バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

13話





時間は3時すぎ。


初めて、楓さんが私の部屋に足を踏み入れた。

とてもドキドキした。



2回目のデートでここまでこぎつけるってどう思う?

告白したとはいえ、あまりよく知らない男を家にあげるのは危ないって?

そうかもしれない。

でもね・・・・・・


彼を信頼していたの。話してみて、わかったから。


明日というか今日は日曜で、彼は仕事ないらしいし、私の部屋を見てみたいというので、付いてきてくれたのだ。

下心もあったかも。男だもんね。


お互いよく歩いたし、時間も遅い。


お世辞にも広いアパートではないが、彼がきてくれたことが素直に嬉しい。


マズイことに、彼は机の上に家宝のように飾ってある名刺を見つけてしまった。

しまった!隠しておけばよかった!


「あ、これ・・・・・・」

「うん、とってあるの」

「ただの名刺をこんな大事にしてくれて、嬉しいな」眠そうに目をこすりながら彼は言った。

「金色でピカピカしてるし。デザインいいし」

「そう」

ミーくんは最初は警戒してシャーっと毛を逆立てて唸っていたけれど、彼が体を撫でるとすぐに攻撃態勢を解いて、ゴロゴロと甘え、のどを鳴らした。

「かわいい! 名前は?」

「ミーくんっていうの」

「ミーくん、初めまして」

「ミャー ミャー」

「捨て猫だったのを、拾ったんだ」

「そうなんだ。やっぱり、やさしいね。カナは」

「なんか照れる・・・・・・」


それから彼は部屋の中を見渡して、貼ってある映画のポスターとか、DVDのコレクションとかを見た。

「映画、好きなんだね」


「うん、大好き。好きな映画は ーー」

「ラ・ラ・ランドと、無情な愛」

「へへ、知ってた?」

「何回も聞いたよ」


何度もZOOMホストや、LINE、ガイアで話したもんね。今では自分の目の前に彼が立っている。

私の部屋で。

数週間前の私に今起こっていることを話したら、驚くだろうな。





私は彼に着ているスーツを全て脱ぐように言った。

濡れていたので、乾かして、新しい服を何か貸そうと思ったからだ。

決して、変な意味じゃないからね!


でも彼は上着だけ脱ぐと、ネクタイと共に私に渡して、「これでいい」と言った。

黒いワイシャツと黒いズボン。

彼の細身のスタイルによく似合っていた。


「えー。シャツも濡れちゃってない?ズボンも」

「大丈夫、濡れてないよ」


そういって、ミーくんを撫でる作業に戻った。


仕方ないので、彼のスーツの上とネクタイ、靴下をハンガーにかけて、部屋に干す。



彼にシャワーでも浴びないか聞いてみた。

でも、彼は「それよりそろそろ寝たいな」と言った。


ちょっと期待していた。

もしかしたら、彼の裸が見れるかもしれないと。


でも・・・・・・


確かに疲れてるだろうし、しょうがないか・・・・・・


実は密かにシャワーを浴びてほしい自分がいた。そうすれば自分も一緒に入って、彼の体を洗ってあげようと思っていたのだ。


少し、残念だった。


私のベッドは2人で寝るのには、小さすぎた。




もちろん、私にとってはいいことだったけど。

彼もそう思ってくれてたら嬉しいな。


「私、床で寝るから、ベッド使っていいよ」布団をもう一枚箪笥から出しながら言う。


「え、何言ってんの?」と彼は聞いてきた。

「何って・・・・・・」



「僕たち、恋人だよね?」




「そうだけど・・・・・・」



私は顔全体が赤くなるのを感じていた。


「一緒に寝よう」


「え、いいの?」



「当たり前じゃん」



「そっか・・・・・・」


なんか、変な汗が出てきた。

胸があつい。

私、臭くないかな?

シャワーも浴びずに寝るって、なんか恥ずかしい!


彼があくびを一つした。



電気を消す。



二人で、ベッドに寝転ぶ。彼の足はベッドからほぼはみだしていた。

一つの布団をかぶる。



向かい合わせで。目と目があう。


どちらからともなく、キスをしていた。

2回目のキスも甘かった。

彼の手に自分の手を絡める。


「ねえ、明日休みなんでしょ?」

「うん」

「映画でも行かない?」

「いいアイデアだね」


思いがけずの提案。

しかも、彼は気に入ってくれたみたい。

3回目のデートができることがわかってとても嬉しい気分になった。


「おやすみ」

「おやすみ」


彼が美しい瞳を閉じるのを眺めた。


雨の音が窓から聞こえる。


彼の微かな吐息も。


映画見るまでに何を食べようか?



映画のあと、どうしようか?

映画のあと、どこかに行く? どこに?

明日、雨やんでるかな?

やんでたらいいなあ。

ていうか、もう4時近くだし・・・言うなれば明日か・・・・・・




いつしか、眠りに落ちていた・・・・・・




彼の本名を聞くのまた忘れた、と思いながら・・・・・・

しおり