11話
仕事だってわかってても悲しかった。
明日会えるって思ってたのに。
そんなことってないよ。
ひどいよ。
ホストクラブのこと、よくわかんないけど、有給とか使えないの?
私のために休めないの? 仕事?
私より、仕事が大事ってこと?
ひどくない?
それからメッセージと電話が山ほど来たけど、無視した。
大人気ないってわかってたけど。
時間が必要だった。冷静になるための。
ミーくんが私の異変を感じ取って、足にまとわりついてきた。
抱え上げて、ベッドまで運んだ。
「今日は、一緒に寝よう、ミーくん」
そう言って電気を消した。
何もわかっていないミーくんはフワフワのベッドで私と寝れることが嬉しくて、ミャーーーと鳴き声をあげた。
「おやすみ、ミーくん」
「ニャー」
少し泣いて、寝てしまった。
土曜日になった。
本来なら、朝からメイクして、昼には出かけるはずだったけど、やめにした。
NETFLIXで見たかった海外ドラマを見ることにした。
しかも連続で見てやろう。
意外と面白くて、10話まで見たところで、長文のメッセージが来ていることに気づいた。何時間も前のものだ。無視してやろうかとも思ったけど、やめた。
そこにはなぜ今日の仕事が休めないか書いてあった。
今日のお客さんの女性は、私より前からいるお客さんで、彼氏がいるけど、彼と話すのが好きで、いつも彼を指名してくれていた。そのお客さんは情緒不安定なところもあって、いつも気にかけていた。自分の存在が彼女の支えになっていたらしい。そして昨日、そのお客さんの彼氏が浮気をしたことがわかり、もう自殺する、最後に彼にガイアで会ってから死ぬと連絡が来たそうだ。そんな彼女を説得し、慰めるために、今日はデートをやめなければならなかったそうだ。
私はこのメッセージを読んで、今までの怒りと悲しみが嘘のように消えていくのがわかった。
もっと彼の話を聞いていればよかった。いきなりパソコン閉じちゃって悪かったなあ、そう思った。LINEだって無視しちゃったし。
今まで見ていたNETFLIXを終了すると、私は時計を見た。
もう外は暗くなっていた。
時間は夜の10時。
まだ、間に合う。
私は出かける支度を始めた。
そして今、私はガイアの前に立っている。
歌舞伎町の通りに人はほとんどいない。激しい雨が降っているからだ。
もう11月も終わりで、寒かったのでコートを来てきたけれど、雨が降り出すことまでは予想外だった。
ずぶ濡れで、寒い。
歯がガタガタなっている。
時間はもう夜中の12時。
彼の仕事が終わる時間。
少し眠い・・・・・・
でも彼のためなら、私はいつだってここに立ってれる。
最初は画面の外にいる彼に一目惚れしただけだったのに、今私は彼に会うためにずぶ濡れになっている。両親が知ったらどう思うかな? バカなことはやめなさいって、父さんなら言うかな?
でもそんなの、知ったこっちゃない。
本当に好きなんだから。
店から、背の高くて細い人が出てくる。
間違いはない、彼だった。
彼もスーツの上にコートを着ていた。
彼に駆け寄って、抱きついた。
思いっきり。
「カナ!?」彼は驚いて言った。
「ごめん!本当にごめんなさい!私、知らなかったの!」
私は泣き出していていた。声をあげて。
「え。泣かないで、わかったよ」
「本当にバカな私で・・・無視してごめん・・・」
鼻から鼻水も出ていたと思う。恥ずかしい。涙と雨で顔もぐちゃぐちゃで、メイクも台無し。
「いいって。ほんとに」
彼は私を抱きとめ、さらに優しく抱きしめてくれた。
「僕ももっと説明するべきだった・・・」
「お客さん、来た?」
泣きながら言った。
「うん。来てくれたよ。自殺も思いとどまってくれた。彼氏とはもう別れて、もっといい人を探すって、言ってくれた」
「本当に?」
「本当」
「よかった。さすが、私の楓さん」
それを聞いて、彼は笑ってくれた。
「そのお客さん、彼女じゃないよね?」
「彼女なわけないよ!君が彼女だよ。僕だけの」
「嬉しい・・・!」
そのままずっと抱き合っていた。
傘をさしながら通りがかった会社帰りっぽいサラリーマンが一言、「よっお二人、あついねー!」と言った。
しばらくたって、お互いの体を離した。
「もう遅いし、帰ろう」
「帰りたくない」
彼は少し困った表情を見せた。もっと困らせたくなった。
「こんな濡れてて、「カナ風邪ひいちゃうよ」
「カナは大丈夫。それより、デートの続きしよ!」
「え、デート!?」
「うん、デート! 2回目の! 今日だったでしょ!」
「そうだけど・・・・・・」
本当はもう夜中で約束の日はすぎて日曜になっているけれど、知ったことか。
「しようよ、二人で、2回目のデート!」
「わかったわかった。とりあえず店でタオル借りてからね。デートは」
「やった! じゃ決まりね」
私、どんどん大胆になってる????
私と楓さんの深夜デートが始まった。