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12話









私と楓さんはコンビニで一つの傘を買った。


彼が傘を持ってくれた。

雨のおかげで、彼の体に密着できて嬉しかった。凍えていた体も一気に暖まった。



そして今、私は彼とある路地裏の屋台のラーメン屋さんにいる。


お客さんは私と彼だけ。


前に彼が連れて行ってくれたイタリアン・レストランとは対照的だ。


今夜は私が好きなとこに連れて行く番。


すぐ側では雨が降り、冷たい風も吹いている。


でも調理場からの暖かさが、私たちを癒す。


そう、ここは私の行きつけのラーメン屋。

まあ、この時間ここしか開いてなかったってのもあるけど。

コロナ初期は被害を受けて休業に追い込まれたけど、コロナ対策に客との間に仕切りを置くなどの対策を施して、新たに営業できるようになったみたい。

ほんとコロナはいい迷惑。


「女の子が、ラーメン屋行くんだ・・・!」


「当たり前じゃん。牛丼屋だって行くよ、私一人で」


「そう言うけど、カナさんだけだよ、一人で俺の店に来たのは」とラーメン屋の大将。


「待っててくれよ、もう少しでできるから」と水が入ったコップを出しながら言う。


ネギを切るいい音が聞こえてくる。


スープのいい匂いも。


楓さんは珍しそうに店長の包丁さばきを見ている。


「こういうとこ、初めて?」


「うん、初めて」


その目は爛々と輝いている。


やっぱり。連れて来てよかったなー。彼って、見た目通り、上品な店しか行ったことないんだろーなって思ってたけど。


「同僚さんかい?」


「いえ、彼氏です」


言えた! 躊躇せずに!


横目で彼を見ると、嫌そうな表情をしていない。ラーメンが出来ていくのに見ほれている。



「彼氏さん、良い彼女見つけたね。俺が保証するよ」

「もう、大将ったら」


そんなことを言っていると、ラーメンがでてきた。

「特製醤油ラーメン、へいお待ち」


私たちの前に湯気いっぱいのラーメンの器が置かれる。うーん、なんと良い香り。

昔ながらのラーメン。具はオーソドックスなものばかり。

煮卵、メンマ、ナルトにチャーシュー二つ。海苔も一枚付いている。


「いただきまーす」

二人で、声をあわせて食べ始める。


こんなに美味しいラーメンは久しぶりだな、と私は思った。

もう冬で雨が降っている中のラーメンだからかな。


「このラーメン、すごく美味しいです」と彼。

「あんちゃん、嬉しいこと言ってくれるね」

大将は私たちの器に煮卵を新たに乗っけてくれた。



「サービスだよ」

「ありがとうございます」


あっという間に食べ終えた。


料金は私が払った。


と言っても彼が連れて行ってくれたイタリアンと比べると微々たるもの。


合計3000円だった。コロナのせいで、少し高くなっている。


彼が払おうとしたけど、断った。


今夜は誰がなんと言おうと、私が主導権を握ると決めていた。




二人で傘をさして、歩き出す。



「美味しかった。昔ながらの味って感じで」

「言ったでしょう? 美味しいって」

「それにしても雨、やまないなあ」




ずっとやまなければ良いのに、と思った。ずっと彼の体にくっついていたいから。

二人で、ラブホテルの前を通り過ぎた。



「休憩4000円〜 宿泊6000円〜」という看板が闇に光っている。


彼も気づいたようだ。


私は「ねえ、ここで休憩していかない?」と言いたい気持ちをグッとこらえた。


安い女と思われたくなかったから。


まだキスだってしていないし・・・・・・


彼は何かを言いたそうな顔をしていたけれど、結局ホテルを通り過ぎた。


そのあとはあまり喋らずに歩いた。



もう2時になっていたし、彼は仕事のあとで疲れているだろうし、これ以上連れまわす訳にもいかない。といってもこの時間開いている店はあまりないだろうし。

2回目のデートはこれで我慢するしかなさそうだ。





人通りの多い通りに出ると、彼は手を伸ばして、タクシーを呼ぶ。

すぐにタクシーが止まってくれた。


「ラーメン、おごってくれてありがとな」

「いいよ」

「じゃあ・・・おやすみ」

「おやすみ」

自然と、2人の距離は縮まった。


彼をハグした。

「マスクとって・・・」

無言で彼はマスクを顔から外してくれた。

私もマスクをとる。


背伸びをして、彼に口づけをした。


コロナ感染とか、2メートルルールとか、そんなものは愛には関係なかった。


彼は最初驚いたようだったけど、キスを返してくれた。


永遠のように感じた。


彼の唇は柔らかくて、暖かった。


心臓は早鐘のように高鳴った。


温もりが絡み合う。


もっと深いキスをしようかと迷ったけど、やめておいた。



これだけで、幸せだったから。

ずっとこうしていたいと思ったけど、終わりの時は来た。



彼は唇を離して、私に微笑んでくれた。

そして、頭をポンポンと、撫でてくれた。

もう寒さなど、どこかへ行っていた。

意を決して、言ってみる。




「今夜、私の部屋泊まっていかない?」




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