねぇ死んだ事、後悔しているでしょ?」
「うんっもちろん。こんなに後悔するぐらいなら生きていればよかったと思っているもん」
「本当に?」
「本当だってば」
「じゃあ戻ろう」
「戻る?」
「うん。生きてる時に」
「え?」
「楓音ちゃんが死ぬ前に戻るから、2月13日だね」
「ちょっと待って!お父さんには会えないの!?」
「会えるよ。でも今じゃない時にね」
「そう」
「じゃあ行こう。目を閉じて」
私はミケの言われた通りに目を閉じた。その瞬間私の足下にあったはずの雲が無くなったように感じ、私は目を閉じたまま下に落とされた。しばらくして体中に痛みが走る。そこで私の意思は途切れた。

2月13日
「痛っ」
私は体に走る鈍い痛みで目を覚ました。
「ここどこ・・・・?」
私は布団らしき物に寝転びながらあたりを見回した。そして自分の家の自分の部屋と言う事が分かった。続いてカレンダー付きの時計を見ると時刻は11時27分、日付は2月13日だった。私は本当に死ぬ前に戻れたんだなと心の底から関心した。でも」私はまた眠気に襲われて眠りについた。

2月14日
今日は朝また早く起きた。そして私はある事を思い出し蓮にメールを送った。
『そういえば蓮。なんか今日なんか用事があるから来てって言ってたけど何時に行けばいい?   Suzubi Kaene』
そう蓮にメールを送って私は蓮に会うために準備をしようと、部屋を出て行こうと寝転んでいた体を起した。だけどそれはミケによって制止された。そういえば今日はミケの事を少し忘れていた。まぁ今日は今始まったばっかりだけど。
「楓音ちゃん。どこ行くの?誰に会うの?」
「ミケ邪魔。べつに誰でもいいじゃん」
「だめ。楓音ちゃんが言うまで離さない」
「ミケ本当にやめて。今から大事な人と会うから!」
「だから?今言えばすぐに行けるじゃん」
「・・・ざ」
「何?」
「うざい。ミケなんてやっぱり何も分かってない。ちょっと前までは自分もこういう事が会って楓音ちゃんと同じみたいなこと言ってたけどミケと私は我慢して寂しさに耐えて来た時が違うんだよ。ミケの方がまだ楽しく生きてた。そうでしょ!?そんな人に私のがんばってお母さんを少しでも楽にしてあげるためにアルバイトだってがんばった。それにお母さんがいない時だってなんで私だけっておもって泣いた事だってあるの!ミケはただ自分の経験から綺麗事を抜き取って並べているだけ!本当に苦しくって寂しい思いをしている人ならそんな淡々とした口調で自分の大事な人が亡くなった事を話せないんだよ!?そんな人に私の事を心配する権利なんてない!」
「・・・・」
「ほら、自分の都合が悪い時だけ何も言わずに黙り込んでさ、何も変わらないじゃん!」
「・・・め」
「何?いつもはうるさいのにこういう時だけ小声になるんだ?」
「お兄ちゃんのためだよ!お兄ちゃんは、生きている時楓音ちゃんの事をずっと横で幸せを願っていた。でも死んだ。だから私が代わりに、お兄ちゃんの代わりに楓音ちゃんの幸せを現実にするために私は今ここにいる。ただそれだけ!」
「本当にそれだけなの?だってミケは28日に言っていた事が沢山あるじゃん!私の質問の答えも、何も解決していない!」
「だからそれは・・・」
ミケが何か言おうとした瞬間タイミング悪くスマホが鳴った。私はミケを軽く睨みつけて画面を見た。蓮からで
『楓音の精神状態が大丈夫じゃなかったら別に来なくてもいいんだよ?  Kawano Ren』
というもので私はすぐに
『全然大丈夫。私の事なんか気にしないで Suzubi Kaene』
と返信した。するとまたすぐに蓮からのメールを受け取った。
『本当に大丈夫?大丈夫なら午後2時頃の砂浜だよ(笑) Kawano Ren』
と書いてあった。私は今度こそ無言で部屋を出て洗面所に行き顔を洗って鏡で自分の顔を見た。そして自分で思うのもなんだけど、とても不細工だ。きっとミケに反発ばっかりして怒りまくったからだと思う。私は大きくため息をついて部屋に戻った。そしてクローゼットから服を取り出しまた部屋を出た。今は一分一秒もミケともいたくない。だから私はリビングに行ってテレビを付けて録画の中からお笑いの物をだし、少しでもこの不細工な顔を直そうとした。そして私は朝ご飯を食べるために冷蔵庫から何かないかと探した。あったのは納豆と沢庵と鱈子だけだった。本当にそれだけでこの三つしかなかった。私はまたしてもため息をついた。なんで白ご飯がないんだと。もし野菜でなにか作ったとしても必ずと言う感じでご飯が必要になる。私はその辺にまだ硬い状態のお米がないかと探すと一様あったけどこれじゃあ一合も炊けないぐらいの少量だった私はしかたなくリビングに付いていたテレビを消して服を外着に着替えて家を出た。化粧をしてもいいがただそこら辺のお店にいってお米とかの食料を買いに行くだけだ。私は家を出て自転車にまたがりお店に向かった。まだ平日の朝10時頃と言う事もあり人通りはまばらだ。
 私はこのまえ空咲日達と焼き肉を食べに行った所方面に自転車を走らせた。しばらくするとコンビ二が見えて来たので私はそのコンビニの駐輪場に自転車を止めた。買う物は牛乳や食パンとかの簡単な物で終わらせるつもりだ。そして私はある事を思い出しスマホの連絡先に入っている母方の祖母に電話をした。お母さんが亡くなって死亡診断書を渡さなければならないのだ。そして今から今週中に渡しに行くと言う連絡をしなければならないのだ。私は祖母が
電話に出るのを待っていると少し時間が経ってから祖母の声が聞こえた。
『もしもし?楓音、ちゃん?どう、したの?いつもは、電話、しないのに』
祖母の声はとてもなまっていて喋るスピードは前よりだいぶ遅くなっている。
「うん。楓音。あのさ今週中にお婆ちゃんの家に行かないといけないの。それでいつがいい?」
『なんで、急に、来る事に、なったの?』
「・・・・お母さんが死んだの。それで死亡診断書を渡さないといけなくて」
『そう。楓音の、好きな、日で、いい、よ』
「じゃあ明後日でいいかな?それと明日お母さんのお葬式があるけど来れそう?」
『行きたい、かな』
「じゃあ私の住んでいる家覚えてる?」
『家は、覚えて、ないけど、駅は、覚えてる』
「うっ心配だなぁ。あ、お母さんの妹の花美さんと来たら?花美さんに家の住所送るから」
『そう、する』
「じゃあ詳しい事は花美さんにメールするから。じゃあね」
『うん、じゃあね』
そう言って私は電話を切った。まぁそこまで心配する事じゃないだろう。なんて言ったって駅は1駅しか離れていなくてしかも5分で着くから。
 私はスマホを鞄の中にしまい、コンビニに入った。自転車で来たので少し風が当たって寒かったが店内は暖房がかかっているのか、とても暖かかった。私は少し店内の奥の方に行き飲み物が沢山置いてある所に辿り着いた。その中から牛乳を取ろうとして手を伸ばし、牛乳に触れる少し前で聞き覚えのある声が聞こえた。
「牛乳ならここのコンビニで買うよりもう少し先に行ったスーパで買う方が安いよ」
「あ、香苗さん。お久しぶりです。入院の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。実は今日退院の日でね!」
「そうなんですか!?退院おめでとうございます!」
「ありがとう。そうそう、また本当は家に行こうと思っていたんだけど、香奈恵さん、亡くなっちゃったでしょ?それでね香奈恵さん言っていたんだけど香奈恵さんが亡くなったら楓音ちゃん一人になるって。だからせめてもの手助けと思って・・・」
そういって香苗さんは鞄からやや太い封筒を取り出した。私は意味が少し分かったのでそれをもらおうとしなかった。
「あ、大丈夫ですよ?」
「まぁ。気前のいい子ね。だからなおさら・・・」
香苗さんはそう言って中身の物をすこし出した。やっぱりと思い私はもっと拒否をした。
「本当に大丈夫なんで!私なんかにあげるより、香苗さんのお金なんですし香苗さんの生活費にしてください!」
「本当にいいから。別に後で請求したりしないから」
香苗さんはそういって微笑んだ。その中身とは約7枚ほどのお札だ。しかも福沢諭吉が見える物だ。私はとても悩んだ。こういう時お母さんならどうするかと。お母さんならきっと今はもらっておいてそれを倍にして返すだろう。私もその手で行こうと香苗さんに言った。
「あの・・・本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。一様人妻でちゃんとした世間の事は旦那から教えてもらっているし。旦那が先生をやっている事は楓音ちゃんなら当然知っているわよね?だって前初めて会った時、旦那が担任って言ってたから」
「じゃあ・・・大事に貯金しておきます。ありがとうございます」
「うん。遠慮しないでね?じゃあね」
「あ、はい!」
そう言って香苗さんと別れた私はコンビニをでた。さっき香苗さんがスーパーの方が安いと言っていたのでスーパーに行く事にしたのだ。私は何も買わずにお店を出る罪悪感に少し包まれながらお店を出た。私は駐輪場に向かいさっき止めたばかりの自転車にまたがり再び自転車を走らせた。私は何を買うか考えながら自転車を走らせた。でも前みたいに車に轢かれそうになるのは二度と御免だと思い自転車を走らせるのに集中した。すると意外に早くスーパーに着いた。私は駐輪場らしき場所に自転車を止めて歩き出した。私はスーパーに入ってすぐ左にあるかごを取った。入るとすぐに野菜売り場が見えて来たので私はその中から少し野菜も買おうと人参を2本と袋に3個入ったジャガイモを1袋だけ買った。そこまで来てこれはカレーの材料に似ていると思い私はカレーの材料を買う事にした。だから私は玉葱を2個と豚バラブロックを1つ、カレールーも買った。それと私はお米もない事を思い出した。さすがに自転車のかごにお米をのせたら不安定な運転で危険すぎる。私はすこし面倒くさくなるけど一旦野菜だけ買って帰って、今度は自転車を置いて徒歩でくる事にした。私は牛乳もかごに入れてレジに行った。合計金額はあまりこのスーパーに来なかったのでまだ沢山残っていたカード残高を使った。そして私はマイバックを持ってくる事を忘れた事に気づきプラス4円払ってレジ袋をもらった。私はそんな事もあり無事袋に買ったものを詰め早足でスーパーから出た。そして私は自転車のかごに袋を置いて駐輪場らしき所から出ておもいっきりペダルを踏んだ。私はまだ朝ご飯を食べていないのでとてもおなかがへっている。私はなにのんきにカレーを作ろうとしてるんだと質問してしまった。だって朝ご飯にカレーなんて朝からしんどくなりそうだ。
 しばらく自転車をこぎ続けると家に着いた。私は自転車のかごに乗せていた袋を手に取り家に入った。私はキッチンに行き冷蔵庫を開けて買った野菜を冷蔵庫に入れた。私はその作業をなるべく早く終わらせ時計を見た。時刻は8時で今からあのスーパーと家を往復すると計30分はかかる。それにお米を持って買えると40分はかかりそうだ。私は朝ご飯を食べ損なったとため息を吐いた。でももっとゆっくりしていると今度は蓮の約束に間に合わなくなるかもしれないので私は家を出た。家を出て思い出したけど、今度は徒歩で行くから自転車は必要ない事に気づきドアの前に止めておいた自転車を車庫に戻した。私は早足でスーパーに行った。
 スーパーに着いて私はついでに納豆も買う事にして納豆を手に取った。そしてしばらく歩くと一袋10㎏のお米が置いてあったのでそれを抱えながらレジに行った。私はまた同じ店員さんに当たってしまい、なんとなく変な目で見られていそうだったので私はなるべく店員さんの顔を見ないようにお会計をすませてスーパーを出た。天気は快晴。だが冬と言う事もありそこまで太陽は強く照りつけて来なかった。だがさすがにお米を前に抱えながら歩くと少し体温が上がって行く事が分かる。私は納豆やお米を落とさないようにゆっくり歩いた。そのせいで家に帰った頃には少し汗ばんでいた。最近は学校がなく、遅刻しそうになって走りまくっていたのが無くなって少し運動不足なのかもしれない。私は洗面所に行き手洗いうがいをしてキッチンに行った。私は納豆を冷蔵庫に入れてお米は一合分炊飯器に入れた。そのお米を何回か洗って炊飯器のスイッチを付けて炊飯のボタンを押した。後は炊飯器が鳴るのを待つだけなので特に何もする事が無くなった私はリビングに移動し、ソファーに寝転がった。本当は自分の部屋のベットの上で横になりたいけどミケがいるから行けない。私は手持ち無沙汰になりあたりを見回して何かないかさがした。最終的に見つけたのはDVDだった。そのDVDは外国のものだが、日本でもヒットしとても映画がうれたらしい。私はテレビを付けてDVDを入れた。
 
 どれぐらいの時間テレビを見ていたのだろう。私は炊飯器の音でテレビから目を離した。時間を確認すると9時10分だった。朝ご飯の時間でもなく昼ご飯の時間でもないこの時間に私は朝ご飯を食べるか悩んだが結局食べない事にした。私はテレビを見るのに少し飽きて来たのでテレビを消した。そして私は自分の部屋に続く階段を上りだした。別にミケと仲直りするために上っている訳じゃなくただ音楽が聞きたくなったのでヘッドホンを取りに行くだけだ。私はなんの躊躇いもなく自室の扉を開けた。
「あ、楓音ちゃん・・・」
「・・・・」
「楓音ちゃんってば」
「・・・・」
「ねえってば!」
「大声出さないでうるさいから」
「なんであたいが無視すると怒るくせになんで楓音ちゃんは無視するの?」
「・・・・じゃまどいて」
なんだか反抗期中の娘みたいな態度だったけど別にもう今はなんとも思わない。今はミケの存在をなかった事にしたいぐらいだ。私は自室を出てリビングに行きスマホにヘッドホンのコードをさしてつなげて音楽を再生した。音楽はランダムで流れてくるので何が流れてくるか分からない。
 しばらくすると音楽が流れて来た。それは私が少し前に作ったプレイリストの中の曲で元気がもらえる曲でもある。私はこの曲のサビの部分が大好きだ。半年程前に活動休止になってしまったけど。特に原因もなくトラブルが遭った訳ではないそうだ。私は初めてこの曲を聞いた時はいじめに遭っていて人に心を閉ざしていた時だ。だからこの曲のおかげでいじめに勝つ事ができて今この人生を歩めている。さらにはこの人達みたいに曲で世界を明るくしたいと思い歌手を志そうとしていたぐらいだ。
 私は久しぶりにこの曲を聞いて過去の自分を頭に浮かべた。何をするにも人任せが多くて、友達と行く所を決めるときも本当は行きたくない方を友達が選んだから私もその中について行っているだけだった。今はそんな自分を変えて堂々として自分は自分と言う風に生きている。だからあの高校に行けて、新しい汀と言う友達もできた。この曲は私の人生を変えてくれた、大事な大事な曲なのだ。この曲だけは誰にけなされても守り続けたい曲だ。そしてなぜか『守りたい』と言う単語で私はふとミケの事を思い浮かべた。なぜミケが出て来たのか分からないけどなんだかとても守りたい物に変わりなく思える。
 ・・・なぜだろう。今すぐミケと話したい。笑いたい。気がつけば私はヘッドホンをとって階段を駆け上がっていた。そして自室のドアを勢いよく開けた。
「ミケ!」
ドアが強く開けた衝撃で壁にぶつかって跳ね返って来た。私はそれをよけてミケの目の前に立った。
「楓音ちゃん?」
「ミケ。ごめん」
私はそう言って頭を下げた。そして結んでいなかったロングの髪が乱れて視界の隅が髪の毛で暗くなる。それでも私は頭を下げている。
「楓音ちゃん頭をあげて。楓音ちゃんは悪くない」
ミケはそう言ったけど私は頭をあげない。それに私が悪い。さっきヘッドホンを取りに来たときだってミケを無視したし、今日じゃないけど八つ当たりみたいな事もした。だから私が悪い。
「・・・・楓音ちゃん」
「ミケ。私がたいした事ない事で怒っちゃったからミケを嫌な気分にさせたんだよ?だから私が悪いはずだよ」
「でもあたいだって全部28日に言うって言って楓音ちゃんには何も言えてなかったじゃん」
ミケがそう言ってしばらくして私はゆっくりと下げていた頭をあげた。
「じゃあお互い様だね」
そう言って私とミケはふふっと笑った。そして私はもう一度ミケにお辞儀をして言った。
「両方悪かったけどもうこれ以上もめったっていい事ないし、もうこれからはいつも見たいにしようね?」
「うん。そうだね。楓音ちゃんがそれでいいとおもうならあたいもいいと思うよ」
「じゃあ・・・」
私はそう言って手を差し出した。ミケはそれを見て少し戸惑ったけど最後には手を差し伸ばしてくれて仲直りの握手ができた。この仲直りの握手は昔、笑輝が私とかの人と喧嘩した時に作ったものだ。私はその笑輝を思い出して少し泣きそうになったけど今はそれに勝てるように強くなろうとしているから今はそれをこらえた。
私はそう言えば炊飯器が鳴った事を思い出してミケに断りを入れてキッチンに行った。炊飯器の蓋を開けると一気に炊飯器の中に溜まっていた蒸気が出て来た。私はちゃんとお米が炊けている事を確認してシャモジとお茶碗を持って来てお茶碗の中に炊きたてのご飯を入れた。そしてそれをテーブルに持って行き冷蔵庫から取った納豆をご飯の上にかけていただきますと言ってご飯を1口食べた。よくよく考えればこうしてこの先ご飯を食べて行く事は可能なのだろうか。お母さんが死んで給料がもらえなくなって、貯金もなくなったらどうすればよいのだろうか。私はもうすでに看護学校の入学が決まっている。アルバイトという手も浮かんだがアルバイトだけでは生活して行けないだろう。私はそう思って行儀の悪いやり方だがご飯を食べながらスマホをいじりだした。検索ワードに時給のいいアルバイトと打ち込んで検索すると1番多かったのはお葬式会場の手伝いみたいな仕事だ。私はその画面を叩いて細小を確認した。
 結果としてこのアルバイトはいいと思う。時給もいいし、ここからあまり離れていない。学費は心配したけど2年間ぐらいだから貯金を少しづつへらして行けば何とかなると思いそのお葬式の会社に面接に行く事にした。そうして私はネットに書いてあった電話番号を頼りにそこに電話した。 さっき納豆を食べたせいで少しにおいが気になっていたが歯磨きをした後には少しにおいがましになった。私はもう一度2階に上がり化粧セットを持ってリビングに行った。本当は部屋でやってもいいんだけどなんとなくの気分でリビングに行きたかった。私はリビングにあるミニテーブルに化粧セットを置いてカーペットの上に座った。私はよく時間が余った時の癖で化粧をしながら歌を歌うと言う事をしてしまう。おかげで二つの事がいっぺんにできない私は化粧が乱れてしまう。その度にお母さんに「どっちかに絞ってしなさい!」と言われてたっけ。私はお母さんを思い出してまた泣きそうになった。今こうやって音楽を聞きながらお化粧をしてもお母さんの怒る声は聞こえない。私はその涙をグッとこらえた。もし今泣いたらきっと今日はずっと泣き続けるだろうから。
 私はお母さんの存在を頭の隅に追いやってお化粧を再開した。いつかお母さんの事を思い出しても泣かない日がくるのだろうか。でもそんな日は来てほしくないかもと私の心は矛盾していた。

「よし。完成」
いつもの倍の時間をかけてやっとお化粧を完成させた。お化粧は音楽を聞きながらやったので少し崩れていたりしてちょっといまいちだったけど私はそれを気にしないようにした。時刻は12時30分。お昼ご飯にしようとしたけど、あまり食欲がなかったからさっきの映画を見続ける事にした。

どのくらいの時間映画を見ていたのかと時計を確認すると1時40分。そろそろ用意をしないと蓮を待たせてしまうので白のトップスに黒のジーパンと言う何とも言えない格好にスニーかで自転車にまたがった。私はあの砂浜に自転車を走らせた。私は所々凍った地面を見て歩いてこればよかったと後悔したけどちょっと遠回りになる方は凍ってなかったのでそっちを通った。
 なんだかんだで砂浜に辿り着いた。蓮は大きな岩に座りながらスマホをいじって待っていた。でも私に気づくと笑顔で手を振ってくれた。私も笑顔になって手を振りかえした。そして少し小走りで蓮の所へ走った。
「ごめん蓮。待った?」
「大丈夫まだ1時50分だから。本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。後これ」
私はここにくるまで買っていたチョコを蓮に渡した。
「今日バレンタインでしょ?だからどうせあうなら渡したくって」
「・・・ありがとう。あのさ、今日呼び出してごめん」
「あ、全然大丈夫!何の用で呼び出したの?」
「・・・・だ。」
「え?なんて?」
「俺は楓音の事が好きだ」

 第3章 暗闇の中で輝く光
   
2月15日

「ふゎあ・・眠っあ
「ふゎあ・・眠っあケからの、置き手紙に気づいた。
『楓音ちゃんへ
 ちょっと出かけます。でも心配しないでね。お昼までには戻るから。』
今の時刻は、午前9時まだお昼とはほど遠い。私は、なぜか、いてもたってもいられなくなって、着替えてすぐ、靴もはかずに走り出した。
なんで?なんで帰ってくるって書いてあるのに、走り出したの?なんで、28日にあう約束をしているのに、走り出したの?分かんない分かんない。でも、なんだか、こんな、大雨の中、傘もささずに走っている自分が、まちがってなんか、いない気がしてきた。
そして私は気づいた。だれかを亡くしている時はいつもこんなふうに走っている。そんな気がした。お父さんを亡くした時だって、お母さんを亡くした時だって、それに、笑輝を亡くした時だって・・・私はそこまで考えて生暖かい雫が頬を伝った。それが涙だと言う事に気づくのにそう時間はかからなかった。お父さんが亡くなったときは病院が近かったから私の自慢の速足で病院に走った。お母さんのときだって部屋が移動した時思いっきり走ったし・・・笑輝だって・・・
「あっ・・・」
 ドサッ
私はそこまで思い出していた時思わずよろめいてこけてしまった。幸い転んだ時に手を地面でこすらせて傷ができた程度で済んだ。
 私はまたその傷をなかったかのように走り出した。さっき転んだ時の衝撃で足が痛くスピードは遅いけどどうしても走りたかった。このままだとミケもこの世から消えてしまう気がして______________
 私はそこら中走り回った。学校、駅、ミケが知っている所は全て回ったつもりだった。でもいなかった。私は頭を悩ませた。そして頭の中にふっと浮かんで来たのが、私とミケが初めて出会ったあの砂浜だ。私は走った横腹がとっても痛くても走った。やっとの思いで辿り着いた砂浜。そこにミケはいた。私のあげたオルゴールを手にもって。
「ミケ・・・」
私は足をふらつかせながらミケの近くに行った。よく見るとミケは泣いていた。
「ミケ・・・?どうしたの?」
「か、楓音ちゃん!?な、なんで!?午後には戻るって書いてあったよね!?」
「・・・・ごめん。不安だったの。私の周りの人が亡くなるときは私のいない所で亡くなってるし、なんの宣言もなくすんなりいなくなっちゃうから・・・・ミケの事、心配で・・・・」
「あたいこそ急にいなくなってごめんね。まさか楓音ちゃんをここまで心配させるなんて思ってなくって」
「ううん。大丈夫。ねぇ一つ聞いていい?」
「何?答えれたら答える」
「なんでミケは自分の事をあたいって言うの?普通に私って言ってる時もあるから気になってて」
「あー。天に行った時に受付の犬覚えてる?」
「うん」
「その犬に自分の事をあたいって言えって言われてて。だから本当は自分の事を私って言うんだけどあたいに変えたって感じかな」
「ふーん。なんでその犬あたいにしろって言ったんだろうね」
「さー。なんでだろう」
私はミケが何か知っている気がしたけどもう後少ししたら28日。ミケが全てを話してくれる。そう思った瞬間私の視界は大きく揺らめいた。そして激しい頭痛に襲われた。そして私は気が遠のいて行くのを最後に私は感じた。ミケの叫ぶ声。騒がしい人の足音。少し経って救急車のサイレンの音も聞こえた。あぁ。もう私は___。

《橋光 笑輝の一言》
俺はいつもこのベンチに座って地を眺めている。このベンチは眺めがよくここから見ると地で生きた人間の子供が公園で元気に走り回っている。ここが暗くても地は昼間。ここがどんなに景色が変わらなくても地は1秒1秒景色は変わる。それは天から見る人間じゃなくても分かると思う。さっきまであそこにあった雲が風に吹かれてあそこにある。ずっと見てても飽きない地の世界。生きている事はなんとも思っていなかったあの世界がこんなに綺麗に輝いている。夜になっても海や湖、池でさえ星の輝きが水面に映って綺麗に見える。
 早く見てみたい。あの奇麗な世界であのきれいな景色を見たい。そして楓音と一緒に後1回でもいいから10年前のあの頃みたいに星を眺めたい。早く君に会える日を願い、待っている____

2月18日   如月空咲日
かえ。目を覚まして。私をいつまで1人にするの?那雪も蓮も汀も待っているのに。私だって心が苦しいのに。いつまで寝てるの?心臓が痛い。頭も痛い。ねぇかえ起きて。目を覚まして笑って。目を覚まして私の話を聞いて。
 かえが倒れた日は香奈恵さんのお葬式だった。私は何も知らないまま着慣れない喪服を身に包んでお葬式場にお母さんの運転する車で那雪と一緒に向かっていた。するとその最中に私のスマホに1本の電話がかかって来た。私はなんの躊躇いもなく電話に出た。するとそれはかえが砂浜に倒れたと言う物だった。救急搬送されて危ない状況で今すぐ来てほしいと言う物だった。私はお母さんにその病院に連れて行ってもらった。そして走りにくい喪服のまま病院の廊下を走り回った。そしてかえの病室の前に来て絶句した。かえからは細い管がのびていた。私には何の知識もないけど本当に大変だと言う事は理解できた。そして私は病院の閉館時間1分前までかえのそばにいて病院の開館時間の5分前には病院の入り口の目の前にいた。
 そして今に至った。相変わらずかえは目を覚まさず私は心臓が痛い。でも心臓が痛いのはかえのずっとそばに居て疲れているからと言う事にしよう。那雪はなんだか私を見るたびに泣きそうな顔をしたり、本当に泣いたりしていて私はとても不安だ。その疲れもあわせて頭も痛い。今にも倒れそうな程。寝不足も続いていてもっと頭が痛くなる。1度楓音のそばにずっといて倒れそうになったからさすがにやばいと思ってその時は家に帰ってゆっくり休んだ。でもまた今も倒れそうな程疲れている。
 昔もこんな風に頭がとても痛かったり心臓が痛くなったりした。でもそれは10年前程の話で私はまだ幼く小2くらいで体が弱くそんなの普通だったからお母さん達には言わなかった。そして2月28日。痛みのピークを迎えて明日はどんなに痛いのかと怯えていたけど3月1日、痛みは一気に引いた。でもそのかわり笑輝はこの世を旅立ってしまった。私の痛みと入れ替わるように。もし笑輝が助けてくれたのだと言うなら本当の事なのかもしれない。その日から頭痛などはしなかったから。私はずっと目を瞑っているかえに話しかけた。
「ねぇ。かえ。いつになったら私とお話しできるようになるの?みんな待っているんだよ?かえが早く戻って来てくれないと私死んじゃう。悲しみの海に溺れて死んじゃう。かえ。死なないでね?私をこの世界に置いて勝手に笑輝に会いに行かないでね?かえ。お願いだから____________」
私はとうとう泣かないと決めていたはずなのに泣いてしまった。泣いてしまったらかえが死んでしまう気がしたから。だって死なないのになかないでしょ?死んだら泣いちゃうじゃん。かえが死ぬ未来なんて嫌だけど必ず人は死んじゃうのだから。そう考えるとほんの少し気持ちが楽になった。そして気が遠のいて行くのも感じた_______________。


2月19日  川野蓮 
なんて日だ。あぁ。この言葉どっかで聞いた事あるな。あ、テレビのお笑いの人がそう言ってた。でも今はそう言うモノマネとかじゃなくて本当になんて日だ。一昨日は楓音が倒れるし、その次は空咲日が楓音の隣で倒れるし。なんでこんなに人が次々倒れるんだ?なんかの呪い?でもそんな心あたり俺には1つもない。笑輝、どうしてなんの報われもないのかな。空咲日は楓音の為にずっとそばにいて寝不足だっただけで悪い事じゃないのに。笑輝。助けろよ。なんで見ている事しかできないんだよ?俺はふと思い出して楓音に告白したあの場所に足を進めた。
 外の天気は快晴。でも冬だからか海に入ってる人は一人も見当たらない。俺は靴と靴下を脱いで砂浜に足を置いた。こんな事をやったのは何年ぶりだろう。こんな裸足で砂浜を歩いた事なんて最近は受験勉強や受験でなかなか遊びにも行っていなかったし、ここは近場ですぐに行けるし、何回も行った事があるからこないのもなおさらだ。 
 ふと思い出す。楓音に告白した日の事。振られる事前提で告白した。返事は「考えさせて」だった。俺はそのとき嬉しいとは思わなかったけど、嬉しくないとも思わなかった。楓音は告白されて嬉しかったのだろうか。それとも、悲しかっただろうか。分からない。分からない。でもただ1つ確かな事があるとするのならば、俺は楓音に告白して良かったと思う。この気持ちをすべて俺の口から言葉となって吐き出せたなら俺はそれでよかった。こんなのただの自己満足でしかないけど、もうそれでいい。そして楓音。俺の事をなんと思ってもいいし、俺の事を好きなだけ嫌って避けて拒否して目も合わせてくれなくなってもいいから目を覚まして。そうじゃないと俺の心は荒れ果ててくだけ散っちゃう。楓音の不幸を願う奴なんてこの世界には1人もいないから安心してこの世界でまた笑い合おうよ。俺はそんな日が来る事をずっと願い夢みておくから。笑輝、どうか楓音達を救ってあげてください__。俺笑輝の亡くなった場所で強く手を合わせ、強く祈った。_。


2月20日 
今日俺は聞いてはならない物を聞いてしまった。それは楓音と空咲日のお見舞いをして家に帰ろうと医師との面談室を通りかかったときたまたま聞こえて来てしまった。空咲日のお母さんと医師の声が。
『如月空咲日さんの病気はもうかなり進んでいます。手術はかなり困難で確率で言うと小学生みたいな言葉を使いますけど、医師の中では無限大数分の1です。もしこの手術が失敗したとき空咲日さんの命は逆に危険です。それでも手術をしますか?それとも・・・心苦しいですがお別れの言葉を告げてあげますか?余命は長くて2週間。どうされますか?』
俺はその場に倒れるようにしゃがみ込んだ。空咲日が死ぬかもしれない。天国に行ってしまうのかもしれない。いや、そんな事ない。空咲日は死なない。まだこの世界でいろんな人達と生きて行くから。俺は最初は盗み聞きのつもりはなかったけど俺は今完全に空咲日のお母さんの声を壁1枚の所で待っている。そして空咲日のお母さんは「は・・はな」と最初の文字を言い出そうとしていたので俺は息を飲んだ。そして言った。
『空咲日の事を私は母親として見送らないと行けない気がします。空咲日は手術をせず、楽にしてあげたいと思います・・・うっ』
俺は最初は意味が分からなかったけど次の医師の言葉で理解してしまった。
『では、心苦しいですが空咲日さんに一生分の別れをしてあげてください』
『はいっ。・・・ではこれで失礼します』
そう空咲日のお母さんが言って俺は盗み聞きをしていた事を思い出したので俺はそこから早足で病院を出る道を歩き出した。空咲日は間もなく死ぬ。そう俺の脳がいっている。確かに俺はこの耳で空咲日のお母さんの『見送らないと行けない』と言う言葉を聞いた。受け入れられない。空咲日が後2週間で死ぬなんて。俺は涙を精一杯こらえて家までの道のりを歩き出した。すると誰かとぶつかった。
「すんませ・・・・ってなぎ!?」
「へ?かわちゃん?どうして?」
「それはこっちの台詞。なんであんまりお見舞いにこないなぎがここにいんだよ」
「別に俺だって普通にお見舞いするし」
「ふーん。誰のお見舞い?」
「空咲日。かわちゃん誰のお見舞い行って・・・かわちゃん?どうかした?」
「え?ちょっとこっち来て」
俺はなぎの手首を掴み誰もいない院内の休憩所に腰を下ろした。
「あのさ、俺、さっき空咲日がもうちょっとで死ぬって言うのを聞いた。空咲日いつ死ぬのかなぁ。やだよ。なんで空咲日が死ぬんだよ・・・」
俺は勝手に喋り始めて勝手に自己完結しだした。でもなぎはそんな俺をずっと見ている。すると急になぎは喋り始めた。
「・・・日」
「え?なんて?」
「3月1日の午前1時32分に空咲日は死ぬ」
「は?なんでそんな事がなぎに分かんだよ・・・・しかも3月1日って・・・」
「橋光笑輝の命日なんだろ?しかも1時32分は、橋光笑輝が死んだときの時間。つまり空咲日は橋光笑輝と全く1分のずれもない時間に死ぬんだ」
「なんで笑輝の命日知ってんだよ・・・誰からそんな事聞いたんだよ!」
「那雪ちゃんに聞いた。詳しく聞きたかったら那雪ちゃんに聞け」
「那雪ちゃんって空咲日の妹の?」
「あぁ」
「なんで那雪ちゃんがそんな事知ってんだよ」
「それは俺が何回聞いても教えてくんなかった。そんなに気になるならかわちゃんから聞けよ。俺は今からこの事を空咲日に話しに行く。じゃ」
「おい、まてよ!なんで空咲日にいいに行くんだよ。それになぎが行ってたように空咲日は3月1日に死ぬ」
「3月1日に死ぬからなんだって言うんだよ。確かに3月1日には死ぬけどその間に1回も目を覚まさないなんて事はいってねぇ。別に空咲日に言ったところで未来が変わる訳じゃない。だから別に空咲日に言ってもいいじゃねぇか」
「確かに空咲日が死ぬのには変わりはない。でももし1回目を覚ましたとき、空咲日が死ぬ事を分かっている上でこの世界を生きるなんて辛くねぇのかよ?考えてみろよ。自分が死ぬ日が分かっている上で人生楽しめるかよ?そんな分けないだろ?だから空咲日には後少しの人生を楽しんでもらうために言わないとかできねぇのかよ!?」
「・・・・ごめん」
「いや、こっちこそ言い過ぎた。でも空咲日には言わないであげろよ。じゃ」
そう言って俺は休憩所から早足で立ち去った。そして俺は病院でて自分の家に向かった。別に那雪ちゃんにどうして空咲日が3月1日に死ぬのかは聞かない。だってそれはどうしようもない事実。事実になんでと聞いても答えは出ない。だから聞いても那雪ちゃんを困らせるだけ。それぐらいならこのもやもやをほっといて今を生きる方が気楽でいいはずだ。
 俺は鍵のかかってない扉をあけて部屋の中に入った。楓音に鍵はかけるように言われたがどうしても癖は治りにくいものでなかなか習慣づかないものだと改めて実感した。俺は靴を脱いで床に散らばっているものをかき分けてベットの上に倒れ込んだ。
「3月1日、1時32分か・・・笑輝と全く同じじゃねぇかよ」
俺はそう呟いた。空咲日はなんで笑輝と全く同じときに死ぬのだろう。こんな事誰に聞いても分からないけれど。そう考えているとベットの隣にある水槽からこんこんと音がした。そちらを向くと飼っているカメのシェルがこっちを心配そうに向いていた。
「シェル、心配してくれてんのか?」
そう言って俺は水槽に入っていたシェルをすくって膝に乗せた。
「シェルはなんでだと思う?なんで同じときに死ぬんだと思う?」
当然返事があるわけでもなくシェルは俺の膝の上で手足を甲羅から出したり引っ込めたりしている。俺はそんなシェルを見て何とも言えない複雑な気分になってしまった。俺は再びシェルを持ち上げて水槽の中に戻した。そして俺はスマホを手に持ってメールを開いて着信を確認した。なぎから1件、父さんから1件と、言う具合だ。
 ちなみに俺の家族事情はとてつもなくややこしい。まず父さんと母さんが離婚して俺は父さんについた。その後父さんが再婚してその後、継母が病気で死んで今はこの家に父さんと2人で住んでいる。とはいっても父さんは俺が高校生になる少し前に転勤で高校生の間はこの家で1人暮らしている。
 俺は着信のなかのなぎのを選んで開封した。
『空咲日に会って来た。とは言っても何も喋れる状況ではなくってただベッドサイドモニターがついていて重症と言う事は確か。だから特に何もせずに様子を見て帰って来た。楓音の方も行ったけどほぼ空咲日と同じだったけど1つ違う事があってそれは病室が違うだけw Nagisa Aokawa』
「なんだよ。なぎ、俺を笑わそうとしてんのかよ。マジふざけてんだろ」
俺は苦笑しながらそう言った。こんな時にまで変な冗談を使うなんてどういう意味だよと思った。確かに楓音と空咲日は病室が違う。でもそんな事大して気にも留めていなかった。
 楓音。そういえば俺は楓音に告白したんだった。返事はNoだった。まぁそうだと思ったけど。楓音は8年たった今も笑輝の事を好きでいる。死んでいるのに。なんで俺じゃなくて笑輝なんだとは思わなかった。だって笑輝は初対面の人には少し人見知りをするけれど、たった数十秒ぐらいだけで誰とでも打ち解けてしまって、誰とでも仲良くなって明るく笑顔を絶やさない人だったから。それに勉強もスポーツもできておまけに顔もイケメンで女子からも人気はあった。俺はスポーツができて周りから言われているから言うけどイケメンでも勉強はできない。女子に人気かって言うと8年前は笑輝の方が人気はあっただろう。だけど笑輝は男子から人気を気取っていて、八方美人だとも思われていなかった。理由として考えられるのは強い心の持ち主だからだと思う。これは実際の話。1度笑輝が男子のいじめっこのグループにいじめられそうになったときだった。そのいじめの大将が「人気物気取りになっていらつく」と言った。その後笑輝は澄ました顔で「人気者気取りにはなっていない。人気者にしてんのは俺じゃない、周りの人達。お前もそうだろ?だって俺の事を人気者としてみてんだから。そんなに人気者になりたいんだったら、こんなおばかないじめなんかやめて他人から感謝される事をしたり嫌いな物は努力して乗り越える。それだけなのに、あんたは勝手に自分の事を見下して責め続けてんじゃねぇの?マジダッセぇ」と小学4年生とは思えない言葉を発した。その言葉をきいたいじめの大将はいじめをいっさいしなくなってしばらくすると周りからの人気も上がって来た。そのときもう笑輝はもうこの世界にはいなかったけど。でもそのかわり酷い言葉を発したと周りから言われ笑輝の人気は無くなって行った。それでも俺や楓音、空咲日は笑輝が死ぬ最期の一時まで笑輝を見捨てずに居れたと思う。笑輝はあの星空の下で死んだ。笑輝は星が好きだった。だから流星群が見える時は俺たちを誘って海岸に連れて行ってくれる事もよくあった。その日は流星群はあまり視えないけどとても星が綺麗だと笑輝が言ったからみんなで見に行った。笑輝が1番好きだった流星群は双子座流星群だった。双子座流星群は3大流星群の1つで他にもペルセウス座流星群、しぶんぎ座流星群もあるけどなぜか双子座流星群が好きだった。理由は思い出せないけれど、確か1番なんちゃらなんちゃらって言ってた。
俺は天気をアプリで確認してスマホをポケットに入れて立ち上がった。今からバイトだ。俺はまた物をかき分けながら玄関に向かって靴を履いて外に出た。今度はちゃんと鍵をかけて。
 俺は飲食店のバイト先のドアを開けて中に入った。今は2時半と言うお昼ご飯にしては遅すぎて、夜ご飯にはまだほど遠いと言う事もあり客は少ない。俺はレジの横にあるドアから厨房に入って厨房の中に居た人に挨拶をしてその奥にある廊下に出てその前にある男子更衣室に入った。
「こんにちはー」
「あれ?川野、今回シフト変わったんじゃなかったけ?」
確かこの人は看護士とかいろんなバイトをやっているはずだ。そして俺の恋の相談をした人だ。
「え?いや、俺シフト変えてないですよ?多分シフト変わったの他の人です」
「そうか。じゃ今日もがんばれよ」
「はい。笈川さんも」
俺は片手を上げて立ち去って行く格好付けている2つ上の作業員に挨拶をしてロッカーに荷物を入れてバイトの制服を身に包んだ。
 俺はバイト制服を身に包んでまた厨房に行ったすると32番席のチャイムが鳴ったので俺は早足で32番の席に行った。早く行かないとたまにまだ30秒も立っていないのに遅いとか行ってくる人がいるから急いで向かわないと行けない。そして俺は32番席についたので制服のポケットからこのお店用のスマホを出し、店員なら誰もが言うあの台詞を言った。
「ご注文はなんですか?」
「お子様セット一つ」
「はいかしこまりま・・・ん?」
俺はスマホを打つ手を止めた。このお店にはお子様セットと言う物があるがそれは小学生以下が対象で中学生以上は扱っていない。しかし、この席の人を見るとこんな事を言うのは申し訳ないけどヤクザみたいな服を身に包んだ人達が4人いるだけで子供は見当たらない。俺は少し躊躇しながら言った。
「あ、あの、こちらのセットは小学生以下が対象で、お、大人の方は扱っていないんですけど・・・」
「あぁ?んだよ逆らうのかよ?俺はあと少しだけでいいからこの少量のお子様セットをしょうがなく選んでやったのに文句あんのか?」
「ですが決まりなんで」
「うるせぇ!さっさともってこいよ!」
「・・・・そんなにちょとがよかったらコンビニで小さいおにぎりでも買えばいいじゃねぇか」
「はぁ?」
俺はお客様に対して、もっといえばヤクザに対してこんな事を言ったのは人生初だ。でも俺は心の中にあった良心がもうなくなった。
「だからコンビニで買えばいいじゃねぇかって言ってんだよ」
「てめぇ、俺たちに命令してんじゃねぇよ!」
「命令じゃねぇし。ただの提案だよ。分かる?て・い・あ・ん」
「ふざけんなよ・・・」
もう客は爆発寸前だった。怒りによって細かく震える拳にいまにも口を開けたら怪獣みたいに炎が出てきそうな程真っ赤な顔。やばいとは思った。でも、ここで謝るともっと機嫌を悪くするかもしれない。俺は何も言わず、ずっと客が喋りだすまでずっと立っておく事にした。すると突然いかにもコンクリートが壊れそうな拳が飛んで来た俺はそれを驚きながらよけた。
「あっぶねぇ。当たってたらどうすんだよ」
「どうもしねぇよ。てめぇが怪我を負うだけだよ」
「もし今から俺がサツに電話したらどうすんだよ」
「はぁ?んな事させる訳ないだろ」
「あっそ。じゃあとにかく今日は帰れ。他の関係ない人達まで怪我を負わすつもりか?」
「んだよ・・・行くぞ!」
そう言ってヤクザ軍団は去って行った。どうせただのチンピラだろう。するとその瞬間店の責任者がやってきた。その表情は怒り狂っていてさっきのチンピラと同じぐらい怖い。ヤベェ、殴られるかもしれねぇ。たしかここの責任者は元ヤンかなんかで学生の時は不良とか言ってたな。こんなやつに殴られたら歯が1本なくなるかもしれない。そして責任者は地鳴りが響きそうな低い声で言った。
「何してんだよ・・・」
「接客してました」
「・・・お前はクビだ・・・」
「・・・・でしょうね。今までありがとうございました」
俺は責任者に頭をさげてお店の厨房に入ってまたそこを通り過ぎて更衣室に入って数分前に着ていた私服に着替えてまた厨房を強い視線をくらいながら通りすぎてお店を出てしまった。
 俺は店を出て当てもなく歩き出した。なんだか気分が乗らなくてまっすぐ家に変える気分にもならなかった。
「バイト、どうすっかなぁ」
きっともうあの店に務める事はできないと思うから、新しいバイト先を見つけなんなきゃだめだ。高校を卒業して働く事もできたけど、その頃には父さんも帰ってくると思い父さんを懸命に説得し、血の滲む努力をして、奨学金を出して、国立の大学に入る事を決めた。別にこんな会社に入りたいと思う所もないからどうせなら大学に行ってやりたい事を見つけようと思った。幸いこの家のローンは終わっていて家賃を払わなければいけない事はないからこの家では暮らしては行けるが、国立の大学に行くとなるとここから少し離れていて1人暮らしになる。そのときのためにバイトをしていたのにその時住む家賃が払えなくなってしまう。父さんに、家賃を払ってくれないかとは言ったものの、「お前もその時は1人の社会人みたいなもんなんだから自分で稼げ」と言われてしまった。仕送りはしてくれるけれど。
 ていうか、もうここのアルバイト探さずに1人暮らしをする所はもう大体決まっているからその辺で割のいいバイト探してそこにアルバイト希望しとけばいいかと思い、俺は180°方向回転して家に向かって歩き出した。そしてまたアルバイト先の飲食店に戻って来てしまったけどそこも一様素通りして帰路に着いた。今思ったけど、普通さ、チンピラにやられそうになったら心配するはずなのになんだか怒られるのっておかしいんじゃね?・・・・
 俺は鍵穴に合鍵を差し込んでそれを180°回転させて引き戸を開けた。もちろんなかには誰もおらず、「ただいま」といっても「おかえり」と言ってくれる人はいない。俺は別にいつもの事だからと思い「ただいま」とも言わず無言で靴を脱いで洗面所に向かってしっかり手荒いうがいをしてリビングに行って腰を下ろした。あいかわらず、自分でやっときながら言うのもなんだけど、ものすごく汚い部屋だ。唯一綺麗にされてるのは2回の俺の部屋のカメの水槽の周りだけだ。俺はちょうど暇になったんだし片付けをしようとさっき下ろした腰をまたすぐに持ち上げた。
______________
「あぁぁぁぁああああああ!疲れたぁぁぁぁぁ!」
久しぶりにこんなに動いたから完璧に疲れてしまった。部活はもう終わったし、確かに運動は好きだけどこんなど田舎で1人暮らしってまじで1人じゃあなんにもできないし。でもそのぶん大分綺麗になったと思う。でも逆に今着ている服はかなり汚れている。男の高校生が初めて家事をやるとこうなるのが普通と思ってなんとかやり遂げた。そして終った時にはオレンジ色の輝く太陽が沈もうとしていた。
 そしてふとスマホを確認すると時刻は6時32分。それとなぎから1通のメールが届いていた。そういえば星を見に行かないかと誘ったんだっけ。
『俺今、燈加里と喧嘩して負けてその時に燈加里に3月になるまで外出禁止だから無理。まじでごめん Nagisa Aokawa』
「なんだよ。ふっ」
俺は思わず笑ってしまった。だって喧嘩した時に妹に負けて外出禁止になったなんて弱すぎる兄貴だろ。まぁ、なぎは優しいからわざと先に謝って負けたのかもしれないけど。
 俺は1人で星を見に行くのは少し気が引けたけど、別に悪い事じゃないからいいかと思い日程を変えずに1人で星を見に行く事にした。俺はとりあえずこの汚れた服をなんとかしようと脱衣所に行った。そして今まで着ていた汚いトップスを脱いで洗濯機に入れた。そしてもちろん冬で寒いから急ぎ足でタンスの中に入っている綺麗な部屋着に着替えた。そして晩ご飯を食べようと思いキッチンに向かった。俺は片付けは全然できないけど料理は一様作れる。たいした物は作れないけれど。俺は冷蔵庫と冷凍庫を開けて何が入っているか確認した。あるのは人参、玉葱、芽花椰菜、納豆そして冷凍庫に豚バラの薄切りだけ。みんな冷蔵庫の中にある物で何か作ってみてとか言うけどそんなのプロの料理人じゃない限りほぼ無理だ。俺は頭の中で何を作ろうかと考えた。とりあえず、馬鈴薯を買って肉じゃがを作ろうと思い、外に出た。とはいえ、今は冬で、6時半となると、空に星が少しづつ光りはじめて行っている。俺はやっぱり外に行くのはやめてご飯を炊いて納豆ご飯にする事にした。俺は炊飯器に白米が残っていない事を確認し、お米1合分を釜の中に入れてお米がつかるぐらいの水を入れてお米を洗って洗った水を捨てるを数回繰り返して1合分の水を入れて炊飯器にセットして炊飯ボタンを押して「炊飯を開始します。約40分後には炊きあがります。」と言うアナウンスを聞いてソファーに飛び込んだ。そして、そういえばと思い父さんからのメールを確認した。結構前の話だけどそんなに緊急って言う事はないからたぶん大丈夫だろう。そして予想通り、たいした事はなかった。
『元気か? Akinori Kawano』
俺は少し安堵して『元気だよ Ren Kawano』と打ち返してスマホの電源を落として顔をクッションにうずめた。
__________________________
ピーピーピー・・・・
 俺は炊飯器の音が鳴ったので炊飯器の方まで歩いて「炊飯が終わりました」と言うアナウンスを聞いて炊飯器の蓋を開けた。開けると中からお米の美味しそうな匂いと暖かい空気がモワット出て来た。この空気の名前、なんだっけ・・・・?
 俺は食器棚から茶碗を取り出して杓文字でお米を入れた。そして整頓されたばかりのダイニングテーブルに置き、冷蔵庫からお茶と納豆。それとコップも取ってダイニングテーブルに置いた。そして机の端っこにあったリモコンでテレビを付けた。行儀はあんまりよくないとは思うけれど1人で静かな時間を過ごすのは嫌いだし、誰も見てないからいいやと、言う理由で付けている。  
 テレビをつけると、バラエティー番組が流れて来たのでそれを見る事にした。俺は納豆を混ぜながらたまにお笑いの人が言うネタに笑っていた。そして納豆が混ぜ終わって、ご飯の上に納豆をかけてコップの中にお茶を入れて「いただきます」とここだけ行儀よく言って炊きたてのご飯と冷蔵庫で冷えた納豆を一緒に口に運んだ。そして美味しいけれど美味しいとは言わずに黙々と食べ続けていた。
 俺は食べ終わったので食器を洗って風呂に入って歯磨きをして布団に飛び込んだ。そしてもう眠くなって来たので眠る事にした。今はまだ寝るには早すぎるとは思ったけど早く寝ても悪い事はないと思い流れに身を任せるように眠りについた。

《如月空咲日 夢》
あぁ。ここはどこなんだろう。真っ暗で明かりはなくって。早く明かりのある所に行きたいなぁ。
 最近はずっとこんな感じだ。私は意識はあるものの病室では意識不明の重体で余命も宣言された。その瞬間から私の周りが真っ暗になった。そして自分の体が下に見れるようになってしまった。でもなぜか私は自分の死を素直に受け入れられた。死ぬのってこういう物なのかな?でも1つ心残りがあるというのならば、かえ。かえと最期の一時を過ごしたかった。あの後私はかえがどうなるのかを見抜く能力はない。かえは今、私と同じように意識不明の重体。でもまだ余命は宣言されておらず、死と隣あわせていない事を願うばかりだ。私はかえの病室に行く事もできるけど、私は行かなかった。と言うより行けなかったのかもしれない。きっと私はかえが苦しんでいる姿を目の当たりにするのが怖いんだ。こんなにかえと仲がよかったけれど、あんなに笑い合ったのに、最期の一瞬はただの赤の他人扱いしかできない私でごめんね。あのときにかえに謝ってこれから新しい友情を築いて行こうと、言ったばかりなのに。そう考えるとなんだか涙が出て来た。だめだ、泣いちゃだめ。私が全部悪いのに私が泣いたらだめ。本当に泣きたいのはかえのはずなのに、かえは泣かなかった。だからこそ、私も泣いてはいけない。でもこんな闇の中に1人だけいるとなんだか泣けてくる。そんな中真っ暗な闇の中から音が聞こえて来た。それはなんと表現したらよいのか分からない。でも1つ言える事があるとするなら、今にも消え入りそうな音だと言う事。
 私はゆっくりと後ろに振り向いた。
「あっ____」
「如月空咲日さん。あなたは3月1日に亡くなる事はご存知ですか?」
「あ、はい。あの、あなたって______」
「分かりました。では、あなたは死んだ後どこに行くかご存知ですか?」
「え?さぁ。それって地獄か天国かって言う事?」
「まぁ大体そう言う感じだと思い
「んー。天国・・・・?」
「そう。あなたは天国に行きます。それもさも普通であなたが想像している天国みたいな感じです。それと地獄に行くのは、人生、生きている間に約20万日以上悪い事をした人が行く所です。悪い事と言っても。子供みたいな口喧嘩で喧嘩して口喧嘩するのはカウントしません。だってそれも子供のうちの経験と見なすからです」
「はぁ。それが何か?」
「いや。自分の死後の行き先ぐらい知っといてもらわないと困るから。他に聞きたい事ある?」
「あのさぁ、まだ一様私生きてるんだから死後の話されても困る」
「分かりました。じゃあ死ぬまでにやりたい事を何個でもいいので教えてください。死ぬまでに叶えちゃいましょう」
「んー。まずは、後1回でいいから、かえ達とカラオケ行くとかして遊びたい」
「他にはないの?」
「強いて言うのならかえに謝りたい。かな」
「分かりました。では行きましょう」
「は?」
「願いを叶えに行くんです。今から天に行きます。そこで楽しんできてください。本当に現実と区別がつかない程だから安心して楽しんで来て。では」
「え?ちょ、ちょっと待って!」
そんな願いも儚い夢となり、私の目の前は1度真っ暗になったものの、すぐに太陽を直視したようにあたりが白く光って私は立ちくらみがした。でもまたすぐに現実のように普通の明るさに戻り、まぶしすぎなく、暗すぎない場所に帰って来た。そして私は大きく目を見開いた。
「かえ?蓮?汀?なんでいんの・・・・?」
「は?何言ってんだよ。空咲日がどうしてもって言うから来たんだろ?」
「え?そうだっけ」
「そうだよ。空咲日大丈夫?」
「あ、うん!大丈夫!ありがとうかえ」
「それじゃカラオケ行こう。空咲日がカラオケって言ったんだからね」
「うん!行こう!」
私は顔は何ともないように笑顔を浮かべているが内心はどうしてこんなに普通に汀、かえ、蓮が接してくるのか分からなかった。それとここは天でかえはまだしも、蓮、汀は死んでないどころか病気にもかかってないでしょうが!それに今かえは病院のベットの上で意識不明の重体として動けないどころか何もできないはず。それに私も一様意識不明の重体で入院しているんだから少しは心配するはずでしょ!?私は心の中にモヤができてしまったけど、かえ達が終始笑顔で居てくれたのでそのモヤは少しとれて心が軽くなった気がした。
_________________
 カラオケを思いっきり楽しんで解散と言う事になり、店の外に出ると辺りはもう暗かった。私は天にも夜が来る事を初めて知った。まぁ天に来たのは初めてだから当たり前だろうけど。
「じゃあ空咲日バイバーイ。何かあったら言ってね」
「うん!蓮達もバイバイ!」
「ん。バイバイ」
そう言って私はかえ達が見えなくなるまでかえ達が帰った方向を見ていた。そして今思ったけど、私はどこに帰ればいいのだろうか。そう思考を巡らせているとなんだかゴールデンレトリーバみたいな犬がこっちに歩いて来た。それも2本足で。
「如月空咲日さんだよね?」
「え。まぁ。はい」
「よかった。じゃあ人間から話は聞いたかな?」
人間と言うのは天国か地獄に行くか聞いて来た人の事だろう。
「はい」
「まぁ。それは置いといて話は聞いた?」
「えっと・・・・天国に行くか地獄に行くかって感じの話?」
「まぁそんな所」
「なら聞いたけど」
「じゃあ話が早いや。君には今から死について話そうと思って」
「死?」
「そう。君は一様3月1日に死ぬ事になっているんだけど、今の病院の状況的にはその日より早く死ぬ事もできる。如月さんはどうしたい?」
「早く死ぬメリットはある?」
「少し前から真っ暗な闇に居たでしょう?それから早く抜け出せるのと、生まれ変われる時間が少し早くなる事」
「デメリットは?」
「あなたの妹に那雪さんがいらっしゃるのは間違いありませんか?」
「はい」
「実は那雪さん、特別な能力が身に宿っているようで・・・・それは未来を見る事ができると言う能力です。つまりあなたが死ぬ日は3月1日と言う事は把握済みです。それがなんのデメリットかと言うと小学生ぐらいの子供は身内、親しい友人などの死の瞬間や闘病の瞬間をあまり見たくない、つまり拒否反応が働きます。だから3月1日だけあなたの病室に行くと思われます。3月1日に死ぬのならそれでいいのですが死を早めると、例えば明日死ぬとしたら明日は那雪さん、病室に行かないのであなたの死の直前にそばに居てあげられなくて「毎日お見舞いに行けばよかった」と思い精神的に追い込まれるかもしれません。もう1つのデメリットはもう生まれ変わる事が不可能かもしれないと言う事です。それとこっちに負担がかかる」
「んー。早く死ぬと自分の都合はいいけど、周りの人に迷惑がかかると言う事でしょ?」
「そう言う事」
「・・・・」
「決めるのが難しいのであれば、3月1日に死ぬと言う事にします」
「決めました。私は3月1日に死にます」
「理由は?」
「今までいろんな人に迷惑をかけて来たのに最期まで迷惑かけていられない」
「・・・・ありがとうございました。では今からまたあの真っ暗な闇の中にお連れさせていただきます。よろしいですか?」
「ちょっと待って!」
「はい?」
「私、かえに謝りたい!」
「大丈夫です。必ずその願いは果たされるので」
「ならいいけど・・・」
「では。今までお疲れ様でした」
その瞬間私は立ちくらみがして何か重い鈍器かなんかに叩かれたような錯覚になりその場に倒れた。そして私の意識が遠のいて行く感じがした。最後に見えたのはレトリーバーの悲惨そうな顔だった。____________

《雀燈楓音 夢》
脳脊髄液減少症。それは私の倒れたときに付けられた診断名だった。この病気は国際疾病分類には記載されていない。私が脳脊髄液減少症になったった理由は病院の屋上から飛び降りた事が関係している。脳脊髄液減少症は大きな衝撃、つまり交通事故などで大きな被害などにあったときに頭などを強く打ったときに起こるものだ。医師達は大きな事故から私が関連していないか勢力をあげてどうしてこの病気にかかったのかを考えている。でも私が屋上から飛び降りた事はミケがなんとか、何もなかった事にしてくれたから大きなニユースにもなっていないから当然見つかる事はないから医師達は毎日頭を悩ませている。
 そして私は真っ暗な闇の中に今1人佇んでいる。光りが一切ないこの場所。でもなんか怖い訳ではなくって、でも安心する訳ではない。昨日ぐらいからこんなかんじだ。別に寂しいとも思わなくっておなかがへったり、喉が渇いたりもしないから苦しくはない。そんな事を考えていると暗闇の中の方から気配を感じた。私は急に怖くなって来て金縛りにあったかのように固まってしまった。でもそれはその声ですぐに治まってくれた。
「雀燈楓音さん」
なんだろう。この声。聞き覚えがあって懐かしくて。そして今私がとても会いたい_____
「笑輝」
そう言って私は振り向いた。うん。やっぱり笑輝だ。昔とは顔立ちが少し変わっているけれどまだ昔の面影が残っている。当の笑輝は驚いたのかその場に固まっている。
「橋光笑輝でしょ?」
「・・・・覚えてるの?」
「当たり前じゃん!忘れる分けないよ!」
そう。絶対忘れる分けない。ずっと会いたくて会いたくて仕方なかったあの笑輝なんだから。
「楓音」
「何?笑輝」
「ちょっとしつこくてお節介な三毛猫が楓音の所に行ったはずなんだけど知ってるよね?」
「あぁ。ミケの事?」
「ミケ・・・・。うん。そう。ミケの事。ミケにあって話もした?」
「うん」
「じゃあ2月28日に砂浜に行くのは知っているの?」
「知ってる。ちなみに今は何日?」
「2月22日。じゃあ用事はそれだけだったから・・・・」
「待って!」
私はどこかに消えて行きそうな笑輝の手を掴んだ・・・・はずだった。私の伸ばしたては笑輝には触れないまま空気を掴んだかのように何も掴めていなかった。
「楓音・・・・何」
「あっ・・・・あのさ、私って死んじゃうのかなぁ?」
「さぁ。俺は本当に分からない。教えてくれって言っても誰も教えてくれないから」
「本当に。そんなに俺の事信用できないの?」
「いや、ちがっ・・・・」
「じゃあそう言う事で。またいつか会える日が来るといいな」
それだけ言って笑輝はどこかに消えてしまった。私がもし、無抵抗だけど手を伸ばしていれば何かが変わったのかもしれない。でも1つ確かな事がある。笑輝の顔はとても苦しく悲しそうな顔をしていたと言う事だけだった。
 私はまた真っ暗な闇の中に1人ぼっちになってしまった。でもなんだか諦めに似た感情が私の中にはあった。私は看護学校に入るために勉強したときに覚えたものだった。脳脊髄液減少症は初期症状のときに適切な治療をしていれば治る見込みはあるが、私みたいに長期保留しておくと死に至るケースもある恐ろしいものだ。私はこんなもので死んでしまうのだろうか____。

2月23日 雀燈楓音
「先生!急いでください!雀燈さん・・・・雀燈楓音さんが・・・・!」
なんだか私の耳によると周りはうるさい。ここは病院だって言うのにドタバタと大きな音の足音が近づいてくる様子。そして私はついにずっと瞑っていた瞼をゆっくりと持ち上げた。それと同時に私の病室のドアが思いっきり開かれた。強く開けた弾みによってドアはバウンドして間をなくそうとしている。そして今度はゆったりとした静かな音でまぁまぁ怖そうな医師が近づいて来た。そして「嘘だ・・・・」と、ありえないとでも言うかのように呟いた。その瞬間今度は普通に病室のドアが開かれた。入って来たのは奇遇にも蓮だった。
「楓音・・・・?」
「・・・・」
蓮に告白されて以来初めてあった。いや、蓮がお見舞いに来てくれていたのであれば初めてではないだろう。そして蓮は私の近くにいる男性看護士を少し驚いた目で見ていた。知り合いなのかな。そして蓮が少し動揺しているのを見て医師が補足説明をしてくれた。
「雀燈さんは意識不明の重体だったにも関わらずなぜか目を覚ましました。これはかなり奇跡的な事であり、私も長い間医師をしてきましたがこんなのは初めてです」
そう医師が言うと蓮は一瞬固まった物の急に焦るかのように騒ぎだした。医師はそれを無視するかのように私に言った。
「雀燈さんの容態になにかの支障がないかを確認するため、レントゲンなどを撮らしていただくので部屋を移動してもらいます」
「はい」
「立てますか?」
私は医師にそう言われて立てるかと言われて立てる訳ないと思ったが私はすんなり手すりも持たずに立ち上がった。それにまた驚いたのか少し心配そうなまなざしを向けて来た。
「え、えっと・・・・とりあえず念のために車椅子で移動しますので少し待っていてください。笈川さん車椅子とって来てください」
「あ、はい!」
そう言って笈川さんは蓮に会釈をして出て行った。そして医師が検査の内容を細かく説明してくれたが私はその説明なんて1つも耳に入らなかった。
 しばらくしてその男性看護士の笈川さんが車椅子を押して帰って来た。
「おまたせしました。ではこちらにどうぞ」
私は笈川さんにそう勧められてベットから車椅子に乗り移った。
「では、行きますね」
そう笈川さんに言われて私はうなずいた。そして笈川さんはゆっくりと私の座っている車椅子を押し出した。私は病室を出て行く時に蓮と目があったけど私は見なかったようにして目を逸らした。医師はこれからいろいろと準備があるらしくまだ病室に居るらしい。
 私は笈川さんと2人だけになった。そして笈川さんが少し控えめな透き通った声であたしが1番気にしている事を言って来た。
「雀燈さんですよね?」
「え?まぁ。はい」
「蓮の事知っていますよね?」
「?」
「川野蓮。知ってる?」
「あ、はい。ていうかなんで蓮の事知ってるんですか?」
「川野とはバイト先が同じなんだ。川野の1個上の年齢だからしょっちゅう話したりするから」
「へぇ」
「それでたまに悩み事相談されたりするんだけど、雀燈さんの事も相談されたよ」
「え?私?」
「うん。今度告白しようと思っているんだけど、どうしようって。雀燈さんの顔写真までみせてきて可愛いでしょ?って言ってくるし。それに雀燈さんの好きな所を全部言って来たり。どんだけ好きなんだよっていうくらい。俺は恋愛しないからよくわかんねぇけど」
「え?蓮、そんなに相談していたんですか?」
「うん。だから蓮の気持ちは本物だと思うし、変わらないんじゃないのかな?」
「はぁ」
「ね、蓮、雀燈さんに告白したの?」
「ふぇ!?」
「あ、告白したんだ。ねぇどう答えたの?」
「え、えっと・・・・」
笈川さんは高校生の恋愛話を聞いたかのようにニヤニヤしながら聞いて来た。もちろん答えれるはずもなく私は口をもごもごと動かして「えっと・・・」「それは・・・」を繰り返していた。でもその時、丁度私の検査する病室まで着いたので笈川さんはすこし残念そうに「じゃあ検査がんばって」と言って立ち去って行・・・・ったけど1度振り返ってまた戻って来て私に言った。
「もう一回言うけど蓮は本当に雀燈さんの事、好きだと思うから告白、前向きにね?」
笈川さんはそれだけ言うと向こうの方で主任らしき看護士に呼ばれて「じゃ」と一言だけ行って主任らしき人の所に走って行った。私はさっきの医師に車椅子で押されながら検査室に入った。
「では雀燈さん。今から検査を始めます。最初はレントゲンを撮るのであそこの台に寝そべってください」
私は医師に言われた通り台に寝そべって検査を始めた。
 1通り検査が終わって結果は明日出るので今日はまだ病院で寝泊まりするそうだ。私はいろんな人を病院と言う施設で亡くして来たにも関わらず、私はそこまで病院が嫌いじゃないから特に何も思わなかった。それに家に帰っても1人だし誰かが居た方が少しはいい。それに今日は1人部屋から4人部屋に変更になるそうだ。
 私は念には念を入れてと言う事でまた車椅子で移動する事になった。今度は笈川さんがいないので別の看護士に押してもらう事になった。私は看護士さんと他愛のない話をしながら病室に戻る道を行っていた。
 私は看護士さんのおかげで新しい4人部屋の病室のベットについた。私は看護士にお礼を言ってベットに移った。でも看護士は帰らずに思い出したように私に話しかけて来た。
「雀燈さんって看護士目指してるの?」
「え、まぁ」
「じゃあ、はいこれ」
そう看護士は言って私の行く予定の看護学校で使おうと思っていた参考書を差し出して来た。私は頷いて看護士から参考書を両手で受け取った。
「あの・・・・これ、どこに落としていたんですか?私、ここに持って来た覚えはないですけど」
「これはさっきお見舞いに来てくれた人が雀燈さんに持って来たの。まだ眠ってると思って家から持って来てくれたらしいよ。名前は確か・・・か、か?なんだっけ」
「川野蓮ですか?」
「そう!その人!知り合い?」
「まぁ。幼なじみです」
蓮ならこの参考書を持って来れた事に納得できる。なぜなら空咲日と蓮、この信頼している2人には私に何かあったときの為に合鍵をわたしているからだ。きっと蓮はそれを利用して私の部屋に入り参考書を持って来たのだろう。告白の事は別件として、とりあえずちゃんと面と向かってお礼を言わなくちゃ。
「あの、ありがとうございます。もう大丈夫なのでお仕事にお戻りください。お疲れ様です」
私はそう言って上半身だけでお辞儀をした。看護士さんは優しい笑みを浮かべて「お大事に」と言って病室を出て行った。私はそれを最後まで見届けてから新しい部屋のベットにゆっくり倒れた。そして看護士さん(正確には蓮)が持って来てくれた参考書を開いた。中には私が自分で引いたラインマーカの所を重点に、パラパラとページをめくって行った。他にもラインマーカーの所以外にも付箋が貼ってあるページには少し丸みを帯びた私の字が至る所にあった。
 しばらくずっと参考書を読んでいていつのまにか午後3時を指していた時計のはりはもう4時になりかけていた。私は休憩がてら厚い参考書を閉じていつのまにか起き上がっていた体をゆっくりと寝転がして布団を頭の上まで被せてダンゴムシのように丸まった。するとその瞬間病室のドアが開いた音がした。みんなはお見舞いに来てくれるような人がいて素直に羨ましいと思う。さっきまで静かだった病室が少し小さめの声で喋り声が聞こえ始めたと言う事はだれかの家族なのかな。
「楓音」
羨ましいな。私にはどんだけもがいても、泣いても1番会いたい人にお見舞いに来てもらえない。
「楓音」
さっきより喋りごえが大きくなったような気がする。
「おい、楓音ってば」
その瞬間私の被さった布団が優しくふれられてその場所が少し凹んだ。そういえばさっきから私の名前が呼ばれていたような・・・・私は布団から少しだけ顔をだして周りの状況を確認する。布団を触った犯人は蓮で間違いなさそうだ。
「蓮、何?」
「いつまで、入院かなって」
「あぁ。今日はここで寝泊まりして明日退院だって。あ、そうだ。この参考書ありがと。暇つぶしになった」
「ん。そう。よかった」
「ねぇ。空咲日は?」
「・・・・空咲日はずーっと、これでもかって言うくらい楓音のそばに居た。でもある日突然楓音の病室で倒れている所が発見されて今は意識不明の重体。それでなんでかしんねぇけど余命が宣言されたらしい」
「は・・・・?」
「空咲日はもうそんなに長くないらしい」
「なんで?ただの睡眠不足とかじゃないの?」
「そこは俺も医者じゃないから知らない。今は落ち込むんじゃなくて空咲日に起こる奇跡を願うだけじゃないのか?」
「・・・・空咲日が元々病気だったとかじゃないの?」
「そうだと思う。でももしそうだとしても、医師はきっと教えてくれないだろ」
「どうして?」
「空咲日は楓音が倒れる前から、少し体調が悪かったと思う。顔色も悪いし少しふらついているときもあった。でも何かに集中している時にはそんな事はなかったと思う」
「それがどうして教えてくれない原因になる訳?」
「きっと医師は医師で俺たちに気を使っているんだと思う。1回、盗み聞きした訳じゃなくって本当にたまたま聞こえたんだけど、医者が空咲日のお母さんに空咲日の余命について話をしたとき空咲日のお母さんはすごく悲しんで、最後には外まで聞こえる音で泣いていた。でも空咲日のお母さんは延命を希望したりもせず空咲日の死を受け入れようとしていた。きっと医者もそれを見る事がつらいんだろう。でも空咲日のお母さんはたぶん空咲日が病気を患っているかしってるんじゃないのか?」
「・・・・」
「とりあえず空咲日のお母さんに聞くか?」
「うん」
「分かった」
そう言って蓮は私のそばから離れて病室を一言も喋らずに出て行った。きっと今から空咲日のお母さんに会いに行くのだろう。私は空咲日が病気でない事も祈ると同時に空咲日が病気でもう辛い思いをさせず、死なせてあげたいと、私の心はとても矛盾していてそれと同時に私は空咲日の親友、いや友達失格だと思った。

2月24日 川野蓮
「先天性心疾患・・・・?」
「・・・・そう。この事は私と那雪お医者さん。それと蓮君しかしらないの。だからあんまり他の人には広めないでほしいの。でも1人言っていい人がいるの」
「だれ、ですか?」
「楓音ちゃん。空咲日は楓音ちゃんの事をずーっと親友だって言ってたし暇さえあれば楓音ちゃんの話ばっかりするし。カップルかって言うくらい。笑えちゃうわよね」
「分かりました。伝えさせて頂きます」
「うん。宜しく頼んだよ」
空咲日のお母さんはずっと空咲日のそばにいて眠れていないのか目の下にくっきりとした隈ができた顔でぎこちなく笑った。そして朝なのに今の時点で欠伸を12回している。
「そういえば楓音ちゃん、今日退院だよね?」
「えぇ。まぁ・・・・・」
「そうよね。楓音ちゃんに宜しく伝えといて。きっと空咲日も喜んでいると思うわ。」
「分かりました。伝えておきます」
「じゃあ私はこれで・・・・」
空咲日のお母さんはふらふらとした足で歩き出したが心配だったので一様言葉だけかけておく事にした。
「あ、あの。確かに空咲日の事は心配かもしれないですが、倒れるようにはならないでくださいね?そうしたら空咲日も困りますから。それと何かあれば俺なんかでよければ話聞くんでいつでも言ってください」
「蓮君ありがとう。じゃあ」
そう言って今度こそ空咲日のお母さんは重そうな足を引きずるようにその場から立ち去って行った。俺は1人何もない所で立っていて変な噂がたったら素直に嫌なのでその場から立ち去ろうとしたけど足が行き場を失ったからかどこにも向かない。俺は数秒考えてから楓音の家に行く事にした。今日退院ならもう少しで家に帰れるだろう。もう楓音は家に帰っているかもしれないけれど。
 俺は楓音の家の前に着いた。俺は楓音の家に備え付けられている呼び鈴を鳴らした。今は午後2時だからたぶんもう帰っているだろう。メールでもしておけばよかったかな。そんな事を考えていると呼び鈴から少し弱そうな声が聞こえてきた。
「・・・・蓮?」
「楓音?いる?空咲日の事で言わないと行けない事があるんだけど」
俺は空咲日が死ぬ事が確定している事を知っていたから空咲日のお母さんに聞く必要はなかったけれど病名は聞けたからよかったと思う。
「今から鍵開けに行くからちょっと待ってて」
そう言って回線は切れた。そして数秒程経って楓音が玄関のドアから顔だけを除かしていた。でも俺しかいない事を確認してドアを全開にした。
「蓮、入って」
そう言われて俺は庭の前にある俺の胸下あたりにあるまぁまぁ小さな門をゆっくり開けて少し大きめの庭を通ってドアの前に行き楓音にどうぞと言われて玄関に入った。最近楓音の参考書を病院に持って行くためにここに来たので久しぶりと言う感覚がなかった。俺は一様「おじゃまします」と言って靴をそろえて中に入り楓音が出してくれたルームスリッパを履いて楓音に導かれてリビングに入った。リビングは昨日まで入院していたとは思えない程とても綺麗だった。俺は小さい頃から何回も見て来たソファに腰掛けた。楓音はその向かい側に楓音がカーペットに直で座った。
「楓音、俺そっち座るからソファ座りなよ」
「いい。それより空咲日」
「ん。あぁ」
楓音が少し強めの声で言ったので俺は少し強張ったけど俺はそんなことで凹んでいられないので俺は持ち直して言った。
「空咲日の病名、空咲日のお母さんから聞いて来た」
「・・・・病名、誰にも言わないって約束できる?」
「汀にも・・・・?」
「うん。空咲日のお母さんに楓音しか言っちゃ駄目って言われて・・・・」
なぎは元々しっているから内緒にする必要はないのだけれど。
「分かった・・・・」
「心の準備はいい・・・・?」
「うん。いつでも」
「空咲日は・・・・」
「うん」
「空咲日は、先天性心疾患だった」
「先天性疾患?でもその病気って・・・・ちょっと待ってて」
楓音はそう言って座っていた位置から立ち上がって棚の方に駆け寄り分厚い本を取り出してページをパラパラとめくりあるページを見つけてこっちに持って来てみせて来た。
「先天性心疾患。これは小さい子からも対象の病気。死亡率はまぁまぁ高い気もする。空咲日は重体だからもう余命を宣言されてもいいレベル」
「うん」
「つまり空咲日はまもなく死ぬかもしれないって言う事。もう1度もこの世界を見る事などなく」
「・・・・そう・・・」
「あのさ、蓮は私に何か隠してるよね?」
「え!?」
俺は楓音に図星をつかれておもわず変な声が出てしまった。でもここで本当の事を言ってしまえばまだ病み上がりの楓音の精神が壊れてしまうかもしれない。だからここはは空咲日の事を隠し通す事にした。
「そ、そんなね?、楓音に隠し事なんてね?、する訳な、ないだろ、ね?」
「いや、ぜーったい隠してる。だって蓮、昔っから嘘つく時とかサプライズとかがばれそうになったりしたら語尾に《ね》って言う言語をいっぱい使うから。小学生よりまえからの付き合いなんだからそんな事ぐらい分かってるよ」
ここはいっそ言った方がいいのだろうか?でも死んでもいいレベルって死を受け入れている人にしか言えない台詞じゃないか?でも、もしここで間違った伝え方をしてしまえば楓音はどうなるのだろう。
「・・・・あのさ、蓮。私から1つ言わせてくれない?」
「何?」
「空咲日ってさ、死ぬんだよね。たぶん蓮も同じ事を知っていて空咲日が死ぬ事を知っていたから言わなかったんだよね?」
「・・・・・まぁ」
「蓮は、何を隠しているの?」
「・・・・・空咲日の、空咲日の寿命。いつ死ぬか」
「どういう事?」
「空咲日の命日を知っているって言う事。命日って言う使い方、合ってるかわかんねぇけど」
「大丈夫。理解できるから。それで?空咲日はえっと・・・・如月空咲日さんはいつ、お亡くなりになられる予定なんでしょうか?」
「えっと・・・・予定では3月1日ではないのでは?との噂があります。ってなんで敬語なんだよ」
「え?別になんとなく」
「あのさ、楓音」
「何?」
「こ、告白まだ気にしてる?」
「・・・・んー。気にしてるっていうか気にしてないっていうか?よく分かんない。ずっと友達だったのに急に恋人とかも分かんないしまず私自身がそんなに恋愛に興味がないし」
「でもさ、まだ笑輝が好きだからって言って俺の事ふったじゃん。笑輝に対して好意を寄せてんだから恋愛してんじゃん?」
「それは、友達としてのことでしょ?蓮だって笑輝の事友達として好きだったじゃん?」
「確かに俺は、友達として笑輝の事が好きだった。でもそれが楓音と同じなら楓音が笑輝に向けている好きの感情も友達としてなんだから恋愛にならない。つまり俺を断る理由にはならないんじゃないのか?」
「・・・・・でも、私は笑輝の事は友達以上恋愛未満って言う感じだから」
「違うだろ。友達以上恋人未満だろ」
「どっちでもいいけど私は恋愛未満だから。こういったら慰めに見せかけた綺麗事みたいに聞こえるかもしれないけれど私は蓮の事を嫌いになった訳じゃないしこれからもずっと友達として一緒に居たいと思える人だから。でもこれ汀だったら私は嫌いになっているかもしれないね」
「どうして?」
「だって蓮は昔っからずーっと仲良くして来た訳じゃん?その分信頼力もあるし頼り合える訳。私はその信頼力を信じて蓮が告白を断っても一緒に居てくれると思ったから断ったの。汀だったら高校でできた新しい友達だからそこそこの信頼なだけでそんな重大な信頼力、私にはない。だから汀だったら信頼を失って嫌いになってる。それに汀って気が強く見えるだけで本当は弱いのかもしれないから断ったらもう一生話せないかもしれないでしょ?」
「・・・・・そんなに俺の事信頼してるんだ。分かった、これからは隠し事はしない事にする」
「あたりまえじゃん!ずっと一緒に居たんだから!これからも隣に居てくれるよね・・・・・?」
その瞬間楓音は俺に抱きついて来た。でもそれは恋愛としてではなく友達としてだからと頭で考える事にして嬉しさ、恥ずかしさ等の感情を全部捨てた。そして何事もなかったように会話を続ける。
「ずっと一緒にいるよ。友達として。だろ?」
「・・・・ありがとう。友達として」
「あぁ・・・・・」
「あのさ」
そう言って楓音は俺の背中で組んでいた腕を外して元の位置に戻り正座した。自分の家なんだからもっとくつろげばいいのに。そう思いつつ楓音の言葉にかえすように軽い笑みを浮かべて「何?」と聞いた。それに安心したのか楓音は正座から横座りに形を変えた。
「あのさ、蓮。さっき空咲日が3月1日に死ぬって言ってたけどそれって本当なの?」
「全部が本当とは言い切れないけれどその可能性が高いと言う話」
「誰からそんな事聞いたの・・・・?」
一瞬、隠そうとしたけれどさっきもう隠し事はしないと言ったばかりだったから何も隠さないことにした。
「なぎ。いや、正確には那雪ちゃんかな」
「どういう事?」
「なぎは那雪ちゃんから聞いたって言ってたから」
「どうして那雪ちゃんが空咲日の死ぬ日をそんなに知っているわけ?家族だからかな?」
「さぁ。それは那雪ちゃん本人に聞かないと分からないかな」
そう言った瞬間楓音は立ち上がった。
「楓音どうした?」
「決まっているでしょう?今から奈雪ちゃんの所に会いに行くんだよ。もちろん蓮も一緒にね」
「はぁ?んで俺も行かなきゃいけないわけ?1人で行けよ。俺がいかないといけない理由でもあるのかよ」
「じゃあ逆に聞くけれど、一緒にこれない理由でもあるの?」
「・・・・しゃあねぇなぁ。行ってやるよ。途中で倒れたら困るからな」
「何それ。でも来てくれるのわがまま言えないよね。よし!行くよ!」
そう言って楓音は立ち上がって玄関に向かって歩き出した。俺はそんな楓音の後を焦る事なくついて行った。
 
「着いちゃった・・・・」
「着いちゃったじゃねぇよ。俺まで連れて来たんだから早く呼び鈴、鳴らせよ」
「え、でも・・・・」
「でもじゃねぇ。俺が呼び鈴鳴らすぞ」
「まっそれはだめ!」
「どうして?」
「私がわざわざ蓮を連れて来たのに蓮にやらせれるわけないでしょ」
「そう。なら早く押せ」
「うん・・・・」
楓音はそう言って覚悟を決めたように呼び鈴を鳴らした。なにを覚悟したか分からないけれど。しばらくして呼び鈴から少し強張った男らしい声が聞こえて来た。空咲日もお父さんだろう。
「はい」
「あの、雀燈です。那雪ちゃんいますか?」
「あぁ。楓音ちゃん。那雪なら学校だけど・・・・」
「あ、そうか。すいません。那雪ちゃんに雀燈が話したいって言ってたと伝えてください。では」
「分かった。気を付けて」
そう言って回線は切れた。その途端なんだか疲れがどっと出て来た。それは彼女も同じようで息をゆっくり吐き出してこちらをむいてぎこちなく笑った。
「そういえば高校生は卒業休みだけど小学生は普通に今3学期だもんね。忘れてた。また明日ついて来てくれない?」
「いいよ。でも明日も学校じゃ・・・・・」
「大丈夫。明日は土曜日。さすがに居るでしょ」
「そう・・・・ならいいけどさ。じゃ、俺こっちの方が近いからこっちから帰るわ。気をつけて帰れよ」
「えー。可愛いレデぃを1人で帰らせるわけ?」
「あ?1人で帰れないのか?」
「帰れるけど2人で帰る方が楽しいでしょ?」
「ったく。しょうがねぇな。俺、早く寝たいんだけどな」
「ふっ。何それ寝不足ですか?」
「いや、別に。ただ単純に眠い。勉強とかしてたらもう12時って言う事あるし」
「ふーん。ま、体には気をつけて」
「お前が言えるような台詞じゃねぇだろ。それに脳なんとかかしんねぇけど何か強い衝撃があって起こるものなんだろ?そんなに強い衝撃受ける程アホな事したんだから気をつけろよ」
「脳脊髄液減少症だってば」
「ふーん。なんでもいいけどさ。ほら、置いてくぞ」
「ちょっと待ってよ」
俺が楓音の家の方向に向かって歩き出したのを見て楓音も俺には届かないけれど高身長の体で付いてきた。高校の時は男子より高かったときもあったけど今はそんなに高くない。当の本人は高身長な体に不満を持っているらしいけれど。
「楓音って今身長何センチだっけ?」
「えっと確か今は・・・・・たぶんだけど162か3ぐらい。てか言わせないでよ!私身長高いの嫌なんだけど」
「ふーん。ていうかなんで身長高いの嫌なんだよ」
「そりゃぁ小さい方が女の子らしいし男子より高いのも嫌だし」
「そ。でも俺よりは小さいよな」
「うっ。何か複雑。小さいって言われてる感じはするけどなんか嫌みに聞こえる気がする」
「何だよそれ。ま、ポディシブに受け取っとけばいいんだよ」
「ふーん」
それから楓音と他愛のない会話を続けているうちにいつの間にか楓音の家の前に着いていた。
「じゃ。体調には十分気をつけて。また今度」
「また今度じゃなくてまたあしただから。那雪ちゃんの所行かないと。また連絡する。バイバイ」
「うん。バイバイ」
俺は楓音に手を振って帰路に着いた。
 この頃の俺はまたあんな不幸が訪れるなんて夢にも思わなかった__________________。

第4章  君の笑顔  

2月25日 雀燈楓音
冬の5時となればもう夕日は西の方に沈みかけていて辺を暗くする。私は今だと思い蓮にメールを打った。
『今から那雪ちゃんの所行くよ。私の家に来て。  Kaede Suzubi』
私は無事退院して今もこんなに普通な暮らしをしている。それにさっきまでは普通に勉強したり自転車に乗って近くのスーパーに買い物に行ったりしてた。自転車に乗っているときにすれ違った人の誰もが私がおとといぐらいまで気を失って病院で眠っていたなんて思わないだろう。私は蓮が家にくるまで待つだけなのでかなり暇になってしまった。
 相変わらずミケは宙に浮いて寝たり窓からスーッと出て行って小鳥と追いかけっこをしたりと本物の猫のような生活をしている。今もミケは宙をぐるぐると回転している。逆さまになったときに落ちそうだけど。
「ねぇ。ミケ」
「どうかしたの?」
「そういえばだけど2月28日って何時に行けばいいの?」
「2月28日は夜の11時半に着いているようにして」
「分かった。あと今からちょっと出かけるね」
「うん。いってらっしゃい」
「うん」
そうして思いついた会話もすぐに終わってしまった。最近ミケはそっけない。というか私への関心が薄れている気がする。この前までは私が出かけると言たびに「どこに行くの?」「いつかえるの?」などのまるでお母さんのような事を言ってくる。でも本当のお母さんはそんなこと言ってこなかったけれど。
 ミケがそっけなくなったのはいつからだっけ。確か私が退院した頃ぐらいからだと思う。普通はもっと心配するはずなのに。そんな事を考えていると備え付けのインターフォンが部屋中に響いた。私は蓮だと察したけれど念のために外に出る前にインターフォンについているカメラ機能を使って外を見た。そしてそこには予想通り蓮が真っ黒なジャージの下に真っ白のトップスとに色が紺色に近いダメージジーンズと言ういかにも男子高校生らしい格好をして突っ立っていた。私はとくに返事をする訳でもなくお気に入りのスニーカーを履いた。もちろん靴下も履いて。そして2錠の上だけの鍵を開けてドアを開けた。
「行く?」
「行くって言うから呼んだんだろ?」
「まぁね」
「行くぞ」
そう言って勝手に蓮が歩きだしたので私もそれに着いて行く。別に横に並んで歩く必要はないけれど幼なじみだし、ずっと3人とか4人で居たから蓮と私が付き合っていると思われても別にいつからそう思われていたのかも分からないからいい。
「楓音」
そう呼ばれて私は蓮と目を会わせるために蓮を見上げた。相変わらずでかい。
「何?」
「今思ったんだけど空咲日の所にいるかもしれない」
「あ、そうか」
「どうする?病院に行くか空咲日の家に行くか」
「じゃあ病院に行って居なかったら空咲日の方を通って帰ろ?」
「いいけど」
蓮に承諾してもらって私達は病院に向かうため回れ右をして病院に向かって歩き出した。
 他愛のない会話をしているといつのまにか病院に着いていた。私はこの病院に来たのは退院して空咲日のお見舞いに来た時以来だ。蓮が緊張する訳もなく病院の前で止まった私を置いて歩き出すから私もそれに慌てて着いて行った。おかげで自動ドアと衝突しそうになったけれど。病院に入ると病院特徴のアルコールか何かの消毒液の匂いが鼻に刺さる。
「楓音?」
「わっ。何?びっくりするじゃん」
「あ、ごめん。楓音がすごい険しい顔してて心配になっただけ。病院嫌なら俺だけでも行ってこようか?」
「ううん、それはいい。私も行きたい」
「そうか?じゃあ行くぞ?」
「うん」
そう言って私達は受付の前を素通りして病室のある方向に歩き出した。廊下ではお年寄りのおばあさんが車椅子に乗って孫らしき小学高学年くらいの子供に押してもらって大声で笑っていたりいまどきの女子高生が集まって映えとかなんとか言って爆笑していたりと病院とは思えない程賑やかだ。でもなぜかその女子高生の集団は私達が横を通ると急にひそひそと話し始めた少し聞こえて来たけど。
「ねぇ、あの男子イケメンじゃない?」
「確かに身長高いし」
「その隣に居るのって彼女なのかな?彼女も美女じゃん」
「まじ最高のカップルじゃん。憧れるわー」
その声に気づいたのか蓮がこちらに向けて苦笑いして来た。
「ただの幼なじみなのに横に並んで歩いてるだけでそう見えるんだな」
「そう、だね」
でも蓮がなんだとか私がどうなのか問う言葉はその集団の中に居た恋愛とかに関しては興味のなさそうにスマホをいじっていた人の言葉で終わった。
「別に男子とかどーでもよくない?今日は退院祝いに病院来たんだから」
「いやさ、でも・・・・」
「楓音?」
私はずっと集団の言葉を聞いてて思わず立ち止まっていたらしい。私は蓮の声にハッとして数十メートル離れていた蓮の所に駆け寄った。
「楓音なんかあったか?」
「いや別に。ただあの集団の喧嘩みたいなのが気になって」
「厄介なトラブルには近寄んなよ」
「分かってるよ。小学生じゃあるまいんだし」
「そ」
「もう。ほら、空咲日の病室着いたよ?蓮こそ厄介な事に巻き込まれないように」
私はそう言って空咲日の居る1人部屋の病室のドアをノックした。中からは那雪ちゃんらしき人物の声が帰って来た。
「どうぞ」
「失礼します・・・・」
そう言って私達は恐る恐ると言う風に病室に入った。蓮はすんなり入ったけれど。中には那雪ちゃんと空咲日の2人しか居なかった。
「那雪ちゃん来てたんだね」
「はい。お姉ちゃんが心配で・・・・・」
「あのさ、那雪ちゃん。お母さんとお父さんは?」
「お父さんは昨日1度家に帰って来て。でもお姉ちゃんが心配だからって近場に変わったらしくて。お母さんは今トイレ」
「ふーん。那雪ちゃんはなしたい事があるんだけど・・・・・」
「何?」
「お母さんには聞かれない方が那雪ちゃんのためになるから場所を変えない?」
「いいけどお母さん、私が急に居なくなってたら心配すると思うので1階にあるカフェみたいなとこで待ってて」
「分かった。じゃあまた後で」
「はい。また後で」
「あのさ、俺がここに居るから2人で行って来なよ。お母さんには俺から伝えとくし」
「だめ、蓮も行くの。蓮が居ないと何喋っていいか分かんなくなっちゃう」
「そ。じゃあ那雪ちゃんまた後で」
「はい。えっと・・・・誰でしたっけ?」
「川野蓮だよ。蓮でいいから」
「分かりました。ではまた後で」
「うん」
私達は病室を出て1階にあるカフェに足を進めた。
 
「楓音さん!おまたせしました!」
「あ、那雪ちゃん。大丈夫、そんなに待ってないから。ね?蓮」
「まぁな」
「蓮さんも待ったよね?」
「蓮で言いってば」
「いいえ。一様年上なので。それより楓音さん、話って?」
「え?もうちょっと落ち着いてから話そうよ」
「もう落ち着いているから」
「え、そう?ねぇ蓮、話ってこういう感じだっけ?」
「あ?知られねぇよ」
「あの楓音さん、いつでもいいから・・・・楓音さんの方が落ち着いて」
「あ、そうか。なんかごめん」
「いえ」
「じゃあ本題に入るね」
「はい」
「あのさ、那雪ちゃんって・・・・・」
ガタッ_______
少し鈍い音を立てて蓮は椅子から立ち上がってどこかに行こうとした。
「ちょ、蓮!どこ行くの?」
「帰る」
「え?」
「俺がいたのは那雪ちゃんと楓音が話せるようにすることだけ。用は済んだ帰る」
「ちょっと、れ__」
「楓音さん。大丈夫だから。蓮さんが居なくても。ね?」
さすがに年下にそう言われて行動しないわけにも行かないので私は椅子に座り直した。
「楓音さん。話って?」
「あのね、那雪ちゃん。汀って知ってるでしょ?」
「うん。燈加里のお兄ちゃん」
「そう。それで汀に最近会ったでしょ?」
「え?まぁ。それだけ?」
「違う。そのとき何話したの?」
「えっと・・・・」
「空咲日の寿命についての話じゃないの?」
私がそう言った途端那雪ちゃんは目を丸くした。でもすぐに白状するかのように言った。
「・・・・確かにお姉ちゃんの話をした」
「寿命の話?」
「寿命って言うか何と言うか・・・・病気?っていうか」
「空咲日が3月1日に死ぬって言う話をしたの?」
それを言って那雪ちゃんはまた目を丸くした。さすがに言い過ぎたかと思い口をつぐむ。そして緊張と焦りがこみ上げて来て冬だと言うのに背中に嫌な汗が流れて来た。
「楓音さん。すごいですね。どうしてそんな事分かったんですか?」
「ふぇ・・・・・?」
「正解です。楓音さんの言ってる事は1つも、1文字も間違っていないんだよ?」
「・・・・じゃあ空咲日が3月1日に死ぬって言うのも・・・・?」
「はい」
「・・・・笑輝と同じだ・・・・」
「笑輝?」
「うん。昔、橋光笑輝っていう名前の幼なじみがいてね。でもね笑輝は8年前に亡くなったんだ。原因不明の心肺停止で」
「・・・・」
「そうだよね。こんなどこの誰かも分からない人の死んだ話されても困るよね。あのさ那雪ちゃん。私が聞きたいのはどうしてその事、空咲日の死ぬ日を知っていたのかだけなの。教えてくれないかな・・・・?」
「・・・・楓音さんには敵わないなぁ。分かった。今から本当の事を話します。嘘かもしれないけど本当の話なんです。それでも信じて聞いてくれると言うのであれば言います。楓音さんなら信じてくれますよね・・・・?」
「はい」
私がそう言ったのを境にして那雪ちゃんは1つ1つを思い出すように話し始めた。

        *                                  *                        
《如月那雪》
 これはまだ私が生まれる前の話。生まれる前って言ってもお母さんのお腹に行くより前の話。胎内記憶だっけ?まぁそういうのはどうでもよくって。私は生まれながらの特別な能力を身に持っていた。それは未来に起こる事が予想でき、それが現実になると言う物。でもそれは本当に大事な事しか教えてくれない。例えば天気予報では晴れっていってたけど本当は雨が降るみたいな事は予想できない。正夢みたいな。よくよく考えてみれば生まれる前の胎内記憶が言っているのは生まれる前、誰か大事な人物に会っているらしい。でもそれは有名人とかスポーツ選手とかじゃなくてただの一般人でその人はこれから生まれるのではなくもう既に死んでいた。だから居た場所が違うけれど目が会うとにっこり微笑んでくれる。そして死人と生まれる前の人物(?)が数分だけ交流ができる場所があってそこで毎日その人は私にある人達の話をしてくれた。毎日数分ずつ数分ずつどんどんその人の顔は明るくなっている気がして来た。どうして死んでしまって会う事ができないのにその顔は明るくなるの?どうして悲しくならないの?私は疑問だけを感じていた。そんなある日私の、生まれる先が決まったと言う事になって私はもう記憶と言う物をつくらない体に、胎児になることになった。本当なら喜ぶ事なんだと思うけれど私はそんなに喜べなかった。だってもしこの世界から人が生きる世界に行ってしまうともうあの人には会えないのじゃないかと思った。でも胎児になるまで2週間かかるからその間はほぼずっと数分経ったら出てまた数分たったら入るを繰り返してその人とお話をした。
 でもそんなに2週間と言うのは長くなくあっという間に胎児予定日は明日になっていた。そう、この世界にいられるのは今日でおしまい。またこの世界に帰ってくるのは死んでから。死ぬ間にこの人とお話をした事も忘れてしまうのだろうか。忘れたくないと言う気持ちさえ忘れてしまうのだろうか。でもその人は私に教えてくれた。
「僕も1回生まれているから教えてあげるよ。忘れたくないと願った事は本当に忘れない。忘れたくないと強く強く願えば忘れないよ。生きている限りは。でも死んでしまったら違う。日に日に忘れたくないことも忘れてしまう。だからなにもかもが願ったら奇跡が起こるのは生きている間だけ。だから生きる世界を存分に味わったらまた帰っておいで。でも自分から死を決意しては駄目。そうしたらもう二度と会えなくなるから。生まれると言う奇跡を末永く楽しんでおいで」
そう言った彼はとてもうれしそうに笑っていた。どうして自分の事じゃないのにそんなに笑えるの?寂しくないの?疑問はいくつもあった。そして1番大きな疑問は彼の名前だった。私は彼の名前を知らない。きっと彼も私の名前を知らない。そして私は聞いた彼の名前を
「あなたの名前、なんて言うの?」
「僕?気になる?」
「気になるから聞いてるの」
「分かった。教えてあげる。僕の名前は橋光。橋光だよ。生きているときに巡り会えるといいね」
できるわけない。あなたは死んで私はこれからあなたが生きていた世界にゆくのだから。でも心の片隅で橋光と巡り会える事を願っている自分が居た。
「ねぇ。君の名前は?僕の名前教えたんだから」
「私に名前はない」
「あ、そうか。まぁいいや。あのさ、君に大事な事を教えないといけない」
「?」
「君は生まれた瞬間から僕の思いを受け継ぐとして特別な力が身に_____」
『放送します。明日、胎児になる人は今からそれぞれの母親のもとに行きます。なので____」
運悪く橋光の行っている事は天の放送でさえぎられてしまった。
「橋光、私行かなきゃ・・・・」
「すぐ終わる。君は生まれた瞬間から特別な力が身に宿ってしまう。でもそれを生かして楽しい人生を送って。いってらっしゃい」
「橋光・・・・」
その瞬間、私の体はふっと軽くなり宙に舞い上がった。景色もよく見えなくなって来た。でも辛くないし、苦しくもない。あぁそうかこれが生まれるって言う感覚だったのだ。私はそっと目を瞑った。その瞬間一気に感じていなかった重力が降り掛かって来た。私はお母さんの子供になったのだ_________。

      *                                    *                                               *

「と、言う感じかな」
「・・・・・」
「きっとそのときに橋光って言う人が言った特別な力って言うのが今発揮されたんだと思う。お姉ちゃんが死ぬ日が分かるって言うね」
「ねぇ、生まれる場所って自分で決めれたの?」
「そこまではもう覚えてないかな。8年以上前の話だもん」
「そっかぁ」
私はその橋光っていう人物が笑輝なのではと思いたかった。丁度笑輝が死んだ数ヶ月後に那雪ちゃんは生まれて来たから。ほぼ笑輝と入れ替わりだ。
「あと、橋光って言う人は死んだ人だったんだ、丁度私が胎児になる数ヶ月前にね。だから橋光は生きる世界について教えてくれた事もあった。自分は死んだけれどまだあの世界で生きている友達が居るって」
私はその少しの希望を持って笑輝にあう事を聞いて行く事にした。
「橋光って男?」
「うん」
「橋光ってそのときまだ自分の事を僕って言ってた?」
「うん」
「橋光はまだ小学3年生ぐらいの男の子だった?」
「大体。今の私よりちょっと大きかったから」
「橋光はそのまだ生きている友達の人数の事話してた?」
「ごめん、そこまで覚えてない」
「そっかぁ・・・・」
ゆっくり考えてこれは笑輝にしか当てはまらない事を聞いた。
「じゃぁさ、橋光って 両目とも、目の中に黒子があった・・・・?」
那雪ちゃんは眉間に少ししわをよせて考えだした。その仕草は普通の大人とほぼ同じだ。まだ幼いんだからもうちょい可愛い仕草をすればいいのに。
「あっ・・・・・」
「どう・・・・・?」
「あった。気がする。うん、あった。橋光は両目に黒子があった!」
「本当に!?」
私は思わず大きな声で立ち上がってしまった。それによって近くの席に座っていた人がギョッとした目で一斉にこちらを向いて来た。店員さんは苦笑いしていますっていう感じを思いっきりだしながら微笑んでいる。私は恥ずかしくなって静かに座った。那雪ちゃんも苦笑している。そして私は改めて聞いた。
「本当に・・・・?」
「そう言ってる」
「そう、ありがとう!じゃあ!」
「えぇ!?楓音さん!?どこ行くんですか!?」
「蓮の所に行く!じゃあね!」
私はここが病院と言う事を完璧に忘れて受付の前を猛ダッシュで走って病院を出て蓮の家の方向に向かって走り続ける。中学時代に陸上部に入ってたのがここで役に立つとは。まぁいじめられてたからそんなに部活に専念できる余裕はなかったけれど。
 蓮の家に着いた頃にはもう横腹がものすごく痛んでいて今にも倒れそうなぐらいだ。私はインターフォンを躊躇なく押した。なぜかインターフォンだけは新しくインターフォンからは蓮の声が聞こえて来た。
『誰?」
「楓音だけど」
『開いてる』
そう蓮が言った途端に回線は切れた。私は言われた通りドアに手をかけて横にスライドさせた。前に鍵はしろって言ったと思うのにどうして閉めないんだろう。私は玄関に入って靴を脱いで常識として靴をそろえて靴下のままギシギシと音が鳴る床を歩いた。そしていつものように見慣れた蓮の部屋のドアを開けた。前に来たよりかは随分綺麗になっていた。蓮はベットに仰向けに寝そべってミニバスケットボールを上に投げたりキャッチしたりしていた。でも私を認識するとそのボールを箱に投げ入れようとするけど私がそれをキャッチし、壁にかかっている小さめのゴールに一発シュートして箱に入れた。
「で、何の用?」
「別に。那雪ちゃんとの事で」
「喧嘩でもした?」
「なんでそうなんの。喧嘩はしてない。でも分かった事があってそれを蓮に教えに来たの」
「・・・・・・分かった事、とは・・・・・?」
「笑輝と那雪ちゃんとの関係なんだけど・・・・・聞く?」
蓮は少し迷った表情を見せながらも最終的には首を縦に振った。なので私は少し時間を開けてからさっき那雪ちゃんから聞いた話、那雪ちゃん本人も本当かどうかが曖昧な、でも希望があってきっと本当の話を蓮に話す事にした____。

「______っていうとこ、かな・・・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
蓮が何も喋らないので私も何も喋らない。今の状況だと蓮の場合はすぐに心が壊れてしまうかもしれないから。でも蓮はどこか嬉しそうでどこか切ないと言う表情を繰り返していた。でも蓮はその沈黙を破るようにして話しかけて来た。
「笑輝、別の世界では今も生きてると俺は思うけどな・・・・・楓音は・・・・?」
「私は・・・・・」
私は1度屋上から飛び降りたときに死んで(?)天に行った事はあるけれどそこに笑輝は居なかった。でもそれは最近死んだ人が集まるだけで笑輝みたいに前から死んでいる人は居ないはず。でももしかしたらもう生まれ変わっているのかもしれない。そしてまたこの同じ場所であっているのかもしれない。
「私は、笑輝の事、生きているって思ってもいいと思う、な」
「そう、か」
「うん・・・・・」
そう言った蓮の顔はどこか嬉しそうだった。でももうあえない事を知っているからなのか少し悲しそうだった。でもなぜか私は蓮ほど悲しくない。きっといろんなひとが死んで行く瞬間を目の当たりにしているから、感情がその度に薄れて行っているのかもしれない。
 今の私達は完璧に歯切れが悪いと言っていいだろう。もう1つも会話は浮かばないし言葉を発しても「うん」とか「そう」とかで終わる。それに句読点の付けどころも絶対おかしいって言う所に付けている。私はもうこの空気に耐えきれなくなりいつの間にか降りていた腰をゆっくり持ち上げて深呼吸をして言った。
「私はもう帰ります」
「そう」
「送って」
「は?」
「送っててば」
「勝手に来たくせに・・・・・」
「あ?」
「あ、すいません・・・・・送らしていただきます」
「うん。ありがとう」
私達はそう言って外に出て私の家に向かって歩き出した。
「どうしてそんなに送ってもらおうとしたわけ?」
「もう暗いから怖いし蓮があのままずっと静かにしとくの嫌だから笑わせようと思って」
「俺を笑わせるため?」
「うん。さっきの話したときからちょっと雰囲気くらいし、顔も暗い」
「そう」
「あと蓮が、そう、か、うん、しか言わない病を治すため」
「何だよそれ」
「そのまんま。もうちょい喋ってほしくって」
「・・・・・なんで?なんで喋ってほしいわけ?」
「だって笑わない蓮は蓮らしくないし、そんな口数少ないのも蓮らしくないし、暗いのは誰に対してもいやだもん」
「・・・・・そんな事言う楓音の方がめずらしいけどな」
「え?」
「だって楓音、いっつも「周りの目なんか気にしてるとか馬鹿じゃん」とか「周りがどうとかどうでもいい」とか言って周りに興味なさげだし」
「そう見える?」
「そう見えるていうっていうか何と言うか・・・・楓音がそう見させてるんじゃないのか?」
「ふーん。そう」
「まぁそんなとこ」
「何この会話。ふっ」
私はなぜか一言もおかしい事はなかったはずなのに笑えて来た。それにつられてなのか蓮も笑っていた。そんな事をしている間に家に着いていた。空には星たちが浮かんでいる。
「蓮、ありがとう」
「どういたしまして。おやすみ」
「おやすみ」
そう言うと蓮は歩いて来た方向と全く同じ方向に歩いて行った。私も冷たい風に押されるようにして小走りで家に入った。
 なんだろう。またあの痛みがする_______________。


2月25日 
 今日は朝からやけに寒い。2月の後半だと言うのにクリスマス並に寒い。私は起きてもなかなか布団の外に出る事はできなかった。ミケはこんなに寒いのにブランケットの1つも羽織らず、宙で時間をもてあそんでるようだ。
「ミケ、寒くない?」
「寒くないよ。温度感じないから」
「そう、ならいいけど」
また短い会話で終わってしまった。でもどちらのせいでもなければどちらも悪い。もやもやした気持ちのままブランケットを何十にもして昔の平安時代のいわゆる十二単のようにしてリビングに行った。リビングは誰もいなかったからもっと寒い。今日はどこにも行かない事にしよっと。でもやっぱり空咲日のお見舞いだけは行こうっと。そう思ってタンスから服を取ろうと部屋に戻ろうとして立ち上がった途端に激しい立ちくらみに襲われた。私は思わずその場に倒れ込んでしまった。でもそれはもう治っていて私はよくわからないまま立ち上がるまた少しめまいがしたけれどさっきよりは何千倍もいい。私は1段1段踏み外しのないようにゆっくり冷たい階段を歩いてやっと部屋に着いた頃には少し疲れていた。さすがにミケも心配したのかこちらによって来た。
「楓音ちゃん大丈夫?随分顔色が悪いけど・・・・・」
私はそう言われて鏡を見た。そしてその顔を見てもっと頭が痛くなった気がした。目の下にはゆっくり寝たはずなのにくっきりとした隈があってもう人間じゃないといわれてもおかしくないぐらい顔は青く絶対疲れていると言う顔をしていた。
「うわ・・・・・ひっどい顔・・・・・」
「起きた時はそんなに顔、青くなかったよ?目の下の隈はゆっくり寝てても起きる現象だからと思って・・・・・」
「私もそう思う」
めずらしくミケが自分の事を「あたい」ではなく「私」と言った。これは本当に真剣なサインだ。
「病院、行ったら・・・・・?」
「ううん。今日1日家に居て寝て明日もっとひどかったら行く」
「うん。今日は安静にしといて」
「あ、でもお腹すいた・・・・・」
「私がお粥かなんかつくって持ってくるから。それぐらいはつくれるし」
「・・・・・じゃあ火事とか大変な事にならないようにつくってね?」
「ちょ・・・・私もそんな子供じゃないし」
「猫じゃん」
「むっ・・・・・。ま、待ってて」
「うん。よろしく」
ミケはそう行って部屋を出て行った。ミケって何者なんだろう。ていうかあんな猫の手でものとか握れるかな?あんな小さいからだで調理台に届くかな?あ、でもミケは浮いてるから届くか。でもなんか心配なので見に行こうとした途端また大きな目眩に襲われたので私は安静にして置く事にした。とはいっても動かない限りなんともないので暇だ。なので最近は看護士の本ばっかりで全然読んでいなかったけど私のお気に入りの漫画を久しぶりに読む事にした。まだ完結していないから続刊が出たら買うつもりだけど。漫画は友情を土台とした家族との物語。母子家庭だった主人公が母親の再婚によって話した事のないクラスメイトと義姉妹になるというものだ。
 
「楓音ちゃん。おまたせ」
そういってミケはドアかひょこっと顔を出している。お盆は雲の上に置かれていてかなり重力かなんかの関係で落ちそうだけどそこは気にしない事にした。
「味は、味見してないから保証できないけど・・・・」
ミケがおずおずといった風にこちらにお盆を差し出す。と言うか雲ごと。私もなぜか上半身だけでかるくお辞儀しながら受け取った。私は雲からお盆をとってお盆の中にあるお粥の鍋を開けた。最初は湯気で見えなかったけれど一様刻み海苔もかかっていてごはんの色も私の好きな色だ。私はこのお粥に見覚えがあるきがしたけど、そんなのどこも同じだから空咲日とかのかもしれない。私はスプーンを手に取り一口分に取って少し冷ましてから口の中に入れた。
「あっ・・・・」
私は絶対にこの味に見覚え、いや、食べ覚えがある。それは大事な人で、でもお母さんじゃないし、お父さんでもない。私は思った。この味は笑輝の味だと。一度だけ食べた事がある。まだ幼い笑輝がたった一つだけ作れた、そして美味しい料理。それはこれだ。
「楓音ちゃん・・・・?」
「何?」
「涙・・・・」
「え!?」
また知らないうちに泣いていたとは。私はあわてていつの間にか頬に伝っていた涙を袖で拭った、でもその涙は枯れる事なく溢れ出てくる。
「どうしたの?泣く程まずかった?」
「いや、違う・・・・美味しい、美味しいけど・・・・」
「美味しいけど・・・・?」
「・・・・ううん。なんでもない。美味しいよ。美味しすぎて涙出た。たぶんお母さんのお粥と似ていたんだと思う」
「そう・・・・?ならいいけど・・・・」
「うん。ミケありがとう」
「あ、うん。どういたしまして・・・・あ、のさ!私ちょっと外いってくる!」
「え?」
そういってミケは窓から外に飛び出て行ってしまった。まぁ私も1人になりたかったからいいんだけれど。
 さっき笑輝の事を言わなかったのはまだ天の事を覚えているからだと思う。
『生存中死人代人リストの中にいます』
『名前は橋み___』
私の頭ではそんな会話がフラッシュバックされていた。
「せいぞんちゅうしにんかじん・・・・」
私はミケのいっていた事をいってみた。私は窓からのそよ風ではっと我に帰る。お粥の蓋が開けっ放しだったので急いでお皿に移して食べ始めた。でもおいしかったのでまた食べたいと思いラップに包んで冷蔵庫に入れに行こうと立ち上がろうとしたしゅんかんおなじみの立ちくらみがした。そういえば立てないからミケにごはんつくってもらったんだった。私はまた作ってもらえばいいと思いお皿に残っていたお粥を綺麗に平らげた。そして私はミケに言われた通り寝ようと思い上半身を倒した。本当はシンクに持って行って水を浸けておかないとお皿がカピカピになってしまうけど今はもうそんな気力がない。でもちょうどいい所にミケが帰って来てお皿を持って行ってくれたので私は安心して眠りについた。


2月26日
 だいぶ寝ていたようで時刻は日をまたいでいてもう26日の3時だった。こんなに寝たのは人生初かもしれない。かといって今はほぼ真夜中なので辺はシンとしている。ミケは本物の猫のように背中を丸めて尻尾は体を包むように置かれている。立ちくらみはたってみないと分からないので私はたってみることにした。するとその瞬間倒れた。いや、正確に言うと倒れそうだったけどミケが小さな体で助けてくれたのだ。
「ミケ、大丈夫・・・・?」
「大丈夫なわけ・・・・ないでしょっ・・・・!早くたってよ!」
私はそう言われてゆっくりたった。猛スピードでたってしまうとまた倒れそうだったから。私がたった途端ミケはぐったりとした表情で寝転がった。それと同時になんだか罪悪感が生まれた。
「ミケ、ごめんね」
「ごめんねで済んだらこの世界は成り立たないよ!」
「へへへ」
「へへへじゃないよ!本当に死ぬと思ったんだから!」
「ミケって生きてるの?」
「え」
この質問はこうなる事を想定して質問した。いつまでも闇のままじゃだめだしね。でもミケは途端に何も喋らなくなり窓から出て行こうとしたけど私はいった。
「また逃げるの?」
「・・・・」
「前言ったでしょ?自分の都合の悪くなったら喋らなくなるのは割にあわないって!」
「でも・・・・」
「でもじゃない。それこそそんなことでごまかせたらこの世界は成り立たないでしょ!?」
妙に熱くなりながらも私は続けた。
「ミケはこの世界を生きた事があるの!?あったのならこれくらいは常識ってこと分かるでしょ!?そんなの3歳でも分かる!もしこの世界に生きていなかったとしたらどうしてごめんねで済むんだったらこの世界は成り立たないこと知ってるのか言ってよ!」
「だから言ってるじゃん!それは28日に話すって!」
「何?喧嘩売ってんの?その喧嘩私が買ったらどうするの?ミケは何ができるって言うの?1人じゃなにもできない癖にそんな『私はこの世界で1人で生きてきました』みたいな感じで言うんじゃねぇよ!」
私はついに香澄みたいな事を言ってしまった。でも今はそんなのどうだっていい。香澄も私をいじめたくていじめてた訳じゃない。のかな?そうだといいけど。
「おまえの方が最初に喧嘩売って来たんじゃねぇかよ!いっつも私には『悲劇のヒロインブッて』とか言って来たんじゃん!そんなのお前の方が悲劇のヒロインの役きせテんじゃねぇか!そうやって『私の方が辛い』『ミケは何も分かっていない』みたいな事言ってる方が悲劇のヒロインだっつーの!そんなのだからあんたからは大切な物が失われて行くんじゃないの!?」
「・・・・っ」
「ほら、お前だって自分が反論できなくなったら黙ってるじゃねぇかよ!そんなの人に言う前に自分の言動、行動改めろよ!」
「で?」
「は?」
「で?、私が言動行動改めて何があるの?」
「そんなことも分かんないの?」
「うん。分かんないだから教えて?」
「そんなことで看護士になれるとでも思ってんの?看護士っていうのは教えてもらうんじゃなくて自分で知る事が大切。そう本にも書いてたんじゃないの?」
確かにミケが言うように参考書にもそうかいてあった気がする。
「・・・・ちょっと頭冷やしてくる」
そういって今度こそミケはまだ星が輝く夜の世界にとけ込んで行った。そういえばまだ真夜中だから近所の人に私の声が聞こえたかもしれない。普通の人からみると1人で喋っているアホな人間に見えるかもしれない。でも今はそんなのどうでもよかった。とりあえず今日は病院に行こう。でもたって病院にいけないからどうしよう。こういうときはどうすればいいのかとスマホを開いて検索した。すると「そういうときは遠慮せず救急車を呼びましょう」と書いてあった。私は最初はこんな真夜中にどうかと思ったけれど念には念をと言うことで119のボタンを押して通話を開始した。
「はい、119です火事ですか?救急ですか?」
急につながって少しびくっりしたけどひっこむより先に応答した。
「救急です。実は昨日から立つ度に重い立ちくらみと目眩がしてて、1日寝たら治ると思っていたんですが治らなくって・・・・もう立てないくらいで・・・・!」
「分かりました。まずは救急車が向かう場所、住所を教えてください」
私は言われた通り焦らない事を心がけて自分の住所をゆっくりだけど伝えた。それに対応してくれた電話先の人は住所を確認した。
「安心してくださいねもう救急車は向かっていますので。次に何歳の方がどうされましたか?」
「18歳です。私です。病状はさっき説明した通り目眩と立ちくらみが酷いです。あとつい最近に病院を退院したばかりです」
「それはどうして入院されていたのですか?」
「脳脊髄液減少症です」
「分かりました。最後に家の鍵は開いていますか?」
「開いていません」
「では家族はいらっしゃいますか?」
「今は1人です」
「分かりました。では電話を切って救急車の到着を待ってください」
そう言って電話は切られた。私は言われた通り救急車の到着を待った。でもその途端さっきは立つだけで立ちくらみや目眩がしていたのに今は普通に寝転がっていても意識が朦朧としてきた。私は救急車の音を聞きながら目を閉じた。_____________
 
「雀燈さんの検査結果が出ました」
「先生・・・・・!」
そういう前の私の担当医の声に似た医師がいった。その声に反応したのは声からするには蓮。私はその声に反応して起き上がろうとするけどベットに掴まれてるみたいに起き上がる事はできない。それならばと思い目を開けようとするけど目も接着剤が張り付いたように開かない。しょうがないと思い私は聴力を集中させて医師の言葉の続きを聞こうとした。
「雀燈さんは前検査をしたときには異常はありません。こちらです」
「ほんとだ・・・・」
「ですが今日検査したのがこちらの結果です。これは前雀燈さんが患っていた脳脊髄液減少症のかたちに似ています」
「・・・・つまり、後遺症ですか・・・・?」
「いえ、脳脊髄液減少症の後遺症とは見れません」
「じゃあ、楓音はなんなんですか・・・・!」
「それは今こちらも勢力をあげて原因を究明中です」
「なんなんだよ・・・・!結果なんか出てないじゃねぇか!」
「・・・・とりあえず脳脊髄液減少症とおなじ治療薬を使いますがそれで効果が見れるかは分かりません」
「・・・・お願い、します・・・・」
「では失礼します」
そう医師はいって歩いて行ったのだろうか病室のドアらしきものを開けて去って行ったと思われる。そして入れ違いと同じくらいに大きな足音が近づいてくる事が分かる。そうしたらドアが思いっきり開かれた。
「かわちゃん、楓音は大丈夫・・・・?」
「この状況で大丈夫って言える奴がどこにいんだよ」
「・・・・」
汀は黙った。なんで?私そんなに危険な状態なの?なんで?もう治ったんじゃないの?私はそれしか考えられなかった。でも1つ確かな事がある。それは私が異常な程眠いと言う事。いや、これは眠いと言う表現であっているのだろうか。眠いと言うよりは・・・・なんだろう。
 もう誰も喋らなくなってただベッドサイドモニターからテンポよく私の脈拍のリズムの音が流れているだけ______だった。でもそれは追突に少なくなって来て5秒に1回とかになってきた。それと同時に私はもう何も考えれないくらい朦朧としてきた。私は蓮と汀が看護士を大声で呼ぶ声を最後に強制的に意識が飛ばされた。最期はもっとみんなが笑っているシーンがよかったのになぁ______。

2月27日  《川野蓮》
「2月27日午前12時30分。雀燈楓音さん、ご臨終ですお亡くなりになられました。雀燈さんも頑張られたと思います」
あぁ。もういいよ。なんでこの台詞を面と向かって2回も言われなきゃいけないんだよ。俺はこの状況をうまく受け止める事はできない。それはなぎや那雪ちゃん等の人も同じようでずっと瞬きをしていたり手を握ったり開いたりしていた。
 医師は楓音のベットの横にしゃがんで手をあわせている。やっぱりプロなんだなぁ。
「周りの方々も辛かったと思います。ですがいつまでもそんなに悲しんでいたら雀燈さんも天国で笑えず悲しんでしまいます。なのでここは雀燈さんの死を受け入れて天国へ送りだしてあげてください」
「・・・・・」
医師がなんと言おうと誰もそれに反応しない。反応したと言うのなら楓音の親戚かなんかの人達がさらに泣き始めたと言うぐらい。でも俺はなぜか泣けなかった。もしここで泣いてしまえば楓音が死んだと言う事実を、受け入れたみたいになってしまう。それは那雪ちゃんやなぎも同じだった。那雪ちゃんは泣いてはいないけど手足をガタガタと震わせている。でも楓音が死んだと言う事実は事実じゃないと胸を張って言える人は誰1人としていないけれど。
 もしこの世界に神様が居るなんて言うのは絶対嘘だ。ちょっとお坊さんとかには失礼かもしれないけれど俺は神様はいないと思う。その思考は8年間、笑輝が死んだ瞬間から1度も買えなかった思考だ。だから初詣とかも友達が行くって言うからお守りだけ買って五円玉を投げずに買える事もしばしば。もし神様が居るって言うのであれば聞きたい。どうしてそんなに笑顔の絶えない人間をそんなに不幸にできる訳?もっと言えばそう言う人をこの世から奪って行く?教えろよ。もし神がいるなら空咲日は先天なんとかになるんだよ。どうして楓音が死ぬんだよ。どうして笑輝が死ぬんだよ。そんなんも言えない癖に天国かなんかで胸張って自分は神様だみたいな事言ってんじゃねぇよ。言ってるか分かんないけど。それになんで楓音からそんなに大事な物を奪うんだよ。楓音は両親を亡くして友達まで亡くして。なのに命まで奪うんだよ。俺の想像だけど1人1人に神が着いている。神はその人を幸せにしたり悪い事をしたら不幸せにしたりとか平等にやってる。でも楓音の担当の神はそれをさぼっていろんな担当の神の所に遊びに行ってそこの神様に迷惑かけて遊び暮らしてるはずだ。もしその神がちゃんと仕事をしていたなら楓音は何も失う事なく笑顔で暮らせていたかもしれない。
「なんで・・・なんでだよ・・・まだ楓音の人生これからだろ・・・?なんで俺より先に死ぬんだよ・・・」
思わず出たドラマとか小説みたいな言葉にびっくりするけど今はそれどころではない。俺はその場にしゃがみ込んで高校の入学発表の時に流した嬉し涙ぶりに泣いた。でも上手に泣けない。悲しくて泣いたのはいつが最後だっただろう。「男のくせに泣くなかっこわるい」まだ4歳の俺に言われたその感情のない言葉にさらに泣けて来た。こんな事を言ったのはあいつ。父さんの離婚した最初の母親。俺は今でもあいつが嫌いだ。どこで何をしているかも分からないけどとても憎くて恨めしい。なんであんな人間がこの世界に生まれて来たのかというくらい。そう考えている間になんだか悲しみが伝わってくる体の1部が俺の背中に置かれた。でもそれは見なくても分かる。なぎだ。
「かわちゃん、分かるよ。分かる。悲しい。でも泣くなよ。泣いたら泣いていない人まで悲しくなる。悲しんでいる人を見ると悲しくなる。そういうのが人間なんだよ。だからお前が泣いたら俺ももっと悲しくなる。泣くなよ。俺だって泣きたいけどお医者さんが言ったようにお前が悲しんだら楓音も悲しむんだよ。立て。そしてよくがんばったねって楓音に伝えろ。じゃないと楓音が成仏できない。それでもいいのか?幼なじみとして、大好きな相手として」
「・・・」
なぎの言葉に困ってしまったけれどなぎは自分も悲しいはずなのに手を差し伸べてくれた俺はそれを力の限り受け取りその場に立ち上がった。
「楓音・・・・」
俺は楓音の方をチラッと見てまた目を離した。楓音の方をみると楓音の死を理解させられるようで怖い。足が動かない。でもなぎが背中を軽く叩いてくれて大丈夫と言ってくれたから俺は少しは楽になった。
「楓音・・・・ごめんな、あのとき守ってあげれなくて・・・・楓音は強かったと思うよ。楓音は誰が死んでも周りに迷惑かけないようにって笑顔で居たんだろうけど抱え込んでいるのはみんな分かっていた。だからみんなそっとしといてあげようって離れて行って。あのとき俺がそばに居てあげたかった。ちゃんと偽りなんかの友達じゃなくって本物の友達になりたかったのに・・・・なんで・・・・」
「俺はそのときまだ楓音達の事を知らなかったから何も分からないけどかわちゃんが辛かったのは伝わってくるよ。かわちゃんはきっと楓音の本物の友達になれてたよ」
「なれて、なかったじゃんか・・・・」
「なれてるよ。偽りの友達だったら友達の死をそこまで考えて、悲しむ事なんてできないと思う。かわちゃんは自分の正義を守り抜いただけだよ」
「うっ・・・・」
涙が邪魔でうまく喋れない。言葉が出てこない。何も考えたくない。でもなぎの大丈夫がリピートされてそれがもっと心に突き刺さって涙はとどめなく溢れてくる。なぎはきっと泣いていない。泣いてるように見えるのは俺が泣いていて目に涙が溜まって前がよく見えないから。そう考えていたい。でも実際はなぎは口元は笑っているけど顔は馬鹿正直でなぎの目からは俺程じゃないけど涙が流れている。涙を拭いて周りを見てもみんなないている。那雪ちゃんも、どっかの親戚かなんかの人も、そして医者もつられてなのか少し顔を歪めて下を向いている。
 楓音の方を向くと「蓮、泣かないでよ。大丈夫だよ蓮ならこんな世界でも生きて行けるよ」とテレパシーか何かで語りかけられそうだ。俺はこの世界に生きる決心をして前に進もうと新たな一歩を踏み出した________

最終章 君と見た最高の景色と奇跡


2月27日 雀燈楓音
 私は今どこに居るのだろう、ではなく私は今どこに居るか鮮明に分かっている。場所は私の家の前。通りすがった人に大声で挨拶しても誰も返事をしない。この現象が私が幽霊だと言う事をなお実感させる。私は行く当てもなくふらふらとその辺をさまよっている。私の事が視える人が居たら面白いだろうな。でもそんな人が居る訳もなく暇をもてあそんでいる。蓮の家に行っても汀の家に行っても2宅とも不在だった。私の葬式なのだろうか。私は行く気にもなれずまたその辺をふらふらと歩き出した。車に轢かれそうになっても車は私の体をすり抜ける。わざと轢かれてみてもすり抜けるだけ。
 普通の人だったら自分が死んだってわんわん泣きわめくのだろうけど私はなく気にもなれなかった。もう涙はない。というか感情がない。そう言う感情が私の心を尚暇にさせる。そして私は1つの疑問が浮かび上がった。
              ___ミケはどこだろう__
ミケは葬式に行っても特に何もする事はないはずだし何もできないと思う。そう考えると1度私が死んだときに行った「天」という場所に居るのかもしれない。私は天の行き方は知らない。ただ雲の上なのかなと思うくらい。どこにあるかも分からない場所にどうやったら行けるのだろう。とりあえず上に行く=ジャンプと言うイメージがあるので私は数歩下がって走ってそこから思いっきりとんだ。すると体は軽々と2階建ての家の屋根より高く飛びあがった。私は近くにあった家の屋根に着地した。びっくりしたとしかいいようがない。とりあえずもう1度同じ事をしてみる事にした。私は屋根に乗っかっている足に思いっきり力を入れて飛び上がった。今度はさっきより高く雲の上まで行ってしまった。けどそこには天と思える場所はなく飛行機が一機見えるくらいだ。確かに雲の上が天国とか地獄だったら飛行機に乗っているときに天の様子が見れるから天がどこにあるかニュースになるはずだろう。私の体はまた重力かなんかの力で雲を突き抜けて落ちて行った。そしてまたジャンプした家の屋根の上に着地した。
 でもしばらくして枯れてなくなっていた涙が込み上げて来た。目からこぼれ落ちた涙を拭おうと袖を目元に持っていき拭おうとしたけれど私の体は顔をすり抜けた。私は最初は何が起こったか全く分からなかったけれどそれとほぼ同時にとても強い風が私を襲った。それで体のバランスは壊れてしまって道路側に身を転がしてしまった。でも痛さなどは驚く程一つもなかった。これで私の体は完全に幽霊になってしまったのだろう。私は更に涙が溢れて来て拭おうとすればする程手はすり抜けて涙も更に溢れてくる。私はもう声をあげて泣き始めた。さっきまで一滴も涙を流さなかったのに。でもどんなに声をあげて泣いても通りすがりの人は私を道端に落ちている石のように見向きもしてくれなかった。あぁ。これが現実って言う奴か。私は涙を流しながら悟った。そして寂しさもこみ上げて来た。もうこの世界に私は1人しかいないんだ。会いたい、話したい。誰でもいい。香澄でもいいから。香澄より酷い奴でもいいから。私がこの世界に1人ボッチではない事を証明させるために。
 私は涙を流しながらも前に足を進めた。会いに行こう。ミケに。ミケなら分かる。さっきまで分からなかったけれど今なら分かる。ミケは絶対あそこにいる。悲しい悲しい思い出が沢山詰まった、でもどこか楽しい思いでもあるあの場所に。そう、笑輝が最期の一時を過ごしたあの砂浜に______________。

「ミケっ_______」
私はどんなに力を入れて歩いても足跡が付かない砂浜を横目に歩き続ける。そこにミケは居た。ミケは瞬きをすることなど忘れたように空を見上げていた。私もミケの隣に行き無言でミケと同じように空を見上げた。ミケは私を認識してくれたらしく私が隣に来たとき最初は目を丸くしていたけどすぐにそれは終わっていつもの穏やかな口調で話しかけて来た。
「楓音ちゃん。18年と言う短い人生、よく生き延びたね。楓音ちゃん、誕生日明日だったのにね」
ミケのその一言で今度は私が目を丸くした。
「あれ?私ミケに誕生日教えたっけ?」
「教えてなくても分かるよ」
「なんで・・・・?」
「そりゃあ天で聞いたからだよ」
「そ、っかぁ・・・・」
ミケは私の事の全てを知られてる。私は?私はミケの事を知っている?どうだろう。そんなことない。私は何も知らない。ミケが何月何日に生まれたのかも、ミケが何歳なのかも。そう考えるとすこし憂鬱になってきた。
「楓音ちゃん・・・・」
「ミケ。ごめんね」
「?」
「私が変な所で熱くなっちゃったからミケを困らせたんじゃないのかなって・・・・」
「あ・・・・」
『そんなの人に言う前に自分の言動、行動改めろよ!』『そんなのだからあんたからは大切な物が失われて行くんじゃないの!?』
ミケの行っていた言葉が耳と頭の両方で再生される。思い出した途端耳の方まで赤くなったのが自分でも分かる。幽霊だから本当に赤くなっているのかは分からないけれど。
「ミケには本当に迷惑かけ続けた。ミケの言う通りだと思えば思う程それに逆らいたくなる気持ちが増えて行くの。ミケには私と会って数十日しか経っていないのに私の事を私より分かっている気がして来てそれがどうしようもなく辛かった。悔しかったの。でももうミケには迷惑かけない、かけれないんだよね・・・・本当にごめんなさい・・・・」
「・・・・ほんと楓音ちゃんは私に迷惑かけたよね。よくそんなに迷惑かけれたね」
ミケがそう言って私の心はもっと嫌悪感劣等感に苦しめられる。でもこれは自分のせいだからしょうがない。今の私には自業自得という言葉がぴったりなのかもしれない。
「ほんと迷惑かけてくれたね。でも私はその迷惑ちょっと嬉しかったりもした」
「え?」
「私だって喋るの大好きなんだよ?喋る事が何よりもの幸福で楽しかったんだ」
「・・・・」
「正直楓音ちゃんが私を拾ったとき捨てられるんじゃないのかなって思った。喋る猫なんて気持ち悪いって。でも楓音ちゃんはそうじゃなかった。楓音ちゃんは私を匿ってくれた。ちょっとびっくりしたけれどそれは楓音ちゃんが優しいからだってすぐに分かった」
「でも・・・・そんな・・・・ミケを困らせてばっかりの私が、優しい訳ないでしょっ・・・・!」
「うん。自分ではそう思っているかもしれないけど違う。人の優しさって言うのは自分で感じるものではなくて周りの人がその人の事を優しいと思うか思わないかによる事。ただそれだけなんじゃないの?」
「・・・・っ」
「自分で勝手に苦しまないで。確かに人生って言うのは辛い事の方が多いと思う。でもそれを乗り越えた人達が残りの時間を幸せに過ごして行くんだと思う」
「じゃ。じゃあ私は何の壁も乗り越えずに、周りの人に迷惑をかけたって言いたいのっ!?」
「それも違う。だって楓音ちゃんはがんばってこの人生生きて来たのに沢山苦しめられた。きっと楓音ちゃんは何も乗り越えられないと言うよりは自分の事を下に見すぎているだけだと思う。自分の事を下に見ていると周りから見るとこの人は自分は辛いっていう演技を貼っているって思われていじめられるとか、向こうからどんどん離れて行くとか。そういうことが起こってもっともっと辛くなっていく。そう言う事だと思う」
「あ・・・・」
私は香澄達にいじめられていた。でもそれは演技を貼っていた訳ではないはず。だっていじめられるようになった原因は私があのときみんなとは外れた回答をしたから。ただそれだけっだったはず。でも、もしかしたら香澄達は知っていたのかもしれない。私が父親を亡くして友達を亡くしていると言う事を。香澄とは小学校が違って中学で出会ったから知らなくてもおかしくない。私が言ったのかな?香澄達に大切な人が2人も亡くなっていると言う事を。私は目を閉じて昔の出来事を思い出す。でも記憶力はそこまで悪くないおかげでまだスムーズに思い出す事ができた。香澄達と出会った理由、香澄達と友達になれた理由、香澄達の友達はまぁまぁ沢山居た理由、そして香澄達が私をいじめるように鳴った理由。私はそこまで思い出して身震いした。怖かった。いじめられているシーンまで思い出したくなかったのに。でも足と手の震えは止まらない。怖い、またいじめられる。そう思ってしまった中学の時。お母さんはいつもへなへなになって帰ってくるのにそんな事でわざわざ心配させられないと思った。学校に相談した所で香澄達はいじめていますよオーラを出しときながら先生達はそんな理由で停学処分、退学にはできないしかなり成績と共に運動神経もトップクラスで先生の信頼もそこそこ強かった。そのせいで私はいつもテストを返される度に香澄達の100点満点の答案用紙を見て憂鬱な気持ちになる。そんな事を繰り返している間に高校の受験勉強だなんだのでみんな勉強を始めて香澄達もいじめどころではなくなったのだろう私はは受験と言う名のイベントのおかげでいじめがなくなって行く事を日々感じていた。そして最後に思い出したのが香澄の顔だった。香澄が私をいじめていたグループの中心で指示をしていたのも香澄だった。でも香澄は私を直接はいじめていなかった。私をいじめるように指示する割には私に面と向かって暴力をふるったりすることはそんなになかった。香澄は私をいじめている時は完璧ないじめっ子って言う感じの顔をしているいけれど放課後香澄が1人になると必ず溜息をだしていてとても辛くて酷い顔をしているのを私は5回以上見た事がある。香澄は本当はいじめをやりたくなかったの?そこまで考えたけれど私は横に首を振ってそれはないと思った。そんなにいじめたくなければいじめなければいいだけ。だって香澄が中心的存在であるのならば香澄がいじめをやめようと言ったら周りもやめるはず。そう考えていると横を誰かが通りかかったような感覚を覚えた。そしてその人はとても驚いたような顔をして私の名前を呼んだ。
「雀燈・・・・?」
「あっ・・・・」
「雀燈!?雀燈!?なんで!?なんで雀燈がここに居るの!?なんで!?」
私の名前を呼んだ張本人、香澄は狂ったように叫んでいる。確かに死んだ私がここに居たら変だよね・・・・じゃなくてなんで私が視えるのかが分からなくなって来た。そしてあわてている香澄を見て私もおかしくなってきた。
「香澄!?大丈夫だから!香澄?香澄でしょ!?」
「うっさい!だまって!雀燈は死んだの!それだけ!私の名前を呼び捨てで呼ぶ権利はあんたにはない!」
「香澄・・・・?私の事、見えるの?」
「だから何って言うの!?どうせ私を呪い殺したいんでしょ!?でもそんな術はないとかいって成仏できない幽霊は数えきれない程見て来た!雀燈はそんな術ないの!?そんな術あるならさっさと私を呪い殺して!」
「香澄落ち着いてよ!なんで呪い殺してもらう必要があるの?」
「やだよ!あんたみたいな奴に私の話を聞いてもらう必要なんてない!」
「じゃあ私は?」
急にミケが発言して視線はもちろんミケの方に行く。香澄はもともとミケが視えていたのだろう。そこまで動揺していなかった。
「あんた誰?」
「詳しくは言えない。でも幽霊でも人間でもない存在。でもどちらかと言えば人間より」
「だろうね。三毛猫のくせに人間語、もっと言えば日本語喋ってるもんね」
「香澄さん?だよね?香澄さん、私とでいいなら話そう?とって食べたりしないよ。こんな小さいからだで襲いかかってももう成人に近い大人に敵うはずないじゃん」
「・・・・三毛猫だけならいい。それと雀燈、あんたがこっそり近づいて来てもすぐに分かるから」
香澄に言われて私は行く訳ないと心のそこから思った。いくら幽霊でも怖い物は怖い。私だって人間だったし。私は縦に首を動かした。
「じゃあ行こ?」
「雀燈がどこかに行けば」
「分かった・・・・・」
私は香澄達から走って離れた。最後に振り向くと香澄はまだこちらを見つめていたけれどミケは黙って下を向いていた。________

「じゃあ話してくれる・・・・?」
「はい・・・・」
「質問して行くから答えてくれる?」
そう言って彼女はうなずいた。結局私は気が気だったので遠回りしてまた同じ場所に帰って来てしまって今は4、5メートルは離れている茂みに隠れている。
「じゃあ、楓音ちゃんとあなたはどんな関係だったの?」
「最初がそれかよ。あんた幽霊らしくないね」
「質問に答えて」
「はいはい。雀燈はただの同級生だよ」
「ほんとに?さっきの会話からしてそんな様子はみえなかったけど。本当の事を話して」
「たぁっくめんどくせ。私は雀燈をいじめていたグループの真ん中って言う感じ」
「なんで楓音ちゃんをいじめていたの?」
「そりゃあ雀燈が変わり者だからだよ。変わり者には罰を与えないと。そうでしょ?」
「・・・・は?」
「変わり者には罰を与える。それが普通だっつーの」
「・・・・ざけんな」
「あ?」
「ふざけんなって言ってんだよ!この世間知らずのくず野郎がよ!」
「ちょ、落ち着いて!本当の事はなそ?あなたからは本当に心の底から楓音ちゃんをいじめたい苦しめたいと思っていたように感じられないよ?」
「だから何?本当の事を言ってほしいなら今すぐ茂みに隠れている雀燈をどこかに連れて行けよ!」
そう香澄が言った途端私の背筋は凍った。なんで?なんで?絶対ばれないと思ったのに!私はかたかたと震えながら香澄が来るのを待ち続ける。早く逃げたいけど足が固定されたように怖さで逃げれない。どんどん足音が近づいてくる。やめて!来ないで!でもそんな願いも儚く茂みの外から香澄が現れた地毛だと言う嘘をずっと言う金髪に染めてセミロングの髪を揺らしながら私を笑顔で睨んだ。なんと言ってもこれが一番怖い。
「あっ・・・・」
「言ったでしょう?近くに居ても分かるって。あんたのその距離で分からないとでも思ってた?」
香澄が近づいてくる。怖さで声も出ない。そしてついに香澄の足が私を蹴ろうと後ろに下がる。でもすぐに安心した。なぜなら私は幽霊だから。幽霊だから私を蹴っても体をすり抜けるだけ____のはずだった。香澄の足は私のお腹をすり抜けることなどなく、私の体は重い衝動に駆け巡らされて横に倒れてしまった。それにはミケもかなりびっくりしたようで瞬きをとてもして、香澄と私を交互に見つめている。なんで?なんで私は幽霊なのにすり抜けなかったの?香澄は理解したのか補足を入れた。
「あんたどうせ『なんで私の体をすり抜けないの!?』とか思ってるんでしょ?なんでか特別に教えてあげる。どうせその三毛猫も知りたがってるんでしょう?」
「楓音ちゃん。私もどうしてなのか知りたい」
「そんなっ・・・・」
「どうでもいい世間話はほっとけばいいのに。私の足が幽霊のあんたの体をなんですり抜けなかったかと言うと私が特殊な能力を持っているから。それが1番簡単にした理由。私、幽霊見えるの。それは分かるかもしれない。なんで幽霊が見えるようになったか。それを聞くかはあんた達が決めて」
ミケと私はアイコンタクトで頷き合いミケが「知りたい」と素直な言葉を発した。私も知りたい。なぜ香澄が幽霊が見えるのか。きっと香澄の過去はそこに隠されている気がしたから_________。

 
『香澄って言う名前は澄んだ優しい香りがみんなを優しく包んでほしいって言う意味なの。香澄は今、そのようになれているの?なれていなかったらお母さんのために周りで苦しんでいる人を助けてあげてほしい』

それが私のお母さんが言った遺言だった。私は4人姉弟の長女だった。小さい時はお母さんと遊んだ事は沢山あった。でも2番目が生まれて3番目が生まれてと子供を生む度にお母さんの体は弱くなって行った。4人目を生んだときからは入退院を繰り返していて遊んだ回数なんて数えれる程になってしまった。でもそんなある日、学校でテスト真っ最中に担任が廊下を慌てて走って来て教室のドアを勢いよく開けて私の母が病院で倒れたと言う連絡が入り私はお父さんが迎えにくると言われて担任を置いて1人で廊下を走った。いつも友達とゆっくり歩いても、もう着いちゃったと言うくらい短い時間がこのときばかりは長く果てしない廊下に思えた。いつもだったら倒れる事なんて日常的でこんなに焦る事なんてなかったけどその時は勘の悪い私でも分かった。すごく嫌な予感がした。
 私は迎えに来たお父さんと待っていた2つ下の弟と一緒に残りの2人の通っている幼稚園に寄ってぎゃんぎゃん泣きわめいている下の子を宥めながら病院に向かった。病室に着いた頃には酸素マスクをしているけどその意味がないくらいの過呼吸で目も動かない。ただ近くにあるベッドサイドモニターから細かく流れる電子音しか耳に入ってこなかった。お父さんは医師に呼ばれて部屋を移ろうとするが下の子達がぎゃんぎゃんわめいてお母さんの体に障ったらいやなのでしょうがなくお父さんに着いて行かせて私とお母さん2人だけになった。私はお母さんの手をぎゅっと握って願った。あと1回でいい。自分がどうなってもいい。最期にお母さんと2人であの頃のように笑いたい。それがただ一つの願いだった。
 もう小2分程お母さんの手を握っている。もう諦めかけたとき、半分諦めていたけどそのときお母さんの瞼が持ち上がった。完全ではないけど半分以上は開いている。
「お母さん・・・・!」
私がそう言ってもお母さんは口をパクパクさせるだけで返事はない。私は慌ててお父さん達に連絡しなければと思いキッズ用携帯をポケットからだしお父さんに電話をかけ_______ようとしたが私の頭がまるで「電話はしなくていい」と言っているようで最後のボタンを押す事ができない。そんな私を見てお母さんはいつもの口調で優しく、文と文の間をとても開けながら言った。
「香澄が、お父さん達を、呼びたくないなら     それでいいと思うよ」
「・・・・え?」
「きっと香澄はお父さん達を呼びたくないと思っているんじゃない?   もしここでお父さんを呼んだらまたお母さんをとられちゃうから呼べないんじゃない?」
私はお母さんの言っている事は図星だったので私は何も言えなかった。そして今度は私が口をパクパクする番になってしまった。でも私はお母さんと二人で、お母さんが私と二人きりだと認識してくれているのが嬉しくて、幸せで、満ちていた。でも幸せはすぐに終わるものだとこの時再認識させられた。お母さんの近くのベッドサイドモニターの表示が狂いだした。さっきまで72とかだったけどそれはどんどん減って行き今はもう32だ。私は今度こそヤバいと思い電話のボタンを押そうとしたその瞬間、私の手をお母さんが阻止した。
「香澄、もうお母さんは死ぬと思っているの」
「なんで!?そんなことないでしょ!?」
「だから1つ言わせて。  これを聞いてから電話をかけなさい」
私の手は何かに操られたように携帯をポケットに入れさせた。それを見たお母さんは私と目が合って微笑んでくれた。そしてお母さんはゆっくりと話出した。なぜ最期にこれを選んだのかは分からないけれど。
「香澄には、どうして香澄って言う、名前がついたか  言ってないよね?」
「え、うん」
「香澄って言う名前は   お母さんがつけたの」
「・・・・」
「香澄って言う名前は澄んだ優しい香りがみんなを優しく包んでほしいって言う意味なの。香澄は今、そのようになれているの?なれていなかったらお母さんのために周りで苦しんでいる人を助けてほしい」
「お母さん・・・・」
なぜだろう。これは感動の話でもなんでもない話のはずなのに。なんで私はこんなに泣かなきゃいけないの?休み時間はできるだけ大勢の友達を誘ってドッチボールをしにいくため制服のない私の学校だから私はいつも短パンかジーパンを来て学校に行く。いつもは動きやすい格好で好んでいるのだが今は瞳からこぼれ落ちた涙がしみ込んで泣いていた事がすぐに分かってしまう。その様子を見たお母さんは微笑んだ。
「香澄」
「・・・・何?」
「生まれて来てくれて、ありがとう・・・・」
その言葉を最期にお母さんはもう二度と開く事のない瞼を下ろした。私は展開について行けなくて最初は何がなんだかよく分からず涙も出ず声も出なかった。でもしばらくしてお母さんが死んだ事が分かって来て私は冷たくなったお母さんの手を強く握りながら大声で泣いた。もうこんなに大声で泣いたのはいつぶりだろう。その声に気づいてお父さんと医師が慌てて病室に入って来た。お父さんは自分も涙を流しながら私に「大丈夫大丈夫」と背中を優しくさすってくれた。年齢違いの反抗期で普通なら気持ち悪いからやめてとかいってその手を振りほどいているだろうがそのときばかりは温かくて優しくてその事が私の心を刺激して涙は更に溢れてくる。遅れて下の子供達が病室に入って来た。一番下はまだ理解が追いつかなくて泣いている私たちをおろおろ眺めていた。私は願った。どんな風になったとしてもお母さんに会いたいと。___________


「それで願った結果が幽霊が視えるって言う条件。確かに幽霊になったお母さんには会えた。でもそれは成仏するまでの49日だけだった。でも幽霊は今でもずっと視える。だからお母さんが言っていたように人を助けようとしていじめられている人をかばったら今度は私がいじめられて。だから私はわざわざその人から離れるため、いじめっていう話から離れるためにあの中学に行ったの」
「・・・・ねぇ、香澄。なんでいじめられる辛さをしってるのに私達をいじめたの・・・・?」
「私だって最初はやるつもりはなかった。でも怜伽があいつ嫌いこいつ嫌いとか言って。最初はいじめとは無縁そうな怜伽と友達になれて嬉しかったのに、いつのまにかこうなってた」
「じゃあなんで楓音ちゃんの事を助けてあげなかったの?」
「漫画みたいな台詞だけどほんとうだから。1回いじめなんかやめようって怜伽に言ったの。そしたら同じ事をもう一回いってみろ今度言ったらあんたを自殺に追い込むからって」
「そ・・・・んな・・・・」
「それで私が怜伽に香澄もやってみなって言われ続けたけど私はいじめられる辛さが分かる。だから私はやらないって言い続けて、代わりに私がこれはどう?って提案するからって。さっき楓音を蹴ったのも私が怜伽に取り憑かれて感情的になったからだと思う」
香澄が私の事を「雀燈」ではなく「楓音」と呼んでくれた。私はそれだけで香澄が本当はいじめなんかやりたくなかったと思っていた事が少し分かって来た気がする。
「・・・・それであなたはよかったの?」
「は?なんなのこの猫。言ったでしょ?私はいじめなんかやりたくなかったって」
「それは香澄さん本人ではなくても止められた行為だと思う。担任の先生に言ったりお父さんに言ったり。なんで1人で抱え込むの?」
「あんたは信頼してもらえてるからそんな事言えるんだよ。学校の先生全員私が悪いって、不良みたいだって知ってるし、お父さんにはそんな事で迷惑かけられないし」
「は?」
「何がは?なの?」
「ちょっと上から目線になるけど聞いて」
「うん」
「お父さんは香澄さんがこの世界で大事な宝物なの。そんなん知りもしないくせにって思うかもしれないけどさ、あなたが身につけているその服、髪ゴム。それは誰のもの?自分のって言うかもしれないけどそれはお父さんのだよ。お父さんが汗水ながして、がんばって働いてためたお金の一部でしょ?お小遣い制だとしてもそのお小遣いに使われるお金もお父さんががんばったときの勲章でしょ?簡単に言うとお父さんはあなたのためにお小遣いって言うものをあげてるの。あなたの事を思って。お父さんも自分の心の一部を香澄さんにあげているのであれば迷惑なんてかからない。反抗して、優しいときの姿もお父さんは宝物。香澄さんが苦しんでいる事、自分に相談してくれなかったときの方が迷惑だと思う。違うかな?」
「あ・・・・」
「香澄さん。きっと大丈夫。香澄さんが天に報われたとき私と楓音ちゃんはそこにいないかもしれないけど香澄さんががんばった事は私達の心には届く。たとえもうこの世界に居なくても」
ミケがそう言ったとき香澄はしゃがんで顔を下に向けて泣き出した。
「香澄。香澄なら大丈夫。まだ仲がよかったときに見せてくれた嬉しそうで優しい感情は偽物なんかじゃないって分かる。大丈夫だよ」
「なんで・・・・?なんで私は楓音に酷い事をしたのに楓音はそんなこと言うの・・・・?」
「・・・・分からない。でも香澄は悪い人じゃないでしょ?・・・・私も香澄が報われてほしい。香澄は自信を持って前に進むべきだと思う。今はまだ信じられない人もいるかもしれないけどそれは行動で示したらきっと、今度こそ本物の友情が見つかるから・・・・」
「うっ・・・・うわぁぁぁぁぁあああああ_______!!」
香澄が声をあげて泣き出した。通りすがりの人は当然私とミケが見えないので香澄がただ一人泣いているだけになる。でもそんな姿を私とミケは慰めもせずただじっと眺めていた。今香澄を慰めてしまうのはなぜか行けない気がしたから。本当は今すぐ抱きしめたい。でもだめ。それはまるで自己暗示のようなのに手を差し伸べてあげる事もできなかった。私は死んでいるのにこんな事しかできない卑怯者なんだ_____________。

2月28日
 今日は砂浜に行く日のはずだった。でも死んでしまった。でも未だに私は見慣れた風景をふわふわと浮遊している。ミケは隣にいる。でも何もする様子はなくただ静かに座っている。
「ミケ」
「何?」
「今日、砂浜、どうなるの?」
「どうなるもこうなるもない。来てね。砂浜に」
「分かった・・・・確認。何時に行くんだっけ」
「11時。今日真実が明かされるから。今まで先送りにして来た事全部」
「うん・・・・」
それだけミケは言うとにこっと微笑んでから上の方に上がって少しづつ消えて行った。別にその行為にミケがいなくなるのではと思い焦る事はなかった。
 昨日香澄は夕方まで泣いたり泣き止んだりを繰り返していたけど香澄のお父さんがたまたま近くを通りがかったときに見つかりそうになったから赤い瞼を隠すように家に帰って行った。人間は自分の体では抱えきれない傷を持って生きている。でもそれを乗り越えられる程の大きな勇気も持っている。香澄はその勇気をうまく使えなかっただけで本当は優しい人なのに批判され悪評を叩かれても人前では絶対に涙を流さない。そういうところはどことなく私に似ている気がした_________。

 約束の11時。田舎のこの場所は明かりは車のライトか数えきれる程の街灯の光だけ。でもその地上のかすかな光を遥かに超える量の星が暗い空の中浮かんでいた。ミケはまだ来ていない。
 私はじっと星空を眺めていたけどそれは誰かが歩いて来た事によってそっちを向いた。するとそこにはあのとき、半死のときに現れた少し大人びた顔の笑輝が居た。そして笑輝の隣にはミケが居た。
「笑輝・・・・?」
「楓音ちゃん。ちゃんと説明するから」
「うん・・・・」
「楓音ちゃんが見て分かるようにこの人は橋光笑輝なの。それとずーっと気になってたと思うけど私の正体が。聞く?」
私は迷った。ここで正体を聞いてしまえば私の想像を遥かに超える何かが現れてしまうかもしれない。でもそう言う事を言い訳にして何かかから逃れているだけ。結果私は縦にうなずいた。それを見たミケは数秒の間を開けて言った。
「この人は橋光。そして私も橋光」
「?」
「私は橋光笑輝の実の妹なの」
「は?え、でも笑輝は猫じゃないよ?」
「そう。お兄ちゃんが普通で私も普通。私も元々は人間だったし今も人間。今はただ一時的にこの見た目になってるけど本当は現役中学生なの」
「本名ってなんなの?」
「橋光向日葵。ひまわりって書いてるけどひまりって読むの。お母さんが好きな花なんだ」
「そう・・・・」
「うん」
「・・・・本題に戻るけどなんで一時的に猫になったの・・・・?」
「天に行ったときの事、思い出してみて」
ミケにそう言われて思い浮かんだ事があの「生存中死人代人」だった。
「生存中死人代人・・・・」
「そう。私は生存中死人代人。これは亡くなった人の代わりに生きている人が、生存している人が代わりにその人のやりたかった事とかをやってあげるっていう仕事。楓音ちゃんはなんで私達がこれを使ったか分かる?」
「・・・・さぁ」
「お兄ちゃんは楓音ちゃんとこれからの人生を歩んで行くはずだったからだよ」
「え・・・・?」
「楓音。今からとても長くなるかもしれない。だけど本当の話で大事な話なんだ。最後まで聞いてくれるか?」
「・・・・うん」

 本当なら俺は楓音や蓮と楽しい学校生活を送っていたはずだった。空咲日はそこにはいないけど_____。俺が1回死んだとき。あの日に本当は空咲日が死ぬはずだった。先天性心疾患で。でも物心ついた時から未来が視える能力を持っていた俺はそのことはもちろん分かってしまった。だからそれを知った途端なんで自分にはこんな能力があるんだと思った。でもそれを知った途端周りにはばれては行けないと思ってずっとその事は誰にも言わなかった。でもそうすると心の余裕が前に比べてずっと少なく笑顔もうまく作れなくなった。でもある日俺はどこにでもある台詞でヤクザでも言えそうな台詞だけどそのときの俺には神様よりすごい言葉を聞いた。
       ______________________________願いは願えば叶う。叶うかどうかは自分自身で決める_________________________________
でもその言葉は俺の心にすっと入って来て勝手に受け入れてしまった。でも悪い気はしなかった。だからその日から毎日毎日空咲日が死なない事を祈り続けた。自分が死んでもいいから空咲日はまだ死なないで欲しいと。
 そんなある日夢を見た。寝ているときに見るあの夢。そこには神様にはほど遠そうなゴールデン・レトリバーが居た。これは後にリーバだと言う事が分かる。その犬は自分の名前を名乗る事なくあっさりと日本語を喋りだした。でもその日本語は悪い日本語だった。
『君は3月中に亡くなる』
『何?死神?』
『死神じゃないさ。ただ寿命を伝えに来ただけさ。それに君は本当に死なないから』
『どういう事?』
『君は1回死ぬ。だけど生き返れる。8年後に』
『?』
『本来ならみんな自分の死を自分で受けて立っているけど君は違う。君は友達が死ぬ事が分かっているんじゃないのかな?それも人に聞いたとかなんとかじゃなくって能力的な物で』
俺は図星すぎて固まってしまった。なんでこいつは俺の思っている事が分かるのかって思った。でもここで違うと言えばおかしくなるのではと本能的な考えで首を縦に振った。
『君の場合は「もらい死に」なんだよ』
『なにそれ』
『友達は死にそうなんだろ?でも今回は君は一時的に死ぬけどその友達は一時的に生きる事ができるんだ。君は死んでいる間、天と言うところに住んでもらう。記憶ははっきり会って背格好も変わるから10年後には普通の高校生の背格好で高校生並みの頭脳が身に付いている』
『それって絶対に一時的に死なないといけない』
『君はいい?10年間天で過ごすことで』
『・・・・うん』
『なら言おう。そう強制的に。もう手続き終わっちゃったからね。死ぬ日はランダム。ただ3月中って言う事しか分からないから。それとその能力は朝目覚めたらなくなっているから。じゃあ悔いの残らないように』
それを最後に犬の姿は消えた。でもそう考えている間に頭脳は現実に戻っていた。最初は半信半疑だったけど確かに言っていた通り未来を予測する能力が消えていた。

「そして3月1日のあのとき俺は死んだってわけ。3月中に死ぬって早すぎると思ったけどなぁ」
「・・・・ねぇ笑輝」
「何?」
「これから笑輝はどうなるの?ミケもどうなるの?」
「俺も向日葵もこれからはずっと死ぬまでこの世界で生きて行く」
「空咲日はどうなるの?」
「空咲日は俺と入れ替わるだけだから空咲日は本当は8年前のあのときに死んでいた事になって俺は高校生活を堪能したことになる。記憶は今のままで」
「じゃあ空咲日が死んでも誰も悲しまないの!?」
「もう8年前に悲しまれている事になってるんだよ」
「そんな・・・・」
「楓音は何が嫌なの?」
「・・・・分からない?私は空咲日が悲しまれた事じゃなくて本当に現実で悲しまれてほしかったの・・・・」
「・・・・」
「ねぇ私はどうなるの?」
「どうもこうもない。楓音はもう死んでるだろ?」
「そっか。じゃあなんで笑輝は私が視えるの?」
「そりゃあまだ俺だって死んでる状態だし。3月1日の午前1時32分になったとき俺は楓音が視えなくなる」
「お兄ちゃんの言う通りなの。私も1時32分になったら元の中学生の姿に戻るの」
「なんでっ・・・・」
「なんでって言われても・・・・」
「笑輝聞いて。3月1日に私達の高校は卒業式があるの。せめて空咲日はそのときぐらい居させてあげてよ・・・・」
「無理」
「そんな・・・・」
「無理な物は無理なんだ。それはしょうがない。空咲日があの病気にかかったことが事の始まりだったんだよ。しょうがないじゃないか」
「お兄ちゃん、そんな言い方しなくても・・・・」
「向日葵、俺だって好きで空咲日を卒業式に出させようとしていない訳じゃない。この日が卒業式って言う事を知らずにこの事を決めたのはリーバじゃないか」
「そうだけど・・・・」
「俺だってできる事なら空咲日を卒業式にださせてあげたい。空咲日だけじゃない、他の身近な人達のためにも。でももう変えられない未来なんだ」
「・・・・笑輝、今何時?」
「は?」
「今何時かって聞いてるの」
笑輝は急に全然関係ない話を振られてびっくりした様子だったけど笑輝は辺をきょろきょろ見回して時計を見つけて言った。
「11時35分だけど・・・・」
「じゃあ私はあと25分で笑輝達の視界から消えちゃうの・・・・?」
「そう、なるね・・・・」
「ねぇミケ、私は他人からの視界から消えたらどうなるの?」
「えっと・・・・私は死んだ事なんかないから本当か分からないけど話によると天に連れて行かれて生まれ変わるまで天に住む、らしい・・・・」
「じゃあ空咲日は?空咲日はどうなるの?」
「空咲日ちゃんはたぶん楓音ちゃんと途中までは天に連れて行かれるけど途中からは違うルートを通って天国か地獄、生まれ変わる可能性があるなら天に行く」
「?天と天国ってなにが違うの?」
「天は行き場をなくした人達とか天国とか地獄に行くための手続きをするところで天国と地獄はもう生まれ変われない人達がいるところ。でも2年に一回天に来て生まれ変われるかのチェックをして生まれ変われるなら天に居る。空咲日ちゃんの場合今の所生まれ変われないと思う」
「なんで?」
「空咲日ちゃんは特別死だったからだと思う。特別死の場合生まれ変われる可能性は低いとされているから」
「じゃあなんで私は生まれ変われるの?」
「あれ?私楓音ちゃんに生まれ変われるって言ったっけ?」
「え?」
「楓音ちゃんの死因は自殺。自殺をした人には厳しい罰が下るの。天で命の大切さを丸3日、何も食べずに1分も寝ずに。それでその条件を果たしてみんなの前で発表してその内容がよければ生まれ変われるかもしれないけど、こっそり食べたり寝たり、内容が雑だったら生まれ変われる可能性を無理矢理さげさせられる。そして地獄か天国に行かされるの」
「・・・・マジか・・・・」
「楓音、俺達はもう少ししたら楓音が視えなくなる。言葉も届かなくなる。だから1つ聞きたい事を聞いてもいい・・・・?」
「・・・・うん」
「8年前のあの日俺が死ぬ直前くらいに楓音が言った言葉覚えてる?」
「さぁ・・・・8年も前の話、覚えてる訳ないじゃん」
「楓音は『お星様は人みたいだね』って言ったんだ」
「それが何?」
「楓音。8年前のあのとき俺はその言葉に泣きそうになったんだ。また8年後に生き返れるけどやっぱりまだその歳で楽しい時間を過ごしたいなって思うぐらい大事な言葉を聞けた俺はとても幸せ者なんだなぁって心から実感したんだ」
「え・・・・私、1つも何を言ったか覚えていない。私、何を言ったの・・・・?」
そういうと笑輝はあのときと変わらない両目の中に黒子がある顔を上に向けて昔を懐かしむように私が言った言葉、笑輝が大切で優しいと思った言葉を話してくれた_______。

橋光笑輝
 その日はなんとも言えない綺麗な夜空だった。俺は人生で最初で最後の「一生のお願い」を使って楓音達を読んでいつのも砂浜に居た。そんなとき楓音は言った。ふいにだったからみんなは気にする事もなかったけど後からみんなが聞き出す様子をそのときの俺はとても気にしているのを悟られないように夜空をめいいっぱい見ながら耳は楓音の方に傾けていた。そしてついに蓮が聞いてくれた。
『ていうかなんで星は人なんだよ』
それを聞いた楓音はちょっと嬉しそうな声で言った。
『え?それはね・・・・』
__________それはね人間っていつか死んじゃうじゃん?でもね星だって死んじゃってるじゃん。星はとーっても長い間戦って生きてきたんだよ。他の星と衝突して体の一部が欠けても。人間だってそうでしょ?私みたいに大事な人を亡くしても私達は尚生き続ける。辛い事があっても乗り越えられる強さって言うのは星も人も私はおんなじだと思うから、ね」
「あっ・・・・」
たぶんそのとき俺は生きていた中で1番素晴らしい言葉を聞いた気がした。でもその瞬間俺はとても大きい頭痛に襲われた。寝転んでいる事すら辛くなって来て間もなく意識がふっと消えていった________。

「って言う事なんだ・・・・」
「・・・・」
「今の楓音や向日葵にはなんともなくっておおげさにも聞こえないかもしれないけど俺はその言葉が大切だって言う事に変わりはないと思っている。もちろん今も。全ての人を敵に回してもこれだけは貫きたいんだ」
「あ、の。わ、私はお兄ちゃんと同じ意見で楓音ちゃんの言っている事は大切だと思う。きっとそれは今に限らず私がこの世界に生き続けている間は一切変わらないと思う」
「・・・・うん。向日葵ありがとう。あのさ急なんだけどちょっと楓音と2人にしてくれないかな?」
「え。お兄ちゃん怒ってる・・・・?」
「なんでだよ。怒る要素は一つもないだろ。ただ単に楓音と2人になりたいんだ」
「わ、わかった。でも」
「でも?」
「でももう後残り15分って言う事、頭に入れておいてね?」
「うん」
ミケはそう言い残して少し振り返りながら海ではない住宅街の方にとけ込んで行った。それを見届けた笑輝がふいにこちらを向いて8年前と変わらない両目ともに黒子がある優しい目を細めて微笑んだ。
「笑輝、なんでミケを違う場所に行かせたの?」
「楓音と2人で話したかったんだ」                      
「なんで?」
「なんでって言われても・・・・普通に話したっていいだろ?」
「そっか。そうだよね」
「うん・・・・」
「・・・・」
「楓音。俺は楓音と残りの一生を過ごせるなら、と思って空咲日の代わりに1回死んだんだ」
「うん」
「それなのになんで楓音は自殺なんかしたの?」
「・・・・」
「別に怒ってないよ。ただ聞きたかった。楓音には空咲日や蓮、他の人達だって居るだろ?向日葵みたいに家族を亡くしたときでも支えてくれた人は居たと思う」
「・・・・私は笑輝が思っているような人間じゃないの」
「どう言う事?」
「私は笑輝が思っている人間とは違って私はお父さんが死んだとき誰もそばに居てくれなかった。それまでみんな友達だったのにお父さんが死んでからそっとしといてあげた方がいいって言うのを理由にして私から離れて行った」
「え・・・・」
「だけどその中の一番の友達、つまり親友の蓮とか空咲日だけはそばに居てくれるって信じていた。でも空咲日もいつも周りの笑顔が空咲日にとっての幸せだったから私の事ただ一人のためだけに三人以上の人達の笑顔を守り抜くために私から離れていって蓮は気にはしてくれて居たけど蓮は他の男子からあんな女子ほっとけって言われて最初はかばってくれようとしたんだけどその男子達に雀燈と俺たちどっちが大事なんだって言ってそれで私の方を選んでくれようとしたんだけどその男子達にいじめられたくないから離れて行った」
「そんな・・・・ごめん!俺が勝手な事聞いてしまって楓音の嫌な記憶をよみがえらせてしまって・・・・」
「なんで?」
「何がなんで?」
「なんでそこを謝るの!?私はずっと、1回も途切れない状態で笑輝と楽しい、幸せな時間を過ごしたかったの!私はそんなことを謝ってほしいんじゃない。誰にも言わずこの世界から8年間姿を消した事に謝って欲しいの!」
「で、でも!俺が死んだおかげで空咲日と沢山の思い出作れただろ!?俺がしたことは悪い事じゃない!」
「私はそんな誰かの代わりに生きているような空咲日と思い出を作りたかったんじゃない!正々堂々と生きている空咲日とおもいでを作りたかったの!」
「・・・・」
「・・・・なんで?私、笑輝が好きなんだよ・・・・好きな人と、一生懸命に生きている好きな人と幸せな思い出を作りたかった、ただそれだけなのに・・・・」
「楓音・・・・俺も好きだよ。まっすぐ自分と向き合えている楓音が。ずっと好きだったよ。1回死ぬ前から。まさかこんな事になるとは思わなかったから俺は大好きな人に幸せな思い出を作ってほしかっただけなんだ・・・・」
「なんでなんだろう・・・・なんで二人ともお互いを好きで居れているのになんでこんなことにならないといけないの・・・・」
その後しばらく沈黙が流れた。二人とも喋らない。喋れない。今の状況は沈黙が似合っている。そんなとき笑輝の方からアラーム音が聞こえた。とても綺麗で透き通った音が。
「・・・・楓音が俺たちの視界に入れるのはあと1分になった」
「そんな・・・・」
「・・・・楓音、一つ言わせて」
「・・・・何?」
「卒業、おめでとう。楓音は誰よりも強く清く優しかった。俺はそれを天で見ていた。楓音、本当におめでとう・・・・」
「笑輝、ありがとう・・・・笑輝もおめでとう」
「何が?」
「笑輝も天を卒業した。これからは、ちゃんと自分の幸せを願って行ってね・・・・」
その瞬間私はまたあの大きな目眩が襲って来て私は思わずその場で倒れ込みそうになるけど笑輝が急いで私を抱きとめた。
「楓音、俺はまだ楓音と居たい。でも、楓音とは絶対また巡り会える気がする!楓音、どんな姿になってでもかならず俺は今度こそ楓音を見つけて幸せにする・・・・!」
「笑輝、大丈夫」
「何がだよ・・・・」
「笑輝、笑輝が幸せになれたとき私はそこに居ないけど私は心から祝福する。誰も笑輝を恨んだりしないよ」
「楓音・・・・生きててくれてありがとう・・・・」
「笑輝も、生きててくれて、ありがとう・・・・」
私はそのとききっと涙を流しただろう。私は星が輝く夜空の3月1日午前0時に、大好きな人より早くこの世界を旅立った__________。
                              
エピローグ

 
10年後


2月13日
 10年前とは全く違う場所に僕は愛する人と住んでいる。その人の名前は楓と言う。楓のお腹には命が1つ宿っている。もうあと一週間医師が言っていた。今はその生まれてくる女の子の名前を楓と決めている。
「楓は入れたい漢字とかないの?」
「んー私『楓』って言う名前で漢字が1つしかないからこの子に漢字をあげるなら楓しかないじゃん?」
「別に名前からとってとは言ってない」
「でも自分の名前は入れたいし・・・・」
「じゃあ楓のあとに漢字を入れるか前に漢字を入れるかどっちがいいの?」
「私の意見ばっかりじゃあ笑輝が何も言えないでしょ?せめてこれくらいは選びなよ。自分の子でしょ?」
「そう。じゃあ後にいれようか」
「そうだね」
そういった後楓がおおきな欠伸をした。
「眠いの?」
「うん。つわりとかで寝たりできてないし」
「今日は寝なよ。また起きたとき考えよう」
「うん。ありがとう。じゃあおやすみ」
「うん。おやすみ」
そう言って楓は寝室に向かって歩き出した。そしてしばらくしてやすらかな寝息が聞こえ始めたとき自分も大きな欠伸をして眠いと言う事に気づかされた。僕は行儀が悪いと思うけどソファでそのまま寝落ちしてしまった。
 
 僕がふと目を覚ますとまだ楓は寝ていた。僕は何事もなかったことにほっとする反面寝てしまった僕を叱りたい気持ちだ。そんな事を考えているとダイニングテーブルの上に紙が置いてあるのを見つけた。僕はそれに近づいて紙を開いて中身を見た。そこには何回も見て来た楓の字で僕の事を思いっきり揺らした言葉が書かれていた。
『楓の後につける漢字、思いついたからまた寝ちゃう前に書いておくね。楓のあとに付ける漢字は「音」がいいな。私音楽好きだし』
僕は思わず楓の寝ている方を向いた。「楓」の後に「音」をつけてしまうと「楓音」になるからだ。楓音と頭に思い浮かべるとどうしても雀燈楓音の方が頭に思い浮かんでしまう。それに楓には楓音と言う亡き幼なじみの話をした事はない。なのになんで楓はこういう風に思いついたのだろう。そんな事を考えている間に楓が起きて僕の隣に並んだ。
「楓に音って書いて「かえね」って読むんだって。楓音じゃだめかな?」
「だめ、じゃない・・・・?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど・・・・」
「楓音って言う名前がつっかかるなら別の名前に・・・・」
「それは嫌」
「そ、そう?無理矢理じゃない?だって・・・・」
そう言って楓は自分より背の高い僕の頬についた水滴を拭った。
「泣いてるじゃん・・・・?」
「あ・・・・」
「嫌な事思い出した?」
「いや・・・・ちょっと懐かしい話を思い出して。めっちゃいい話だから。楓音って言う名前をつけたらきっとこの子は喜ぶと思うぐらい」
「じゃあ・・・・楓音に決定!」
「うん」
そう言って涙の後をつけた顔で2人笑い合った。

2月20日
 今日は雀燈楓音が生きていたら誕生日。でももう楓音はいない。そんな事を考えて少し気分が落ち込んだけどそれは一本の電話によって1億倍元気になった。僕は仕事を放り投げて楓の居る病院に飛んで行った。

「うぎゃぁぁぁぁぁああああ!!!」
病室の外から大音量の産声が聞こえてくる。僕はなぜか少し緊張しながら病室のドアを開けた。ドアを開けると向日葵と楓の父母が居た。
「あ、お兄ちゃん」
「あら、笑輝くん。こんにちは」
「こんにちは」
「じゃあ私達はこれで」
「え?もうすこし居たらいいじゃないですか」
「孫を見れただけで十分よ」
「まだ私はいよっかな。待ち合わせまであと20分くらいあるし」
「暇つぶしにするな」
「じゃあこれで」
「はい。また」
そう言って楓の父母は穏やかな表情で病室を出て行った。
「笑輝、楓音のことだっこしてみる?」
「え、でも・・・・ちょっと怖いなぁ」
「大の大人が何言ってるの。お兄ちゃん情けないよ。怖くないよ。めっちゃ可愛いし」
「そう。私だって始めてなんだから。子供と目が合ったら笑われるんでしょ?好かれてるのよ」
「そうかな・・・・」
「はい」
そう言って楓は生まれたてホヤホヤの楓音を僕に顔を見せて来た。僕は両手を差し出して楓音を乗せてもらった。生まれたてホヤホヤの楓音はどこか懐かしい顔、雀燈楓音に似た顔立ちをしている気がしたけどそれよりも自分より大事な物ができた事の幸福の方が多かった。そして楓音と目があったとき楓音は声を出して笑った。
「ね?可愛いでしょ?怖くないでしょ?楓音はあなたのことが大好きなのよ」
「う、ん・・・・」
僕は楓の所に楓音を返してパイプ椅子に座った。でもしばらくして検査かなんかをするからと言って僕と向日葵は一旦病室を出てすぐにあるベンチに並んで腰掛けた。そして向日葵が思いついたように話しかけて来た。
「そういえばお兄ちゃん。楓さんが『楓音』って言う名前決めたの?」
「まぁ。楓がこれはどう?って言われていいよって言った感じかな」
「でも、楓音って・・・・」
「分かってる。雀燈楓音って言いたいんだろ?」
「そう・・・・なんでいいって言ったの?」
「もう一回楓音に会える、楓音と大切な時間が過ごせるとおもったから、だと思う」
「そうなんだね・・・・」
それ以上楓音は何も聞いてこなかった。これは兄妹のテレパシー的な物だと思う。そして向日葵は待ち合わせの時間が来たと言って軽い足取りで病院の出口に向かって行くのを見送った。そのときあの懐かしい、忘れかけそうになるあの優しい声色が僕の名前を呼んだ。
「笑輝、おめでとう」
僕は慌ててそちらをみるけどもうそこには何もなかった。でも確かに一瞬視えた。そう。それは紛れもない「雀燈楓音」だったのだ。
『笑輝が幸せになれたとき私はそこにいないけど心から祝福する』
僕は頬に涙を伝らせる。楓音は一切その約束を破ったりしなかった。楓音が祝福してくれたのがきっとここまで届いたのだろう。
「笑輝?なんで泣いてるの?」
そっちを向くと不思議そうな顔をした楓が立っていた。
「ううん。なんでもない。心配してくれてありがとう。楓がんばったね」
そういうと楓は優しい笑みを浮かべてくれた。楓音、僕は楓音が思っているより幸せになれたかな?僕は楓音が祝福してくれるような幸せに恵まれたかな?それは分からないけど確かな事が一つある。それは、
__________君と見た最高の景色は僕と君を繋いでくれる小さいけどとても大事な奇跡だったと言う事_____________

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