14話
目がさめると、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んでいた。
雨は止んでいた。
目の前に彼の姿がない。
あれ?????
体を起こして、あたりを見回す。
どこにもいない。
そしてわかった。
彼はベッドのすぐ下の床で寝ていた。私の寝相が悪く、蹴落としてしまったのだ。
しまったーー!
彼はそんなことを気にする様子もなく、寝続けている。
寝顔を見ながら思った。彼ってかわいいとこあるんだ。
彼がずっとここにいてくれたらいいのに、と思っている自分に気づいた。
まだキスしかしてないのに、そこまで彼のことを想っていることに驚く。
何にしても、よかった。 起きてなくて!
でも私に彼の体を気づかれずにベッドに戻す力はない。
しょうがない、起こすしかない・・・・・・
「楓さん、起きて」と言いながら体を揺する。
ミーくんも寄ってきて、彼の顔をぺろぺろと舐めた。
しばらくすると、楓さんは目を開けた。
「あ、カナ・・・・・・おはよう」
「おはよう。雨、やんだみたい」
「そっか。あれ、ベッドの上にいたと思ったんだけど。落ちちゃったのかな」
「うん、そうみたい・・・」
嘘をついた。初めての嘘。
ミーくんは楓さんの上にのって、頭を気持ち良さそうにこすりつけた。
「ミーくん、楓さんのこと好きみたい」
「ミーくん、僕のこと好きなの?」
ミーくんは嬉しそうに「ミャー」と鳴いた。
時計を見ると、もう朝の11時。
それから、二人で、顔を洗って、歯磨きをした。彼には新品の歯ブラシをあげた。
彼が自分のアパートにいることが信じられない。
しかも何もなかったとはいえ、一夜を共に過ごすとは。
2回目のデートにしてはあまりにもうまく行き過ぎではないか。
バチが当たるかも。
「シャワー浴びたいな」
「いいよ、置いてあるタオル使っていいから」
「ありがとう」
そう言って、彼は浴室に消えた。 しばらくするとシャワーの音が聞こえ出した。
彼が裸で私の部屋にいる、と考えただけで私の胸はドキドキした。もうずっと私の胸はドキドキしっぱなし。私の心臓は耐えられるのだろうか・・・・・・?
一瞬、彼のスーツのポケットの中の免許証を探して、彼の名前を知る考えが頭をよぎった。
でも、やめにした。フェアじゃないもんね。彼が言い出したくなったら、言ってくれるはず。
なぜもうつきあってるのに、教えてくれないのかは、わからないけれど。
彼の後に、私もシャワーを浴びよう。そう思っていると、お腹がグ〜となった。
ラーメンいっぱい食べたあと、何にも食べてなかったもんなあ。
そうだ!
彼に遅い朝ごはんを作ってあげることにした。
和食の朝ごはん。
玉子焼き、味噌汁、焼き鮭2切れ、納豆、海苔、ソーセージ数本、にご飯と梅干し。
彼、和食が好きだといいな。
楓さんがシャワーから出てきた。タオルで濡れた銀髪を拭きながら。まだ黒のシャツを着ている。
「ねえ、服貸そっか?」
「これでいいよ。それにしても、うーん、いい匂い」
「朝ごはん作ったの。食べて食べて」
「うわー美味しそう!」
そう言いながら、私の向かいに座った。
お互いに「いただきまーす」と言う。
「こういう朝ごはん、大好き」
「美味しい?」
「うん、美味しい」
ご飯を口いっぱいに頬張りながら、彼は答えてくれた。
食事の後にキッチンで洗い物をしていると、彼が耳元にきて、耳にキスした。
私の体は震えた。
「今、洗い物してるから」
「わかってる」
今度は、首元にキスされた。
体がカッと熱くなる。
私はお返しに、彼の唇にチューをした。
「僕が洗い物しておくから、シャワー浴びたら?」
「え、いいの?」
「うん」
私はそのありがたい提案を受けることにした。キス攻撃もやめてくれるだろうし。
浴室に撤退すると、私は呼吸を整えた。あまりのセクシーな攻撃に私の体は限界を迎えていた。
服を脱いで、シャワーを浴びる。
彼が使った後だから、床も壁も濡れていた。それがなぜか嬉しかった。
浴室から出ると、彼は洗い物を終えていて、ミーくんとボール遊びをしていた。ミーくんは本当に彼のことを気に入ったようだ。
「洗い物してくれて、ありがと」
「どういたしまして」
「じゃあさ、出かけよっか」
もう時間は正午すぎになっていた。
「映画、行くんだったよね」
「うん、映画見たくない?」
「見たいよ。カナと」
「私も」
彼は部屋に干してある上着のスーツを触った。
「よし、すっかり乾いてる」
そう言うと、ハンガーから外して、上着を羽織った。
彼のルックスは、今までも十分そうだったけど、ホストに戻った。
これは外に出たら人目を引くだろーなー。
何の映画を見に行くかは決めていなかったけど、楽しい日曜日になると思った。
最高の3回目のデートに。
まさか、あんなことになるとは、思ってもみなかった。